地味に仕事の出来る女なんです。その2
ちょ、予想外に長く⋯⋯。あと、めっさ眠い。
《ジミナ&ムーンside》
ジミナは、ホウライから放たれるプレッシャーに負けまいと、無理矢理笑みを浮かべ、堂々とこう言い放った。
「確かに貴女の言うとおり、私たちが貴女に頼もうとしていることは禁忌を犯すことなのかもしれないわね。⋯⋯でもさ。それならそもそも、エンキとかいう神を殺そうって考えている時点で、とっくに禁忌冒しているのよ、私たちって。今更禁忌がどうだとか言われても、全く動じないわね!」
ホウライは、腰に手を当てて仁王立ちするジミナを、なおもじっと見つめていた。その瞳がジミナの姿を映してはいないと分かっていても、何となく心の奥まで見透かされているような不思議な気分になり、つい目を逸らしたくなるが、我慢して胸を張った姿勢のままホウライを見つめ返すジミナ。
しばらくお互いに見つめ合っていた二人であったが、ふいにホウライがその口を開き、大きな笑い声を上げた。
「かっはっは!! た、確かに、その通りじゃ!! 神を殺そうと考える馬鹿な連中相手に、今更禁忌など関係ないわな!! これは傑作じゃ!!」
突然笑い出したホウライに、呆気にとられるジミナ。さっきまでの緊張感はどこへやら、すっかり変な空気になってしまったところで、笑いすぎて涙目になったホウライが再び口を開いた。
「あ~、久しぶりにこんなに笑ったわい。あ、そうじゃ、さっきの話じゃが、儂のギフト、お主のために使うことにしようではないか。」
『ホントかホウライ!! いや~、よかったぜ。これで計画はほぼ成功だな!』
ホウライからの承諾を得られたことに、安堵の息を漏らすロキ。しかし、そんなロキの言葉に、ホウライは「はて?」と首をかしげた。
「ロキよ。儂はお主に対して何もするつもりはないぞ。儂はあくまでも、そこに居るお主⋯⋯おい、お主名を何と申す。」
「え、じ、ジミナですけど⋯⋯。」
ホウライの視線から、自分に対し尋ねたと判断したジミナは、戸惑いつつも素直にそう答える。すると、ホウライはじゅるりと軽く舌なめずりしてこう言った。
「ふふふ⋯⋯。良い名だな、ジミナ。儂はお主のことが気に入ったぞ。もしお主が死ぬようなことがあれば、その時は儂が派手な銅像をぶっ建ててやろう。」
ジミナは、どう答えるべきなのか分からず、苦笑いを返すしかなかった。隣のムーンは、むっとした表情で「ジミーちゃんは渡さないぞー!!」と何故か喧嘩腰である。
「とりあえず、ホウライさん⋯⋯でいいのかな? 貴女に生き返らせて貰いたい人たちの元まで転移させるので、私の手を握ってくれない?」
「ホウライでよいぞ、ジミナ。⋯⋯しかしじゃな、お主のその柔肌に触れてみたい欲望は勿論あるのじゃが、一つ問題があるのを忘れておった。これをどうにかしないと、儂はこの牢から出られそうにはない。」
そして、ホウライがその問題をジミナ達へと明かす。それを聞いたジミナは思わず眉をひそめ、ロキは『うへぇ』と嫌そうな声を出す。ムーンは、良く分かっていない表情で首をかしげていた。
「うーん⋯⋯ロキ、どうすればいいと思う?」
『そうだなぁ⋯⋯おい、ホウライ、お前、確か相当力強いだろ? 鎖引っ張って、無理矢理床と壁壊せねえのか? それなら、ソレも何とかなるかもしれない。』
「⋯⋯⋯⋯。」
「⋯⋯あー、ホウライ。さっきロキが言ったこと、やってくれる?」
「お主の頼みとあれば、喜んでやろうではないか。」
ロキが話しかけた時には全く反応しなかったのに、ジミナが頼むとすぐ引き受けてくれたホウライ。ここまであからさまだと、ジミナとしては逆にすっきりしていて気持ち良く思えるが、それと同時に変な人に好かれたなぁ⋯⋯とも思う。数秒後、轟音と共にホウライが牢の岩壁と床を破壊し、鎖の先にその破片をくっつけたまま鉄格子をこじ開け、ジミナへと向かいくいっと手招きをしてきた時には、その認識を改めて強めたのだった。
ホウライを連れ、やって来たのは、当然ながら、ロキの宮殿。その一室の、これまでのエンキのゲーム参加者の死体が収められている部屋である。ジミナは、何故かぴったりと隣にくっついてくるホウライを適度にあしらいつつ、また、時折目の前を飛んで視界を遮ってくるふくれっ面のムーンの妨害にも負けずに、ロキが作成したゲーム参加者リストの中から、フローラ達に聞いた話なども考慮しつつ、生き返らせる人物を選考していた。
「とりあえず、腕とか首とか切り落とされている死体が多いから、怪我を治せるドクター、この人は確定として⋯⋯。後は、戦況を見つつ考えますかね。」
そう言ってジミナが視線を落とす先には、ロキの力により、床にスクリーンのようにして、フローラ達それぞれの戦闘の様子が映し出されていた。
「うわ! シャーリーたちこれちょっとヤバくない? 何よりピティーが多すぎるわこれ。⋯⋯あ、数には数ってことで、この将軍さんも生き返らせるか。」
そして、ジミナが悩んでいる内に、ホウライはルルの蘇生を既に成功させていた。幸いにも、ルルはそこまで外傷が大きくなかったので、ホウライの手により命を与えられてすぐ、ジミナ達と会話することが可能だった。
「ここは一体⋯⋯? そして、貴女たちは一体誰なんですか? 確か、私は白い女の子に頼んで殺して貰ったはず⋯⋯。」
「あー、詳しい説明は後で。それよりも、今まさに貴女が言ってた女の子がピンチなんだわ。とりあえず速そうな奴と増える奴も一緒に向かわせる予定だけど、アンタ、他に生き返らせる相手に心当たりあったりしない?」
ジミナは、詳しい説明は諦め、とりあえずルルがホウライのギフトで生き返ったこと、そして、その力を仲間達のために使ってほしいことなどを話した。
「⋯⋯成程。やっぱり、私は死んでいたんですね。そして、私たちを弄んだあの神を殺すというのなら、私は喜んで協力しますとも。あと、他に生き返らせる相手ですが、一人心当たりが⋯⋯。」
そう言って、ルルが出したのはスターの名前であった。
「この子? 私的にはそこまで戦闘向きには思えないんだけれど⋯⋯。」
「確かにスターは戦いが得意な方ではないですけれど、彼女は強いです。いろんな意味で。それに⋯⋯これは私の単なる我が儘に過ぎませんが、もう一度、彼女に会いたかったので⋯⋯。」
「⋯⋯いいよー。そういうの、私、嫌いじゃないし。じゃあ、この子もお願いね、ホウライ。」
「了解したのじゃ、婿殿。」
「⋯⋯ツッコまないからなー。」
そして、ひとまずソニアとポポ、スターの三人を、ロキの力でシャーリー達の助っ人に向かわせたところで、ジミナは次に生き返らせる人物を決める作業に移った。ちなみに、ルルにはまだ怪我を治す作業があるので待って貰っている。
「全員生き返らせるのは流石に時間かかるから、やっぱ絞らないとなー。ヤバそうなのは、フローラのとことシャーロットのとこかな? リリィは⋯⋯うん、もしあれだったら後でドクター向かわせればいいからほっといて⋯⋯とりあえず、この三人でいいかな?」
ジミナは、その三人の名をホウライに伝え、その数秒後には蘇生を成功させた。
ルルが怪我を治したところで、ジミナは早速その三人を、それぞれ助っ人へと向かわせる。一応どこに行きたいか希望は聞いたが、返事は次のような感じであった。
「わたくしは、どうしても助けたい友がいます。彼女の元に行かせて貰いますわ。」
「お、オラも、あの子のところに行きたいべ⋯⋯。」
「ねえねえ、私のお姉さんとお母さんがいるって本当~!? 私、すぐ会いに行きたいな!」
「うん、だいたい予想通りの反応だわ。じゃ、いってらっしゃーい。」
その三人を送り届けたジミナは、最後にルルも助っ人に向かわせようとしたが、ふとある人物の顔が浮かび、少し待ったをかけた。
「あ~⋯⋯悪いんだけど、ホウライ。あと三人、生き返らせてくれない?」
「無論、構わんが⋯⋯その三人は、何かお主の思い入れのある奴らなのか?」
「⋯⋯いや、多分、向こうは私のこと覚えてない。だけど、あの子たちが死んでいくの、私ただ見てるだけだったからさ⋯⋯。ちょっと、罪滅ぼし的な感じかな。」
その三人を生き返らせ、怪我も治したところで、ルルは慌てて助っ人に送り出した。シャーリーの様態が危うかったからだ。だが、辛うじて間に合い、ジミナはほっと一息つく。
「⋯⋯で、貴女たち三人にも、シャーリーとサラのとこの助っ人に入ってほしいわけ。⋯⋯まあ、雷で派手に一発やってくれれば、それでいいからさ。」
ジミナが話しかけた相手は、レインコートを羽織った水色の髪の少女⋯⋯レイニー・ブルーだ。その隣には、吟遊詩人のレレに、猫の“わたし”ちゃんも居る。
「ええ⋯⋯わ、私、自信ないよ⋯⋯。どうしよう、ルルさん。」
「大丈夫さ、レイニー。私の音色で、君を怒らせるから~♪ ⋯⋯それに、怒ったレイニーも天使だしね。」
「うっわ!! 小声で呟いても、”わたし”ちゃんには丸聞こえにゃ!! ドン引きだにゃ!! こいつやっぱり変態だにゃー!!」
生前と全く変わらない様子の三人に、思わず笑みが漏れるジミナ。しかし、ホウライがニヤニヤと自分を見ていることに気づき、慌てて咳ばらいをして表情を繕い、三人を送り出す。
「よし!! これで私の仕事は終わり~。⋯⋯てなわけにもいかないんだよな~、これが。さて、もう一仕事、頑張りますか!!」
『オレもいるから安心しとけよ、ジミナ!!』
「ジミーちゃんは私が助けるのだー!!」
「のうジミナ、今回の作戦、一番の功労者は誰じゃ? そう、もちろんこの儂じゃ。少しは褒美ももらいたいものじゃの。例えば、お主の〇〇や✖✖や△△や⋯⋯」
「⋯⋯あんたら、ちょっと黙っててくれない?」
次回、フローラ視点。
タイトルは⋯⋯『姫獅子、参上』です。
誰のことかは⋯⋯もちろん、分かりますよね?




