地味に仕事の出来る女なんです。その1
前回久しぶりに再登場したキャラクターたち。ギフトを忘れている方も多いと思ったので、ここで書いておきますねー。
ソニア 1st stage登場 ギフト⋯⋯『超高速移動ができる』
ポポ将軍 3rd stage登場 ギフト⋯⋯『増える』
スター 3rd stage登場 ギフト⋯⋯『全身光る』
ルル 3rd stage登場 ギフト⋯⋯『神の手でどんな病気や怪我も治療できる』
《ジミナ&ムーンside》
―遡ること数刻前。神聖国に馬車で突入した直後、ジミナは馬車から飛び出して猛スピードで駆けだしていく仲間に完全に置いて行かれてしまっていた。馬車の上で長時間揺さぶられていたジミナは、気持ち悪くなってぐったりしていたのだ。
「うう⋯⋯、気持ち悪い。てか、皆早すぎ⋯⋯それに、これ、多分また私の存在忘れられているなぁ⋯⋯。ははは! まあ、そっちの方がロキに頼まれてた仕事もしやすいからいいけどさ⋯⋯。」
一人乾いた笑い声を上げるジミナの瞳からはハイライトが消えかかっている。ジミナは、自分の影の薄さを嘆きつつも、気持ちを切り替えて行動に移すことにした。
「⋯⋯ムーン? アンタは私を置いていっていないわよね?」
「もっちろんだよジミーちゃん!! 心配しなくても、私はちゃんとここに居るよ!!」
ジミナの呼びかけに、空気と半ば同化するくらいまで自分の身体を薄く引き延ばしていたムーンも、その姿を現して元気よく答える。その姿を確認し、ほっと息をつくジミナ。しかし、ジミナに話しかけてきたのは、ムーンだけではなかった。
『おうおうジミナ!! このオレ、ロキ様もちゃんとここにいるぜ!! さあ敬え!! 哀れな地味女のために残ってあげたこのオレを!! ⋯⋯本当はラモーネの頭から振り落とされて置いていかれただけとか、そんなことはないからな!!』
「うわぁ⋯⋯。可愛そうな目玉。」
ジミナは目玉から少しだけ涙を流しているようにも見えるロキに同情の視線を向ける。しかし、ロキが残ってくれたのは地味に助かる。何しろ、今から行おうとしていることは元々ロキの指示だったのだから。ひとまず、ジミナはロキを肩に乗せ、目的地に向かって歩き出すことにした。
道中、何度かピティー軍団とすれ違うことはあったが、誰一人ジミナに気付く様子もなく、スルーしていく。ムーンも、かなり高い位置をふわふわと飛んでいるため誰にも気付かれない。
そんな感じで、ジミナは誰からの邪魔も受けずに、目的地であるエンキの塔、カロンが守る入り口の裏側にある地下塔への隠し扉を開けることが出来た。途中、カロンと戦うフローラ達の姿が見えたが、心の中で軽く詫びを入れてスルーした。
「まあ、どうせ私が加わったところでたいして役に立てないしね。それより、役に立つ助っ人を呼ぶ方が何倍も良いことでしょ?」
「ジミーちゃんは言うほど弱くないよ~。 もっと自信持ちなって!」
別に答えを期待しての問いかけではなかったが、ムーンがウインク混じりにジミナを励ましてくれた。自然と上がった口角を手で隠しつつ、ジミナはムーンの言葉を鼻で笑う。
「はっ! あんなバケモノ揃いの中じゃ弱くない程度じゃ太刀打ち出来ないのよ。私みたいな地味女は特にね。」
ジミナは、先程開いた扉の先に見える階段を、足音を立てずに降りていく。ムーンはその隣にぴったりとついて飛行している。
地上からの光が差し込まなくなり、一段先の様子すら怪しくなってきたところで、ロキが自身を光らせることで道を示した。
「ロキ、貴女便利な神ね。」
『照明代わりに神を使う不敬な奴はお前らくらいだよ! もっとオレを尊敬しろ!!』
ロキの照明のおかげで一時は下がったペースを再び取り戻したジミナ足音は立てずに、しかしリズミカルに一段一段階段を降りていく。
途中で、少しだけ広い空間が現れた。何故かそこには、エンキの姿をかたどった像が置かれていた。何となくムカついたので、その像を偶然近くに落ちていた適度な大きさの石を使って殴り壊しておく。
「ジミーちゃん、像壊す時笑ってたよ⋯⋯。ちょっと怖かった⋯⋯。」
「エエー、ソンナコトナイヨ。やだなー、ムーンってばー。」
このどこまで続くのか分からない階段に対するストレスを適度に発散したところで、ジミナは再びその足を動かし始める。途中、何度か飛行するムーンに対し殺意を抱きつつも、何とか目的の人物がいる最下層へと到着することが出来た。
「⋯⋯ほう。お主が儂を地上へと連れ出してくれる者か。予想していたよりも、随分と早かったではないか。」
最下層でジミナが目にしたのは、鉛色の鉄格子と、その奥で鎖に手足をつながれている金髪の少女。人形のように整ったその容姿に思わず見とれてしまったジミナであったが、その小さな口が開かれ出た言葉は、老婆のようにしわがれたモノであった。そして、その口調も幼い容姿とは似つかず、何となく老成した威厳を感じるモノだった。
そして、その少女が、何と自分に話しかけてきているらしいということを二、三秒かけてようやく理解したジミナは、慌てて口を開いた。
「え、貴女、私のこと、認識できているの? じゃなくて、認識なさっているのですか⋯⋯?」
何となく敬語を使ってしまったジミナ。そんなジミナがおかしかったのか、その金髪の少女⋯⋯ホウライはくつくつと笑い声を上げ、こう答えた。
「儂の眼は、とうの昔に光を失っておる。じゃから、お主を視認出来たわけではない。ただ、儂は耳がいいのでな。お主がだんだんと近づいてくる音が聞こえてきたのじゃよ。今は、お主の心臓の鼓動が五月蠅いくらい聞こえておるわい。」
そう言って、ホウライはその白く濁った瞳をジミナへと向け、「ほう⋯⋯!」と感嘆の息を吐いた。
「これはこれは⋯⋯随分とまあ可愛らしくなりおって。そこに居るのは、ロキの奴じゃな? ということは、この娘と宙に浮いておる娘の霊はお主が連れてきた客人というわけか。⋯⋯して、用件はなんじゃ? よもや、儂の顔を見るためだけにこんな地下深くまで来たわけではあるまいて。」
『流石、察しが良くて助かるぜ。ホウライ、お前の「ギフト」が必要なんだ。ここから出してやる代わりに、こいつらに協力すると約束してくれないか?』
ロキの言葉を聞いた瞬間、それまで穏やかだったホウライの雰囲気が一瞬にして張り詰めたモノに変わる。ホウライの全身から放たれるプレッシャーに、危うく意識が飛びかけたジミナ。ホウライは、その濁った瞳でジミナの肩に座るロキを睨み付ける。
「⋯⋯儂に『ギフト』を使えというのか? その言葉の意味、よもやお主が知らないはずはあるまい。儂の『ギフト』は、禁忌の力じゃ。むやみに使えば、世界の理が崩れる。それでもなお、お主は⋯⋯お主達は、儂にこの力を⋯⋯『死者を蘇らせる』力を使えと、そう言うのか?」
そう問いかけるホウライは、今度はロキだけでなくジミナ達も含めてきた。思わずひゅっと息を呑むジミナ。
ホウライのギフトは、正確には、『死者に一日だけ命を与える』というモノ。このギフトを使えば、ホウライの言葉通り、死者を蘇らせることが可能となる。ただし、死体があることが前提条件な上に、蘇生した時に死者の身体の怪我は治ることはない。また、一日たつと死体は完全に消滅してしまうなどと、いろいろ条件はあるものの、それを踏まえても十分に禁忌と呼べる力であろう。
そのことを知るが故の、ホウライの問いかけ。ホウライは、「お前達に本当に禁忌を犯す覚悟はあるのか?」と尋ねてきているのだ。相変わらず強いプレッシャーを放ってくるホウライに、ジミナは堪らず逃げ出したくなり、ホウライから視線を逸らす。
すると、隣で自分を見つめ、にっこりとほほえみかけてくるムーンと目があった。ムーンは、口の動きだけで「大丈夫だよ」とジミナに伝え、ジミナの手を両手で包み込もうとする。幽霊体のムーンの手は、ジミナに触れることなくすり抜けてしまったが、ジミナは何故かぬくもりを感じた気がした。
気が付くと、先程まで感じていた恐れは消えている。ジミナは、改めて正面からホウライと向き合ったのであった。
次回、『地味に仕事の出来る女なんです。その2』です。




