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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
82/110

『ヒーローは遅れてやってくる』

オクター「ぶぅええええ!!?」


シャルン「おいおい、すっとんきょうな声出してどうしたんやいったい?」


オクター「い、いや、そそそそ村長が⋯⋯!」


シャルン「え、村長がなんやって⋯⋯って、はあ!? ま、マジかぁぁぁ!!!」

《シャーリー&サラside》


「おい、サラ、下がれ⋯⋯!! オレもまだ戦える⋯⋯!!」


 しかし、そう言いつつもシャーリーは苦しげに腹を押さえており、まだ満足に戦える状態ではないのは一目瞭然だ。だから、サラは先程から一人でピティーの猛攻をしのぎ続けていた。


「貴女も大変ですね、『失敗作』。死にかけの殺人鬼のお守りをしながら戦わなければならないとは⋯⋯。どうです? 諦めればすぐ楽に死ねますよ。最も、楽に死なすつもりもありませんが。」


 先程からシャーリーと会話する暇もないサラに対し、ピティーにはサラに話しかける余裕がある。何故二人の間にこのような差が生まれているのかというと、それは至極単純で、残酷な話であった。


「そもそも、ギフトを封じている今、貴女に勝ち目がないのは明白でしょう、『失敗作』。何しろ、エンキ様に創られた時の性能は、私の方が段違いに高いのですから。」


 無表情でその事実だけを端的に告げられ、サラはちっと舌打ちする。その間も、鋭い回し蹴りがサラを襲い、サラはとっさに腕をクロスさせてガードするも、衝撃で後方へと少し下がってしまう。そんなサラに追い打ちをかけるかのごとく、ピティーの攻撃はより一層激しさを増す。


「くっ⋯⋯!! オレを無視しているんじゃねえよ!!」


 防戦一方のサラを見かねてシャーリーがナイフを振るうも、そのナイフはピティーの拳に弾かれ、シャーリーの手から離れてしまう。


「ギフトを使えない今の貴女の振るうナイフなど、最早何の脅威もありませんよ。」


 ピティーはそう言ってシャーリーに冷たい視線を向ける。


「くそっ⋯⋯!!」


 自分のあまりのふがいなさに歯ぎしりするシャーリー。こんな時ばかりは年老いてボロボロになった自分の身体を恨まずにはいられない。そして、ピティーの猛攻を受け続けるサラにも、ついに限界が訪れようとしていた。


「はっ!!」


(⋯⋯っ!?)


 ピティーの気合いの声と共に放たれた鋭い蹴りの衝撃を流しきれず、大きく後ろへと吹き飛ばされるサラ。シャーリーも巻き込み、勢いのまま狭い路地から広い通路へと出てしまった。


「さあ、お前達、そこの殺人鬼と『失敗作』を始末しなさい!!」


 ピティーの指示で、通路を徘徊していた量産型ピティー軍団が一斉にサラたちへと襲いかかる。その数はあまりに多く、とてもじゃないが今の状態のシャーリーを抱えては逃げられそうにもない。そのことを悟ったサラは、ある決意をした。


『⋯⋯シャーリー、ごめんね。』


「おい、サラ、お前まさか⋯⋯!?」


 勘のいいシャーリーは、サラのその短い言葉だけでサラが何をしようとしているかを悟ったようだが、サラは、シャーリーが抵抗する前に、行動を起こすことにした。


 サラは、抱えていたシャーリーの身体を、思いっきり遠くへと放り投げる。シャーリーがサラの名前を叫ぶ声が聞こえるが、サラは遠ざかっていくシャーリーに向かいただにっこりと微笑んだ。


(⋯⋯大丈夫。あれくらいじゃ、シャーリーは死なない。ここでピティー達に囲まれて襲われる方が、よっぽど危険⋯⋯。)


 そして、一人となったサラ目掛け、ピティー軍団が一斉に襲いかかる。最初の十数体は疲れを感じさせない動きで確実に首を狙い蹴り殺していたサラであったが、流石に多勢に無勢。大勢のピティー軍団に囲まれ、タコ殴りにされる。


 ピティー軍団のうち四体が、サラの身体を押さえ込み、どこからか持ってきた黄金の十字架に磔にする。手足に無理矢理釘を打ち込まれ、苦痛の表情を浮かべるサラ。そんなサラの目の前のピティー軍団が、一斉にざっと足音をそろえて左右に分かれ、その間を、オリジナルのピティーが歩いてくる。その手には、いつの間にか大きな釘が握られていた。


「さあ、『失敗作』。断罪の時間です。ああ、安心してください。貴女が逃がしたあの殺人鬼も、すぐ見つけて同じように磔にして殺してあげますから。それでは⋯⋯さようなら。」


 ピティーは、こんな時ですら感情を一切感じさせない表情で、その手に持つ釘をサラの胸目掛け放り投げた。迫り来る釘を目の前に、自分の死を悟り、思わず目を瞑るサラ。


(⋯⋯?)


 しかし、いつまでたっても予想していた痛みは襲ってこない。おそるおそる目を開けたサラが見たのは、カランカランと音を立てて地面に落ちる大きな釘と、サラの目の前で足を振り上げた姿勢のまま固まっている⋯⋯フルフェイスのヘルメットを被り、ぴっちりとしたスーツを身に纏った、見たこともないような変質者。


(え、誰⋯⋯?)


 しかし、そんなサラの疑問も置き去りに、その変質者は腕をビシッ!と伸ばして独特のポーズを決めると、大きな声でこう名乗りを上げたのだった。


「ヒーローは、いつも遅れてやってくる⋯⋯! 私の名前はソニア(・・・)!! 正義の名の下に、ピティー!! 貴様を断罪する!!」


 しかし、突然現れたソニアと名乗る少女に、サラよりも強い反応を示したのはピティーの方であった。ピティーは、珍しく目を丸くして、ソニアに話しかける。


「ソニア!? まさか、貴女は既に死んでいるはず⋯⋯。いえ、今は細かいことは気にしないでおきましょう。すぐ殺してしまえば片付く問題⋯⋯!!」


 ピティーは、ピティー軍団に指示を出し、ソニアを襲わせる。しかし、ソニアは仁王立ちのまま、余裕を崩さずに声を張り上げた。


「おい、将軍(・・)!! 貴様の出番だぞ!!」


「⋯⋯我輩に指図するとは、良い度胸であるな。貴様、後で覚えていろよ?」


 どこからか、サラも聞き覚えのあるような第三者の声が聞こえたかと思うと、ソニアとピティー軍団の間に、同じ顔をした集団がポポポポーン! と突然その姿を現す。何となく見覚えのあるその集団がピティー軍団を押さえ込むと同時に、またどこからか声が聞こえてきた。


「ハッハッハ!! 我輩相手に数で勝とうとは良い度胸であるな!! 貴様の軍と我輩とでは、兵の質が違う!! さあ、さっさとその白いのを蹂躙しろ、このウジ虫共!!」


「「「「サー、イエッサ-!!」」」」


 同じ顔の集団は、同時に声を上げ、見事な敬礼をしたかと思うと、見事なチームプレイでピティー軍団を蹴散らしていく。その様子を見たオリジナルのピティーは、呆然とした様子でこう呟いた。


「な⋯⋯! なぜポポ(・・)までここに⋯⋯!? ⋯⋯ええい、こうなれば、全員まとめてこの『瞳』で⋯⋯。」


 しかし、ピティーがその瞳の能力を発動させようとした瞬間、後ろからトントンと肩を叩かれ、ピティーは条件反射で振り返ってしまう。すると、そこに立っていたのはソニアに負けず劣らず怪しい格好をした少女。全身を大きなトレンチコートで覆い隠し、顔もマスクとサングラスで隠している。その少女は、ピティーが振り向いた瞬間、ばっと着ていた服やマスクを脱ぎ捨て、そしてこう叫んだ。


「さあ、このスター(・・・)ちゃんの輝きに目を奪われろ~☆ お久しぶりのっ! 『超光形態スーパースターちゃんモード』!!!!」


 その瞬間、スターと名乗った少女の身体から眩い光があふれ出し、ピティーは堪らず目を押さえて「ああっ!?」とうずくまる。


 サラは、とっさに彼女の前に立ってくれたソニアのおかげでその光の餌食にならずにすんだ。そして、そんな彼女のもとに今度は、決して聞き間違うことのない声が語りかけてきた。


「よう、サラ。⋯⋯さっきはよくも投げ飛ばしてくれたな。後でお仕置きしてやるから、覚悟しとけよ?」


『シャーリー!? え、何でそんな元気そうなの!?』


 そう、そこには、先程まで戦闘によるダメージでろくに動くことの出来なかったシャーリーが、元気な様子で立っていたのだ。その見た目は年老いたままだが、その力強い立ち姿には彼女の全盛期を思わせる雰囲気がある。

 そして、サラのその問いかけに、シャーリーはニヤリと微笑んでこう答えた。


「オレ自身も驚いてるぜ。何か、オレの身体に蓄積されたダメージやら何やらを全部治療(・・)したんだとさ。⋯⋯そうなんだろ、ドクター(・・・・)?」


 シャーリーはそう言って後ろを振り向く。そして、そこには、サラにも見覚えがある、白衣を纏った女性の姿があった。確か名前は⋯⋯ルルと言ったであろうか?

 ルルは、サラの姿を確認すると、ほっと息をつき、その後サラを安心させるかのように、優しく微笑んでみせた。


「私が来たからには安心して。貴女の傷は全部治療してあげるわ。⋯⋯これで、あの時の借りは返したわよ?」


 ルルはサラのもとへと近づき、そっとその手をかざす。すると、ルルの手から光が溢れ、サラの身体を包み込み、先程まで受けた傷やダメージが一瞬のうちに消えてなくなっていた。


「な、何故だ⋯⋯? 何故、貴女たちがここにいるのですか!? 貴女たちはもう死んでいるはず!!」


 何故かこの神聖国に集まった、過去のゲームの参加者たち。死んだはずの彼女たちがここにいる事実を受け止めきれず、声を荒げるピティーに対し、ルルがふっと笑みを浮かべつつこう答えた。


「⋯⋯ええ、確かに私たちは既に死んでいます。私たちが今ここに居るのは、一人の異質な『ギフト』を持つ少女と、それに加えて⋯⋯。」


 と、そこでルルはシャーリーとサラにその視線を向け、驚くべきことを口にしたのであった。


「それに加えて、私たちをここに連れてきたのは、貴女たちの仲間の、影の薄い(・・・・)女の子よ。ちょっと名前が思い出せないんだけれど⋯⋯貴女たちは、心当たりがあるんじゃないかしら?」


 『影が薄い』。そのキーワードから連想出来る人物に、サラもシャーリーも一人しか心当たりがなかった。いつの間にか、居ることをすっかり忘れていたその人物の名前を、サラとシャーリーは同時に叫ぶ。


「『まさか、ジミナ(・・・)!?』」




 


 

ジミナ「私のこと、ちゃんと覚えていてくれた? もしや、存在忘れたりしてないわよね⋯⋯? 次回は、私の活躍がようやく披露出来るわ。楽しみにしててね。」

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