六日目
アン「本日のあらすじ担当、アンデス!」
ルージュ「同じくあらすじ担当のルージュだ。」
アン「まず、前半はフローラ&ペトラVSスクリームで・・」
ルージュ「後半は、ララsideの話らしいぜ。」
アン「ああ、博士。大丈夫でしょうか。なんか、嫌な予感がします・・。」
ルージュ「まあ、あいつなら大丈夫だろ。俺たちは天から応援してようぜ!」
《フローラ&ペトラside》
フローラとペトラは、昨日と引き続き、能力を活用するための特訓を行っていた。しかし、崖や木といったものを地面だと思い込むのはなかなかに難しく、フローラの特訓の成果はなかなか出ていなかった。
「私、やっぱりこういうのは向いていないんですかね・・。」
ペトラに特訓に付き合ってもらっているにも関わらず、全く成長する様子がない自分に嫌気が差し、ついそんな弱音が溢れた。そんなフローラを、ペトラはいつもの調子で激励する。
「そんなことはありませんわよフローラ。だいたい、たった二日や三日で成長できる方がおかしいんですわ。この私だって、能力をここまで使いこなすようになるには何年もかかりましたもの。それに比べれば、貴女の成長速度は十分早いですわ。もう少し自信をもちなさい!この私が認めてあげているのですから!」
やっぱり少し傲慢なところもあるペトラだが、見え隠れする優しさが嬉しい。フローラは自然と笑顔になった。
しかしそこで、ペトラの表情がいきなり険しくなり、後ろを振り返った。フローラは、パトリシアが来た時のことを思い出しもしやと思ったが、案の定、ペトラの視線の先にはこちらに向かってくる少女の姿があった。
ジャージ姿の少女・・確か名前はスクリームと言っていた気がする。彼女は、ペトラとフローラの視線を全く気にすることなく、ズボンのポケットに両手を突っ込んで、猫背でひょこひょこと近付いてきた。
「よっ!お二人さんとは初日ぶりっすね。元気にしてたっすか?」
スクリームは、まるで友達に挨拶をするように気楽に声をかけてくる。しかし、それにフレンドリーに返事を返すほどペトラたちもお気楽な性格はしていない。
「大体分かってはいますけれど、貴女、何しに来ましたの?」
ペトラのその問いに、スクリームはなぜか頭を悩ませ始めた。
「いやー、ほんと、うち何しに来たんすかね?うち、本当は適当なところでキャプテンのところに帰って協力してもらおうと思ってたんすよ。だって、確かにうちはそこそこ強い自信はありますけど、戦いとかはあんまり好きじゃないし、できれば避けたいんすよね~。キャプテンの部下になったのも、この人についていけば楽できそうだな~とかって理由でしたし。」
一人でぼそぼそと喋りながらも、スクリームの手はゆっくりと腰に提げられたメガホンへと伸びている。ペトラは、視線だけでフローラに注意を呼び掛け、いつでも攻撃できる体勢を整えた。
「・・それなのに、昨日キャプテンが死んだとかアナウンスが入ったじゃないっすか。いやー、めちゃくちゃ驚いたっすよ。キャプテン鬼強かったし、まさかうちより先に死ぬなんて思いもしませんでしたもん。キャプテンが死んだって聞いても涙が全く出なかった時は、やっぱ私ってクズだな~とか思ったり。・・まあ、そんなクズな自分でも、キャプテンの最後の命令くらいはちやんと果たそうかなって思ったんすよ!」
スクリームが口元にメガホンを当てた。ペトラは、スクリームに向かい髪を伸ばす。しかし、ペトラの髪がスクリームに襲いかかる前に、スクリームは叫んだ。
『あああああああああああ!!!!』
スクリームの叫び声は、ソニアに対し使った時の倍以上の威力を持って、ペトラたちに襲いかかった。スクリームに向かい伸ばしていた髪はたちまち吹き飛ばされ、ペトラは慌ててツインドリルを地面に差し、正面に大きな盾を作って衝撃に備えた。それと同時に、隣で剣を構えていたフローラを強引に自分の後ろに放り投げる。
刹那、爆音と衝撃がペトラとフローラにぶつかる。フローラは、ペトラの後ろにいたお陰で衝撃は全くなかったが、あまりの爆音に反射的に身体を丸め、耳を塞いだ。
爆音が去り、フローラが身体を持ち上げた時、そこには驚きの光景が広がっていた。スクリームの叫び声の衝撃により、辺りの木々が根こそぎ倒されていたのだ。そして、フローラは自分を庇ったペトラの姿を見て思わず悲鳴をあげた。
「ペトラ!?大丈夫ですか!?」
ペトラ本人にはほとんど怪我はなさそうだった。しかし、フローラが特訓の時あれだけ剣で打ち付けても傷一つ付かなかったペトラの髪が、スクリームの叫び声一発だけでボロボロに傷付いていた。
ペトラは、フローラの呼び掛けに振り向くことなく、どこか冷たい声でフローラにこう告げた。
「・・フローラ。貴女は逃げなさい。ここは、私一人で戦いますわ。」
ペトラのその言葉に、フローラはついかっとなって叫んでしまう。
「何を言っているんですかペトラ!?貴女の髪でさえ傷付けるような相手に一人で勝てると思っているんですか?・・それとも、私がいたら足手まといだとでも言うんですか!?」
「ええ、その通りですわ。貴女がいても足手まといにしかなりませんの。」
フローラの言葉を肯定したペトラは、そこで初めてフローラの方を振り返った。フローラを見るその冷たい瞳には、明確な拒絶の意志が込められていた。
「第一、あんなに特訓をしてあげたのに全く成長していないじゃありませんの。そんな貴女が私の隣にたって戦おうなど、片腹痛い話ですわ。」
「・・!ペトラ、でも・・!!」
なお食い下がろうとするフローラを、ペトラは一蹴した。
「平民が私に逆らうんじゃありませんわ!さあ、さっさと私の視界から消えなさい!」
ペトラの言葉に、しばらく俯いていたフローラだったが、やがて逃げるようにしてその場を去っていった。
そんな二人の様子を見ていたスクリームが、おちょくるような口調でペトラに話しかけた。
「いやー、ペアを見捨てて逃げるとは薄情っすねー。まあ、あんだけ言われたら逃げたくなる気持ちも分かるっすけれど。あんた、ほんと性格悪いっすよね。うちも平民なんで、あんたみたいなタイプの貴族は大っ嫌いなんすよ。」
しかし、ペトラはそんなスクリームの言葉にも反応せず、どこか満足げな表情を浮かべていた。
「・・これで良かったんですわ。これで、少なくともフローラは死なずに済む。・・私が友達を作ろうとすること事態、間違っていたんですの。私は、今度こそちゃんと守ってみせる。」
「なにを言ってるか分からないっすけれど、気にくわないあんた一人だけ残ったことだし、こっからどんどん容赦なくいくっすよ!」
スクリームがメガホンを構えるのに合わせ、ペトラも先ほど傷付いた髪を修復し、再び盾を作る。
再び訪れる衝撃。ペトラは、それを少しのダメージを受けながらも耐える。
そんな行為が何回も繰り返される中、ペトラは昔のことを思い出していた。
ペトラが九歳の時のことだ。その当時、ペトラは貴族のお嬢様にも関わらずやんちゃで、毎日森を走り回ったりしては両親を困らせていた。ちなみに、無駄に高いサバイバル技術はこの時身につけたものだ。
そんなある日、ペトラは一人の少女と出会った。少女の名前はローラと言い、当時のペトラに負けず劣らずやんちゃで元気な女の子だった。そして、ローラは平民であった。
しかし、身分の違いなど関係なく、二人は出会ってすぐ意気投合し、友達になった。毎日二人で森を駆け回っては、夜には木の上で星を数えた。二人で過ごす日々はとても楽しかった。
しかし、そんな楽しい日々は、突然終わりを迎えた。ある日のこと、盗賊団が、身代金目当てにペトラを誘拐したのだ。そして、運の悪いことに、その時一緒にいたローラもまた盗賊団に捕まってしまった。
その当時、まだ本当にヘアースタイルを少し変えるくらいしか出来なかったペトラは、大人の盗賊たち相手に恐怖でなにもできなかった。しかし、ローラは違った。ローラは勇敢にも、盗賊団の棟梁に噛みつき、その隙をついてペトラを逃がしてくれたのだ。ペトラは、必ず助けを呼ぶと約束して、その場を去っていった。
全力で家まで駆け戻ったペトラは、両親に早速ローラを助けるよう騎士団に依頼してくれと頼んだ。しかし、ペトラの両親はそれは無理だと告げた。平民のために大事な兵を動かすことを国はしないと。
事実、国はペトラの帰還を喜ぶだけで、兵を動かすことはしなかった。
そしてその翌日、森の中で無惨に殺されたローラの死体が発見された。死体は損傷が酷く、犯された形跡もあったらしい。それを聞いたペトラは、三日三晩泣き続けた。そして、自分の弱さを強く責めた。もしあの時、ペトラに盗賊団に立ち向かう勇気があれば、ローラは助かったかもしれない。
ペトラは、強くなろうと決めた。今度こそ、大事なものを守ることができるように。
それから、ペトラは変わった。毎日自分の能力の特訓に明け暮れ、ひたすら強さを磨いていった。また、その一方で、昔のように明るく森を走り回ることはしなくなり、貴族の令嬢としての礼儀も学ぶようになった。フレンドリーな性格は鳴りを潜め、常に相手を見下したような態度を取り、誰とも親しくなろうとしなくなった。その傾向は、特に平民に対して強く見られた。
こうして、大事なものを守るために強くなったのに、誰かが自分の"大事なもの"となることを恐れ、他人を拒むという矛盾した生活を送っていたペトラは、ある日突然この殺し合いゲームに参加させられることとなる。
そして、なんの悪戯か、かつての友人ローラと名前も顔もよく似た、フローラという少女に出会ったのである。
ペトラは、フローラを見た時、なんとしても彼女を守らなければと思った。しかし、ペアになろうと声をかける勇気がなかなか出ず、ペアを作れないまま無人島に飛ばされた時は多いに焦り、必死でフローラを探し回ってなんとか彼女が魔物に襲われているところを助けることができた。
最初は、フローラにローラを重ね、かつての彼女への罪滅ぼしのつもりで彼女を守っていた。しかし、フローラと過ごしていくうちに、次第に彼女のことがどんどん好きになっていった。自分にはそんな権利はないと思いながらも、フローラがペトラを名前で呼んでくれた時は、また友達ができた気がして嬉しかった。
だから、スクリームと対峙して、彼女の強さに敗北を悟った時、フローラに嫌われてでも、なんとか彼女のことを助けたいと思った。今度こそ、ちゃんと大事なものを守ってみせるのだと。
ペトラの目の前では、息を切らしたスクリームがこちらを睨み付けていた。
「はあ・・はあ・・いい加減喉が枯れそうっす。まあでも、どうやらあんたもそろそろ限界みたいっすね。」
スクリームの言葉通り、ペトラの髪はダメージを受けすぎて、もはや修復が不可能な状態にあった。着ていたドレスもところどころ破れ、顔にも疲労の色が見える。
それでも、ペトラはまだまっすぐにスクリームを見据えて立っていた。ボロボロの髪は盾としての役目を果たせそうにないが、最後まで逃げることはしない。もう二度と逃げないと決めたのだ。
「これで終わりっす!最大音量!」
スクリームは、とどめの一撃を加えようと、息を大きく吸い込んだ。
しかし、そんな彼女の後ろから、何者かが口を挟む。
「それはこっちの台詞ですよ!」
その声と共に、スクリームのメガホンを持っていた右手は、スパァン!と小気味良い音を立てて切り落とされる。
スクリームが慌てて後ろを振り向くと、そこには、先ほど逃げたはずのフローラの姿があった。
「お前・・!!なんでここにいるっすか!」
「貴女に見つからないように、森をぐるっと一周してきました。・・そのせいで、少し遅くなってしまいましたが。」
「くそ・・!それなら、あんたから先に殺してやるっすよ!」
メガホンを使わなくとも、この位置から叫び声をあげれば、衝撃波でこんな普通の少女くらいなら簡単に殺すことができる。そう思い息を吸い込んだところで、スクリームは突然空中へ持ち上げられた。
「貴女・・さっきまで私と戦っていたことをお忘れではなくって!」
スクリームの足に、ペトラの髪が巻き付けられ、空中に持ち上げられた。スクリームがそのことに気付いた時には、スクリームは頭から地面へと勢いよく投げられていた。
首の折れるボキッという音が響き、スクリームは白目を剥いて倒れる。それと同時に、ペトラも膝から崩れ落ちそうになり、慌てて駆け寄ったフローラがそれを支えた。
「ペトラ、大丈夫ですか!?ああ、こんなに怪我して・・助けに来るのが遅れてすいません。」
「なんで・・?」
なぜか申し訳なさそうに謝るフローラに、ペトラが疑問の声を投げかけた。
「なんで・・私はあんなに酷いことを言ってフローラを傷付けたのに、どうして貴女は私を助けに来たんですの?どうして貴女が私に謝るんですの?」
すると、フローラはむっとした表情を浮かべ、いきなりペトラの額にデコピンをした。
「ひゃう!?な、何するんですの?」
「ペトラがあまりにもうじうじしてるから怒ったんです!どうしてなんて考える必要ないじゃないですか。ペトラに昔何があったかとかは知りませんが、あの時言った言葉が本心じゃないくらいこの数日間一緒にいれば分かります。それに・・」
フローラは、まっすぐにペトラの目を見つめてこう言った。
「私たちは友達じゃないですか。友達を助けるのは、当たり前のことでしょう?」
ペトラは、フローラが一瞬何を言ったのか分からなかった。しかし、その言葉を理解すると同時に・・フローラが自分のことを友達だと思ってくれていたのを知ったと同時に・・ペトラの瞳から、自然と涙が溢れ落ちていた。
「ええ!?ペトラ、なんで泣いているんですか?私、なんか変なこと言いましたか!?」
突然泣き出したペトラに動揺したフローラだったが、しばらくすると、ペトラをその胸で優しく抱き締めた。
ペトラは、まるで九歳の頃に戻ったかのように、フローラの胸の中で泣き続けていたのだった。
《ララside》
ララは、アンの両腕をその小さな身体で抱き締め、ただひたすら泣き叫んでいた。
ララの母親は、ララを産んですぐに事故でこの世を去ったため、ララには母親の記憶はない。あるのは、自分のことを化け物を見るような目で眺めていた父親の記憶だけだ。
ララは、産まれながらにして天才だった。生後数日で言葉を完璧にマスターし、一歳の時には既にロボットを組み立てていた。そんなララに対して、周囲が向ける視線は、尊敬ではなく恐怖だった。ララは、実の父親からも恐れられる中、ただひたすらに、自分の家族となってくれるロボットを作ることに取り組んだ。
そして、幾度となく失敗を重ね、ようやく人間の心を持たせることに成功したのが、戦闘用メイド型ロボットNo.13、つまりアンだった。戦闘用なのは、ララの頭脳を狙う存在がいたため、それに対抗する必要があったからだ。
ララは、アンを作る際、母親の写真を参考にした。アンには、自分がアンの母親であるようなことを言ったが、本当はララはアンのことを実の母のように思っていた。
もちろん、ララならばアンによく似たロボットや、アンより性能がいいロボットを作ることができる。しかし、それはアンではない。いくらアンに似たロボットを作れても、アンそのものを作れるわけではない。
「アンがいないなら、私、もう生きている意味なんてないよ・・。」
ララには、アンのいない世界に一人生き残ることが考えられなかった。
かと言って、自分から死ぬ勇気もなく、ララはひたすら泣き続けているのであった。
しかしその時、ララの耳に誰かが近づいてくるような音が聞こえてきた。普通なら、警戒するべきなのだろうが、精神的に追い詰められていたララは、それをアンの幽霊が近づいてくる音だと思った。
「アン!?もしかしてアンなの!?」
しかし、音は近づいてくるのに、いっこうにその姿が見えない。ここで、ララは宝箱から手に入れたアイテムのことを思い出した。『見えないものが見えるようになる眼鏡』。本来なら、赤外線センサーを搭載しているだけで幽霊が見えたりするわけではないのだが、アンのことしか考えていなかったララは、そんなことは気にせず、すがるような思いで眼鏡をかけた。
すると、ララの目に確かに今まで見えなかったモノが見えた。しかし、それは、ララの予想をはるかに越えたモノであった。
「え、なんで貴女がここにいるの?」
しかし、その問いに答えが返されることはなく、ララは頭に強い衝撃を受けて意識を失った。
ララは、右腕の激しい痛みと共に、目を覚ました。そして、目の前にあるモノを見、思わず悲鳴を上げる。
「あ、ああああああ!!?」
そこには、ララの右腕を貪り食う狼の魔物の姿があった。ララは、慌てて逃げようとするが、足が動かない。まさかと思い足の方を見ると、そこにはあるべき足はなく、代わりに、目の前の狼と同様にララの足をかじる狼の姿があった。ララは、自分が三匹の狼の魔物に囲まれていることを知った。
そのうちの一匹が、ララの顔の方へと近づいてくる。ララは、恐怖による狂乱状態で声を張り上げた。
「い、嫌だぁ!死にたくないよぉ!助けて、アン!アンーー!!!」
その叫び声は、しばらく森に響き渡り、やがて再び森は静けさを取り戻した。
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『えー、六日目の脱落者は、スクリームとララでーす!昨日ペアが死んだショックで後追いでもしたのかな~?明日は最終日!最後まで張り切っていこー!』
スクリーム
身体能力 2
知力 3
社会性 3
運 3
能力の強さ 3
ギフトの能力・・大声を出せる。
ララ
身体能力 1
知力 5
社会性 2
運 2
能力の強さ 4
ギフトの能力・・描いた絵の具現化(無機物のみ)