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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
79/110

毒薬変じて薬となる

シャルン「ん~? 何かこいつだけ、他の守護者と性質ちゃうくないか? てか、可愛いなおい。」

《リリィ&ロロside》


「リリィ様、大丈夫ですか?」


 ロボットメイドのロロが心配そうにリリィにそう話しかけてくる。この部屋の守護者のシック曰く、ここにはウイルスが充満しているらしいが、ロボットである彼女にとってはあまり問題ではないようだ。

 そして、この部屋に入った時は体調を悪くしたリリィであったが、彼女もまた独自の手段でこの危機を乗り越えていた。


「ああ、もう平気だよ。心配かけたね、ロロ。」


 リリィは、『体液が毒』というギフトの持ち主だ。体液から作られる毒は、その成分を好きに調整することが可能である。リリィは、この能力を使い、体内に浸入してくるウイルスを適度な成分の毒により殺し、無力化することに成功していたのだ。毒薬変じて薬となるとはこのことであろう。


「え⋯⋯? あ、貴女たち、何で私と一緒の部屋にいてそんな平気な感じなの⋯⋯?」


 戸惑いを隠せない様子でリリィたちにおずおずとそう問いかけるシック。そんな彼女に、リリィは薄い胸を張って堂々とこう言い放った。


「ふっふっふ⋯⋯。守護者かなんか知らないけれど、相手が悪かったみたいね! ⋯⋯まあ、最初はちょっとビビったけれど、私たち二人にアンタのギフトは効かないわよ!」


 そして、リリィは愛用の白衣のポケットにしまっていた毒薬の瓶を指に挟む。それと同時に、ロロは腕をシックへ向けた。戦闘体勢に入った二人。しかし、シックはその隈の目立つ瞳を輝かせ、何故か嬉しそうにこう言った。


「す、凄い⋯⋯!! わぁ、嬉しいなぁ⋯⋯! わ、私と一緒でも、苦しまない人がいたんだ⋯⋯!! ケホッ、ケホッ!!」


 興奮しすぎたせいか、シックは激しく咳き込み、地面に座り込んでしまった。その様子に戦う意欲が削がれたリリィは、シックがあまりにも激しく咳き込むので思わず心配になって彼女の側へと駆け寄った。


「ちょっと、アンタ大丈夫なの?」


 しかし、リリィがシックの肩に触れようとした瞬間、シックが血相を変えて叫ぶ。


「ゲホッ!! わ、私に触らないで!!」


 いきなりの大声にビクッと伸ばしかけた腕を引っ込めるリリィ。そして、シックの叫び声に反応したロロがリリィとシックの間に飛んで入る。ロロは、リリィからシックを引き離さんとシックの腕を掴もうとする。


「リリィ様から離れなさい!」


「あ、だ、駄目⋯⋯!」


 しかし、シックをまだ敵と見なしていたロロが彼女の忠告を受けることはない。ロロは、シックの腕をガシッと力強く掴み、そしてその瞬間、プツンという音がしたかと思うと、ロロの瞳の光が消え、ロロは地面に崩れ落ち動かなくなった。

 リリィは慌ててロロに駆け寄り、声をかけるも反応はない。リリィは、怒りを露にシックを睨み付けた。


「お前⋯⋯ロロに何をしたのさ!」


 リリィの鋭い視線を受けたシックは、申し訳なさそうに目を伏せてこう答えた。


「ケホッ、ケホッ⋯⋯。ご、ごめんなさい⋯⋯。多分、あの子が私に触ったからだと思う⋯⋯。私のギフトは、『病気を伝染(うつ)す』って奴だから⋯⋯。」


 シックは、悲しげな表情のまま、動かなくなったロロにその視線を向けた。


「多分あの子、ロボットでしょ⋯⋯? 腕が変形してたし⋯⋯。いいよね、ロボット。カッコいい⋯⋯。あ、じゃなくて、多分あの子、私に触ったことで『コンピュータウイルス』に感染しちゃったんだと思うの。」


「コンピュータウイルス⋯⋯? それって病気って言えるの?」


「分からない⋯⋯。でも、私のギフト⋯⋯。これ、私に触った場合はその人に一番被害を与える病気を伝染すみたいなの。それに、呼吸をするだけでも自然にウイルスを撒き散らしちゃうから⋯⋯。だから、いつもこの部屋で一人閉じ籠っているんだ。」


「それは⋯⋯何というか、かなりえげつないわね⋯⋯。」


 リリィは、思わずこのシックとかいう少女に同情してしまった。生きているだけで周囲にウイルスを撒き散らしてしまうようでは、とても生きづらいだろう。しかし、仲間であるロロがやられた以上、その仇は討たなければならないだろう。


「アンタには確かに同情の余地はあるけどさ、私も仲間をやられた以上容赦は出来ないよ!」


「ちょ、ちょっと待って⋯⋯。私を殺すのは別にいいけれど、その前に⋯⋯。」


「その前に⋯⋯?」


 シックはテケテケと部屋の隅にある引き出しへと駆け寄り、そこから何かを取り出した。シックが取り出したモノを見たリリィは、予想外のソレ(・・)に、思わず目を丸くした。


「は⋯⋯? 何でそこで『リバーシ』なわけ?」


 そう、シックが引き出しから取り出したのは、リリィも何度か遊んだことのあるボードゲーム、リバーシであった。リバーシとは、交互に盤面へ石を打ち、相手の石を挟むと自分の石の色に変わり、最終的に石の多い方が勝ちという単純なルールからも人気の高いゲームである。少なくとも、この状況で出てくるモノではないはずだ。


「わ、私これまでずっと一人でシュミレーションし続けてたから⋯⋯。誰かとリバーシするの、すごく楽しみにしてたの。それに⋯⋯もし貴女が私に勝てたら、エンキ様の弱点を一つ、教えてあげるよ?」


 シックが何気なく付け加えた最後の条件に、思わず反応してしまったリリィ。そんな彼女の反応を見て、シックはにこっとぎこちなく笑みを浮かべた。


「じゃあ決まり、だね⋯⋯。私は黒だから、貴女は白ね? フフフ⋯⋯ワク、ワク⋯⋯♪」

次回、『受けた恩は返すモノ』。

シックちゃんとリバーシやりたい。

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