どんでん返し
オクター「あれ? 昼⋯⋯? 昼とは一体⋯⋯ ? うごごごご⋯⋯。」
《シャーロット&ラモーネside》
「ところで、今の君は何と呼んだらいいのかね? 君も同じようにフライでいいのか?」
シャーロットは、拳銃に弾を装填しつつ、フライに現れた第二の人格に対してそう問いかけた。別に答えを期待していたわけではなかったのだが、彼女は思いの外真剣に頭を唸らせた後、答えを返してくれた。
『そうだな⋯⋯。じゃ、オレのことはイラフとでも呼んでくれ!』
「フライの反対でイラフか⋯⋯。これはまた随分と安直だな。」
シャーロットが正直にそう感想を述べると、フライ⋯⋯いや、イラフは不満気にシャーロットを睨み付けた。
『おい、フライがわざわざオレのために考えてくれた名前にケチつけるのか!? 許さねえ⋯⋯血を流して絶命しろ!』
そう言うと、イラフはおもむろに床に手をつく。そして、力任せに指をガッと床に差し込んだ。危険を察知したシャーロットが背後のラモーネに警告するよりも先に、イラフがギフトを発動させる。
『喰らえ! 「ちゃぶ台返し」!』
イラフが叫んだ瞬間、今までシャーロット達が立っていた床が見事にひっくり返され、二人は宙へと放り投げられる。
「シャーロット、危ない!」
空中で逃げ場のないシャーロットに床の破片が襲いかかり、ラモーネが叫び声を上げる。シャーロットは咄嗟に破片に蹴りを放つことで直撃は回避する。
『オレはフライみたいにギフトを使うのに歌とかは歌わねえぜ? そら、「天地返し」だ。』
しかし、ちょうどそのタイミングでイラフが重力を反転させたため、破片を蹴った反動そのままの勢いでシャーロットは天井に衝突することとなる。これまた咄嗟に受け身をとることで大きなダメージにはならなかったものの、反転した重力によって天井へと落ちてくる破片が再びシャーロットに襲いかかった。
「娘は傷付けさせないよ! 『プリンドーム』!」
シャーロットから少し遅れて天井に着地したラモーネは、落ちてくる破片を見て、シャーロットと自分の二人を守れるくらい大きなプリンを生成する。
その直後、プリンドームに当たった床の破片は、プリンの弾力性の強さにより、プルルンと弾かれ、床で仁王立ちしていたイラフのもとへ飛んでいく。
『ちっ、面倒だな⋯⋯。「フライ返し」!』
イラフは自分の元へ飛んできた破片を的確にその手に持つフライ返しで飛来する向きをひっくり返し、またラモーネたちの元へと破片を飛ばす。しかし、そうなるとまたラモーネのプリンに弾かれ、イラフの元へと破片が⋯⋯。
シャーロットたちとイラフの間で延々と飛び交う破片を見たシャーロットは、ある仮説を立てた。
「ふむ⋯⋯。もしや、イラフはフライに比べて知性が低いのではないか? その代わり攻撃性は増しているようだが⋯⋯。しかし、それならつけいる隙はある。」
そして、シャーロットは早速行動に出ることにした。ラモーネの作ったプリンドームから腕だけだし、あえてイラフは狙わず、飛来する破片目掛け銃弾を放ったのだ。シャーロットのギフト『探しているモノの場所がわかる』があれば、プリンから顔を出さなくとも、このような芸当をしてみせるのは容易い。
『ああ? 一体なんのつもりだ?』
当然イラフも反応するが、明後日の方向に放たれた銃弾にシャーロットの意図が掴めず首をかしげる。しかし、その数秒後、イラフは身をもってシャーロットの意図を知ることとなる。
『くっ!? 何だ!? 急に太股の裏側に何かが⋯⋯』
イラフが感じた痛み。それは勿論シャーロットが先程放った銃弾によるものであった。
『⋯⋯成る程、跳弾を使ってオレに弾を当てたか。返そうにも弾が見えなきゃどうにもならねえからな。』
イラフは、意外に冷静に、シャーロットが自分に対してとった策を当ててみせた。しかし、それが分かったからと言っても、破片は未だ飛び交い続けているのでイラフはフライ返しをし続けねばならず、結果として跳弾によるダメージを徐々にその身体に貯め続けることとなる。
『ふ、でも甘ぇなぁ、探偵さんよ。オレにこれがあるのを忘れてねぇか? 「しっぺ返し」!』
しっぺ返しは、自分にダメージを与えた相手と、自分が受けているダメージ量をひっくり返す技である。この能力により、イラフは今受けているダメージをシャーロットにそのまま与え、自分はほぼ全快状態まで回復するつもりであった。
しかし、しっぺ返しを発動すると同時に、右足の膝から下の感覚がなくなり、イラフはバランスを崩し床に座り込む。一体何が起こったのかと自分の足を見ると、膝から下がすっぱりと切り落とされていた。
『マジかよ⋯⋯。』
思わずそんな声がイラフの口から漏れる。この状態が意味することはすなわち、イラフがダメージをひっくり返した相手、シャーロットが自分で足を切り落としていたということ。シャーロットは、イラフがしっぺ返しを使うであろうと予測し、プリンドームの中で自身を傷付けていたのだ。
『ククク⋯⋯! 探偵、お前なかなか面白いじゃねえか。』
そして、今まさに動けないイラフに、無数の破片と銃弾が一斉に襲いかかろうとしている。この数は流石のイラフでも捌ききれない。このままでは、間違いなくイラフは死んでしまうであろう。
イラフの様子を見たラモーネも、そのとき自分達の勝利を確信した。プリンの中に潜むシャーロットも、イラフから返されたダメージに苦しみながらも、余裕の笑みで煙管をふかしている。
-だが、イラフの一言によって、たちまち状況は一変する。
『⋯⋯嗚呼、これを使うのは随分と久しぶりだぁ。でも、使うしかないから、使わせてもらうぜ。⋯⋯《どんでん返し》。』
その瞬間、イラフに当たる寸前だった破片や銃弾は空中で動きを止め、地面に落下した。
「な!? あいつまた何かやりやがったのか?」
その光景に目を丸くするラモーネ。その身体を包んでいたプリンドームが、何故か剥がされていく。予想外の事態に動揺するラモーネ。彼女の身体に、とてつもない痛みが襲いかかる。
「ぐわぁぁあっ!?」
あまりの痛みに呻き声をあげ、悶えるラモーネ。それでも何とか顔を上げた彼女が見たのは、すっかり傷の治ったイラフが、シャーロットの首根っこを掴んで持ち上げている光景であった。
シャーロットがかけていたモノクルはひび割れ、しかも先程復活したはずの右足が切り落とされた状態に戻ってしまっている。しかし、そんな状態にも関わらず、シャーロットは正面からイラフの顔を見据え、こんなことを口にした。
「な、成る程⋯⋯。『どんでん返し』か⋯⋯。貴様は、我々の勝利の流れ⋯⋯つまり、その場の空気さえもひっくり返すことが出来るのだな。」
『おお。流石探偵。ご名答だ。そしてだ。お前たちが何度オレに勝ちそうになったとしても、オレはその状況すら『ひっくり返す』ことが出来る。つまりどういうことか、賢いお前さんなら分かるよなぁ?』
イラフはそう言うと、シャーロットにさらに顔を近付け、こう囁いた。
『お前たちは、オレとフライには永遠に勝てないってわけだ!』
次回、フライ戦は今回で一旦切り上げ、リリィ&ロロVSシックです。
やっと守護者の中で一番書きたかった子来た!




