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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
76/110

自分がされて嫌なことはしない、これ、常識。

シャルン「ゼロイチ戦決着やでー! まあ、スロウの時といいこいつも相手が悪かったな。ムイムイとシャーリーはやっぱ別格やなぁ⋯⋯。」

《クリスタ&クロ&ムイムイside》


 ゼロイチの前でハサミを構え、ぞっとするような笑みを浮かべる幼女、ムイムイ。彼女のその姿に、ゼロイチは恐怖した。そして、その感情をきっかけに、ゼロイチはある出来事を思い出す。


 それは、ゼロイチが初めてエンキに会った時のこと。エンキに出会う前までは、ゼロイチは自分のギフトの強さ故に、自分に敵う者などいないと思っていた。

 しかし、それはとんだ勘違いだった。突如として自分の元へと降臨し、自分の信者となることを要求してきたエンキ。ゼロイチは、エンキから溢れ出す圧倒的な力に恐怖し、エンキに従う道を選んだのだった。


 確かに、このムイムイとかいう少女はとても恐ろしい存在だ。しかし、もしここでゼロイチが負けるようなことがあれば、それこそ死より恐ろしいエンキの怒りに触れることになってしまうだろう。

 そのことに思い至ったゼロイチは、恐怖で混乱していた思考を少し落ち着かせることができた。そして、迫り来るムイムイに対しそのギフトを発動。『性能変化』で今度はムイムイの身長を縮めようとしたが、何故かギフトが発動しない。


「それ~♪」


 ムイムイはそんな可愛らしいかけ声と共に、ゼロイチの腕を切り落とす。ゼロイチは、その痛みに悶えると同時に、脳へのよい刺激になったのか、なぜムイムイにギフトが効かなかったのかの答えを自分で導きだした。


(⋯⋯そういえば、あの幼女、自分で脂肪を切り落として無理矢理体重を減らしたけれど、まだ自分が体重増加の効果を消したわけじゃなかったっす⋯⋯! うっかりしてた⋯⋯。)


 しかし、後悔しても時すでに遅し。ゼロイチの腕はもう切り落とされてしまっている。


「⋯⋯これで終わりとは思わないでほしいっす!」


 ゼロイチはそう叫び、改めてムイムイにかけたギフトを一旦解除。再びムイムイに『性能変化』をしようと試みるが、その行為は、突如ゼロイチの足元から伸びてきた手によって封じられた。


「私の妹に手出しはさせません。」


 腹の底に響くようなテノールボイスで、影から顔を出したクロはそう呟く。そして、腕の力だけでゼロイチを振り回し、地面へと叩きつけた。


「⋯⋯この姿、やはり男になったからか、妙に力が強いのです。恨むのなら私を男に変えた貴女自身を恨んでくださいね?」


 頭から地面に突っ込んだゼロイチの眼鏡が割れ、辺りにレンズの破片が飛び散る。強化されたクロの腕力で地面に叩きつけられたゼロイチの意識は一瞬飛びかけたが、なんとか気絶だけは耐えることができた。




 -しかし、ゼロイチは後にこの時気絶しておいた方が良かったと後悔することになる。


「ふむふむ⋯⋯。なるほどでしゅ。この本によると、ゼロイチはもともとかなりプライドが高いじんぶつのようでしゅね。それなら、これはかなりこたえるとおもいましゅ。⋯⋯ムイムイ、やっちゃってください。」


「うん! りょーかいだよ、クリスタおねえちゃん!」


 地面に倒れ伏すゼロイチの耳に、幼女化の影響で舌ったらずなクリスタの声と、それに元気よく答えるムイムイの声が聞こえてくる。その会話の内容に、嫌な予感を感じたゼロイチであったが、手足はクロに拘束されており動けない。


 そして、案の定、ここからゼロイチにとっては地獄のような時間が始まったのであった。


「よし! じゃあ、まずは右足をきりおとすよ!」


 ムイムイはそう言うと、ためらうことなくゼロイチの右足をハサミで切る。ゼロイチはたまらず悲鳴を上げようとしたが、クロに口を押さえつけられそれすらできない。そして、ムイムイの行為はますますそのえげつなさを増していく。


「そして、さっききったうでを、足があったところにぬいつけるよ!」


 ゼロイチは一瞬聞き間違えかと思った。しかし、それは聞き間違えでもなんでもなく、ムイムイは先ほどまで足があった場所に、なんとゼロイチの右腕を縫い付けたのだった。


「な、何をするんすか!? 自分の身体をどうするつもりなんすか!?」


 その非人道的な所業に、声を荒げるゼロイチ。しかし、そんな彼女に、クリスタの幼いながらも冷たい声がこう答えた。


「なにをするといわれましても⋯⋯あなたがわたしたちにやったことをそのままやり返しているだけでしゅ。どうもあなたは他人の気持ちをかんがえることがにがてなようなので、それを教えてあげようかと。」


 そう言われてしまうと、他人のステータスを勝手に弄くって楽しんできたゼロイチには言い返す言葉がない。そんなゼロイチを見下ろし、クリスタはさらにこう続けた。


「人間はあなたが言うようなデータのしゅうごうたいではない。ちゃんとそれぞれ心を持った生き物なのでしゅ。デジタルでははかりきれない、アナログなぶぶんにこそ人間のしんかはある。それぞれに、心があり、物語がある⋯⋯。だからこそ、人間はうつくしく、そしておもしろい。」


 ゼロイチの顔に、ゆっくりとムイムイの構えたハサミが近づいてくる。ゼロイチは、もうそれを防ごうとする気力すら残っていなかった。




 そして数分後、そこには、ムイムイの手で全身を一旦バラバラにされた上で、縫い合わされたゼロイチの姿があった。本来足があるはずの場所に腕が生え、腕があるはずの場所に足が生えたその姿は異常の一言に尽きる。その上、顔のパーツもバラバラに散らばっており、いくら自分が指示を出したとは言え若干引いてしまうクリスタであった。


「よし! じゃあゼロイチ。おねえちゃんたちを元にもどしてね♪」


 人形となったゼロイチは、ムイムイの指示に従い、クリスタとクロにかけていたギフトを解く。


 クリスタは、縮んでいた身体がぐんぐんと大きくなるのを感じた。同時に、それまでブカブカだった服が、ちょうどいいサイズにフィットする。


「あっ⋯⋯!!」


 そして、元に戻ったことで、クリスタの足も元通り不自由な状態になってしまったのだが、車椅子は今手元から離れたところにある。立つことが出来ずによろけたクリスタを、もとの姿に戻ったクロがしっかりと受け止めた。


「大丈夫ですか? お嬢様。」


 至近距離でそう尋ねてくるクロに、クリスタは思わずこう答えていた。


「クロ⋯⋯。貴女、やっぱり男のままでも良かったのではないですか?」


「なにを言っているんですかお嬢様!? そんなの嫌ですよ!!」


 その後、ムイムイがゼロイチを縫い付けた糸を切り、宣言通りにスクラップにしたのだが、その光景はかなりエグいものだったのでここには記さないでおく。


 そして、ゼロイチを倒したことにより、クリスタ含む三人は部屋から再び白い光に包まれ転移されることとなった。着いた先は、先ほど居た部屋よりも狭い部屋。大きな特徴は、その部屋の中央に巨大な扉があること。


 その扉につけられた五つの宝玉のうち、二つのみが光を放っていた。

次回、今度はシャーロットとラモーネの親子sideの視点に移ります。


二人に対するは、守護者最強と呼び声高い(作者内で)フライ!


お楽しみに!

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