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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
73/110

一筋の希望。そして再び絶望

シャルン「後半、若干のホラー注意やで!! まあ、夏やからな!! 仕方ないな!!」

《フローラ&ナナside》


 ナナは、悔しくてたまらなかった。折角フローラに頼られ、エイミーを本体を見極める役割を託されたというのに、ナナはエイミーにギフトすら使われることなく、単純な身体能力の差で敗北し、蹴り飛ばされてしまった。


『あの子、ちょっと弱すぎない?』


 エイミーがフローラに言った言葉が、ナナの胸に突き刺さった。確かに、自分はメンバーの中で恐らく一番弱い。シャーリーに特訓をつけてもらったことで、多少は以前よりも強くなった気がしていたが、多少強くなった程度で元来の運動センスの無さはそう簡単には直らなかった。

 特に、この神聖国に来てから、ナナは自分の無力さをヒシヒシと感じていた。カロンとかいう守護者でもない人物相手でも、簡単に投げられて何も出来なかったし、今もこうして守護者のエイミー相手に手も足も出せないでいる。

 ⋯⋯それに加えて、自分のギフト。『運が良い』というだけのこのギフトは、自分の意志で作用するモノではないため、全くと言って良いほど使い道がない。

 身体能力も低く、ギフトも使えない。果たして、そんな自分は何の役に立つことが出来るのだろうか⋯⋯。


 地面にうつぶせになった状態で、ナナはそんなネガティブな気持ちに押しつぶされそうになる。そして、ナナが落ち込んでいる間にも、状況はますます悪くなってきていた。ついに、あのフローラでさえ、エイミーにいいようにあしらわれ、身動きがとれなくなってしまったようなのだ。


「これで分かったでしょ? 貴女たちは、私には勝てない。」


 エイミーが倒れ伏すナナたちにそう告げる。その言葉通り、ナナたちに到底勝ち目はないだろう。こちらからの攻撃は全く当たらず、立ち上がることすら出来ない。ナナは、絶望感にうちひしがれ、静かに目を閉じた。

 エンキを倒すなど、夢のまた夢であったのだ。ここで、自分の一生はあっけなく終わる⋯⋯。


-本当に、それでいいの?


 その時、ナナの心の奥底で、そう呼びかける声が聞こえてきた。その声は、なおも止まることなくこう続ける。


-本当に、こんなところで終わっていいの? 貴女には、まだやらなければならないことがあるんじゃない? 


 先程からナナに語りかけてくるこの声。ナナは、この声の主に心当たりはなかったが、何となく親しみを感じる声だった。そう、まるで昔からずっと一緒にいる友人のような⋯⋯。


-ナナ。貴女は、こんなところで死ぬ運命じゃない。貴女がここで死ぬことなんて、クララも望んでいないはずよ。


 唐突に告げられたその名前に、ナナはドキンと胸が高鳴るのを感じた。その名前は、過去に命がけの演技でナナたちを救ってくれた少女の名前。ナナの、絶対に忘れることの出来ない親友の名前。


(貴女はいったい誰!? 何でクララやボクのことを知っているの!?)


 ナナは、心の声にそう呼びかける。少しの間を置き、返ってきた答えは、ナナの予想外のものであった。


-私は、昔から貴女の傍に居るモノ。人は、私の存在を、『キセキ』と呼ぶわ。貴女に、少しだけ私の力を授けましょう⋯⋯。


 そう心の声が告げた瞬間、ナナの視界を白い光が包み、その意識もまた、光の中へと飲み込まれていった。



▼▼▼▼▼



 エイミーの目の前で、突然水色の少女が立ち上がった。確か、名前はナナと言っただろうか? 立ち上がれなくしたばかりの彼女が平然と立ち上がったことに、エイミーは一瞬眼鏡の奥の目を細め、怪訝な表情を浮かべたが、すぐ口元に余裕の笑みを浮かべ、ナナへと話しかける。


「あれれ? 驚いたな。驚いたよ。暗示が少し足りなかったのかな? まあいいや。それならまた、蹴飛ばして転ばせればいいだけだからね!」


 そう言うと同時に、エイミーはナナの視界を奪う(・・)。今のナナには、エイミーがどこにいるか全く見えていないはずだ。別に、彼女相手にはギフトを使わずとも戦える自信はあったが、一応先程予想外のことが起こったので、それを警戒しての行動であった。エイミーは、決して敵に容赦することはない。その時々の最善の策を考え、冷静に実行する。

 ただ⋯⋯少し気になるのは、ナナが立ち上がってから全く動く様子を見せていないことだ。エイミーの姿が消えたことに戸惑う様子もみせない。その様子に違和感を覚えたエイミーは、気配を消し、今度はナナの聴覚を奪う。あえてナナに自分の足音を聞かせ、見当違いの方向を向かせようとした。しかし、それでもなおナナが反応する様子はない。


(⋯⋯おかしい。)


 先程までとは、ナナの雰囲気がまるで違う。エイミーの見立てでは、ナナはまだ戦闘経験が浅く、また性格的にも純粋な人物で、こういう幻術の類にはかなり反応を示すタイプのはずだ。またしても強い違和感を感じたエイミー。頭の中で、『要注意!!』と警報が鳴り響く。


「⋯⋯そんでも、まあ、ここで臆するようじゃあ、守護者はつとまらないよね~。」


 自分の本能は、戦いを避けるべきと告げているが、だからといってここで引き下がるなんてもってのほかだ。こいつらは、敬愛する神を殺そうとする悪賊。そんな奴らに対し、自分がやることはただ一つ。圧倒的な絶望を、決定的な死を、こいつらにくれてやることだけだ。


 エイミーは、全力でナナをたたきつぶすことを決意する。まずは、基本通りに視界を奪い、全方面からの同時襲撃の幻想をナナに見せる。しかし、これはあくまでもフェイント。本命は、実際の襲撃直前の、触覚の支配。それによる相手の動きの無力化。実際、これをやれば相手はほぼエイミーの攻撃に対応することは不可能となる、まさにエイミーの必勝戦略。


「⋯⋯は?」


 だから、エイミーの蹴りをナナがその手で掴み、無力化してみせた時には、思わずエイミーの口からそんな声が出た。


「⋯⋯()の力は、不可能を可能にする。それが、『キセキ』が『奇跡』たる所以。」


 その直後、ナナの掌底がエイミーの鳩尾を鋭く突く。とっさに腹部に力を入れたエイミーであったが、予想以上の衝撃と共に、「ぐはぁっ!?」とうめき声を上げて吹き飛ばされる。

 宙を舞うエイミーは、眼下でフローラが腕を使って(・・・・・)、こちらへと逆立ちで向かってくる光景を目にした。


「⋯⋯足が動かないならば、腕を使って歩けば良い!! これは、先程戦ったカロンから学んだことです!!」


 そう叫ぶと同時に、腕だけの力を利用して跳び上がるフローラ。エイミーはとっさにフローラの視力を奪うが、すぐそれは失敗だったと後悔することになった。

 なぜなら、フローラは目を閉じていたから。予想外の事態の連続に混乱したエイミーは、いつもなら出来るはずの冷静な判断が出来なかった。そして、その結果⋯⋯。


「がはぁっ!?」


 エイミーは、フローラの剣を受け、その胸を切り裂かれることとなった。久しぶりに感じた痛みに、血を吐くエイミー。

 そして、フローラが地面に降り立つと同時に、エイミーもまた地面へと落下し、ぐしゃりと湿った嫌な音を立てる。その瞳が見つめるのは、背後に立つフローラではなく、夢から覚めたようにぽかんとした表情を浮かべ、首をかしげるナナの姿。


(あいつは、何だ⋯⋯? 分からない。分からない。分からないけれど⋯⋯危険だ。排除、排除、排除しなくては⋯⋯。)


▼▼▼▼▼


 フローラは、自分の足が動くのを確認し、ほっと一息ついた。立ち上がれなくなってしまった時は、どうすればいいのか分からず、絶望感に襲われたものだが、ナナがエイミーと戦っている姿を見る内に、何故かその絶望感は薄れ、あの移動方法を思いついたのだ。


「ナナ!! 貴女、凄いじゃないですか!! いったい、どうやってエイミーのあのギフトを攻略したのですか?」


 フローラは若干興奮気味にナナにそう尋ねたが、本人は困惑した様子で首をかしげていた。


「いや、それが⋯⋯さっきまでの数分間の記憶がないんです。突然白い光に目の前が覆われたところまでは覚えているんですが⋯⋯。」


 そう言ってうーん⋯⋯とうなりだすナナ。しかし、そんな時、ナナが唐突に「ひぃっ!?」と悲鳴を上げた。


「ど、どうしたのですか、ナナ!?」


 慌ててナナの両肩を掴み、呼びかけるフローラ。だが、ナナがフローラの呼びかけに答えることはない。パニックに陥った様子で、ひたすらあたりをキョロキョロと見渡していた。


「い、いやだ!! 何も見えない(・・・・・・)!! フローラさん、声が聞こえるってことはそこにいるんですよね!?」


 ナナのその言葉に、思わず固まってしまうフローラ。ナナの瞳には、先程まであった光が全くない。焦点の合わない瞳で、虚空を見つめ、自分の身体を抱きしめる。


「こ、怖いよぉ⋯⋯!! 真っ暗で、何も見えない⋯⋯!! いやだ、いやだ、いやだぁぁぁ!!!!」


 あまりの恐怖に泣き叫ぶナナ。そんなナナの様子に戦慄するフローラの耳に、囁きかけるのは、今最も聞きたくない相手の声。


「そいつは、危険だ。特に、何が危険かわからないところが、最も危険だ⋯⋯。だから、私は⋯⋯呪いをかけた。」


 フローラは、先程エイミーが地面に落下した場所を振り返る。するとそこには、案の定エイミーの姿が。しかし、変わり果てたその姿に、フローラはぎょっと息をのんだ。


「私の視力を生贄にぃ⋯⋯、相手の視力を、完全に消し去る(・・・・)。これが、私のギフトの奥の手⋯⋯。本当は、使いたくなかった。でも、もはや使わざるを得ないよね?」


 そうぼそぼそと呟くエイミーの顔には、先程までかけていたぐるぐる眼鏡はない。その代わりに、その瞳からは、絶えず真っ赤な血が流れ、彼女の服を濡らしていた。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!! 再びの絶望を!! 再びの恐怖を!! お前たちに与えてやるぅぅぅぅ!!!!!!!!!!」


 狂ったようにそう叫ぶエイミー。そして、隣で泣き叫ぶナナ。そんな二人に挟まれ、フローラはまたしても最悪の時間を送ることになる。



次回⋯⋯なんと、いったんフローラ視点は切り替え!! 今度は、クリスタ&クロ&ムイムイVSゼロイチsideの話になります。

時間も少しさかのぼりますが、まあ、そこはご愛敬ってところで。

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