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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
70/110

限界をぶち壊せ

オクター「前半は、シャーリーとスロウのバトル。そして、後半は⋯⋯きゃー!!」

《シャーリー&サラside》


 初めてサラを見た時、シャーリーはその姿に過去の自分を重ねていた。

 まだシャーリーの外見が実年齢と一致していたくらいの幼い頃、スラム街に住んでいたシャーリーは、突如その居場所を失うこととなった。燃えさかる故郷から、ただただシャーリーは逃げ出すことしか出来なかった。後に、スラム街が燃えたのは、町の景観を損ねると貴族が命じて放火させたのが原因だと知る。その時、シャーリーはこの世界には、人間の命をゲームの駒のようにしか思っていない奴がいることに気付かされたのだ。シャーリーは、あの時何も出来ず、ただ盤の上で権力を持つもの達の手によって好き勝手に動かされ、その結果人生を台無しにさせられた。

 しかし、その事件をきっかけに、シャーリーの心の奥底に、火で焼かれた身体よりも熱く燃えたぎる怒りが産まれたのだ。それは、人を人と思わないモノ達に対しての、弱者を弄ぶ強者へ対しての怒り。確かに、あの時の自分は何も出来なかった。それは、自分に力がなかったからだ。奴らのゲームの理不尽なルールなど知ったことではない。より理不尽な、純粋なる暴力で、ゲームそのモノをぶっ壊してやる!!


 シャーリーがいつからか抱いていたそんな信念。この強い怒りが胸の中にあったからこそ、シャーリーは、エンキに道具のように扱われているサラのことが放っておけず、その手を取って共にエンキを打ち倒すことを誓ったのだ。


 そして、シャーリーとサラは共にエンキのゲームを生き残り、それ以来二人はいついかなる時も共に行動するようになった。出会ったばかりはまるで人形のようだったサラも、シャーリーには人間らしい笑みを向けてくれた。いつしか、シャーリーにとってサラが自分の傍に居ることは当たり前で、サラの存在はシャーリーの中でも大きなモノになっていった。


 そんな、自分の半身のような存在のサラが、出会ったばかりの変態に、シャーリーの目の前でその唇を奪われてしまった。その光景が、シャーリーの奥底に眠る、あらゆる理不尽に対する強い怒り、それに火を点ける。


「⋯⋯なせ。」


 自然と、口から声が出た。しかし、スロウは、先程シャーリーの攻撃を受け止めたことで最早シャーリーに警戒心は抱いていないようで、耳に手を当ててシャーリーをさらに煽ってきた。


「なになに? なんて言いましたかおばあさーん。はっきり喋ってくれないと聞こえないですよ~?」


 そんなスロウを、包帯の奥から覗くギラギラとした瞳で睨み付け、シャーリーはこう叫んだ。


「その汚い手を、サラから離しやがれって言ってんだよ!! この変態野郎!! サラは⋯⋯こいつは、オレの相棒だ!! 誰にも渡さねえぇぇ!!!」


 そして、シャーリーは立ち上がり、スロウ目掛けて走り出す。最早、痛みなど感じなかった。爆発しそうなほどの激しい怒りが、シャーリーを突き動かす。

 もう動けないとばかり思っていたシャーリーが再び動き出したことで、スロウは一瞬驚きに目を見開くが、すぐに元の余裕の表情に戻り、その手にレイピアを構える。


「言ったはずですよ!! 貴女のギフトは、私には通用しないと!!」


 しかし、次の瞬間、スロウは再び目を見開くこととなる。先程は余裕で捉えることが出来たはずのシャーリーの動き。その姿が、目の前から突然消える(・・・)

 そして、気付いた時には、スロウの右手はすっぱりと切り落とされ、先程まで腕で抱えていたはずのサラまでも消えていた。


「ああああああぁぁ!?」


 痛みと困惑で、堪らず悲鳴を上げるスロウ。とっさに落ちた手をくっつけようと傷口に当てるが、勿論そんなことで元に戻るはずはない。


「おい、さっきてめえなんて言ってたっけか? 確か、オレのギフトはもう通用しないとか何とか⋯⋯。へ!! 馬鹿も休み休み言いやがれってんだ。」


 その声に、スロウはぐわっとその顔を上げる。先程までの余裕はどこへやら、スロウの目は血走っており、その呼吸も荒い。そして、スロウの視線の先では、ちょうどシャーリーが腕に抱えていたサラを優しく地面に下ろしているところだった。だが、その動作の間も、視線だけはスロウに向けられていた。


「さっきので通用しないっていうなら⋯⋯もっと時間を引き延ばせばいいだけの話だ。単純なことだろ?」


 そう何でも無い風に語ってみせるシャーリーに、スロウは絶句した。


「何ですって!? 私のギフトによる時間の遅延は、かなりのモノ⋯⋯それを上回るなんて、貴女、どれほど時間を引き延ばしたのですか!? それがどれほど身体に負担をかける行為か⋯⋯少なくとも、今の貴女に、耐えられるはずがない!!」


 あり得ない、あり得ない!! と絶叫するスロウに、シャーリーは笑みを浮かべ、ただ一言こう言った。


「限界なんてのはなぁ⋯⋯ぶっ壊すためにあるもんなんだよぉぉ!!!!」


 そして、再びシャーリーはギフトを発動。時間を極限まで引き延ばす。スロウも慌てて自分のギフトを発動しようとするが、それすら許さないとでも言うように、シャーリーのナイフがスロウの首を襲い、スロウが、「あ、切られたな」と思った次の瞬間には、全身がバラバラに分解されていたのであった。





「おー、あったあった!! 多分これだよな⋯⋯待ってろよ、サラ。」


 シャーリーは、バラバラになったスロウの死体から、目的のモノをようやく探し当てた。それは、スロウがサラに近づいた時、注入したと思われる毒の解毒剤。毒を所持しているなら、その解毒剤も持っているだろうというシャーリーの読みは見事に当たったようだ。

 ⋯⋯最も、毒を入れていた注射器のようなモノはシャーリーの攻撃によってバラバラになっていたので、解毒剤も同じようなことになっていてもおかしくなかったが、そこは結果オーライという奴である。


「おい、サラ。⋯⋯意識はちゃんとあるよな?」


 シャーリーのその問いかけに、サラは地面の上で仰向けになった状態のまま、弱々しく手を動かして答える。


『何とか。⋯⋯でも、正直ちょっとしんどい。』


「安心しろ、解毒剤はあの変態が持ってた。今楽にしてやるからな。」


 シャーリーはそう言って、解毒剤が入った注射器の針をサラの白い腕に刺そうとする。しかし、そこで、サラが突然首をブンブンと横に振って注射を拒否した。


『いや。注射、痛い。苦手。』


「おいおい⋯⋯じゃあどうしろっていうんだよ?」


 困ったように眉を下げたシャーリーに対し、サラは少しだけ顔を赤らめてから、こう提案した。


『⋯⋯シャーリーが、その薬、口で私に移して。⋯⋯さっきの変態の、上書きしたいから。』


 サラのその願いがあまりにも予想外だったためか、シャーリーは珍しく慌てた様子で声を張り上げた。


「ば、馬鹿野郎!! 何言ってやがるんだ!! さっきの変態の上書きって、それ、お前、つまり、オレがお前の口に、その、キキキ⋯⋯キスしろっていうのか!?」


『うん。お願い。⋯⋯だめ?』


「いやいや、別にだめってわけじゃあねえけどよ、ほら、その⋯⋯。」


 そこで、いつもはっきりとモノを言うシャーリーにしてはまたしても珍しく、ごにょごにょと口ごもる。サラが潤んだ瞳でシャーリーを見上げる中、シャーリーは逃げるように視線を逸らし、そして、ぼそっとこう呟いた。


「そういうのってさ⋯⋯照れるじゃねえか。」


 サラは、シャーリーのその言葉に目を丸くしたが、すぐにその瞳は優しいモノに変わり、口元にもにっこりと笑みを浮かべたサラは、こうシャーリーに伝えた。


『⋯⋯シャーリー、かわいい。』


「はあ!? オレのどこが可愛いっていうんだよ!! それ言うならお前の方が⋯⋯」


『そうやって慌てるところも、ますますキュート。⋯⋯あと、かわいいって言ってくれて、嬉しい。やっぱり⋯⋯私は、シャーリーが好き。』


 ギフトによって、心が読むことの出来るサラには、シャーリーが本当に照れていること、そして、自分のことを可愛いと思ってくれていることが全部分かっていた。

 そして、改めて認識する。サラは、シャーリーのことが好きだ。いつからかは分からない。もしかしたら、シャーリーに初めてその手を引かれた時からかもしれない。

 でも、この気持ち、シャーリーのことが大好きだと思う気持ちは、ギフトを使わずともはっきりと分かることであった。


 そんな突然のサラの告白を受けて、シャーリーは一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。おそらくあまりに突然すぎて頭がついていかなかったのだろう。しかし、すぐ天を仰ぎ、「ああああぁ!!!」と頭をかきむしり始めた。包帯がなかったら、その顔は真っ赤に染まっているに違いない。何故なら、サラもまた、自分の頬が熱を持っているのを感じていたから。

 まるで太鼓を打ち鳴らしているかのような激しい心音。その音がシャーリーに聞かれてしまうのではないかと恥ずかしく思う気持ちと、シャーリーになら聞かれてもいいと思う気持ち。その二つの矛盾した思いを抱えながら、サラはそっと自分の顔をシャーリーへと近付けた。そこに、かつてエンキから『失敗作』と罵られ、廃棄寸前だった人形の面影はどこにもない。ただ、恋する女の子だけがそこにはいた。


『シャーリー、サラのこと、嫌い⋯⋯?』


 サラは、シャーリーに上目遣いでそう尋ねる。それまでうがぁー、うわぁーと一人唸り声をあげていたシャーリーは、そのサラの表情を見て、覚悟を決めたように真正面からサラの顔を見つめ返した。


「そんなこと⋯⋯あるわけねぇだろう!! このバカ野郎!!」


 そして、シャーリーは乱暴に、手に持っていた解毒剤の入った瓶に噛みつくと、その薬を口に含む。その勢いのまま、シャーリーはサラの両頬を手で挟み、その口に薬を流し込んだ。


 大好きな人との、初めてのキス。それは、解毒剤の味と、それからほんの少しだけ、血の味がした。



▼▼▼▼▼



 時は遡り、シャーリーがスロウの身体を切り刻んだのとほぼ同時刻、その光景を塔の上にある部屋で眺めている者がいた。


「⋯⋯スロウがやられるとは、正直予想外でした。やはり、あの二人は危険ですね。ここは、私が出る必要があるでしょうか。」


 何の感情も映さない無表情で、ピティーは一人、そんなことを呟いたのであった。

スロウ

身体能力 4

知性 4

社会性 3

運 2

能力の強さ 4


ギフトの能力⋯⋯『時間の流れを遅くする』


次回、フローラ&ナナsideです!

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