「見つけました、私の天使!!」
ソニア「今回は私の担当だな! それでは早速あらすじを⋯⋯。ん? なんだ、この置き手紙は⋯⋯。」
ソニア「⋯⋯⋯⋯。そうか。それならば、私もここを離れなければならないな。」
-数分後
シャルン「おーい、ソニアー! 今日はあんたの出番やでー!! ⋯⋯って、あれ? この手紙なんや?」
ソニア『あらすじ村の村長は今日からお前だ。私は、もう、ここには戻らない。⋯⋯オクターを宜しく頼むぞ。』
シャルン「おい⋯⋯これ、いったいどういうことやー!?」
《シャーロット&サラside》
シャーロットとサラは、背中合わせの状態で、互いに襲い来るピティーを時には吹き飛ばし、時にはその首をはねていく。しかし、背中越しにサラはシャーロットの息が徐々に荒くなっているのを感じていた。
『シャーリー、大丈夫?』
『大丈夫だ!! ⋯⋯と言いてえとこだが、正直体力がヤバいな。やっぱり歳は取るもんじゃねえぜ。』
会話する二人の唇は全く動いていない。そして、お互いに手はピティーの処理をするため動かしたままだ。今、二人が会話することが出来ているのは、二人だけで創り出した“第二の言語”を用いているからだ。この第二の言語は、振動によって相手に意志を伝えるというもの。今のようにお互いに触れあっている時にしか使うことは出来ないが、視覚情報に頼らなくていいという点で、指文字による会話よりも優れている。ただし、この言語を扱えるのは今のところシャーリーとサラだけだ。
『それじゃ、一旦離脱しよう。』
サラは、そう言ってシャーリーの座る車椅子を担ぎ上げる。その隙にサラに群がるピティー軍団は、シャーリーが蹴りで追い払った。
そして、サラはシャーリーを担いだまま、大きくジャンプする。眼下でピティー達が宙へと手を伸ばすのが見える。サラは、そんなピティー達にべーっと舌を出し、だいぶ離れた位置に着地すると、そのまますぐシャーリーの車椅子を押して走り出した。
「流石にアレ全部相手にしてちゃあキリがねえ!! サラ、あいつらの親玉の位置は掴めたか?」
『⋯⋯だめ。あいつらは何も考えていない。だから、心を読むことも、できない。ホント、ただの人形みたい⋯⋯。』
「⋯⋯チッ。つくづく不愉快なことをする奴だぜ。」
思わず悪態をつくシャーリー。その視線は、自然とこの国の中心にそびえ立つ塔へと向けられていた。
「あいつら、上手くやってるだろうな? オレが死ぬ気で連れてきた助っ人も頑張ってくれてるといいんだが⋯⋯。」
その時、それまで止まることなく走り続けていたサラが突然その足を止めた。反動で車椅子から落ちそうになるのを何とかこらえ、シャーリーは「おい、どうした?」とサラに声をかけた。
サラの視線の先。そこにいたのは、細いレイピアを腰に提げ、頭には赤い羽根のついた帽子を被り、体には白いチュニックを纏った、何となく物語の中に出てくる王子を意識したような格好の人物だった。しかし、シャーリーの観察眼は、その人物が女性であることを見抜く。
そして、案の定、優雅に一礼したその人物の声は、やや低めなハスキーボイスではあるものの、女の声であった。
「はじめまして。貴女がシャーリーですね? 私の名前はスロウ。塔を守る守護者の一人なのですが、今回はピティー様直々の命を受けて貴女を倒しに参りまし⋯⋯!?」
唐突に、スロウの声が途切れる。スロウは、先程までの優雅な雰囲気からは一変。その目を大きく見開いてわなわなと震え始めた。そして、その視線は、シャーリーの後ろにいるサラへと注がれていた。
嫌な予感がしたシャーリーが慌ててスロウの視線からサラを隠そうと身体を動かすが、既に手遅れであった。
「嗚呼、ピティー様と瓜二つの幼女ですって!? 何という素晴らしい存在!! 見つけました、私の天使!!」
スロウは、口から涎を垂らしながら、うっとりと恍惚な表情を浮かべる。そんなスロウを見たサラは、心底嫌そうな顔をしてシャーリーにこう告げた。
『あいつ、メチャクチャ気持ち悪い。』
「⋯⋯オレも同感だぜ。そんじゃ、変態は成敗しておかねぇとな!!」
シャーリーはそう言うなり、ギフトを発動。最初から全力でスロウを倒しにいく。シャーリーの周囲で時間が引き延ばされ、シャーリーはスロウの元に駆け寄るまでの一瞬が、シャーリーにとってはおよそ十秒分の時間になる。
シャーリーがギフトを発動させて行う攻撃。これに初見で反応できるのはほぼ不可能である。何故かと言えば実に単純な話で、たとえばシャーリーと戦っている相手が瞬きをひとつしたとする。その瞬きの間に、シャーリーはその相手に近付き、斬るまでの動作が出来る時間が与えられているからだ。
そのため、今回もシャーリーは一瞬で勝負をつけるべく、最初から全力でスロウに襲いかかった。そうすれば、今までの相手なら問題なく葬ることが出来たから。そこに一切の慢心はない。ただ、当然の帰結として、そこにはスロウの首が転がっているはずであった。
だから、スロウが平然とシャーリーのナイフを自分のレイピアで受け止めた時には、思わずシャーリーは自分の目を疑った。
「⋯⋯時間を操る能力が、貴女だけの特権だと思っているとしたら、それは傲慢もいいところ。大罪ですよ?」
次の瞬間、シャーリーはスロウによりその身体を蹴り飛ばされていた。
車椅子から放り出され、地面を転がるシャーリー。立ち上がろうとするも、上手く力が入らない。どうやら、先程の衝撃で骨が何本か折れてしまったようだ。改めて、自分が歳をとったことを実感するシャーリー。
痛む身体を無理矢理動かし、上体だけでも起こす。すると、そこにはサラの首筋に手を伸ばして怪しく微笑むスロウの姿があった。
「てめえ!! サラに手を出すんじゃねえ!!」
シャーリーは、とっさにそう叫ぶが、スロウがサラの首筋から手を放すことはない。
そればかりか、スロウはあろうことかサラの首にキスを落としてみせた。
「ふふふ⋯⋯♡ 可愛すぎて思わずキスしちゃいました♡ まあ、いいですよね? シャーリー、どうせ貴女は死ぬんですし。ねえ、私のギフト、教えてあげましょうか? 私のギフトは、『時間の流れを遅くする』というものです。貴女のギフトは、『時間を引き延ばす』でしたよね? ピティー様から聞きましたよ。最も、貴女がたとえ十秒分の動きが出来たとしても、時間そのものを遅くしてしまえば、問題なく貴女の動きを捉えることが出来る⋯⋯。つまり、貴女のギフトは私にとって何の驚異でもない。そして、ギフトがなければ今の貴女は⋯⋯ただの惨めな老人に過ぎません。」
そして、スロウはいまだ動けずにいるシャーリーに見せつけるように、サラの唇へと自分の唇を近付けていく。そのサラはというと、毒か何かを盛られたのか、必死で抵抗しようとしているがスロウから逃げることが出来ない。
言葉を紡ぐことの出来ないサラの口が、その指の動きと同時に、シャーリーにこう言葉を伝えてきた。
『たすけて』
次の瞬間、スロウとサラの唇が重ねられる。それを見たシャーリーは、自分の頭の中で何かがブチンと切れる音を聞いたのであった。
次回、ぶちギレシャーリーの反撃。
そして、やつがくる。




