”守護者”のゲーム
シャルン「いよいよ塔の中に侵入や!! ⋯⋯と思うとったら、いきなりキャラ濃ゆいの出てきたなぁ。こりゃ、残りの守護者も絶対キャラ濃いで。」
クロたちの事情についてもだいたい分かったところで、フローラ達は改めて、カロンが死ぬ気で守り続けていた塔、その入り口に視線を向けた。ただ、入り口とは言っても、そこには黒い穴がぽっかりと空いているだけで、ドアのようなモノはない。目を凝らしてみても、穴の中に何があるかは全く見ることが出来ない。禍々しいオーラを放つソレは、まさしく『闇』そのものであった。
「うう⋯⋯何か、あの入り口見てたら怖くなってきました。」
「確かに、あの入り口の感じは異様ですね⋯⋯。ですが、私はそれよりもこの塔そのものが不気味でなりません。私は、このような継ぎ目が全くない完璧な建物を、これまで見たことがない⋯⋯。」
自分の身体を抱え、ぶるっと身震いするナナの言葉に反応したのはクロだ。そして、確かにクロが言う通り、この塔は異常であった。
まず、その色。根元から先端まで、汚れ一つない真っ白である。この時点で既におかしい。普通、どんなに丁寧に手入れをしていたとしても、汚れというモノは年月を経るうちに蓄積していくものである。しかし、その塔にはそれがない。恐らく、エンキの神の力が働いている故に起こる現象であろう。また、クロが言ったように、継ぎ目らしいモノが見えないのもおかしい。しかも、窓すら一つもないので、建物というよりはまるで巨大な一個のオブジェクトを眺めているような気分になる。
「でも、いくら不気味だからってここで立ち往生している訳にはいかないでしょ?」
そう言って一同の先頭に立つフローラの顔色をうかがうのはリリィ。そして、全員の視線が向けられる中、フローラは真っ直ぐに入り口の闇を見据え、堂々とこう言い放った。
「勿論です。たとえこの先にどんな恐ろしいモノが待っていたとしても、私はもう止まるつもりはありませんから。」
フローラのその答えに、ふっと笑みを浮かべてシャーロットはこう言った。
「やれやれ。我らのリーダーには恐れというものがないらしい。⋯⋯だが、それが君の答えだというのなら、同時に我々の答えでもある。」
そして、シャーロットはフローラの隣に並んで立つ。そんなシャーロットに続くように、他の面々もフローラの横に並んでいく。
「私たちの物語⋯⋯必ずハッピーエンドにしてみせましょう。」
「ならば、その物語の最初の読者はこの私が努めます。」
「ふふふ♪ みんなとぼうけん!! たのしみだね!!」
「私はただ、自分の役割を全うするだけ。いつでもご命令ください。」
「うう⋯⋯ちょっと怖いけれど、ボクも頑張るよ!!」
「帰ったら皆で酒飲もうよー。」
「まだ未成年の奴らもいるっての。私がプリン作ってやるから、それで我慢しな。」
フローラは、横に並ぶ仲間達の顔に順に視線を向ける。ここに居るのは、産まれも育ちも違う⋯⋯本当なら共通点などないに等しい面々だ。それでも、今は皆が同じ気持ちでこの場所に立っている。フローラは、この仲間達がいれば、どんな困難でもきっと乗り越えることが出来る。改めてそう思った。
「それじゃあ⋯⋯行きましょう。」
フローラの合図で、皆は一斉に塔の入り口に手を伸ばす。その指先が入り口に満ちる闇の端に触れた瞬間、フローラ達の身体は一瞬で塔の中へと吸い込まれていったのであった。
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「フローラさん、ここは一体どこなんでしょうか⋯⋯?」
「さあ、どこでしょうか⋯⋯。どうやら、ここにいるのは私たち二人だけみたいですね。」
塔の中へと吸い込まれていったフローラ。再び目を開けた時、フローラは一面ドギツイ蛍光色で塗られた部屋の中に居た。そして、どうやらこの部屋に連れてこられたのはフローラとナナの二人だけらしい。二人が色彩の暴力に目をパチクリさせていると、唐突に第三者の声が部屋中に響き渡った。
「ねえねえ、君たち侵入者でしょ? でしょでしょ? ここに来たってことはぁ⋯⋯あのドM番人のカロンを倒したってこと? そういうこと?」
そして、フローラたちの前に姿を現したのは、部屋と同じ蛍光色のドレスに身を包んだ少女。しかし、その顔は服装とは真逆の地味な分厚いグルグル眼鏡がかけられていて、その表情を伺うことは出来ない。その少女は、首を左右にカクンカクンと傾けながら、ゆっくりとフローラたちの元へ近づいてくる。
「でもでも~、カロンを倒したからって、私たち塔の守護者を倒せると思わない方がいいよ? いいってことよ? だって、私たち、ちょー強いから!! オニ強だから!!」
しょっぱなから異様な雰囲気を漂わせるその少女に、ナナは若干引いているが、フローラは流石というべきか、冷静さを失うことなく、その少女に静かにこう問いかけた。
「⋯⋯とりあえず、貴女の名前を聞いてもいいですか? あと、私の他の仲間はどこにいるのですか?」
フローラからそう声をかけられた少女は、カクンカクンの動きをぴたっと止めた。そして、グルグル眼鏡を押し上げ、その下の黄色い瞳を細め、こう答えた。
「⋯⋯ありゃりゃ。そういや、名乗り忘れていたね。私の名前はエイミー。この塔の守護者の一人だよ。そして、貴女の他の仲間⋯⋯あの子たちは、私じゃない守護者のところに飛ばされてる。貴女が私の守護する部屋に飛ばされてきたようにね。」
「⋯⋯私たちの戦力を分散させて倒そうって考えですか。守護者とか名乗る割にはやることが小さいですね。正々堂々と全員で向かってくることはしないのですか?」
フローラのその声には少し怒気が混ざっている。仲間の中には戦闘があまり得意ではない者もいる。そんな仲間たちのことが心配で、だからこそこんな手を使ってきた相手に対して苛立ちを感じていた。
しかし、エイミーは一瞬きょとんとした表情になった後、何故か腹を抱えて爆笑し始める。
「あはは!! あは!! アンタ、面白いこと考えるね? 面白いね? 戦力の分散? そんなこと、私たちは考えていない。これはね⋯⋯『ゲーム』なんだよ。」
「ゲーム?」
その単語に敏感に反応したフローラの額に青筋が浮かぶ。しかし、エイミーはそのことを知ってか知らずか、より一層愉快げに語り出した。
「そう!! これはゲーム!! 侵入者たちは、敢えて自分と似たギフト、それか同等の戦闘力を持った守護者の部屋へと飛ばされるようになっている!! なぜそんなことをするか⋯⋯? 理由はね、ないよ。ないんだよ!! だって⋯⋯その方が、愉しいじゃん? 面白いじゃん? だからさ⋯⋯。」
ーさあ、愉しい愉しい⋯⋯殺し合いゲームを始めよう♪
エイミーのその台詞と笑みに、フローラはエンキのゲームに参加したあの日のことを思い出し、思わず身震いしたのであった。
次回、残りの守護者を紹介していきます。




