従者は語る
ソニア「今回は、『クロ、姉属性に目覚める』・『ムイムイ、可愛い』・『シャーロットはツンデレ』の三本でお送りするぞ!!」
怪しい笑みを浮かべながらゆっくりとフローラたちへと近づいてくるムイムイ。その異常な雰囲気に、フローラ達は警戒心を露わに戦闘態勢に入る。
しかし、そんな緊迫した空気は、ムイムイの頭をクロがこつんと小突いたことで途端に瓦解する。
「こら、ムイムイ。皆を怖がらせたら駄目でしょ?」
「でも、ムイムイみんなとおともだちになりたくて⋯⋯。」
クロに叱られ、しゅんとうつむくムイムイ。その姿は、どこからどう見ても唯の幼い少女にしか見えない。そんなムイムイに、クロはしゃがみ込んで視線を合わせ、ふっと優しくほほえみかけた。
「大丈夫。ムイムイが良い子だってことは私が一番よく知ってるから。無理に皆と友達になろうとしなくても、その内ちゃんと仲良くなれるよ。だから、今は、皆にごめんなさいしよう?」
「うん、わかったよおねえちゃん。みんな、さっきはこわがらせちゃってごめんなさい。」
ムイムイは、素直にクロの言うことに従い、フローラたちにぺこりと頭を下げる。そんなムイムイの様子を満足そうに見つめるクロは、完全に姉の顔をしていた。
そんな二人の様子に、最も強い衝撃を受けたのはクリスタだ。この中で唯一クロとムイムイの二人に面識のあるクリスタ。彼女は、二人の⋯⋯特にムイムイの変わりように驚き、そして同時にそれを喜んでいた。
「まさか、あのムイムイがこんなに可愛く思える日が来るとは思いませんでした。⋯⋯ねえ、クロ。ムイムイが貴女の妹ってことは、実質私の妹という認識でもいいのかしら?」
「はい!! もちろんですよお嬢様!!」
「え? なになに? ムイムイのおねえちゃんがふえるの? やったー!!」
ムイムイが満面の笑みと共にクリスタとクロの間に飛び込んでくる。そんなムイムイの身体を受け止め、主従二人は顔を見合わせ微笑みあう。
そんな三人の様子を、フローラたちもほのぼのとした様子で見つめていたが、いつまでもこうしてほんわかした雰囲気のままでもいられないので、気持ちを切り替えるためにも、誰かがこの空気を壊す必要があった。
そして、こういう時にいつも率先して言葉を発してくれるのはシャーロットだ。
「感動の再開に水を差すようで悪いが、そろそろ君たち二人について紹介してもらえないかね? いや、名前はクリスタから聞いて知っているのだが、どうして今君たちがここにいるのかなど、いろいろ尋ねたいことがあるのでね。」
そのシャーロットの言葉に、クロは一旦幸せそうに頬ずりしてくるムイムイをクリスタに預け、真剣な表情になってシャーロットの方に向き直る。
「そうですね、それではまず自己紹介を⋯⋯私の名前はクロ。『影の中にもぐることが出来る』というギフト持ちで、クリスタお嬢様の従者をしていました。そして、彼女がムイムイ。ギフトは、『人形遊びが得意』というモノで⋯⋯。」
「君たちのギフトに関しては、既にデータとして把握済みだ。それよりも、二つ目の問いかけに早く答えてほしい。」
「私たちが今ここにいる理由⋯⋯でしたよね? 実は、私もはっきりとは分かっていないのですが⋯⋯恐らく、皆さんの中の誰かからの干渉があったんじゃないかと思っているんです。」
クロの口から出たその言葉に、シャーロットが眉を顰める。
「干渉? それはいったいどういうことだね。」
「お嬢様は知っていると思いますが、実は、私はエンキの力で百年後に蘇ることになっていたんですよ。そのことを、私とムイムイの二人は影の中でエンキから告げられました。」
クロが一同に語った内容を要約するとこうだ。まず、クロはムイムイとの戦いの末、ムイムイを影の世界に引きずりこむことで勝利を手にした。だが、その代償として、クロは影の世界に取り残され、ムイムイ諸共永遠に外の世界に出ることが出来なくなってしまう。
そして、エンキはクリスタに絶望を味合わせるために、あえてクロを生き返らせることを約束した。エンキがクリスタに告げたクロが生き返るタイミングは、百年後。既にクリスタは死んでしまっているであろう時間軸だ。エンキは、それを予期して敢えて百年後、クロが影の世界から蘇るようクロにそのチャンスを与えた。
しかし、ここでエンキにとっての誤算が二つ発生する。一つは、影の世界の中で一緒になったムイムイ。彼女に対しても、エンキの能力が作用してしまい、同時に影の世界から蘇るようになってしまったこと。
そして、もう一つは、自分の寿命を削ってまで、二人が蘇る時間を早めようとした人物が居たことだ。
「私は、影の中で私の周りの時間がどんどん進められていくような⋯⋯そんな不思議な感覚を味わいました。皆さんの中で、時間を操るような、そんなギフトを持っている方に心当たりのある方はいませんか?」
クロのその問いかけに、全員の頭に同じ人物の顔が浮かぶ。
「なるほど、だからシャーリーは最近影に手を付いた状態で休憩することが多かったんですね⋯⋯。」
そう呟くフローラの脳裏に浮かぶのは、ここ最近のシャーリーの姿。フローラとの特訓が終わると、シャーリーは毎回のように影に手を付いていた。その行動の意味が分からず、ずっと気になっていたフローラは、ようやくその謎が解けてすっきりした気分になったのであった。
「ここ一週間、シャーリーが急速に歳を取ったのも、おそらく君たちの復活を私たちの神聖国突入に間に合わせるためであろうな。⋯⋯全く、ろくに説明もしないで勝手なことをしてくれる。」
そうぼやくシャーロットであったが、その顔はどこか嬉しそうである。シャーロットもまた、シャーリーの行動の意味が分かりすっきりしたと同時に、その行動が自分たちのためであったことが嬉しかったのだろう。フローラも同じ気持ちだからわかる。素直にその気持ちを言えないシャーロットを、フローラがにやにやと笑いながら見つめると、シャーロットは耳を赤くさせて顔を背けた。
クロとムイムイに関して、もっと詳しく知りたいという方は、『神様の遊戯盤の上で second stage』を読もう!!(露骨なダイマ)




