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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
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影からの帰還者

オクター「ついに⋯⋯あの人が帰ってくる!! そして、忘れちゃいけないあの子も再登場だよ!!」

 先程から、下半身の感覚が全くない。それは当然だろう。いくら痛みを感じないとはいえ、あんなにもバッサリとやられてしまえば、無事で済むはずがない。カロンの上半身と下半身は今や皮一つでつながっている状態だ。


 霞む視界の中で、カロンは、彼女を踏み越え先へ進もうとする侵入者の顔を見上げる。奴らは、既に自分のことなど眼中にないようだ。このまま、自分は黙って奴らがエンキ様の創りし神聖な塔をその汚らわしい足で穢すのを見るしかないのか?


 ⋯⋯否。


 下半身が動かないからどうしたというのだ? それならば、上半身を動かせばいいだけの話だ。皮一枚でつながっているなら、ちぎれるまであがけばいい。そうだろう?


 カロンは、唯一残っている左腕を使って、何とか身体を持ち上げる。奴らは、そんな自分を見て目を丸くしている。何を驚くことがあるのだ? 戦いはまだ終わっていないのだぞ?


「貴様ら⋯⋯貴様らのような罪人をぉぉ!! この先へと通すわけにはいかないのだ!! もし、私がここで引けばぁぁ⋯⋯貴様らは、その罪を!! 穢れを!! 神聖な地へと運ぶことだろう!! そんなことが赦されるか? 赦されるものかぁぁぁぁ!!! 貴様らは、私が、ここで、止める!! それが、エンキ様より守り人の任を託された私の使命だぁぁぁぁ!!!!!」


 カロンはそう叫び、フローラ達へと飛びかかる。その左手には、自らの血で真っ赤に染まったナイフが、力強く握りしめられていた。

 そして、カロンの目に飛び込んでくるのは、フローラの振るう剣の煌めき。


「⋯⋯貴女にも、譲れない思いがあるのかもしれない。でも、私たちは、その思いも乗り越えて先へと進む!! だから⋯⋯そこを、どけえぇぇ!!!」


 フローラが雄叫びと共に振るった剣は、皮一枚でつながっていたカロンの身体を完全に真っ二つにした。血を吹き出しながら、宙を舞うカロン。


 ⋯⋯まだだ。まだ、ここで死ぬ訳にはいかない!!


 上半身だけになってしまったカロン。その瞳が、再びかっと見開かれる。宙を舞うカロンの視線が捉えるのは、後方に控えるクリスタの姿。こいつのギフトは最も厄介だ。カロンは、出会い頭にクリスタが皆に自分のギフトの情報を伝えたことを忘れてはいなかった。せめて、こいつだけでも道連れにする!!


「うがぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 着地すると同時に、カロンは左腕だけを使い高速で地面を這い、クリスタの元へと向かう。まさか、まだカロンが動けるとは思っていなかった一同は、その動きを止めることが出来ない。


 一瞬でクリスタのすぐ傍まで這い寄ったカロン。彼女は、左腕を地面に押し当て、その反動で宙を飛ぶ。恐怖に顔を引きつらせるクリスタ。その首元目掛け、カロンはナイフを振るい、そして叫ぶ。


「死ねぇぇ!! 愚かな罪人!! 我が怒りを、思い知れぇぇぇ!!!」


 ブンッ!! というナイフの風切り音。フローラがクリスタの名前を叫ぶ声が響く。その直後、飛び散る鮮血。クリスタとカロン、二人の間に一輪の赤い血の華が咲く。



「⋯⋯な、何故、だ?」


 カロンは、自分の胸元を見下ろし、そう呟く。カロンの胸元からは、見覚えのないナイフが生えていた。ぼやけた視界でも分かる真っ赤な血が、自分の胸から流れていく。

 そして、その声は背後から唐突に聞こえてきた。


「⋯⋯私のお嬢様を罪人呼ばわりとは、貴女はどうやら死にたいらしいな。」


 直後、カロンの身体は強引に横へと投げ飛ばされる。地面にぶつかり、「がふっ!?」と大量に血を吐くカロン。そんな彼女へと、近づく黒い影。カロンの目には、本当に影が自分へと迫ってくるように見えた。それほどまでに、彼女は、その髪から衣服まで、全てが黒一色で統一されており、そこにカロンは一種の美しさすら感じたのであった。


▼▼▼▼▼


 クリスタは、自分の目が信じられなかった。つい先程まで、自分は死を確信していた。カロンのナイフに首を切られる光景すら幻視した。

 だが、そんなクリスタを救ったのは、もう二度と会えないと思っていた、そして今も昔も一番会いたいと願う彼女だった。

 クリスタは、かすれる声で、彼女の背中に向けて声をかける。


「く、クロ⋯⋯? 貴女、本当にクロなのですか⋯⋯?」


 そんなクリスタの呼びかけに、クロは振り向き、少し悪戯っぽい笑みを浮かべてこう答えた。


「⋯⋯お嬢様なら、私が本物であるかどうか、判断出来るはずですよね? 私の今考えていること、貴女が読んでしまう前に先に言ってしまいましょうか。」


 クリスタの手に一冊の本が現れる。それは、あの日、クリスタがエンキと戦うことを決意した日以来、ずっと封印し、読んでいなかった本。タイトルは、勿論『クロ』。あの日、最後に見たページには、今新たに文字が書き加えられようとしていた。


「ただ今戻りました。⋯⋯ずっとお会いしたかったです、お嬢様。」


「クロ⋯⋯!! クロぉぉぉ!!!!」


 クリスタは、感極まってクロの元へと車椅子を押して近づく。その目からは、止めどなく涙が溢れていた。


「すいませんお嬢様⋯⋯。私がいない間に、貴女の身体を傷つけてしまった。これでは、従者失格ですね。」


「何を言っているのですかクロ!! 貴女は、無事私の元へと帰ってきてくれた!! それだけで十分です!!」

 

 感動の従者の再会。クリスタの事情を知っている一同の目にも、涙が浮かんでいた。しかし、そんな空気の中でも一人冷静なのはシャーロット。こっそり涙を拭い、一同に声をかける。


「感動の再会はいいが、まだ戦いは終わっていないぞ。こいつには早くトドメを刺しておかねば、安心出来ない。」


 その声に、一同ははっとしてカロンの方を見る。そして、カロンは案の定、そのボロボロの身体を再び動かそうともがいていた。とっさに剣を構えるフローラ。しかし、そんなフローラに、クロが待ったと声をかける。


「貴女が動く必要はありません。後は、私の()が何とかしてくれますから。」


 そして、一同が注目する中で、カロンの身体に変化が起こる。突如、カロンの失われていた腕と下半身が元に戻ったのだ。その光景に、思わず目を丸くする一同。カロン本人ですら目を丸くする中で、その幼い声は全員の耳に聞こえてきた。


「ふふふ♪ おねえちゃんの腕と足は、ムイムイが綺麗にくっつけてあげたよ!! これで、また原っぱを駆け回ったり、お友達と手をつないだりできるね!!」


 場違いなほど明るい調子でカロンへ語りかけるその声。しかし、その声は次に「でも⋯⋯」と続けた。


「でも⋯⋯、ムイムイ、おねえちゃんのおともだちを傷つけるような人、だぁいっきらい。だから⋯⋯バイバイ♪」


 直後、スパァン!! という音と共に、カロンの首がはねられ宙に舞った。そして、カロンの首から溢れる血で身体を染めながら、その幼女⋯⋯ムイムイは、フローラたちへとにっこりと笑みを向けたのだった。


「さあ、おねえちゃんたち、ムイムイのおともだちになろうよ!!」

感動の再会シーンも、ムイムイに最後全部持って行かれた感。

次回、クロとムイムイ、二人が何故生き返ったのかを語ります。

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