“守り人”カロン
オクター「前半はピティーside、後半はフローラ達sideでお送りします今回。いろいろ動き出してきたなぁ⋯⋯。」
ピティーは、エンキを祀る塔、その最上階にある一室にて、机の上に置かれた水晶玉をじっと見つめていた。そこには、シャーリーとサラの二人が警備兵として常駐させているピティー軍団を蹂躙している様子が映っている。いくら量産型とは言え、主の創った人形をここまで簡単に壊されてしまうと、このピティー軍団のリーダー的存在でもあるピティーとしては面白くない。思わず眉間に皺を寄せる。
「ピティー様。そのように眉間に皺を寄せられては、折角主から頂いた綺麗な顔が台無しになってしまいますよ?」
「⋯⋯スロウ。貴女、いつからそこに? ⋯⋯いや、今はそのことについては詳しく追求はいたしません。ちょうどいいところに来てくれました。」
机に座るピティーの傍へと、足音も立てずにいつの間にか近づいていたのは、この塔を守る守護者の一人であるスロウだ。彼女は、女であるにも関わらず、普段から白いチュニックを羽織って男装している変わり者だ。最も、言ってしまえば五人いる守護者のほとんどが変わり者なのだが⋯⋯。それでも、全員がその高い戦闘力とエンキへの信仰心を買ったピティーが雇った者たちだ。一応彼女たちのことは信頼している。
それこそ、深い因縁を持つ人物の処理を依頼するくらいには。
「スロウ、貴女には、今から門の近くまで行ってこの愚かな侵入者二人を始末して貰います。守護者の中では、あの殺人鬼と最も相性がいいのは貴女だと思いますので。」
ピティーの出したその指示に、スロウは躊躇うことなく「承知しました」と言って頭を下げる。だが、頭を上げたスロウは、ピティーに対して意味深な視線を投げかけた。
「⋯⋯ピティー様。もしも私がこの任務を完遂出来たその時には、貴女のその美しい身体を一晩の間だけ好きにする権利を頂いてもよろしいでしょうか?」
スロウから出されたドストレートな要求。彼女は、自他ともに認める真性のレズビアンなのである。普段男の格好をしているのも、その性癖故である。そして、そんな彼女が最近ご執心なのが、エンキから直接授かった完璧な肉体を持つピティーなのだ。
しかし、ピティーは、自分がスロウから狙われていることに関しては何も思っていない。そのため、今もスロウからの変態的要求にも顔色一つ変えずに答える。
「ええ、いいですよ。私はただの人形ですから。この身を貴女に差し出すだけでエンキ様の障害が一つ取り除かれる、そう考えれば私にとっても嬉しいことですから。」
行動原理がどこまでもエンキのためであるピティー。彼女は、自分の存在に全く価値を感じていなかった。そして、スロウはそのことを知っているからこそ、ピティーにこんな要求をしたのだ。
部屋を後にしたスロウは、駆け足で塔を降りつつ、じゅるりと舌なめずりする。その目をギラギラと輝かせながら、スロウはまだ見ぬ殺人鬼へと語りかける。
「ふふふ⋯⋯。待っていてくださいね、殺人鬼。私が貴女を殺してあげます。極めて残虐に、かつ迅速に⋯⋯。そして、私は、あの最高の美を堪能するのです!!」
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シャーリーとサラが暴れ始めた頃、フローラ達もようやく神聖国への突入を成功させていた。馬車を降りた一同は、全員が揃っていることを確認し、塔を目指して走り出した。
先頭を走るのはフローラ。先程まで抱えていた不安や恐怖は、クリスタから告げられた二人の伝言により吹っ切れた。今は、再び会えることを信じただ前を向く。
そんなフローラの後ろに続くのはラモーネとリリィ、そしてシャーロットだ。身体能力の高いラモーネとリリィが二番手に続くのは納得だが、意外にシャーロットの足が速い。
そして、そんな三人から若干遅れてナナ。最後尾にクリスタと、彼女の座る車椅子を押すロロが続く。
決戦の日である今日もロロは一張羅のメイド服だ。一同の殿を務める彼女は、一瞬後ろを振り返り、首をかしげた。何となく、メンバーの人数が足りない気がしたのだ。しかし、すぐ気のせいだったかと思い直し、車椅子を押すことと索敵に集中する。
そんなロロと同様、自身のギフトで敵の位置を探るシャーロットは、前を走るフローラに聞こえるよう大声でこう告げた。
「ピティーは全員別の門に向かっている!! ここから一番近い場所にいる我々の敵となり得る存在は、塔の入り口の前に一人いるだけだ!! だが、いつピティーの増援が来るかは分からない。邪魔される前に、塔の中に入ってしまおうではないか!!」
その言葉を受け、一同はさらにスピードを上げる。先頭を走るフローラは、先程シャーロットが教えてくれた情報の一部に疑問を抱いた。エンキを祀る塔、その入り口の前に立つ敵が一人とは、流石に少なすぎではないか?
しかし、そんなことを気にしている暇はない。実際塔まで行って、自分の目で確認すれば解決する話だ。
そして、フローラ達はようやく塔の目の前までたどり着いた。そこには、シャーロットの言った通り、こちらを睨み付け仁王立ちする女性が一人。
黒髪の長いポニーテールが特徴的な彼女は、左手で胸元のロケットをギュッと握りしめ、黙祷を捧げた後、フローラ達に向け、地面に突き立てていた長十手の先を向ける。そして、高々とこう言い放った。
「我が名は、カロン!! この塔を侵入者から守る守人である!! 貴様らごとき、守護者の手を借りるまでもない。偉大なる神、エンキ様の名の下に、貴様らに天誅を下してやる!!」
次回、『VSカロン(仮)』です。




