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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
61/110

シャーリーとサラ

シャルン「二つ目!! どうしてもここまで書いておきたかったんや!!」

 門番が去っていったのを確認したフローラは、積み荷から出るなり真っ先にクリスタの元へと詰め寄った。


「クリスタ、シャーリーとサラは今どこにいるの!? 貴女なら、二人が今どこにいるか分かるでしょう!?」


 神聖国へ向かう前、会議室でサラが見せた笑顔がフローラの頭に蘇る。あの時、サラはフローラの思考をそのギフトで読んでいたのではないか? だとするなら、あの笑みの意味は、あの時フローラが考えていてことを、まさしくあの二人もしようと考えていたということなのでは?


 そんな最悪の想像をさらに裏付けるように、クリスタが申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめんなさい⋯⋯。私は、あの二人から頼まれていました。騒ぎを起こすまで、皆には自分たちの居場所を伝えないでくれと。」


 クリスタのその言葉の一部に、シャーロットが目ざとく食いついてくる。


二人から(・・・・)? クリスタ、君はサラからだけではなく、シャーリーも含めた二人からそう頼まれたと言うのかね?」


 シャーロットのその指摘に、全員がはっと目を見開いた。そうだ。確かに、クリスタは二人から頼まれたと言った。しかし、シャーロットはここ数日ろくに会話もできない状態だったはず。

 しかし、フローラたちは、クリスタの返答によりさらに驚愕することとなった。


「はい。確かに、私は二人からそう頼まれました。シャーリーは⋯⋯彼女は、まだしっかりと自我を保っています。ここ数日、彼女が私たちに見せていたあの姿、あれは彼女の演技だったんです。」


 思いがけないその事実に、あのシャーロットですら言葉を失っている。そんな中、フローラの口からやっと出たのは「どうして⋯⋯?」という疑問の声であった。


「どうしてですか⋯⋯? シャーリーはどうして、そんな演技をずっと⋯⋯。」


 フローラのその問いかけに、クリスタは悲しげに視線を落とす。


「わかりませんか⋯⋯? シャーリーは、私たちが罪悪感を感じないように、わざとあんな演技をしてくれていたんです。もし、シャーリーにまともな意識が残っていて、私たちと意思疎通出来ていれば、たとえ彼女が足手まといになるとしても、私たちはシャーリーを置いていく選択はしなかった。⋯⋯いや、取れない。そうは思いませんか?」


 またしても言葉も出ない一同。フローラは、確かにその通りだ、とそう思った。あの状態のシャーリーを置いていくことですら、抵抗があったのだ。彼女が何も反応を返さない状態だったからこそ、フローラたちは本人の許可は取ることなく、彼女とサラを置いていく選択をすることが出来た。


 フローラは、おもむろに馬車の扉へと手をかける。しかし、扉を開こうとした腕を止めたのは、クリスタであった。


「⋯⋯フローラ、どこに行こうとしているのです?」


「わかっているでしょう? あの二人をみすみす死なせるわけにはいかない!! 今からでもまだ遅くない!! 私は二人を助けに行く!!」


 そう叫び、クリスタの手を振り払おうとしたフローラであったが、その瞬間、フローラはクリスタにその頬を思いっきり引っ叩かれた。


「フローラ、貴女は何もわかっていない!! 二人がどんな気持ちでこの選択をしたか、貴女は分からないのですか!?」


 ⋯⋯分かっている。何故なら、フローラ自身も二人の立場ならそうすると思ったから。分かっている。分かっているのだ。それでも⋯⋯。


「分かっていますよ⋯⋯。ここで私が選ぶべきは、前に進む道。それでも⋯⋯理屈では分かっていても、私は、あの二人を死なせたくない!! もう誰も、失いたくないんです!!」


 そう叫び、フローラはわっと泣き崩れる。そんなフローラに、クリスタはゆっくりと車椅子を押しながら近づき、そっとその肩に手を置いた。


 そして、クリスタはフローラの耳にシャーリーとサラ、二人から預かった伝言を囁く。それを聞いたフローラは、一瞬目を丸くした後、ふっと笑みを浮かべ、そして、ようやく決心を固めることが出来たのであった。



▼▼▼▼▼



 時を遡ること数刻。フローラたちの乗る馬車が視界から消えたことを確認し、サラはシャーリーの目の前で右手を素早く動かす。すると、それまでずっと焦点を結んでいなかったシャーリーの瞳が、途端にギラギラとした彼女本来の持つエネルギーを放ち始めた。


「おう、そうだなサラ。じゃあ、行くか。」


 サラはその言葉にこくりと頷き、シャーリーの座る車椅子を猛スピードで押し始める。向かう先は、フローラ達が向かった方とは別の門だ。フローラ達が国に入りやすくするためには、なるべく彼女たちより先に門に着いた方がいい。そのため、シャーリーも少しだけギフトを発動させる。


『シャーリー、あんまり無茶はしないで?』


「へっ!! 今更これくらい無茶でも何でもねえよ。これからもっと無茶するんだ。心配はそこでしとけ!!」


 風のような速さで、二人は門へとたどり着く。門番は、突然現れた見るからに怪しい二人に、迷わずその手に持つ槍を向けた。

 その様子を見て、シャーリーは不敵にニヤリと笑う。


「よし。そんじゃあ、サラ。派手に頼むぜ。」


 またしてもこくりと頷くサラ。次の瞬間、サラは車椅子の下に隠していたバズーカ砲を構え、爆音と共に、門番ごと門を木っ端微塵にした。その爆音に、見張りの兵が次々と現れてくる。そして、あっという間に兵達はシャーリーとサラの二人を取り囲んだかと思うと、一斉に銃口を向けた。


「偉大なるエンキ様の治めるこの国の門を破壊するとは、何と罪深い奴らだ!! お前達をエンキ様の名の元に処刑する!!」


 兵達の中でリーダー格らしき男が、そう宣言した。すると、シャーリーは老人とは思えないほど豪快な笑い声を上げる。


「ワッハッハ!! おい、聞いたかサラ。あいつら、あの銃でオレたち二人をどうにかする気らしいぜ?」


 そんなシャーリーに呼応するかのように、サラもクスクスと可愛らしい笑い声を上げる。そんな二人の反応がかんに障ったのか、リーダー格の男は声を荒げた。


「何がおかしい!! 貴様らのような老人と少女に一体何が出来ると言うのだ!! 放てぇい!!」


 顔を真っ赤にさせた男の号令と共に、放たれる銃弾。しかし、それでもなお二人が笑みを収めることはなかった。


「⋯⋯お前ら、誰を相手にそんな余裕な態度取っているんだ? 言っておくがよ、今お前らの目の前に居るのは⋯⋯。」


 そこで、シャーリーはにいっと口角を歪ませ、こう呟いた。


「⋯⋯最凶の殺人鬼と、その相棒だぜ?」


ーその直後、半分の兵士の首が宙を舞い、もう半分の兵士の身体が空を飛んだ。


 シャーリーは、降り注ぐ血の雨の中、真っ赤に染まったナイフを掲げ、再び高らかに笑い出す。


「ハッハッハ!! 最高だ!! やっぱりオレはこういうのが一番性に合っているぜ!!」


 そんなシャーリーの隣にいつの間にか近づいていたサラ。二人は顔を見合わせ、同時に門をくぐり、神聖国の中へと突入する。


『車椅子を押すのが面倒になったらいつでも言って。私が支えるから。』


「そうだな!! オレの後ろを任せることが出来るのは、お前だけだ!! その時は遠慮せずに支えて貰うぜ!!」


 そんな二人の目の前に、見慣れた白い集団が迫り来る。シャーリーは、相変わらず笑みを携えたまま、サラに尋ねる。


「なあ、あいつらの親玉はここに来ているのか?」


 その問いかけに、首を横に振るサラ。それを見たシャーリーは、さらにその笑みを深めた。


「⋯⋯そっか。なら、暴れて暴れて、親玉引きずってやろうぜ!!」


『勿論。後輩に、礼儀ってモノを教えてやる。』


 今度は、ちゃんと言葉で答えるサラ。


「そして、クリスタの奴とした約束も、守らねえとなぁ?」


『無論。約束は、守るためにするモノ。嘘つきは、ゴキブリの始まり、だっけ?』


「何かそんな感じのやつだ!! ゴキブリにはなりたくねえし、頑張ろうぜ!!」


 そして、二人は、シャーリーは左手、サラは右手を差し出し、二人が創った言語で、その約束の言葉を紡ぐ。




『『お前達の説教なら、帰った後でみっちり聞いてやる!!』』




「だから、サラ!! 絶対死ぬんじゃねえぞ!!」


『それはこっちの台詞。もし死んだら、殺すから。』


 そして、二人はほぼ同時にピティーの群れの中に突っ込んでいった。


ーこうして、神聖国における戦い、その幕が切って落とされたのであった。

次回、いよいよ本格的な戦いのスタートです!!

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