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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
60/110

行け、神聖国

ソニア「一つ目!!」

『それじゃあ、皆、元気で。』


 サラはスケッチブックにそう文字を書き、フローラ達を屋敷の前の玄関で見送る。そんなサラの両手をしっかり握り、フローラは真正面からその目を見つめ、こう告げた。


「もちろん!! ⋯⋯必ず全員生きて帰ってきます。だから、待っていてください。」


 フローラ達はラモーネを先頭に一人ずつ馬車に乗り込んでいく。そして、最後まで残っていたフローラが馬車に乗り込むと同時に、ラモーネがプリンで餌付けした御者の男に合図をし、馬車を一路神聖国へと走らせる。

 サラは、馬車が見えなくなるまで、ずっとシャーリーの後ろから小さく手を振り続けていた。




 

 実は、屋敷から神聖国まではそこまで距離はない。馬車だと十分程度で着く距離なのだ。だが、その十分すら煩わしいとばかりに、ラモーネはプリンの匂いをちらつかせ馬車を急がせる。


「ちょ、馬車の上に無理矢理乗っている私のことも考えてほしいんですけれどぉ!?」


 そう悲鳴を上げるのはジミナだ。流石に馬車の中に全員乗るスペースはなかったので、外に居ても存在がバレる心配のないジミナは馬車の外にしがみつく形になっているのだ。確かに的確な人選ではあるのでが、少しジミナが可愛そうになる。そして勿論、これを提案したのはシャーロットであった。


「ジミーちゃん、ファイトだよ!! 私も馬車外組だから、一緒に頑張ろー!!」


「ムーンは浮けるから楽でしょうがぁぁぁ!! てか、ホントしゃれにならないスピードなんですけれどぉ!! 落ちる、落ちちゃうぅぅ!?」


 馬車の外はジミナの悲鳴で騒がしいが、中は中であまりのスピードに阿鼻叫喚の様相を呈していた。平然としているのは、普段から浮いているため馬車の揺れの影響を受けないフローラと、鉄面皮のシャーロットくらいのものだ。


「イエーイ!! もっとスピード上げろー!!」


 ⋯⋯いや、ラモーネも平気だった。彼女に至っては、興奮してもっとスピードを上げようとすらしているくらいである。どうやら、ラモーネはスピード狂だったらしい。

 結局、さらなるスピードアップは顔を青くしたリリィがラモーネを羽交い締めして止めたことで何とか阻止することが出来た。これ以上スピードが上がれば、上に乗るジミナは確実に振り落とされていたであろうから、リリィがラモーネを止めたのは最善の行為であったと言えよう。


 決戦の前に何故か何人かグロッキーになってしまったものの、半ばラモーネの悪ノリが入った強行軍によって、フローラ達は本来よりもかなり早いスピードで神聖国に入る門の一つへとたどり着くことが出来た。

 しかし、目の前にはフローラ達の乗る馬車以外にも数台の馬車が並んでいた。神聖国にはここを含め二カ所しか入国するための門が存在しないので、入国を求める馬車はいつも並んでいるのだ。


「⋯⋯くそ、前来た時より検査が念入りに行われているな。こりゃ、私たちの突入が警戒されているとみて間違いないかもな。」


 御者の男の後ろから顔を出し、前の馬車の様子を確認したラモーネがそう呟く。それを聞いて顔を青ざめさせたのはナナだ。


「ど、どうするんですか!? 積荷を調べられたらボク達の存在がバレちゃいますよ!?」


 一方、そんなナナとは対象的な反応を見せたのはシャーロットだ。シャーロットは、口角をきりりと上げ満足そうな笑みを浮かべた。


「ほう? 成程成程。相手は我々を警戒してくれているのか。つまり、エンキにとっても我々は警戒すべき存在であるということだ。諸君、これはむしろ朗報だとは思わないかね?」


 そう全員に呼びかけた後、シャーロットはきりっと表情を引き締め、的確に指示を出していく。


「計画変更だ、諸君。当初は積荷に紛れてそのまま国に潜入する作戦であったが、あの念入りさではそれは難しいだろう。よって、母さんのプリンを門番に食わせ、洗脳。門番が門を開けたところで馬車から出て塔へと向かうことにする。異論のある者は?」


 シャーロットのその問いかけに対し、馬車の中と外、同時に一人ずつ「はいっ!」と声が上がる。シャーロットは、一瞬頭を抑えてため息をついた後、渋々といった感じでまず一人目⋯⋯フローラを指さした。


「⋯⋯フローラ、君は何に対し異論があるのかね?」


「⋯⋯シャーロットの方がリーダーっぽい件について。」


 どこかで聞いたことあるような小説のタイトルのようなことを真剣に答えるフローラ。シャーロットも、それに関しては、思わず「まあ、あれだ⋯⋯ごめん。」と謝るしかなかった。


 フローラの悩みについては、もう本人に頑張ってもらうしかないのでとりあえず放置され、シャーロットは次に馬車の外に声をかけた。


「ジミナ、君は何が不満なのかね?」


「現時点で既にキツイんで、屋敷に帰っていい?」


「却下。」


 コンマ一秒にも満たない即答であった。流石シャーロット、血も涙もない。


 馬車の中でそんな茶番を繰り広げ、皆の緊張もいい感じに解けてきたところで、ようやく次がフローラたちの乗る馬車が調べられる順番となった。とりあえず、ラモーネとジミナ、ムーン以外は積み荷の中に隠れることにする。車椅子のクリスタも、ロロが抱えて積み荷の中に隠れることで全員が積み荷の中に隠れる。


 しかし、いざフローラたちの馬車が調べられるという時に、突然馬車の外が騒がしくなり始めた。積み荷の中で耳を澄ませていたフローラは、おそらく門番に対して言われたであろうその言葉に、思わず自分の耳を疑うことになる。


「おい!! もう一つの方の門に、エンキ様にあだなす罪人二人(・・)、姿を見せたらしいぞ!! こんなことをしている場合ではない!! 今すぐ向かえ!!」


 

次回⋯⋯この後。

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