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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
59/110

フローラの思い

オクター「久々のフローラ視点ですー。うう、リーダーは辛いですね。」

 フローラは、シャーロットが話している間も、ずっと視界に映るシャーリーのことを考えていた。実は、シャーリーの現状について、この中で正しい真実を知る者は一人もいない。クリスタのギフト、『いろんな人の物語が読める』能力でシャーリーの情報が纏められた本を読めば原因が分かるかとも思われたが、シャーリーの本には彼女の心情まで書かれていなかったため、詳しいことはわからなかったのだ。クリスタ曰く、心情が本に書かれるようになるまでには、かなり長い時間を一緒に過ごす必要があるそうで、これまで心情が書かれた本を作成することが出来たのは彼女の従者だけだったという。

 そのため、今メンバーに聞かせているのは、シャーロットとクリスタとフローラ、三人で話し合って出した予想に過ぎないものだ。 


 その予想とは、『シャーリーは何らかの理由によりギフトを短期間に酷使。その結果、普段の数倍早く歳を重ねてしまった』というモノだ。実際、クリスタのギフトからも、ここ数週間でシャーリーは頻繁にギフトを発動していることは判明している。ただ、不思議なのは発動したギフトのほとんどが、何もない地面に向けて行われていたということだ。


(シャーリー⋯⋯貴女は、いったい何をしたかったのですか? そしてそれは、そんな身体になってまでしなければならないほど、大事なことだったの?)


 フローラは、そんな思いを抱きながら、シャーリーを見つめるが、シャーリーは数日前からそうしているようにぼうっと虚空を見つめたまま。

 こんな状態のシャーリーをエンキとの戦いに連れていけないことは理屈では分かっている。そして、シャーリーが残る以上、サラもまたここに残る選択をすることは明らかで、それを咎めるつもりはない。

 ただ⋯⋯フローラにとって何よりも辛いのは、誰よりもエンキに対して長く深い因縁を持っているはずのこの二人が、ようやくその因縁を晴らすことが出来るはずの戦いに参加することが出来ないということだ。

 それに、シャーリーがいなければ、フローラがここまで強くなることが出来なかった。シャーリーにこてんぱんに負けたフローラにサラがそっとジュースを差し出してくれたことも、忘れてはいない。フローラにとって、この二人は間違いなく恩人であるのに、最後の最後になってこんな形で置いていくことになるなんて、本当に最低だとフローラは自分を責める。

 もちろん、この二人を置いていくという話になった時に、フローラはシャーロットに反対した。しかし、シャーロットはその考えを変えることはなかった。


『我々は今まで何のために力を貯めてきたのだ? 仲間同士の馴れ合いをするためか? ⋯⋯違うだろう。我々の目的は、エンキを倒すこと。既に、多くの命が犠牲になっているのだ。フローラ、君の気持ちは分かる。だが⋯⋯この状態の二人を連れていくのは、はっきり言って邪魔でしかないのだよ。死んでいった者たちのためにも、我々はここで立ち止まるわけにはいかないのだ。』


 それでもなお、フローラは反対しようとした。しかし、声を荒げ立ち上がるフローラの肩を押さえたシャーロットの手が震えているのを感じ、フローラの抱えていた怒りは霧散する。


『分かってくれ、フローラ⋯⋯。()も、こんな決断を下したくはなかったのだ⋯⋯。』


 その時、初めてフローラはシャーロットの涙を見た。そして、数秒前まで、シャーロットのことをなんて非情なんだと思っていた自分を呪ったのであった。


 結局、折れたのはフローラだった。そして今、シャーロットは極めて冷静に仲間を置いていくという事実をメンバーに伝えている。本来ならこれも、リーダーであるフローラの仕事であるはずなのに、シャーロットは自分からこの憎まれ役を買ってでたのだ。

 シャーロットは、強い。もちろん、戦えばフローラが勝つであろう。だが、精神的な強さで彼女に敵う者はいないとフローラは思っている。


 もし、自分が⋯⋯自分が、シャーリーと同じ立場になっても、シャーロットは同じ決断を下すであろう。


 しかし、フローラは、たとえシャーリーと同じ状況になっても、意識さえはっきりしているなら、たとえ一人でもエンキの元へ向かうであろうという自信があった。その結果、たとえ死ぬことになったとしても。

 シャーリーも、あんな状態でなければ同じ選択をしたのではないだろうか。そう思い、フローラがシャーリーの方を見ると、後ろに立つサラとちょうど目が合った。

 その一瞬、サラはふっとフローラに笑みを向けた。しかし、瞬きの間に、サラは元の無表情に戻ってしまう。

 サラが一瞬見せたその笑顔。フローラは何故か、その笑顔がなかなか頭から離れなかったのであった。

次回、いよいよ神聖国突入!

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