「二人は置いていく」
シャルン「やっぱ生き残りチーム10人弱を動かすのは結構しんどそうやなー。ま、うちには関係あらへんけど? 今回は、久しぶりの生き残り組全員集合やでー。」
ー光の入り込む隙間のない漆黒の空間。彼女は、その闇の中で、目覚めの時を待ち続けていた。闇の中で、彼女が感じるのは自分の手を握りしめる小さな手の感触だけ。ここで過ごしている内に、戦いの傷は癒えたが、彼女が目覚めるのは、彼女のことを知る者が誰も居ないような、そんな遙か未来のはずであった。
しかし、外部からの干渉によって引き延ばされた時間が、彼女の目覚めの時を近づけていた。その干渉は、ここ数週間でさらに激しくなり、闇に溶け、不定形となった意識が、徐々に本来の形を取り戻してきていた。
そして、ついに彼女は目覚める。闇の中で口を開いた彼女が呼ぶのは、彼女の一番大切な人。一生仕えると決めた主。
「お嬢、様⋯⋯。」
影の世界に潜り込んだ従者。その帰還の時が迫っていた。
▼▼▼▼▼
「ラモーネ先生!! 久しぶりですね、元気にしていましたか?」
ラモーネが屋敷に入ると、聞き慣れた声の人物が手を振りながらこちらに駆け寄って来た。シャーリーのことで動揺していたラモーネではあったが、そんな彼女の姿を見ると自然と笑みを浮かべることが出来た。
「おかえり。ナナも元気だった?」
「はい!! もちろんです。あ、リリィ先生も相変わらずお元気ですよ。」
今はナナの方が背が高くなってしまったが、ラモーネが背伸びをして頭を撫でてやると、ナナは嬉しそうにえへへと笑みを浮かべる。
そして、噂をすればなんとやら。ラモーネの背後からそっと何者かが近づく気配を感じたので、ラモーネは振り向きざまにジャンプして回し蹴りを放つ。
「うわっ!? いきなり何するのさラモーネ!! 危ないじゃないの!!」
「アンタみたいな痴女が後ろから足音もたてずに近づいて来たら、そりゃ幼女の私は抵抗せざるを得ないでしょうよ。」
「うっわぁ。こんな時だけ自分を幼女扱いとか、ちょっと都合良すぎない?」
かつての同僚であるリリィと軽口をたたき合うラモーネ。だが、そんな和やかな雰囲気から一変、リリィが突如真剣な表情になり、ラモーネにこう尋ねてきた。
「⋯⋯ラモーネ、アンタ、シャーリーの姿見た?」
リリィの問いかけに無言で頷くラモーネ。そんな彼女に、リリィはさらにこう続けた。
「私も詳しいことは分からないんだよ。今からシャーロットとフローラとクリスタの三人から多分そのことについても詳しい話があると思う。⋯⋯じゃあ、場所はいつもの会議室だからね。」
リリィはそう言うと先に一人行ってしまう。だが、すれ違いざま、ラモーネの頭をポンポンっと叩き、こう呟いた。
「⋯⋯ま、何はともあれ、お疲れさん。無事で帰ってくれて嬉しかったよ。」
予想外のねぎらいの言葉に、瞬間ラモーネの頬が赤く染まったが、すぐ近くに元生徒であるナナがいることを思いだし、ラモーネは頭をブンブンと振って気を引き締め直し、ナナに声をかけてからリリィの後ろをトコトコとついていった。
『ぷぷぷ。照れてやんの。可愛いな、お前。』
⋯⋯そう言えば、この目玉の存在を忘れていた。ラモーネは、後でプリンの飾りにでも使ってやろうと決心したのであった。
ラモーネとナナが部屋に入った時、そこでは既に全員が思い思いの席に腰掛けていた。ただし、車椅子のシャーリーの後ろに立つサラだけは座る気配はなかったが。
ラモーネとナナの二人は、リリィの横の空いている椅子に座る。それを合図にしていたかのように、シャーロットが全員に向かって話し始めた。
「それでは、久しぶりに全員が揃ったところで、我々の計画の最終段階について話し合おうではないか。」
その時、どこからかくすっと笑い声が聞こえてきた。しかし、声はするが姿は見えない。誰の声だっけ? とラモーネが首をかしげている間に、その声はさらに笑い続ける。シャーロットが、一つだけ空いている席にむっとした視線を向けると、その声はシャーロットに対して弁解を始めた。
「いや、ごめんごめん。なんかさ、最終段階とか言うから悪いこと企んでいるみたいな感じがしてちょっとおかしくなっちゃって。」
「ジミーちゃん意外と笑いのツボ浅いよね~!!」
宙に浮いたまま空気椅子の姿勢をとっている幽霊体のムーン。彼女が名前を呼んだことで、記憶の中でその人物の姿が蘇ると共に、ラモーネにもようやく笑い声の主⋯⋯ジミナの姿をとらえることが出来た。
ジミナは、『影が薄い』というギフトの持ち主だ。その性質上、波長が合わなければ彼女の姿を認識することはできない。ラモーネは、これまでロキから貰った右目ではジミナの姿を捉えることが出来ていたが、さっきは認識することが出来なかった。つまり、ラモーネ本人はジミナと波長が合わず、ロキがジミナの姿を認識していたということなのだろう。
そんなジミナもようやく落ち着いて真面目な表情に戻ったところで、シャーロットは咳払いを一つ。改めて話を切り出した。
「⋯⋯それでは、まずは母さん。そちらの話を聞きたい。シャーロット・ノックスとしてはいつの間にか眼帯を着けていることも気になっているのだよ。そして、その肩の上の謎の物体も。」
流石シャーロット。探偵をしているだけあってかなり目敏い。ラモーネは、馬車を奪ってきたことや、ロキから聞いた話について皆に説明した。そして、予想していたことではあったが、エンキが弱体化しているという情報には皆面白いほど食いついてきた。なかでも最も反応の良かったのはフローラだ。フローラは、目を輝かせて、
「凄いじゃないですかラモーネ!!」
と誉めてくれたが、その点に関しては功労者はロキだと思うので、ラモーネは少し微妙な表情になった。
なお、目玉だけになったロキについて紹介すると、面白いモノを見たという風に好奇心丸出しで見つめる者が数名。何とも言えない表情を浮かべたのが数名。そして、苦々しい表情を浮かべたのが一名⋯⋯。これはフローラだ。彼女は、神という存在そのものに嫌悪感を抱いているようだし、これは仕方ないだろう。
「私からはこれで全部だ。⋯⋯さあ、そっちの話を聞かせてくれ。特に、シャーリーが今どんな状態なのかを。」
ひとしきり話終えたところで、ラモーネはそう切り出す。すると、その視線を受け止めたシャーロットは、相変わらずぼうっと虚空を見つめているシャーリーにちらりと視線を向けた後、再び視線を戻し、単刀直入にこう言った。
「⋯⋯彼女たちのことを話す前に、一つ言っておかねばならないことがある。神聖国への突入。その際、二人は置いていくことにした。」
屋敷の前でシャーリーを見た時から半ば想像できたことであったが、ラモーネはその言葉にまるでハンマーで叩かれたような衝撃を受けた。ふと、シャーロットの隣に座るフローラを見る。このチームのリーダーである彼女が、この決断にどのような思いを抱いているのか気になったのだ。
フローラは、表情こそシャーロットと同じく平静を保っていた。しかし、その膝に置かれた拳は、悔しそうに握り締められていたのであった。
次回、更新未定。多分明日か今日のうちにー。
ほななー。




