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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
5th stage  『主人公』たちの物語
52/110

part7

レッドリーフ「今日は投稿できないと言ったな?あれは嘘だ。」

《レイニーvsスマイル》


 雷の直撃を受けて倒れたスマイルであったが、直後何事もなかったかのように無傷の状態にその身体が再生された。


「『主人公は、死なない』・・!!これしきで僕を倒したとうぬぼれないことだね!!」


 スマイルはそう叫ぶとレイニーへと走って向かって行く。その行く手に再び雷の嵐が襲いかかる。しかし、スマイルはギリギリのところでそれをかわしていった。


「一度死んだ以上、二度は食らわないよ!!もうその雷は見切った!!」


 対するレイニーは、その瞳に激しい怒りを宿してスマイルを睨み付けていた。


「もう嫌だ・・!!早く消えて!!」


 レイニーが怒りの叫び声を上げる。すると、降り注ぐ雷のうち数本が空中で重なり合い、巨大な雷となってスマイルに襲いかかった。これまで間一髪で回避を続けてきたスマイルは突然太さを変えた雷を避けることが出来ず直撃。二度目の死を迎える。


「く・・!!まだまだぁぁ!!主人公は、決して諦めないんだ!!」


 気合いの咆哮と共に再び立ち上がるスマイル。二度の復活により、スマイルのギフト、『主人公』の能力の一つである『主人公は、負ける度に強くなる』効果も発動。より動きのキレが増したスマイルは、危なげなく雷を避ける。しかし、今度は直前の嵐で出来た水たまりから感電。スマイルの心臓は一瞬で止まった。


「く・・!!でも、そろそろ雷への耐性もついてきたよ!!僕はもう負けない!!」


 スマイルは三度立ち上がり、レイニーへと肉薄する。スマイルがあと一歩でレイニーへその拳が届くというところまで近づいたその時、レイニーは「うわあああ!!」と雄叫びを上げる。直後、二人の間に雷が落下してきた。

 とっさに後方へと宙返りすることによってその雷を回避したスマイル。しかし、再びレイニーへ視線を向けようと顔を上げたスマイルの顔面に、激しい衝撃が襲いかかる。あまりの衝撃に踏ん張ることも叶わず、スマイルは後方の壁へと吹き飛ばされる。

 ドゴォォン!!という轟音と共に壁にぶち当たるスマイル。思わず「ぐはあっ!?」と声が漏れた。今の衝撃で恐らく顔面のみならず、あばらも幾らか折れてしまっている。内蔵へのダメージも大きいかもしれない。さらに、衝撃が強すぎて身体が壁にめり込んでしまっらしく、抜け出せない。必死で壁から抜け出そうともがくスマイル。

 その時、スマイルは一陣の風が頬を撫でるのを感じた。そして、四度目の死は理解すら出来ないうちに突然訪れる。

 

 五度目の復活。しかし、スマイルの顔にこれまでの余裕はない。一体先程自分に何が起こったのか。それを理解できたのは、そこからさらに二度死を迎えてからであった。

 度重なる死と復活により動体視力も極限まで高められたスマイルが見たモノ。それは・・


「はあああああああ!!!!」


 スマイルが見たのは、全身から電流を立ち上らせ、髪の毛を逆立たせたレイニーの姿。そんなレイニーが、地面を蹴る度バチバチッ!!と音がはじける。そして、レイニーの移動する速度はまさに稲妻のごときものであった。


「なるほど・・。雷にわざと感電することで電流の刺激により筋肉のリミッターを解除。一時的に爆発的な力を生み出しているのか・・。」


 レイニーの姿を捉えることに成功したスマイルは、その変化をこう冷静に分析する。その口元には、自然と笑みが浮かんでいた。


「・・最高だよレイニー!!君はまさしく主人公が倒すべきラスボスに相応しい!!君を乗り越えて、僕はハッピーエンドを作ってみせるよ!!」


 スマイルはその表情のまま、レイニーへと飛びかかる。正面からの正拳突き。レイニーはそれを掌底で横へ反らし、そのままその腕をつかみ後方へとぶん投げる。そこへ、落雷の追撃。雷によって縫われるようにして地面に叩きつけられたところに、レイニーはかかと落としを食らわす。

 しかし、とっさに身体を捩ることでその追撃を回避したスマイルは、起き上がる反動を利用して両足での蹴りを食らわす。レイニーは腕で両腕でそれをガードするも、衝撃で軽く二、三メートル吹き飛ばされる。

スマイルはジャンプしてレイニーを追いかける。レイニーの顔面目掛けパンチを放つも、その時には既に体勢を立て直していたレイニーに再びその腕をつかまれてしまう。


「あああああああああ!!!!!」


 レイニーは咆哮と共に、スマイルの腕をつかんだまま何度も地面にその身体を打ちつけ、とどめとばかりにハンマー投げの要領でスマイルを壁目掛けぶん投げた。ここで、スマイルはまたしても死ぬこととなる。


「流石に今のはひどいんじゃないかなぁ・・。」


 しかし、次の瞬間にはスマイルは何事もなかったかのように立っているのだ。しかも、そのダメージは全て消え、先程よりもパワーアップした状態で。


「もう君の動きは完全に捉えている・・。次に死ぬのは君の番だ!!」


 そう叫び、走るスマイル。既にその速度はレイニーとほぼ同じになっている。スマイルが拳を突き出し、レイニーもまた同じようにパンチを放つ。

 二人の拳は闘技場のちょうど中心でぶつかり合い、一瞬の均衡の後、二人はほぼ同時に反対側の壁へと吹き飛ばされた。

 スマイルは既に何度も味わった壁への衝突。当然、レイニーも同じように壁にぶち当たっているものだと思っていた。


 しかし、壁への衝突音の代わりに聞こえてきたのは、聞き覚えのある弦の音であった。


「・・もう始まってた。のか。私は・・どうやら、来るのが少し遅かったらしいね。」


 吹き飛ばされるレイニーを見てレレがとっさに作った弦で出来た網は、壁に激突する衝撃を緩和させることに成功したようであった。既にボロボロの今にも死にそうな身体を引きずりながら、レレは闘技場を見渡す。レイニーは、どうやら完全に理性が吹き飛んでしまっているのかレレの姿は視界に入っていない。レレの反対側の壁には、スマイルの姿が。そして、今レレが抱えるのは、“わたし”ちゃんの死体だ。


「・・ごめんね。もう少し私が早く来ていれば・・。」


 レレは涙を流し、その身体をそっと抱きしめる。そして、取り出すのは壊れかけのウクレレ。レレは、傷ついた身体で、音色を奏で始める。奏でる音色に込める感情は、『闘争心』。


「・・この身体じゃあ戦いたくても戦えない。だから、せめてレイニー。貴女の戦いを最期まで応援させて。・・これが私の、最終公演。」


 レレの音色を聞いたレイニーの視線が、一瞬そちらを向く。しかし、次の瞬間には、レイニーの心は溢れんばかりの闘争心で満たされた。


「まだ生きていたのか!!そのしぶとさだけは認めてあげるよ!!」


 レレの姿に気付いたスマイルの蹴りがレレを襲う。当然、レレは反応出来ない。しかし、スマイルの蹴りがレレの命を刈り取るより先に、レイニーの拳がスマイルを吹き飛ばした。


「がはっ!?」


 パワーアップしたはずのスマイルの口から血が吐き出される。今や闘争心の塊となったレイニーは、明らかに先程よりも攻撃力が増していた。対するスマイルは、既にレレの音に耐性を作ってしまっているため、その恩恵を受けることが出来ない。吹き飛ばされたところをさらにつかまれ、壁に頭を叩きつけられる。

 当然生き返るスマイル。しかし、直後再びレイニーにより顔面をつかまれる。


「ちょっと待・・」


 思わず出たスマイルの制止の言葉も聞かず、レイニーはまたしても壁にその顔面をめり込ませる。そして追撃のエルボー。攻撃方法が明らかにえげつなくなってきている。そのまま三度、四度・・。生き返る度にスマイルも死ぬまでの時間は長くなっているが、生き返った直後に攻撃されてしまうためなかなか反撃出来ない。


「・・いい加減に、しろぉぉぉぉ!!!!」


 ここに来て、スマイルが初めて怒りを露わにしてそう叫んだ。その声から発せられる衝撃派により、レイニーは吹き飛ばされる。だが、その身体は空中で体勢を整えた。なんと、風がレイニーの身体を支えている。激戦の中でギフトが成長したのか、今やレイニーは天候を自在に操っていた。

 スマイルに襲いかかる突風。しかも、拳大の雹のおまけ付きである。スマイルは、無言で雹をその拳により砕いていたが、無数の雹を全て処理することが出来ず、その身体に穴を開け倒れる。

 再び立ち上がるスマイル。そんなスマイルに、今度はレイニーの持つ剣が襲いかかる。この剣は、レイニーの傘が雷の熱で変形し出来たモノである。電流を帯びた剣はスマイルの右腕をスパァン!!という小気味良い音と共にはね、そのまま流れるようにスパパパパーン!!と残りの四肢を全て切り落とす。心臓を貫かれ、またしても死亡。

 

 スマイルが生き返る、その度にレイニーが何度も別の手段を用いてその命を刈り取っていく。時にはスマイルの全身が吹雪で凍え、時には激しい風がスマイルの身体を闘技場の壁にぶつけ、時にはレイニーの剣がスマイルの首をはね・・。延々と、こうして時が過ぎていくと思われた。しかし・・







「・・それでも、僕には・・『主人公』には、敵わない。」


 そこには、スマイルによって首をつかまれ持ち上げられるレイニーの姿があった。必死で逃れようともがくが、最早力は使い果たしてしまったのか、その動きは弱々しい。顔には既に生気はなく、明るい水色だった髪も真っ白に変色していた。


「君はまさしくラスボスと呼ぶに相応しい存在だった。まさか、三十回も死ぬことになるとは思わなかったよ。途中、何度か心が折れそうになったくらいさ。それくらい、君は強かった・・。」


 しみじみとした口調でそう語っていたスマイルは突如目を見開き、「でも!!」と再度強調する。


「それでも、最後に勝つのは『主人公』なんだ。いくら君が強くても、主人公に勝てる訳がないだろ?」


 レレの鳴らすウクレレの音ももう聞こえてこない。随分前にその音色は消えてしまった。ただ、雨が降る音だけが闘技場に静かに響く。いつしか、レイニーの目からは涙がこぼれていた。


「ご、ごめん・・。“わたし”ちゃん、レレ・・。わ、私・・。」


 レイニーがその言葉を言い終わる前に、スマイルはその身体を地面へと叩きつけた。それまで降り続いていた雨が止み、雲が晴れていく。


「魔王の呪いにより隠されていた太陽は、今その姿を見せた!!皆、やったぞ!!僕は・・勝ったんだ!!!」


 スマイルは夕焼け色に染まる太陽に向かい、高らかにそう叫んだ。気分はまさしく、魔王を倒した勇者であった。


「・・さあ、これで、勝ち残ったのは僕一人だ。ここに仲間が居ないのは胸が痛むけれど・・。僕は、勝利の証を刻んでくるとするよ。」


 そう言うと、スマイルはその視線を『勝者の椅子』へと向ける。しかし、そこでスマイルは予想だにしないモノを目にすることになった。


「な・・!?ムーン(・・・)!?君、死んでいなかったのかい!?」


 そう、『勝者の椅子』の近くでふわふわと漂っていたのは、死んだとばかり思っていたムーンであった。ムーンは、驚いたように口に手をやった。


「ありゃりゃ!?とうとう気付かれちゃったよ!!どうしようか?」


「き、君・・もしかして、その椅子に座っていたわけではないよね?」


 スマイルはおそるおそるそう尋ねた。レイニーとの戦闘は、余裕で1時間を超えていた。もしその間ずっとムーンが椅子に座っていたなら、ムーンがこのゾーンの勝者になってしまう。しかし、ムーンはあはは~っと笑って手を横に振った。


「いや~、私は(・・)椅子に座れないよー。だって幽霊だから座ろうとしてもすり抜けちゃうしねー。」


「そうか・・それならよかった。」


 もし座っていたなら、仲間である彼女も殺さなければならなかった。最後に勝つのは主人公でなければならないから。


「じゃあ、僕がその椅子に座らせて貰うよ。悪いけれど、こればかりは君にも譲れない。」


 スマイルがそう言うと、ムーンは少し困ったように眉を下げた。


「う~ん。まあ、一応座れないことはないと思うよ?実際私も座ってみたいしね~。ね?大丈夫だよね?」


 ムーンは何故かスマイルではなく椅子の方にその視線を向けている。スマイルは、そのことを少し不思議に思いつつも、そういえば彼女は何もいない空間に向かって話す癖があったなと思い出し、一人納得してから椅子へと続く階段を上り始めた。 

 一歩、また一歩と『勝者の椅子』に近づいていくに従って、スマイルのテンションも上がっていく。これは、いわば英雄譚のフィナーレだ。魔王を倒した主人公が、皆からその業績を認められ、讃えられる。自分に与えられるのは、勝者の証。

 

 そして、とうとう『勝者の椅子』の前まで来た。一度呼吸を整え、スマイルは天を仰ぎ叫んだ。


「サキ!!クラッカー!!二人とも見ていてくれ!!僕は今ここに・・勝利の証を刻む!!」


 そして、スマイルはゆっくりと『勝者の椅子』にその腰を下ろした。


-むにゅっ。


 しかし、スマイルを襲ったのは、妙に柔らかい椅子の感触。そして直後、耳元で聞き覚えのない声が聞こえてきた。


「あの・・私、さっきからずっと座っているんですけれど。」


 とっさにばっと立ち上がるスマイル。そして、その視線の先には、見覚えのない黒髪の少女の姿があった。


「だ、誰なんだお前は!?」


 動揺のあまり震える声でそう尋ねるスマイルに対し、その少女・・ジミナは、皮肉たっぷりの笑みを浮かべてこう答えたのだった。


「どうも。初めまして主人公さん。通りすがりの唯の地味なモブキャラです。」


 


 

レイニー・ブルー

身体能力 2(強化時 5)

知性 2

社会性 2

運 5

能力の強さ 5


ギフトの能力・・『感情によって天候が変わる』



ジミナ「私のギフトは、一度認識から外れてしまえばその存在すら記憶から薄れてしまうほどの影の薄さ・・。さて、貴方たちの中でどれくらい私のことを覚えていたのかしら?」

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