閑話:ラモーネと“奪う神”ロキ
お待たせして申し訳ありません!!少し短いですけれど、閑話です!!
・・また、救えなかった。ラモーネは、唇をかみしめながら自分の右の掌を見つめる。ベティに向かい伸ばしたラモーネの手。その手をベティが取ることはなかった。
ラモーネは、死んでいった生徒たちのことを思い出す。マグナにグラーフにトット。そしてファラにクララにベティ。最後まで無事だったのは結局ナナだけだ。生徒は死んでいったのに、その生徒を守るべき存在である自分はのうのうと生き残ってしまっている。ラモーネはその事実が悔しくて悲しくて、もう死んでしまいたいくらいだった。
『いや、そう簡単に死にたいなんて思うもんじゃねえぞ?オレの仕事が無駄に増えるからなー。』
頭の中に直接響いてきた声。ラモーネはその声の主をぎろっと睨み付けた。
「・・あんたら神にはプライバシーってもんはないわけ?人が落ち込んでる時に心読むのはやめてくれません?」
『まあまあ、そんなカリカリすんなよ。茶でも飲んで落ち着けって。これ、オレ特製ブランドだから。まずいなんて言いやがったらぶっ殺すぞ?』
ロキは笑いながらそう言うも、その目は全く笑っていない。その有無を言わせぬ迫力に、ラモーネは唾を飲み込みロキの指示通りに正面の椅子に座った。
正面から自分を見つめるロキを見て、ラモーネは改めて自分は今神と対峙しているのだということを思い知った。
ここは、ロキの住む宮殿。その一室である。ラモーネは、崩壊する校舎に巻き込まれる寸前、ロキによってこの宮殿まで連れてこられた。しかし、連れてこられたはいいがその目的が一向に分からない。とりあえず、ラモーネは大人しく目の前のお茶を飲むことにした。
「・・あ、美味しい。」
ロキが淹れたというそのお茶は、独特だが優しい味で、ラモーネの味覚にも合うものであった。素直に感想を漏らしたラモーネに、ロキがにししっと笑みを浮かべる。
『だろ?オレの淹れる茶は美味い!!オレのお茶より美味いモノなんてこの世に存在しねえくらいだ!!』
ロキのその言葉を聞いたラモーネの闘争心に火が付いた。「オレのお茶より美味いモノはない」?確かに、このお茶が美味いのは認めよう。だが!しかし!自分の作るプリンより美味しいモノはないとラモーネもまた自負しているのだ。この誇りは、神相手でも譲れるモノではなかった。
「・・いやー、本当に美味しいお茶だった。そのお礼に、私のプリンはどうだ?私のプリンは、『世界一美味しい』よ?」
『・・ほう?オレ相手に喧嘩を売るか。いいぜ、乗ってやるよ。ただし、もしオレの口に合わなかったら・・その時は、覚悟しとけよ?』
ロキの目が赤く光り、ラモーネに凄まじい殺気が襲いかかる。ラモーネは、身体が震えそうになるのをこらえ、にっと口角を上げてロキの視線を正面から受け止めた。ロキの方がラモーネより背が高いため、見上げるような形になる。まあ、そもそもラモーネ自身あまり背が高くないのでだいたい見上げる形になるのだが・・。
ラモーネは、ギフトを発動させ、掌からプリンを出す。もちろん、弾力、甘さ、色艶共に自分が研究した中で最も良いプリンだ。そのプリンを、ラモーネは程よい速度でロキの口めがけ発射した。ロキは、はむっ!とプリンにかぶりつき、そのままもにゅもにゅと咀嚼する。ロキは、しばらく無言で口を動かしていたが、やがて、ごくんと喉を鳴らしてプリンを飲み込み、ゆっくりと口を開いた。
『・・おい、何だこれは。』
「え?ぷ、プリンだけど!?」
ラモーネは、まさか口に合わなかったのかと内心びくびくしつつそう答える。そんなラモーネに、ロキは目を輝かせてこう言った。
『これ・・めちゃめちゃうめえじゃねえか!!これ食べた後だとオレのお茶なんて泥水みてえなもんだな!!こんな美味いモノを作れる人間を殺そうとするエンキはやっぱ馬鹿だな!!』
・・何故か知らないがめちゃくちゃ絶賛してくれた。まあ、自分のプリンの作ったプリンを褒められるのは素直に嬉しいので笑顔になる。そんなラモーネを見て、『お、ようやくまともな顔になったじゃねえか。』とロキもまた笑う。そんなロキの反応を見て、ラモーネの頭にある疑問がよぎる。
「・・ねえ、あんたも神・・でいいわけ?あの糞野郎と同じ?」
『そうだぜ?エンキとはまあ・・腐れ縁ってやつだな。あいつが“与える神”で、オレが“奪う”神だ。あいつのことを信仰している国の奴らは、オレを“死神”と呼んで嫌悪しているらしいがな。』
「そうなの?・・でも、正直あんた、そこまで悪い感じしないんだけれど。あの糞野郎と違って話も通じるし、私のプリンも美味いって褒めてくれるしさ。私、あんたのことは結構好きだよ。」
ラモーネが素直に自分の気持ちを語ると、ロキは驚いたように目を丸くした後、照れくさそうに頭を掻いた。
『・・うん。オレそんなこと言われたの初めてだわ。オレは人間の命奪う仕事しているわけだから、恨まれたりすることはあっても感謝されるってことはねえからな。・・なるほど、エンキがあんな国作った理由が少し分かった気がすんな。』
そして、ロキはラモーネにぐいっと身体を寄せる。突然の接近にラモーネは思わず後ずさるが、ロキはラモーネの耳元で『逃がすかよ。』と囁くと、さらにラモーネに自分の顔を近づけた。そして、ロキは満面の笑みでこんなことを口にする。
『ふふふ・・!!オレはお前のことが気に入ったぞ!ラモーネ!!お前をこのオレの・・信者第一号にしてやる!!』
「いや、そういうのいいから。」
ラモーネとロキの間に、一瞬気まずい沈黙が走る。しかし、ロキはめげずに再び話しかけた。
『お前を!!このオレの!!信者にしてやる!!ならなかったらぶっ殺すからな!!』
「いや、それほぼ脅迫じゃねえか!!」
『よし!!可愛い信者にオレから一つ、プレゼントをくれてやる!!』
「いや、いらないから。」
再び沈黙。ロキは、今度は目を赤く光らせラモーネに襲いかかってきた。ラモーネはあまりに突然すぎるその動きに反応することが出来ない。すると、ロキはおもむろに自分の目に手を突っ込み、そしてラモーネの目にも手を突っ込み・・
そして、二人の右目を入れ替えた。
「ぎゃー!!!めちゃくちゃ痛い!!何するんだお前はぁぁぁぁ!!?やっぱ神は皆クソ野郎だぁぁぁ!!!」
ラモーネはあまりの痛さに悲鳴を上げる。ロキはそんなラモーネを見て腹を抱えて笑い転げた。
『わっはっはっは!!どうだ!!奪う神らしくお前の目を奪ってやったぞ!!安心しろ!!その代わりにオレの目をプレゼントしたからな!!この目があれば・・』
「この目があれば・・?」
『オレといつでも会話出来る!!』
「クソが!!」
『ふう。満足したし、お前そろそろ帰っていいぞ!』
「いや、帰り方分からないからここにいるんだろクソが!!」
『さっきからクソクソクソクソ・・口が悪いぞてめぇーー!!!!いい加減怒るぞこら!!』
「さっきからお前の沸点謎すぎる!!」
『もういい!!帰れてめえーーー!!!』
そう叫び、ロキはパチンと指を鳴らす。その瞬間、ラモーネの姿はロキの宮殿から消えた。ラモーネがいなくなった宮殿で、ロキは一人再びテーブルにつき自分の淹れたお茶を飲んだ。
『・・うん。やっぱりあのプリンって奴食べたあとだと不味いなこれ。帰すべきじゃなかったか?・・いや、あいつにはまだ「先生」してもらわねえといけないしな。』
そう言うと、ロキは再びパチンと指を鳴らし、宮殿にはお茶の入った小さなカップだけが残された。
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「ラモーネ先生!!生きてたんですね!!」
「良かった・・!!ラモーネ、私、お前が死んだかと・・。」
ラモーネが気づいた時、そこには涙を浮かべてこちらを見下ろすナナとリリィの姿があった。
・・ん?確かに、ラモーネは背がそこまで高くない。しかし、ここまで二人の背は高かっただろうか?
「・・まあ、無事ではないみたいだけどさ。」
「ラモーネ先生・・でいいですよね?何かずいぶんこう・・可愛らしく・・。」
そのとき、ラモーネの頭にロキの声が響いた。
『ああ、そういえば言い忘れてたけれど、オレの目を入れたことでお前の身体に若干変化が起こているぜ!!一言で言えば・・若返ったって感じ?良かったな!!』
そこでロキからの声は途切れる。ラモーネは、嫌な予感を感じながらリリィに鏡を持っていないか尋ねてみた。心なしか、その声も若干高くなっている気がする。
リリィに借りた鏡を手に取って、ラモーネは自分の姿を見た。するとそこには・・ちょうど九歳くらいの女の子が、鏡を険しい顔で睨み付けていた。
「あんの・・クソ野郎がぁぁぁぁ!!!!!今度会ったら絶対ぶっ殺してやるぅぅぅ!!!!」
晴れ渡った空に、幼いラモーネの叫び声がむなしく響き渡ったのであった・・。
《その数日後》
ラモーネたち三人は、時々話しかけてくる脳内の死神さんの案内により、フローラたちがいる屋敷へとたどり着いていた。リリィが先頭に立ち、屋敷のドアをノックする。
「やあ。うちの殺人鬼の見る夢のおかげで、君たちのことは知っていたよ。ようこそ、このシャーロット・ノックスが君たちを歓迎しよ・・。」
シャーロットはそこまで言いかけ、ラモーネの顔を見て固まってしまう。そんな自分の娘に対し、ラモーネは力ない笑みを浮かべ、こう親子の再会の挨拶をした。
「久しぶりね・・。シャーロット。突然で悪いんだけれど、貴女の母親は幼女になったわ。」
ち、違う!!作者が幼女が好きだからラモーネを幼女にしたわけではなく、ただ戸惑うシャーロットの反応が書きたかったんや!!
・・などと、犯人は供述しており・・。
予定通りなら、明日から5thstage始めます。




