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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
4th stage  プリマ・ドンナの献身
43/110

エピローグ

ソニア「エピローグ一万文字いってるんですけれど!?」

シャルン「それ最早エピローグじゃなくね!?」

オクター「そもそもエピローグとは一体なんぞや?」

 ナナの目の前で、パティ先生の首から血が噴き出し、そんなパティ先生にベティが叫び声を上げながら駆け寄る。しかし、ベティがパティ先生の元にたどり着く前に、立ちふさがるようにピティーが現れ、ベティを突き飛ばす。ピティーは、謎の透明な箱を手に持っており、ナナがその箱に視線を向けた瞬間、そこにはエンキ学園長の姿が映し出された。


『いや~、おめでとうお前ら!!“魔女”が死んだということで、お前ら四人の勝利が確定したよ!!』


 “魔女”が死んだ。その言葉でパティ先生の死を知らされたと同時に、ナナは衝撃的な出来事が立て続けに起こったせいで半ば忘れかけていたこのゲームの内容を思い出した。


「何がおめでとうだこん畜生・・!!何もめでたくなんかねえよ!!」


 ラモーネ先生はエンキに向かってそう吠える。しかし、エンキはどこふく風といった様子で、さらにこう続けた。


『いや~、おめでたいよホント。あの“魔女”なんか特にね。居もしない人質のために可愛い生徒を殺しちゃうなんてさー。』


 そのエンキの言葉を聞き、茫然自失といった様子で地面に座り込んでいたベティがエンキに視線を向けた。ナナの胸に得体の知れない不安が渦めく。リリィ先生もナナ同様何かを感じたのか慌ててベティの耳をふさごうとしたが遅かった。あまりに残酷な真実がエンキの口から告げられる。


『“魔女”に言ってあったんだよ。「母親を預かったから、返してほしければ言うことを聞け」ってさ。でも~・・あいつの母親、最新型ピティーの戦闘力チェックの実験台にした時に既に死んでるんだよねー!!ほんとにおめでたい奴だよ!!』


「え・・?そ、それじゃあ、パティ先生は何のために・・あんなに独りで悩んで、苦しんでたのに・・そんなの・・そんなの・・。」


 パティ先生は母親を人質にとられ“魔女”をしていた。しかし、人質である母親は既に殺されていたという。その事実を聞き、ベティはパティ先生の死骸に縋り付き涙を流す。対照的に、ラモーネ先生は顔を真っ赤にさせて再び吠えた。


「お前は・・お前は、どこまで外道なんだぁぁぁぁ!!!」


 ラモーネの怒りの叫びに対し、エンキは五月蠅いとでも言いたげに指で耳栓をする。そして、これまでよりも若干トーンを落としてこう告げた。


「・・おい、あんまり好き勝手言ってんじゃねえぞ?下等生物が。お前らのことを私がどうしようとそれでどうこう言われる筋合いはないね。」


 エンキは映像の中で話しかけているはずなのに、まるですぐそばにいるかのようにナナ含め全員にとんでもない殺気のような気配が襲ってきた。顔を赤くしていたラモーネ先生も、泣き崩れていたベティも、皆顔を真っ青にして震えている。

 そんな反応を見て満足したのか、エンキはふっと殺気を納める。


『うん。分かればいいんだよ。お前らはそうやって震えているのがお似合いさ・・。さて、生き残ったお前ら。お前らには、私から二つの選択肢(・・・・・・)を与えてやろう。』


 そう言うと、エンキは指を二本立てる。そして、ナナたち四人にその二つの選択肢を告げた。


『まず一つ目。自分が元々居た場所へと戻る。そして二つ目・・この学園に残り、再び学園生活を送る。』


 エンキから提示された二つの選択肢。一つ目は普通に理解できる。しかし、二つ目の選択肢は一体どういうことなのか?その疑問は、次のエンキの言葉ですぐに解消されることとなる。


『再び学園生活を送るっていうのは文字通りの意味だよ。お前らも薄々感づいているかもしれないけれど、私は神なんだ。それも、唯の神じゃないよ?私は、「与える神」エンキ。私は万物を与える。・・勿論、命すらね?私の手にかかれば、死んだ奴らに命を与えて、またお前らは十人で学園生活を送ることが出来るってわけ!!どう?素晴らしいと思わない?』


 エンキのその言葉を聞き、ナナの頭に浮かんだのはクララの顔だった。クララの身体は、今はもう動く気配すらなく、顔にも生気は全くない。もし、あの時と同じようにクララとおしゃべりしたり出来るとしたら・・。エンキの提案はあまりに魅力的で、ナナは反射的に二つ目の選択肢を選びそうになった。


「は?何を言っているんだお前は。私を馬鹿にしているのか?」


 その時、呆れたようなラモーネ先生の声が聞こえてきて、ナナははっと正気に戻った。まさかそのような反応を返されるとは思っていなかったのか、エンキは珍しく一瞬フリーズした後、こめかみに青筋を浮かべ、再び殺気を放ち始めた。


『・・あっれ~。おかしいな~。お前らにとってこの提案は悪くないはずだよ?ラモーネ。お前は何が不満なの?・・答えろよ。』


 正面から殺気を向けられるも、ラモーネ先生は今度は震えることなく真っ直ぐエンキをにらみ返した。


「何が不満かって・・?そんなの決まってる。私は、そんなこと望まないからだ。死んだ奴に命を与えて、それで生き返ったことになるのか?私はそうは思わない。それは、見た目が同じだけの唯の人形だ。それに、クララもパティも、私たちのために死んでいった。それなのに、あいつらの覚悟を無駄にして私は幻想の中生きるつもりはない!!分かったかこの馬鹿神!!」


 そして、そんなラモーネ先生に続くように、リリィ先生もこう言った。


「あ、私も二つ目の選択肢はなしで。確かに惹かれるもんがあるのは確かだけど、私には帰りたい場所があるしね。」


 二つ目の選択肢を選ばずに、一つ目を選択した二人の先生。そんな二人を見て、ナナの覚悟も決まった。


「ボクも・・ボクも、やっぱり、二つ目は選べません。クララにもう一回会いたい気持ちはあるけれど・・。ラモーネ先生が言った通り、もし命を与えられてもそれはボクが会いたいクララじゃないと思うから・・。」


 これで、ナナ含め三人は一つ目の選択肢を選んだ。自ずと、残る一人、ベティへと全員の視線が向く。そんな中で、ベティはぽつりと声を漏らした。


「私・・私は・・二つ目の選択肢を選びたい・・。」


 そのベティの発言を受け、エンキだけが上機嫌になり、ナナ含めた三人は唖然とした表情を浮かべる。


「おい!!どうしてだベティ!?もしパティに会えるとしても、それは本物のパティじゃねえんだぞ!?それでもいいのか!?」


 ラモーネ先生がベティに問いかける。その表情からは、ベティを引き留めようとする必死さが伝わってくる。しかし、ベティはその瞳から涙を流しつつも、ゆっくりと首を横に振った。


「ごめんなさい、ラモーネ先生・・。でも、私は・・たとえそれが偽物だと分かっていても、パティ先生のそばに居たいの。パティ先生が私に見せてくれた光は眩しくて・・あまりに眩しすぎて・・私は、もうその光の下じゃないと生きていけないから・・。」


 ベティが涙ながらにそう告げると同時、エンキが映像の中でパチンと指を鳴らす。その瞬間、ベティの姿はナナたちの前から消えた。


「おい!!ベティをどこへやった!?」


『え?だってあの子は二つ目の選択肢を選んだんでしょ?だから、この地下空間じゃなく、上の教室に送ってあげたんだよ。』


 ラモーネ先生の問いに、あっさりとそう答えるエンキ。ラモーネ先生は、「くそ!!引き留められなかった・・。」と悔しそうに呟き拳を握る。そんなラモーネ先生の肩に手を置き、リリィ先生は「あんま自分を責めすぎるなよ?お前は悪くない。」と慰めていた。ナナは、そんな二人を少し離れた位置から見守っていた。

 

『さて、お前ら、ベティのことはもう忘れな?あの子は、馬鹿なお前らとは違い賢い選択をした。むしろ褒めてやるべきだよ!!」


 エンキはそう言うと、再びパチンと指を鳴らす。すると、何故か大勢のピティーが現れ、ナナたちを取り囲んだかと思うと、一斉に銃口を向けた。


「・・おい、これはどういうことだ?」


 突然の事態に若干困惑気味にそう尋ねるラモーネ先生に、エンキはこう告げた。


『え?いや、実は皆二つ目の選択肢を選ぶと思っててさ。ぶっちゃけ、このまま帰すとちょっと厄介なことになるから、ここで殺しておこうと思って☆』


 軽い口調で告げられた、殺人予告。その唐突さとあまりに理不尽な物言いに、皆一様に固まってしまう。そんな一同に対し、エンキは再びこう告げた。


『特に厄介なのはリリィとラモーネ!!お前らだよ。お前たちの血筋は、何度も私のゲームに参加している上に、一部は生き残って私が大っ嫌いな殺人鬼と手を組んでる。』


 エンキはそう言うと、まずリリィ先生の方を指さす。


『まずリリィ~!!お前の血筋だと、お前の姉のルル、そしてその娘のララ・・そのどちらも、私のゲームで死んじゃいました~☆でも、ララの作ったロロってロボットがあいつに協力してるから、ここでお前が死ぬのはー・・決定じこー!!ってことで。』


「・・は?」


 思わず聞き返してしまったという様子のリリィ先生。しかし、エンキはそんなリリィ先生は無視して、次にラモーネ先生を指さす。


「そして、ラモーネ。・・いや、ラモーネ・ノックスって呼んだ方が良いかな?お前の娘二人・・シャーロット・ノックスとメアリ・ノックスはどっちも私のゲームに参加したよ。妹の方は殺せたけれど、姉の方はしぶとくてねー。今もめんどくさいポジションで動いてるから、私を煩わせている罪で、母親であるお前が死ね☆」


「何だって・・?」


 ラモーネ先生もすぐ反応することは出来ない。と、ここにきてリリィ先生がようやく怒りの叫び声を上げた。


「お前か・・お前が姉ちゃんを殺したのかぁぁぁぁ!!!」


 映像に向かって飛びかかろうとするリリィ先生。しかし、その途中でラモーネ先生に止められてしまう。リリィ先生は、引き留められたことに対して怒り、ラモーネ先生を睨み付けた。


「おい!!何で止めるんだよラモーネ!!お前も家族を殺されたって言われたんだぞ!?私の気持ちは分かるだろ!?」


 ラモーネ先生はリリィの問いかけには答えず、真剣な表情でエンキにこう尋ねた。


「メアリ・・妹の方が死んだのは、何年前・・?」


『ん~?いつだったっけな~?確か、一年前くらいだったかな?アイドルとかおかしなことばっか言って、変な歌歌うだけで何もせずに死んじゃったよ!!アハハハハハ!!!・・ん?』


 しばらく愉悦に浸って笑い声を上げていたエンキであったが、ラモーネ先生の顔を見て笑いを止めた。そして、心底理解できないといった様子でこう尋ねた。


『お前・・何で笑いながら泣いているの?それはどういう感情なわけ?そこは怒るべき場所じゃない?』


 エンキの言うとおり、娘の死を知らされたはずのラモーネ先生は、涙を流しつつも笑みを浮かべていた。ラモーネ先生は、絞り出すようにこう呟く。


「良かった・・。メアリ、貴女、生きてたのね・・。そして、自分の信じられるモノも見つけることが出来ていたのね・・。これで、長年抱いていた後悔が一つ晴れた・・。」


 エンキは相変わらず意味が分からないというように首をかしげていたが、『ま、いいか。どうせ殺すし。』と言って、再び合図を送った。


『じゃあ・・バイバイ☆』


 エンキが指を鳴らし、ピティーたちが手に持った銃が一斉に火を噴く。しかし、放たれた銃弾は、ナナたちに届く前に、巨大なプリンの壁によって遮られた。


『・・ちょっと~、そこは空気読むところじゃない?てか、お前のギフト、そんなこと出来るような設定にしてなかったはずなんだけれど?』


 ピティーの銃撃をあっさり防がれたことに対して、エンキから不満げな声が漏れる。そんなエンキに対し、ラモーネ先生は堂々とした態度で胸を張ってこう告げた。


「確かに、私のギフトは最初は唯プリンが作れるだけだった。でも、私は自分の夢のため、このギフトを極めたんだ!!人間のことを舐めてるらしいお前に、我がノックス家の家訓を教えてやるよ・・!!」


 自分に突きつけられる銃口にも、神からの威圧にも負けることなく、ラモーネ先生は高々と吠える。


「“自分の選んだ道を信じて突き進め”!!その家訓の通り、私は貴族の身分を捨て自分の夢を選び、そして我が娘たちも、一人は探偵の道に進み、そして、もう一人はアイドルという道を選んで最期まで輝き続けた!!そんな娘を誇りに思うことはあれど、その死に悲しむことはない!!ノックス家の・・私たち家族の誇りを舐めるんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!」


『・・ふーん。でも、そんな誇り、死んだら何の意味もないよ?』


 エンキは冷ややかな声でそう返すと、再度指を鳴らしピティーたちに合図を送る。そして、先程よりも激しい銃撃がナナたちに襲いかかった。ラモーネ先生はとっさに自分の背後にナナとリリィ先生を庇い、プリンの壁を再び構築するが、あまりにも銃撃の勢いが激しすぎて、次第に銃弾が壁を突き破り、ラモーネ先生の身体に傷をつけていく。


「やめろよラモーネ!!何でそこまでして私たちを守ろうとするんだ!!」


 リリィ先生が傷ついていくラモーネ先生を見て泣きそうになりながら叫ぶ。ラモーネ先生は、首だけ後ろに振りかえってにこっと笑みを浮かべた。


「・・今の私は、“先生”だからな。生徒と仲間を救うのは、当然だろ?」


 そんな中で、ナナは、ラモーネ先生の背中で、ただ祈ることしか出来なかった。

 誰か、ボクたちを助けてください・・!!神には・・祈れない。ナナの頭に浮かんだのは、親友の優しい笑み。

 クララ・・!!どうか、ラモーネ先生を・・!!皆を、助けて・・!!


 その時、突然銃撃の音がピタリとやんだ。『おい、どうした・・?何で銃撃をやめたの?私、何も指示してないよね?』というエンキの困惑した声が聞こえてくる。そんな主の問いかけに対し、答えるピティーもまた戸惑いを隠しきれない様子だった。


「わ、分かりません・・。でも、何故か急に身体が言うことを聞かなくなり・・。しかし、この感覚は主に命令された時のもの・・。」


 ナナは、プリンの壁の横からそっと様子をうかがう。見えたのは、銃を下ろし、しかし何故自分がそんな行動をとったのか分からずうろたえるピティーたちの姿と、そんなピティーたちを見て困惑するエンキ。この現象の原因を探すため巡らせた視線があるモノを捉え、エンキは仮面の奥で目を見開いた。それと同時に、ナナもそれ(・・)を見つけ、思わず息を呑んだ。


 そこに居たのは、自分の首を首を抱えて立ち上がるクララ。その口がおもむろに開かれ、言葉を紡ぐ。


『あの三人に手を出すな・・。これは、命令(・・)だ・・!!』


 その声を聞いたエンキは、怒りと驚きで声を震わせた。


『まさか・・私の演技(・・・・)をしているのか・・!!?人間の分際で!?・・あり得ない!!第一、たとえ意識が残っていてもその状態で演技するなど不可能だ!奇跡でも起こらない限り・・。』


 その時、エンキの視線がナナの方に向けられた。仮面の下の瞳が怪しく黄色に光り、ナナは身体をびくっと震わせる。


『お前か・・?お前のギフトが、この奇跡を起こしたのか?確かにお前からギフトを使用している反応がある。お前のギフトは、一体何だ?』


 エンキはさらに瞳の光の強さを増す。その光を正面から受け止めたナナは、エンキの目の前で丸裸にされたような錯覚を抱いた。


『これ・・私がおふざけで作ったギフトじゃないか・・!!間違って人間に与えてしまっていたのか!!・・ますますお前たちを生かして帰すわけにはいかなくなったよ!!“奇跡”を起こすのは、神だけの特権だ!!』


 そう口にしたエンキの全身から、黄金色のオーラが湧き出し始めた。それを見たラモーネ先生は、顔を引きつらせ叫んだ。


「あれは何かヤバい感じがする!!リリィ!!ピティーたちが固まっている今のうちに逃げろ!!ここは私が食い止める!!」


「でも、それじゃあラモーネ、お前が・・!!」


「殿に一番ふさわしいのは壁を作れる私だろ!!それに、何か知らねえけれど、こいつはナナを危険視しているみたいだ!!なんとしても、ナナだけは生かして帰すべきだって直感が告げてるんだよ!!」


 ためらうリリィ先生にそう叫び、ラモーネ先生は後方に居たピティーを蹴り飛ばす。「さあ、行けぇぇ!!」という合図と共に、リリィ先生はナナを担いで走り始めた。


『逃がすな!!追え!!』


『だ、駄目だ・・!!追う・・な・・!!』


 後方から、二人(・・)のエンキの声が聞こえる。クララは、まだ演技を続けているようだ。しかし、その力が弱まっているのか、それともエンキの力が増しているのか、ピティーの何体かはナナたちを追うべく走り始める。


「させるか!!」


 その眼前にプリンの壁を出し、ラモーネ先生は足止めに徹す。だが、三体ほどのピティーが壁を飛び越えナナたちに向かってきた。


「おいおい!!逃げるって行っても、この先食堂しかないぞ!!どうすりゃいいんだよ!!」


 そう文句を口にしながらも、リリィ先生は必死で走り続ける。振り向きざまに背後のピティーに唾を吐き、一体が苦しみながら倒れた。残り二体。一体がジャンプしてリリィ先生の背中にしがみつくナナに襲いかかろうとしたが、その時横の牢屋から何かが飛び出し、それにぶつかって地面に崩れ落ちた。その拍子に、もう一体も崩れ落ちた仲間につまずき転倒してしまう。

 ナナは、牢屋から飛び出したモノの正体を見てあっと声を漏らした。この牢屋はナナの牢屋だ。そして、ピティーにぶつかったのは、割れたっきり放置していた皿の破片だった。


「よし!!もう少しで食堂だ!!食堂入ったら、とりあえず扉を閉めて時間を稼ぐぞ!!」


 リリィ先生の言葉通り、あともう少しで食堂に着くというところで、目の前に一体のピティーが現れた。


『人間にしちゃあよく頑張ったなてめぇら。・・まあ、あとはオレに任せな。』


 目の前のピティーは、その目を赤く光らせ(・・・・・)そう言った。その瞬間、ナナとリリィ先生の身体を赤い光が包み、二人の姿は地下空間から完全に消えたのだった。



《ラモーネside》


 ラモーネは、ただひたすらプリンを生成し続け、ピティーたちを押しとどめていた。それでも全員は押しとどめることが出来ず、何体かは後ろに逃してしまっている。果たして、ナナとリリィは無事だろうかと案じつつ、ラモーネの方も既に限界が近づいてきていた。先程、ついにクララが演技を続けることが出来なくなり倒れてしまった。これで、ピティー全員が動けるようになった。

 最早これまでか・・。ラモーネが半ばあきらめかけたその時、急に目の前のピティーたちの瞳から光が消え、一斉に地面に崩れ落ち始めた。突然の事態に困惑するラモーネの後ろから、聞き慣れない声が聞こえてきた。


『やあエンキ。てめえの人形の身体はなかなか快適だな。ついつい奪っちまった。・・まあ、オレの許可なく人間を殺そうとしたんだ。これくらい許されるよなぁ?』


 その声に対し、唯一立っているピティーが持つモニター越しに、エンキが忌々しげな声を上げた。


『ロキぃぃ・・!!君、私のゲームには干渉しないって言ってたじゃないか!!何で君がここにいるんだよ!!』


『いや、虫の知らせって奴?何か知らないけれど、お前がいつも以上にヤバいことをしてるって予感がビンビンきたから、ここに潜り込ませてもらったわけ。・・まあ、案の定ゲームのルール無視して殺そうとしやがって。どういうつもりだ、おい?』


『・・なるほど。あのナナってやつの幸運がお前を呼び寄せたのか。そして、今気づいたけれど、六日目に参加者に“魔女”もまた首輪で首をはねられることを教えたピティーは君だね、ロキ。私は、あんな指示をピティーには出していない。』


『ご明察。覚悟を決めたそこのプリマ・ドンナの舞台を無駄にしたくなくてね。オレは黒子に回らせてもらったよ。』


 そう言うと、ロキはパチンと指を鳴らす。すると、その身体が白い少女から際どい衣装を身にまとった妖艶な美女へと姿を変えた。そして、エンキとロキはそのままにらみ合う。その間に挟まれたラモーネは、完全に居ないもの扱いされていた。ラモーネは、この状況を喜ぶべきか戸惑いつつ、ただ成り行きをじっと見守ることしか出来なかった。


(いや、何さらにヤバそうなの来てるのさ!?てか、私完全空気じゃねえかこれ!!どうしろっちゅうねん!!)


『くそ・・あれを逃がしたのは痛い・・。ロキぃ、君、責任とれるわけぇ?』


『責任も何も、お前がルール無視すんのが悪いだろ。それに、いい加減お前は痛い目見るべきだ。』


 ロキのその言葉に、エンキの瞳の光がさらに激しさを増した。


『へえ!!君のその言葉、まるで人間に私が殺されることを望んでいるように聞こえるんだけれど、そうとっていいんだね!?君がもしそのつもりなら、私は君と戦う覚悟は出来てるよ?』


『ああ、そうとってもらってもかまわねえぜ?ただし、お前が死ぬときは、オレも一緒に死ぬ。お前を止められなかった責任は、オレにもあるからな。こっちも戦う覚悟はとうに出来てる。でも、それは・・今じゃあ、ないよな?』


 ロキはそう言うと、パチンと指を鳴らした。その瞬間、この地下空間が揺れ始め、天井がボロボロと音を立てて崩れ始めた。


『おい!!ロキ、君、何するんだ!!』


『いや、とりあえずこの学園はぶっ壊しておこうと思って。こんな胸くそ悪い場所、居るだけで吐き気がする。』


『くっそ・・!!これ作るのに結構時間かけたんだぞ!!覚えておけよロキ!!次会うときは殺してやる!!』


 エンキはそう捨て台詞を残し、指を鳴らす。すると、モニターを持っていたピティーだけが、黄色い光に包まれる。


「では、ロキ様。我が主がこう仰っておりますので、次会うときは覚悟しておいてくださいませ。」


 ピティーは、ロキにそう言い残し、お辞儀をして消えていった。

 

『さて、オレもそろそろ帰るかー。』


 ピティーが消えたのを確認すると、ロキは一人そんなことを言い出した。

 ・・いやいや、ちょっと待てよ。あんた、何か忘れてませんか?


「いや、そろそろ帰るかー・・じゃないから!!私に少しは触れろよ!!誰か分からないけれど!!」


 今まで蚊帳の外で完全に空気と化していたラモーネが声を張り上げると、ロキは面白そうに眉を上げた。


『おお?このオレにそんな口がきけるなんて、お前なかなかの大物だな?』


「そういうのいいから!!まず、さっきの話を聞く限り、ナナたちは逃がしてくれたんだよな!?ありがとう!!で、もし良ければ私も助けてほしいんだけれど・・。」


『え?まあいいけど。』


「返事軽っ!?まあ、助けてくれるならいいか。・・あっ。」


 自分も何とか助かりそうだと知り安堵したラモーネであったが、そのとき、ある生徒の顔が頭に浮かんだ。『おい、どうした?逃げるんなら早くしたほうがいいぞ?もうすぐここは完全に崩れる。』と話しかけてきたロキに対し、ラモーネはこう尋ねた。


「上の階にまだ生徒が一人居るんだ。その子は、エンキの提案を受け入れて幻想の中生きることを選んでしまった。・・その子も救える?」


『・・いや、エンキの生み出した幻想から抜けだすには、そいつの意志が必要だ。あの世界を無理矢理怖そうとすれば、その中に居る奴も死んでしまう。』


 その答えを聞いたラモーネは、ロキにこう頼み込んだ。


「・・それなら、私を上の階に連れて行ってくれ。何とか説得出来ないか試してみる。あの子を・・生徒を見捨てて、先に逃げることは出来ない。」


▼▼▼▼▼


 ロキにより上の階へと連れてこられたラモーネが見たのは、まさに四日前までの自分たちそのものだった。


「わーい!!待て待てーーーい!!」


「ふははは!!このファラちゃんには追いつけまい!!」


「ふ!!グラーフ姉と力を合わせれば、貴様など袋のネズミよぉ!!」


「こら!!あんまり廊下を走るんじゃない三人とも!!」


「ふふ・・皆楽しそうだべー。」


「ホントだねー。」


 三つ子は、三人で仲良く追いかけっこをしている。そして、そんな三人をトットが注意し、その様子をナナとクララの二人が見つめる。


「おーい皆ー!!お昼ご飯出来たぞ☆」


「早く来ないと私が食べちまうそー!!」


 そしてそんな生徒たちに、自分とリリィが声をかける。その光景は、まさしくあの楽しかった学園生活そのもの。しかし、違うのは、皆若干透けているところと、既に壁にヒビが走り始め、今にも崩れそうなところだ。

 

「くそ・・!!何が命を与えるだ!!やっぱりこんなのただの幻想じゃねえか・・!!」


 そして、ついに見つけた。壁の隅にうずくまっているベティの姿を。その頭を隣に座るパティが撫でている。だが、その姿もやはり透けていた。この空間の中で、本当に生きているのはベティだけだ。


「おい!!ベティ!!聞こえるか?ここはもうじき崩れる!!先生と一緒に逃げるんだ!!」


 ラモーネはそう言って手を伸ばす。ベティはその声に反応して顔を上げたが、その頭を再び隣のパティの幻影が撫で、優しい言葉を囁きかける。


「大丈夫よ~。ベティちゃん。先生と一緒なら、何も怖くないわ~。・・だからこうして、ずっと一緒にいましょ?」


「駄目だ!!ベティ!!幻にだまされるな!!先生の手を取るんだ!!」


「さあ、幻の中で、優しい夢を見続けましょ~?」


「私と一緒に来てくれ!!生きるんだ!!ベティ!!」


 ベティは、二人の先生の呼びかけに揺れ、しばらく視線を彷徨わせていたが、やがて、ラモーネの方を見て、ふっと悲しげに笑みを浮かべた。


「・・ごめんなさい。わたしは・・先生とは、行けない・・。」


 その言葉を最期に、天井は一斉に崩れ落ち、ラモーネがベティの名前を叫ぶも、二度と返事が返ってくることはなかったのであった。




ーこうして、私たちの学園は、跡形もなくその姿を消した。

 








 


 


 


 


 

クララ

身体能力 2

知性 3

社会性 1

運 3

能力の強さ 5


ギフトの能力・・『演技がうまい』その役になりきればなりきるほど、その役柄の能力が使いこなせる。この能力の応用範囲は広く、意志の強さ次第でアンデッドや神にもなりきれる。


ベティ

身体能力 2

知性 2

社会性 1

運 2

能力の強さ 2


ギフトの能力・・『色を変化させる』


リリィ

身体能力 3

知性 3

社会性 3

運 3

能力の強さ 3


ギフトの能力・・『体液が毒』また、体内で毒に対する抗体も作ることが出来る


プリン・ア・ラモーネ(本名はラモーネ・ノックス)

身体能力 4

知性 4

社会性 4

運 4

能力の強さ 1


ギフトの能力・・『おいしいプリンが作れる』


ナナ

身体能力 2

知性 2

社会性 4

運 測定不能 

能力の強さ 未知数


ギフトの能力・・『運がいい』


ようやく4th stage 終了しました!!いやー、ほんっとに長かった!! 

明日、恒例の裏話&5th stage キャラ紹介を活動報告で行います!!お楽しみに!!

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