七日目
ソニア「おい作者ぁ!!!あんな気になるところで切ったくせにどんだけ読者待たせてるんだーー!!」
作者「ひぃぃ!!すいませーん!!」
ソニア「謝るんならいい!!許す!!」
作者「や、優しい・・。」(キュン)
《クララside》
三日目の夜、ナナに語った決意。しかし、その決意は果たされることなく、マグナは死に、グラーフの精神は壊れてしまった。
牢屋の中でマグナの死体を抱きかかえるグラーフを見た時、クララが感じたのは、激しい後悔と怒りだった。
もし昨日のうちに勇気を出して三つ子を仲直りさせていれば、グラーフがここまで打ちのめされることはなかったのではないか。そんな自分の弱さに対する後悔と怒り。
その二つの感情が渦めきあい、そして、最後に仲間を殺されたことへの怒りがこみ上がってきた。しかし、それは“魔女”に対する怒りではなく、あくまでもこの状況を作り出したエンキの理不尽さへの怒り。
クララは、自分の中にこれほど強い感情が眠っていたことに驚いた。昼の間、感情のままに叫び出したくなるのを我慢するのに必死でその他のことが何も考えられなくなるくらいだった。
ナナは、クララの様子がどこかおかしいのに気がついてか声をかけてくれた。しかし、声をかけてくれたナナの方が顔色が悪かったので、クララは心配をかけないようにとあえて普通に振る舞った。おかげで、ちょっと演技力がついたかもしれない。
三日目の夜、自分の牢屋に戻ると、そこには一冊の絵本が置かれてあった。どうやら、牢屋にいる間の暇つぶしとして全員に配られているようだ。
絵本のタイトルは、『首なし騎士とわがまま王女』。首がないデュラハンと呼ばれるアンデッドの騎士が、死んでもなお自分が仕える王女様を守り続ける話で、こういった物語が大好きなクララは、すぐ最後まで読み進めたが、肝心のオチ数ページだけが破り捨てられており、ひどく裏切られた思いになったところで意識が闇へと吸い込まれていった。
四日目の朝、今日は良いことと悪いことがあった。良いことは、“魔女”に襲われたというパティ先生が一命をとりとめたこと。悪いことは、グラーフが自殺していたことだ。
牢屋の中で一人寂しく揺れているグラーフの姿を見て、クララは再び強い自責の念と怒りに襲われた。つい数日前まで、マグナもグラーフも、あんなに楽しそうに笑っていたのに、今では声を聞くことすら叶わない。
もっと何か自分に出来ることはなかったのか。グラーフの精神状態が危険なことは分かっていたはずなのに、何故自分は友達として声をかけたりしなかったのか?
皆自分のことで精一杯だった?他人のことを考える余裕はなかった?・・クララは、自分がそこまで追い詰められていたとは思えなかった。自分には、仲間のために何か出来ることがあったはずだ。
結局、クララは弱いままだ。ナナに決意を語った三日目の夜から全く成長していない。
このままではいけない。今日は運良く“魔女”による犠牲者はいなかったが、明日もそうなるとは限らないのだ。自分に出来ることは何か、考えなければ・・。
その時、クララの頭に浮かんだのは、あの絵本だ。首が取れても動くアンデッドの騎士。もしも、自分があの騎士のように動けたら・・“魔女”の姿を見ることが出来るかもしれない。
クララのギフト、『演技がうまい』という能力。この能力は、演技をしてその役になりきればなりきるほど、その役と同じ力を発揮できる能力だ。クララが心の底から自分がアンデッドだと思い込めば、自分の牢屋に入らずに首輪の刃で首を切られても、意識を保ち続け“魔女”の姿が確認できる。
クララは、そう思い牢屋から外に出ようとする。しかし、なかなか一歩が踏み出せない。額からは自然と冷や汗が流れ出していた。
クララの足を止めたのは、死への恐怖だった。もし、上手に能力を発動出来なかったら、首をはねられた時点で即死だ。それに・・たとえこの策が上手くいったとしても、あくまでなりきるだけで本物のアンデッドになれるわけではないから、いつまでも意識を保つのは無理だろう。そうなれば、待ち受けるのは確実な死だ。
結局、その日の夜は、あと一歩が踏み出せないまま、首元に刺さる痛みにより終わることとなってしまった。
六日目の朝。やはり犠牲者は出てしまった。今度は、トットが“魔女”に殺されてしまった。
・・もうためらっている場合ではない。クララは、トットの死体を見て、仲間のために、自分が出来ることをする決意を固めた。
「おいおい、クララが話があるとか珍しいこともあるもんだな。・・で、どうした?具合でも悪い?」
クララは、相談したいことがあると、食堂へ向かおうとしたラモーネ先生を呼び止めトイレに連れ込んだ。ラモーネ先生を呼んだのは、クララの考えた作戦を実行するには、協力者が必要だったからだ。だから、“魔女”とは考えにくく、なおかつ多少ショッキングな出来事にも耐えられる強い精神力の人物を選んだ。
こんな状況下でも生徒である自分を気遣ってくれるラモーネ先生に、今から自分がさせることを考えるとかなり心が痛むが、クララはもう後に退くつもりはなかった。ラモーネ先生に、昨日の夜自分が考えた作戦を説明する。最初は真剣な表情でクララの話を聞いていたラモーネ先生だったが、途中からその顔色が真っ青になった。
「おめえ・・!!そんな危険な真似させられる訳ねえだろ!!そんなこと絶対にやらせねえからな!!」
ラモーネ先生がクララの作戦に反対するであろうことは想像できた。だから、今朝自分の牢屋から持ってきた皿の破片をポケットから取り出し、それを自分の首に押し当てた。
「おらは本気だべ・・!!もし、先生が反対するって言うんなら、今ここで首を刺して死ぬ!!それくらいの覚悟は出来てるべ!!」
そんなクララを見たラモーネ先生は、より一層顔を青くして絶叫する。
「よ、よせ!!やめろクララ!!何もお前が死ぬことはないだろ!?何で命を投げ捨てるような真似をするんだ!?」
「・・そんなの、理由なんてないべ。皆を助けるために、おらは自分の出来ることをするまでだべ。」
その言葉は、自然と口から出ていた。最早、昨日感じた死への恐怖は今のクララにはない。そして、卑怯だとは思いつつ、ラモーネ先生にこう頼み込んだ。
「・・生徒からの一生のお願いだべ。どうか、おらのすることを止めないでほしいべ・・。」
クララがじっとラモーネ先生を見つめていると、やがてラモーネ先生はうなだれるようにしてクララから視線をそらした。
「・・クララの覚悟は分かった。でも、皆牢屋の中に入ってる中で、お前一人だけ外に出るのは“魔女”にも怪しまれるぞ。」
まだ納得はしていないかもしれないが、ラモーネ先生はクララの覚悟をしっかりと受け止めてくれたようだった。そのことに心の中で感謝の言葉を述べつつ、クララは答えた。
「そのことについても、もう考えてあるべ。・・今から、おらはわざと“魔女”のふりをするべ。処刑された“魔女”なら、牢屋の外にいてもおかしくはないべ。本物の“魔女”も、おらがおかしくなったと思うだけなはず・・。ただ、“魔女”を演じる間、おらはアンデッドを演じることは出来ないから、ラモーネ先生には、もしおらが殺されそうになったら、ぎりぎりのところで止めてほしいんだべ。」
その答えを聞いたラモーネ先生は、声を震わせる。その表情は、悲しみで満ちあふれていた。
「おい・・。それだと、おまえは皆から“魔女”と思われたまま死ぬことになるじゃねえかよ・・!!お前は・・お前は、それで本当にいいのか!?」
そう強い口調で問いかけるラモーネ先生は今にも泣きそうだ。しかし、クララは笑顔でこう答えた。
「・・おらは、あの学園で一緒に過ごした皆が大好きなんだべ。そんな皆の助けになるなら、おらは嫌われたって本望だべ。」
クララは、ここに初めて来た時、そしてその後の楽しい三日間の学園生活のことを思い返していた。
小さいときから気が弱く、訛りもひどかったせいでろくに友達も作れず、いつも笑われてばかりだったクララ。そんなクララを、ここにいる皆は優しく受け止めてくれた。あの三日間は、クララにとってかけがえのない宝物だったのだ。
その後・・食堂で、ファラがナナとクララの二人を“魔女”だと疑い始めたのをきっかけに、クララは“魔女”になりきることを決意した。
こういう時は形から入ることが大事だ。方言は頑張って封印する。三つ編みにしていた髪も振りほどいて全く違う自分になることを意識する。
そして、“魔女”は自分が思いつく限りの悪人をイメージして演じた。途中、思ってもいない悪口を言う時はついつい心が痛んで泣き出しそうになったが、そんな気持ちは無理矢理笑ってごまかす。
クララが“魔女”を演じきる中、ラモーネ先生も必死で皆を止めてくれた。そのおかげで、クララは何とか殴り殺されることだけはなかった。
夜が近づき、皆が去って行く。しかし、クララにとってはここからが本番だ。去って行く皆に聞こえないくらいの小さな声で、自分に言い聞かせるようにこう呟き続けた。
「おらは、アンデッド・・。首をはねられても死なない・・。」
そして、ついにその時はやってきた。首に冷たいモノが当たったと思った瞬間、視界がひっくり返る。
しかし、不思議と痛みは感じなかった。意識もちゃんとある。手足も自由に動かせた。どうやら、アンデッドになりきることに成功したらしい。
クララは、生首の状態でほっと息をつく。地面に落ちた時に、目が床を向いてしまったので、“魔女”の姿が見えるよう位置を調整する。
その数分後、ふいに牢屋の扉が開く音が聞こえ、それに続いて足音が聞こえてきた。クララは、瞬きをしないよう注意しつつ、その人物の顔をはっきり見た。その人物は、クララのことなど全く気にかけずに歩いて行く。まあ、普通死体を警戒する者はいないだろう。
暗闇の中でもはっきりと見えたその人物の顔・・それは、全く予想外のものであった。
そして、今。七日目の朝を迎え、ナナがクララの前で泣き崩れている。そんなナナを慰めてあげたいが、そろそろクララが意識を保てる時間も限界のようだった。
薄れゆく意識の中、それでも伝えなければならないことだけは伝えようと、クララは自分の首を抱えて立ち上がり、皆の驚愕の視線を一身に受ける中、その人物の顔を指さし、こう言った。
「魔女の正体は、貴女だべ・・!!パティ先生・・!!!」
《パティside》
パティの目の前で、先ほどパティが魔女であることを糾弾したクララが地面に崩れ落ちる。ナナが悲鳴をあげてクララに駆け寄り、ラモーネとリリィの二人は緊迫した表情でパティを捕まえようと動き出す。パティは、とっさに腕を振り抵抗しようとしたが、その攻撃は突如目の前に現れた巨大なプリンの壁により塞がれ、パティ自身もプリンに押しつぶされ身動きがとれなくなってしまった。
ドッチボールの時見せたラモーネの強さからも、こうなることは予想できた。自分が"魔女"であることを知られてしまった時点で、最早パティに勝ち目は残されていなかったのだ。
どうしてこんなことになったのだろうか。計画は完璧だったはず・・。いったい何が間違っていたのだろうか。
パティは、全てが始まった一週間前のことを走馬灯のように思い返していた。
創造神が造り出したと言われるこの世界は、一つの大きな大陸で出来ている。その大陸には、五つの国があり、パティが産まれたのはそんな国の一つ、ノールコンテルージュだった。
パティは、ギフトの能力を買われ、王国の女騎士団の団員の一人として雇われていた。
パティのギフトは、『身体の一部を刃物に変える』能力。戦場に武器を持たずに赴き、それでいて大量の戦果をあげる彼女のことを、仲間の騎士団は『無手の鬼人』と呼んだ。
その日、パティは隣国のゼポスト・ウェステゥンへの遠征を終え、自宅に戻ってきた。しかし、いつもならおかえりなさいと声をかけてくれる母親の姿があるはずなのに、そこに母親の姿はなく、その代わりに全身真っ白の少女がいた。
思いもよらぬ光景に固まってしまったパティ。そんなパティに少女は深々と頭を下げ、こう告げたのだった。
「初めまして。ピーチ・パティ。貴女の母親は私の主が預かっています。返してほしければ、今から私が言うことを聞いてください。さもないと、貴女の母親の命はありませんよ。」
・・そう、この時だ。この時から、パティは"魔女"になったのだ。
白い少女・・ピティーが告げた内容はとんでもないものであった。明日、パティを含めた十人の女たちが、とある施設に集められる。はじめのうちは、パティも含めた三人の成人した女性が先生として七人の生徒を教える学園生活を送って貰う。
しかし、白い少女の主が飽きたタイミングで、その学園生活は強制終了させられ、そこからパティは“魔女”として全員を殺さなければならないというのだ。
「これは、私の主が考えた“ゲーム”です。貴女が参加者全員を殺せば、貴女の勝ち。貴女の母親は返します。そして、他の参加者は貴女を殺せば勝ち。二つの選択肢が与えられます。」
「・・それ、ルール的に“魔女”が不利すぎませんか?」
「いつの時代も、少数派には厳しいものです。ましてそれが罪人ならばなおさら。」
内心の動揺を押し殺し、ルール上の不平等を指摘してみるも、ピティーには一蹴された。
その後もなんだかんだ言い訳してどうにかこのイカレたゲームをやめさせる方法はないかとあがいてみたが、ピティーに対してはのれんに腕押しで全く相手にすらされなかった。・・どうやら、これ以上ごねるのは無駄らしい。それに、あまりごねすぎるて相手の機嫌を損ねてしまってはまずい。こちらは、母親を人質に取られているのだ。
ゲームに参加させられるその九人には申し訳ないが、こちらも母親の命がかかっているのだ。パティは、戦場で敵を殺すのとなんら変わりがないことだと自分に言い訳し、明日から始まるゲームを乗り切ろうとした。
そして、本当に翌日からパティは他の九人と一緒に学園生活を送ることになる。
パティにとって意外だったのは、三日間の学園生活がなかなか楽しかったことだ。何故か生徒の一人に懐かれたりもして、先生をするのも悪くないかもと思えた。
しかし、パティが自分が“魔女”であることを半ば忘れかけていた時に、唐突にそのゲームは始まった。
そこで告げられるルールは、当然パティは事前に聞かされていたもの。ただし、その中で一つパティが知らされていないものがあった。
それは、『魔女は自分のギフトを偽っている』という情報。パティは確かに、自己紹介の時嘘の『ギフト』紹介をしたが、それはピティーにそうしろと指示されたから急遽したことであって、自分の意志ではなかった。
三日目の夜、皆が寝静まった地下空間で、パティはピティーを捕まえて抗議をいれた。
「ちょっと、あんなルール聞いてないんですけれど!?これじゃあ“魔女”特定余裕でされちゃうじゃないですかー!!」
「まあ話してませんでしたからね。ただ、安心してください。あの情報だけでは貴女が“魔女”とは特定出来ませんよ。我が主から貴女へのメッセージです。『ファイト☆』」
「やかましい。」
ただ、すぐ特定されないにしても、パティは既にこの三日間でいろいろとやらかしていた。
まず、ドッジボールでは思わず力が入って、ボールを切り裂いてしまったし、ベティの髪の毛を手ハサミでカットもしたし、プリンを作る際は面倒くさがって包丁を使わず手を刃物に変えて果物を切ろうとしたので、マグナの磁力に引き寄せられ倒れてしまった。あの時倒れる拍子にボウルを引っかけこぼしてしまったことで勝手に皆が勘違いしてくれて本当に良かったと思う。
となると、パティの本当のギフトを知っていそうなベティか、ギフト的に天敵であるマグナは早めに殺しておく方がいいだろう。
しかし、そう考えた時、「パティ先生」と自分を呼ぶ二人の顔が浮かんだ。自然と息も荒くなってくる。出来れば、あんな仮初めの学園生活などさせないでほしかった。三日という期間は短いようであまりにも長く・・そして、濃かった。
結局、葛藤の末、パティはマグナを殺すことを選んだ。その日、パティは久しぶりに誰かを殺して吐いた。
このままでは駄目だ。このルールは“魔女”に厳しすぎるし、何よりこのままではパティの精神がもたない。
だから、パティは自分の“協力者”をつくることにした。“魔女”に殺されるかもしれない恐怖で震えているベティのもとに近づき、「魔法の言葉」だと言って、耳元でこう囁いた。
「・・実は、私が“魔女”なの。もし私に協力してくれるなら、殺さないであげるわ。でも、もしこのことを誰かに言ったら・・分かるわよね?」
こうして、ベティの協力を取り付けたパティは、自分が魔女と疑われないために、ある小細工を仕掛けることにした。
まず、四日目の夜、皆が寝静まったのを確認し、ピティーにも頼んでベティを起こして貰う。そして、ベティの能力を使い、パティの頭に大きな傷跡があるように見えるよう色を変えて貰った。大量の血は、ベティが水を赤色に変えたものだ。
五日目の朝、ベティに叫び声を上げてもらい、皆を呼び寄せる。そこで、“魔女”に襲われた自分を見て貰えば、自分が“魔女”と疑われることはなくなると考えた。
実際、作戦は成功し、パティに対する疑いは格段に減った。しかし、疑われなくなったはいいが、問題は前日から皆が“魔女”に対する守りを固めてきていることだ。
ラモーネの牢屋に一度入ろうとした時は、扉を開けようとした瞬間隙間からプリンが溢れそうになったので慌てて扉を閉じた。リリィも同じような状態で、彼女は毒液の中に浸かって眠っていた。
出来れば、身体能力も高く、頭も良さそうなラモーネは早めに殺しておきたかったのだが、後回しにするしかないようだ。そこで選んだのが、生徒全員に皿のボディーガードを貸し出しているトットだ。彼女を殺せば、生徒を殺すのはだいぶ楽になる。まあ、相変わらず生徒を殺すのは非常に胸が痛むし、本当はやりたくないのだが。しかし、確かに生徒のことは好きだが、それ以上に、やはり母親を助けたい気持ちの方が強かった。
パティは、「ごめんね。」と呟き、鍵穴めがけ吹き矢を放つ。そのような殺害方法をとったのは、牢屋に入って殺そうとすれば皿に暴れられると思ったからだ。流石に皿に負けるとは思わなかったが、皿が割れる音でもし皆が起きたりすれば大惨事だ。
髪の毛を針状の刃物に変え、それを吹き矢の矢代わりにした。その矢は、トットの心臓を素早く貫き、身体の外に抜けることなく体内に残る。その状態で髪を元に戻せば、凶器なき殺人現場の完成だ。
こうして、トットの殺害にも成功し、次は誰を殺そうかなどとそんなことを考えていた矢先に・・あの“魔女”騒ぎが起こった。
突然自分が“魔女”だと言い始めたクララ。殴られてもなお笑みを浮かべ、皆を罵倒し続けるその様は、パティすら彼女が本物の“魔女”なのかと一瞬思ったほどだった。
結局、クララはラモーネの制止により、その場で殺されることはなかったが、実質このまま放っておけば死ぬのは確定であった。
この時パティは、クララが何故自分が魔女だなどと言い出した理由など深く考えず、ただ自分が殺さずに一人人数が減ってくれたことに安堵していたくらいだった。
それが、クララが“魔女”の正体を見るためにしていたことなど誰が思うだろか?
しかし、結果としては、その判断の甘さが、今こうして捕らえられ、ラモーネとリリィに険しい目つきで見下ろされる現状につながるわけだ。
「悪いな、パティ・・。お前のことは嫌いじゃないけれど、クララの覚悟にこたえるためにも、お前を生かしておくわけにはいかねえんだ・・!!」
ラモーネのその訴えはもっともだと思う。実際、自分は許されないことをした。殺されるのは当然の報いだ。
そう思い、パティは目を瞑った。しかし、いつまでたっても予期していた痛みは襲ってこない。そのことに疑問を感じたパティが目を開けると、そこには驚きの光景があった。
「パ、パティ先生を、は、放せ・・!!そうしないと・・ナナを、こ、殺すぞ!!」
そこに居たのは、今にも泣きそうな表情でナナにナイフを突きつけるベティと、突きつけられたナイフに顔面蒼白になり両手を上げるナナの姿だった。
「お、おい、ベティ!?なんでこんなことするんだ!!パティは“魔女”なんだぞ!!」
「そうだよ。だからそのナイフは下ろそう。な?」
ラモーネとリリィも突然の事態に慌ててベティを止めようとするが、ベティは首を激しく横に振り、二人の訴えを拒否した。
「や、やだ!!二人がパティ先生を放すまで私はこのナイフを下ろさない・・!!そ、それに、パティ先生が魔女だったことくらい、とっくの昔に知ってた・・。」
ベティの衝撃的な発言に、皆が目を丸くする。一方、そんな中でパティはベティの考えていることが分からず、一人混乱していた。
(ベティは一体何故あんなことを言ってしまうんだ?“魔女”の正体がばれたこの状況で私の味方をするメリットなんてないし、第一、あんなことを言えば皆から私の仲間だと疑われてしまう・・!!)
パティの思った通り、リリィからベティへ疑いの言葉が投げかけられる。
「おい、それじゃあベティ、お前は“魔女”のことを知っていたにも関わらず、私たちに黙っていたのか?もしかして・・お前、“魔女”の協力者なのか?」
そして、信じられないことに、ベティはその問いかけに対し、
「うん、そうだよ。・・パティ先生の傷、あれは私が協力して偽装したの。」
そう馬鹿正直にすべて話してしまった。そんなベティに対し、我慢できなくなったパティは疑問の声を投げかける。
「どうして・・?ベティ、貴女がそれを言う必要はないはず。だって、あれは私が脅して無理矢理やらせたんだから・・。」
それに対し、ベティは少し悲しげにこう答えた。
「それは違うよ・・。先生、私は、貴女に脅されて協力したわけじゃ、ないの・・。貴女のことが好きだから・・貴女は、私に光をくれた、素敵な先生だから・・。だから、私は、少しでも力になりたかった・・。今も、そう。私は、最後まで、貴女の味方だよ、パティ先生。」
ベティのその言葉に、パティの頭にあの皆で共に笑い合い過ごした三日間のことが蘇ってきた。自分のことを「先生」と呼び慕ってくれた生徒たち、そして個性豊かな同僚たち・・。
そして、最後に浮かんだのは、初めてベティの素顔を見た時の彼女の恥ずかしそうな笑い顔。
ごめんね。パティは心の中で母親に謝った。私は、もうこの人たちを殺せない。そして、こちらを見つめるベティや、ラモーネにリリィ、そしてナナにも、瞳から涙を流しつつも、何とか笑みを作り、謝った。
「・・生徒にそんな顔させるなんて、先生失格だよね。私は結局、何も分かってなかった。分かった時にはもう、全部遅かった。・・ごめんね。」
そして、パティは自分の指先を刀に変え、一瞬で頸動脈を掻き切った。血に染まる景色の中、最期に叫びながらこちらに駆け寄ってくるベティの姿が見えた。
・・ごめんね。ベティ。でも、貴女を救うには、私は死ぬしかないの。だから・・。
皆をだまし続けた“魔女”。彼女は、最期は“先生”として死ぬことを選んだのであった。
ピーチ・パティ
身体能力 4
知性 4
社会性 4
運 2
能力の強さ 2
ギフトの能力・・『身体の一部を刃物に変える』
皆さん、魔女が誰かの予想は当たっていたでしょうか?
次回、4th stage ラストです!!




