六日目&七日目朝
ソニア「“魔女”が誰なのか、この名探偵ソニアが推理してやろう!!」
シャルン「あんたどこからどう見ても名探偵やなくて“迷探偵”やろ。」
ソニア「黙れ小僧!!いいか、私の推理によれば“魔女”は・・シャルン、貴様だー!!」
シャルン「え・えー!?」
オクター「何故けもフレ風の驚き方を・・。そして村長、その根拠は?」
ソニア「貴様は、昨日私が冷蔵庫に入れていたプリンを食べた!!そんな残酷なことができるのは魔女しかいない!!」
シャルン&オクター「ただの私怨だったー!!」
六日目の朝。この日も、ナナはエンキの無駄に明るい声で目が覚めた。
『さあさあ、そろそろ牢屋暮らしにも慣れてきたかな~?そんなお前らに、今日はとっても素敵なニュースを用意しているよー!』
映像の中でナナたちにそう呼びかけるエンキはやけに上機嫌だ。ナナは、そのテンションの高さに嫌な予感がした。そして・・こういう時の予感は望む望まないに関わらず、得てして当たるものである。
『昨日は“魔女”はちょっぴり失敗しちゃったみたいだけどー・・今日は無事成功したみたいだよー!!いやー、良かったねー!!そして、その記念すべき犠牲者の名前は・・』
そして、エンキは一旦ゆっくりためを置いてからその名前を告げた。
『・・トットでした~!!』
エンキの映像が途切れてから数分後。トットの牢屋の周りには、既に生き残っている七人全員が集まっていた。そして、皆の視線の先には閉まったままの牢屋の扉と、鉄格子の隙間からぐったりとした様子で床に倒れるトットの姿があった。その姿は、外から見る限りでは眠っているだけのように見えなくもない。
昨日のパティ先生のようにまだ生きている望みにかけて牢屋の外から声をかけるも、全く反応はない。何とかして牢屋を開けトットの安否を確かめる方法はないかと模索する一同の前で、おもむろに牢屋が内側から開かれた。ナナは、もしやトットが自力で扉を開けたのかと期待に目を輝かせる。
しかし、そんな期待を裏切り、中から現れたのは、一枚の皿だった。トットによって命を与えられていた皿。そんな皿が、ゆらゆらと不安定に揺れながら、途切れ途切れの言葉を紡いでいく。
「ご、ご主人様、死んだ。皿は、何も、出来なかった。“見えない何か”が、ご主人様の胸を貫い・・。」
そこまで言ったところで、トットのギフトの効力が切れたのか、皿は地面に落ち、パリンと乾いた音を立てて割れてしまった。その数秒後、ナナがいた牢屋や、他の牢屋からも同様の音が聞こえてきた。
地面に散らばる皿の破片を見つめ、黙り込む一同。ラモーネ先生とリリィ先生が、牢屋の中に入り念のためトットの脈を確かめたが、やはり既に脈は止まっていた。
「もう嫌だ!!何でこんな目に遭わないといけないんだよぉぉぉ!!!」
トットが死んでいたことを聞いたファラが、絶叫して地面に崩れ落ちる。ラモーネ先生は悔しげに拳を握りしめ、リリィ先生も顔を伏せている。ベティはパティ先生の腰にしがみついて泣きじゃくり、パティ先生もまた悲痛な面持ちだ。
ナナも、もう限界だった。"魔女"は、扉も開けずに牢屋の中にいるトットを殺してみせた。そんな相手に、いったいどのようにして自分の身を守ればいいというのだろうか。昨日わずかに見えた希望が、一瞬で崩れ去っていくのを感じた。
ナナは、ふと隣のクララを見る。クララの表情は、顔を伏せているせいでよく見えない。しかし、その拳は、震えるほど強く握りしめられていた。
その後、皆無言でその場を離れ、この二日の習性で食堂へと向かう。しかし、ナナは朝食を食べる食欲すら最早なかった。
「すまんな、皆。・・ちょっくらトイレ行ってた。」
トイレに行っていたラモーネ先生が断りを入れつつ食堂に入ってくる。その顔色は先程よりも少し悪い。ラモーネ先生の後ろからは、同じタイミングでトイレに行っていたクララも食堂に入ってきた。
ラモーネ先生は、明らかに自分もそんな気分ではないだろうに、今日も皆のために朝食を作ってくれた。しかし、リリィ先生くらいしか朝食に手をつける者はいない。
「おいおい、皆ー。折角作ったんだから食ってくれよな。作りがいがないだろ?」
ラモーネ先生は一人おどけてみせるが、反応を返すものはいない。そんな中、ずっとテーブルの上に視線を落としていたファラが、ぽつりと呟いた。
「・・ラモーネ先生、もうやめようよ。いつまでこんなことしてるの?」
「・・は?おいおいファラ、何を言って・・」
「いい加減むなしくならないわけ!?もう誰も疑うななんて甘いこと言ってる場合じゃないんだよ!?“魔女”が誰か分からなきゃ、あたしたち皆殺されちゃうんだよ!?」
ファラは机をバンッ!と激しく叩いて立ち上がる。その目は、興奮からか真っ赤に充血していた。
「おい!落ち着くんだファラ!!」
「はっ!!この状況で落ち着けって言われたってもう無理だよ!!」
ファラは、ラモーネ先生の制止も全く効く様子はなく、ふー!ふー!と息を荒らげている。そして、落ち着きなく動かされた視線が、ナナとその隣に立つクララをとらえ、その口元がにやりと怪しく弧を描いた。
「はは・・!!ははは・・!!!あたしにはもう分かってるよ!!おい、お前らのどっちかが“魔女”なんだろ?早く死ねよ!!死んじゃえー!!!!」
ナナは、突然自分へ向けられた疑惑の目と罵倒に激しく動揺し、言葉を詰まらせた。
「な・・!?な、なんでいきなりボクらを疑うのさ!!」
しかし、ナナの反論を受けたファラは、ふいにその表情を消し、ぞっとするほど暗い瞳でナナたちを見据えた。
「・・そんなの決まってんじゃん。あんたとクララ、お前らしかいないんだよ。『ギフト』を使っているのを見ていないのはさ。」
確かに、そこをつかれると痛い。ナナとクララ、二人ともまだ皆の前でギフトを使っていないのは事実だ。しかし、ナナは自分が“魔女”ではないことを知っている。それに、ナナたち二人の他にも、まだギフトを使っていない人は居るはずだ。
「そ、それを言うなら、パティ先生とベティちゃんだってギフトを使ってないじゃないか!!ボクたちだけを疑うのはおかしいよ!!」
しかし、そのナナの主張に対し、意外にも反論したのはパティ先生だった。
「ナナちゃん、ベティちゃんはギフトを使ってますよ~。ベティちゃんは、ギフトで自分の髪を紫色に変えているんですー。・・さあ、見せてあげよっか。」
パティ先生に促され、ベティはおずおずと前に出てくる。その髪は、皆の目の前で徐々に茶色へと変わっていった。あれがベティの元の髪の色なのだろう。
それを見たファラは、勝ち誇ったようにナナとクララに指を突きつける。
「ははは・・!!これでもう隠すことは出来なくなったなあ、“魔女”!!これでベティが“魔女”の可能性はなくなった・・!そしてパティ先生は“魔女”に襲われた被害者・・。残るのは・・お前たちしかいないんだよぉぉぉ!!!」
ファラの指摘に、皆の疑いの目がナナたち二人に突き刺さる。唯一、ラモーネ先生だけは「おい!!やめろ!!なんでクラスメート同士で疑い合ってるんだよ!!」と叫んでいたが、そんなラモーネ先生でさえ、一瞬こちらに向けた視線には隠しきれない疑いの色が含まれていた。
自分に向けられる視線の鋭さに耐えきれず、ナナは思わず叫び声を上げていた。
「やめてください!!ボクは・・ボクは、“魔女”なんかじゃありません!!」
そう、ナナは、自分は魔女ではないことを知っている。そうだとすればすなわち・・。
ナナは、隣に立つクララに視線を向ける。クララは、先程から否定も肯定もせず、ただじっとうつむいていた。しかし、唐突にその肩をくつくつと震えさせ始めたかと思うと、三つ編みに編んでいた髪をふりほどき、その顔を上げた。
「ははは・・。あーはっはっはっは!!!」
皆が唖然とする中、高らかに笑い声を上げるクララ。そんな皆の反応を愉しげに眺めた後、クララはその瞳を怪しく光らせ、こう言ったのであった。
「・・はあ、もう隠すのもしんどいし、ばらしちゃおっか。そうだよ、私こそ・・お前らを殺してきた、“魔女”なんだ。」
その口調には一切の訛りもなく、残忍な笑みを浮かべるその姿には、ナナが一緒の部屋で寝ていたあの優しく気弱なクララの姿はどこにもなかった。
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「やっぱりてめえが“魔女”か・・!!よくも・・よくもグラーフ姉とマグナをぉぉぉ!!!」
目に怒りの涙を浮かべながら今にもクララに飛びかかる勢いのファラ。そんなファラをクララは冷たい目で見下ろすと、ふっと嘲笑を浮かべる。
「確かにマグナを殺したのは私だけどさ。グラーフは自分で死んだんだよ?その責任まで私に押しつけられちゃあ敵わないな。やっぱあんたって馬鹿だよね。」
「う・・うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
クララの煽りにぶち切れたファラが、クララの頬を思いっきり殴る。その勢いで吹き飛ばされるクララだったが、すぐに口元の血を手で拭うと立ち上がり、再びにやりと嫌な笑みを浮かべる。
その姿に再びクララに飛びかかろうとしたファラを、ラモーネ先生が慌てて止める。
「もうよせファラ!!私は・・お前らが憎み合うところなんて見たくない!!」
ほぼ絶叫に近いラモーネ先生の呼びかけに、ファラは視線だけはクララを激しく睨み付けながらも、唇をかみしめ飛びかかるのを抑えた。
そんな二人を見て、クララはまたしても嘲笑を浮かべた。
「あらあら、先生の言葉に素直に従うなんて、ファラちゃんはよい子ちゃんですね~。ラモーネ先生も、そろそろその生徒のことが一番大事ーみたいな態度つまらないよ?やっぱ馬鹿じゃない?」
「お、お前・・!!」
その言葉に、またしてもファラは激高しラモーネ先生の制止を振り切り飛びかかろうとする。だが、その前に、怒りの形相を浮かべたリリィ先生が、クララの顔面を殴りつけた。
「てめえ・・!!ラモーネがどれだけお前らのことで心を痛めてたかも知らねえで・・!!すまんラモーネ、私はもうこいつを許せそうにない・・!!」
しかし、よろめきながらもクララはしぶとく立ち上がり、またしても口角を上げる。その視線が、今度はナナを捉えた。
「それにしても・・屈辱だったのは、ナナ。お前みたいな奴と同列で扱われたことだよ。あんたみたいな奴が“魔女”なわけないじゃん。私が友達のふりをしてあげてるだけってことにも気づかないような鈍い奴がさぁ!!!」
その時、ナナの中で何かがぷつんと切れる音が聞こえた。気がついた時には、ナナは叫び声を上げながらクララの元に駆け寄り、その顔面を思いっきり殴りつけていた。
「もう許さない!!皆を殺した報いを受けてもらうぞ!!・・この“魔女”めぇぇぇぇ!!!」
こうなるともう誰も止めることは出来なかった。怒りのままに、ナナは思いっきりクララを殴り続ける。ファラやリリィ先生も、何かに憑かれたようにひたすら怒りに身を任せクララを殴ったり蹴飛ばしたり・・ラモーネ先生は、涙ぐみながら必死で叫び声を上げているが、誰も聞く耳を持たない。ベティは、そんな皆の様子を見てひたすら涙を流している。パティ先生は、そんなベティの頭を撫でつつも、その視線は鋭く地面に横たわるクララを睨み付けていた。
皆の怒りをすべてぶつけられ、最早クララの顔は見る影もなく腫れ上がっていた。その口からは、ひゅー、ひゅー、とか細い息が漏れている。
そんなクララの様子を見ても、ナナの怒りが晴れることはない。とどめを刺そうと振り下ろされたナナの拳は、寸前で悲しげに顔を歪ませたラモーネ先生により止められた。
「お願い・・!ナナの気持ちは分かる。でも・・クララを殺すことだけはしないでくれ。・・私は、お前に人殺しになってほしくない・・!!」
ラモーネ先生の必死の懇願に、ナナはとっさに頭が冷え、拳から力を抜いた。しかし、とどめを刺さなかったことに不満だったのか、リリィ先生はラモーネ先生に食いついた。
「おいラモーネ!!それならどうするって言うんだよ!!言っておくが、私はこいつを許すつもりはねえぞ!!」
「・・このまま牢屋に入らず深夜零時を迎えれば、首輪から刃が出てどっちみちクララは死ぬだろう。そうなれば、“魔女”は死んで私たちは生きて帰れる・・。別に殺す必要はないんだ。・・それで十分だろ?」
「・・そうだな。でも、“魔女”にもそのルールは適用されるのか?」
ラモーネ先生に問いかけるリリィ先生の目は、確実に今殺しておくべきだと訴えている。しかし、その問いには思わぬところから答えが返ってきた。
「はい。“魔女”にもそのルールは適用されます。それはこの私、ピティーが保証いたします。」
いつの間にか現れたピティーが、それだけ告げると頭を下げ去って行く。一瞬何とも言えない沈黙が一同に走ったが、気を取り直したラモーネ先生がリリィ先生を正面から見据える。
「・・一応、あいつらが嘘をつく理由はないと思う。それでもまだお前がクララを殺したいと願うなら・・私は力尽くでもお前を止める。」
リリィ先生は、しばらくラモーネ先生を睨み付けていたが、やがてふー・・と息を漏らして、苦笑いを浮かべた。
「・・分かった。お前の言うことを聞くことにするよ。」
リリィ先生が納得した以上、ナナもこれ以上とやかく言うつもりはない。既にクララの死は確定事項だ。“魔女”がルールに殺されることを思えば、逆にイイザマだとも言える。
ナナは、自分の牢屋に戻る前に、地面に横たわるクララを一瞥した。
クララは、先程からぐったりとして全く動く気配がない。もしや既に死んでしまったかとも思われたが、よく見るとその口はぱくぱくと動かされ、何事か呟いているようにも見えた。
その痛々しい様子に、一瞬ナナの心に罪悪感がよぎったが、ナナは頭を振りきり、その罪悪感を振り払った。クララは、もうナナが知るあのクララではない。ナナの大事なクラスメイトを二人も殺した“魔女”なのだ。それに・・クララは、自分のことなど友達とは思っていなかった。
そのことに怒りと深い悲しみを感じつつ、牢屋に入ったナナは、深夜零時ちょうどにまたしても深い眠りにつくことになるのであった。
《七日目朝》
『さあ、お前ら、ついに七日目を迎えたわけだけど・・今日も、犠牲者が出ていまーす!!その犠牲者の名前は・・ファラでーす!!あれ?これで三つ子全員死んじゃった?まあでも、あいつら五月蠅かったし、別に問題ないよね!!さあ、お前ら、頑張って“魔女”を見つけて殺してね!!』
七日目の朝、聞こえてきたエンキの声にナナは愕然とした。
「なんで・・?“魔女”は、クララだったんじゃないの・・?」
しかし、確かにエンキは犠牲者の名前を告げた。つまり・・クララは、“魔女”ではなかった・・!?
「でも、でも・・!!確かにクララは自分が“魔女”って・・!!?」
ナナは、言い訳するように一人牢屋の中で呟く。そうでもしないと、クララを間違えて殺してしまった事実に耐えられそうになかった。
「そ、そうだ・・!!多分あのピティーの言葉は嘘で、クララは自分で首輪を外したんだ!そうに決まってる!!」
ナナは、自分の目でその事実を確かめようと牢屋を飛び出した。しかし、その直後、ナナは絶望し地面に崩れ落ちることになった。
ナナの目の前には、首が切断され、大量の血を流すクララの姿があった。その姿は、どこからどう見ても既に死んでいた。
「そんな・・!!い、嫌・・嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ナナの絶叫を聞きつけ、残りのメンバーも慌ててやってくる。そこには、ファラの姿はない。皆一様に顔が青いのは、既にファラの死体を確かめたからかもしれなかった。
「おいおい嘘だろ・・。なんで、クララは死んでるのに犠牲者が出ているんだよ!!クララが“魔女”じゃなかったのかよ!!」
リリィ先生の叫びが地下空間にこだまする。クララの死体をじっと見ていたパティ先生が、ぼそっとこう呟いた。
「・・もしかしたら、最初からこの中に“魔女”などいないんじゃないでしょうか。」
「・・え?」
唐突に告げられたその言葉の意味を理解したくなくて、ナナは思わずそう聞き返す。そんなナナに、パティ先生は絶望的な予測を突きつけた。
「最初から“魔女”なんて私たちの中にはいない・・。エンキ学園長は、私たちが居もしない“魔女”を探して疑心暗鬼になっているのを見て愉しんでいるのだとすればー・・。」
その言葉を聞いたナナの目の前が、一瞬で真っ黒に染め上げられる。もしパティ先生の言うことが正しいとすれば、これはとんだ茶番だ。最初から実態のない黒幕を探して疑心暗鬼になり・・そして、実際、ナナたちはエンキの思い通りに罪のないクララを殺してしまったことになる。
そんなゲームをこれ以上続けることに何の意味があるというのだろうか。どうせ“魔女”に殺されるくらいなら、いっそ自分で・・。
その時だった。その声が聞こえてきたのは。絶対に聞こえるはずのないその声。しかし、その声は確かにナナたち全員に聞こえた。
ナナは、信じられない思いで、目の前のクララの生首を見つめた。その瞬間、かっとその目が開かれ、先程聞こえてきた言葉をもう一度繰り返したのだった。
「おらは・・おらはアンデッド。首をはねられても・・死なない!!おらは見た・・。この目で・・“魔女”の正体を!!」
トット
身体能力 2
知性 4
社会性 3
運 2
能力の強さ 2
ギフトの能力・・『無機物に命を宿す』
ファラ
身体能力 3
知性 3
社会性 4
運 3
能力の強さ 3
ギフトの能力・・『温度を操る』
さて、めちゃくちゃ良いところで切っちゃいます!!もう“魔女”が誰かは分かったかな?次回、ようやく“魔女”の正体が明らかに!!




