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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
4th stage  プリマ・ドンナの献身
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五日目

ソニア「ビューティー&!!」

シャルン「ザ・ビースト!!」

オクター「いやー、『美女と野獣』の実写版凄かったですね~。」

ソニア「ああ!!やはりCDが凄かった・・!!特に、『ディナー』のところは最高だったな!!」

シャルン「ああ!!作者が投稿遅れるのも分かる素晴らしさやったな!!」

*つまりそういうこと

 五日目の朝。この日も、ナナはエンキの脳内アナウンスにより起こされるという最悪な目覚めを迎えた。


『さあさあお前ら、今日もおっはろー!!さて、今日の犠牲者なんだけれどね~・・・。』


 映像の中のエンキは、そこで一瞬間を開けたと思いきや、けらけらと笑い声を上げた。


『わははは!!これは面白いことになったね!!お前ら喜べ!!今日は“魔女”に殺された奴(・・・・・)はいないみたいだよ!!そこのプリン馬鹿の立てた作戦のおかげかもね?じゃあ、お前ら五日目も張り切っていこー!!しーゆー!!』


 自分の言いたいことだけ言って、エンキの通信はそこで途切れる。昨日とは違い、エンキの口から犠牲者の名前は出なかったが、何故かいい知れない不安がナナを襲った。

 その時、牢屋の外から叫び声が聞こえてきた。


「ぱ、パティ先生!?しっかり・・しっかりして!!」


 この声はベティのものだ。とすればやはり・・ナナは唇をぎりっと噛みしめ、牢屋を開け外へと飛び出した。

 ナナがパティ先生の牢屋へとたどり着いた時、そこには昨日と同じように既にクララやラモーネ先生などもやってきていた。昨日と違うところは、牢屋の中にいるのがグラーフではなくベティだということだ。頭から大量の血を流し青い顔で倒れているパティ先生の身体をベティが必死に揺らしている。


(あれ?そういえばグラーフとファラがいないな・・。)


 ナナのそんな疑問は、再び聞こえてきたベティの叫び声によりかき消された。


「い、息がまだある・・!!まだ生きてる!!」


 喜びと驚きの混じったその叫び声に反応するかのようにパティ先生が牢屋の中で「うう・・。」とうめき声を上げながら身じろぎした。その姿を見たラモーネ先生は、一瞬ほっと息をついた後すぐ表情を引きめ皆に指示を出した。


「すぐに止血の用意を!!まだ息があるとは言っても頭の怪我は危険だ・・。リリィ!!おめぇ止血出来る毒とか持ってねえか!?」


「まあ、毒の中に血固める奴はあるけどさ・・。下手すれば死ぬぞ?」


「細かい調節はお前のことを信じて任せる!!毒のエキスパートだろ!?」


 ラモーネのその言葉はリリィ先生のプライドを刺激したのか、リリィ先生は口角を上げると、力強く応える。


「・・OK!任せときな!!」


 そして、リリィ先生は毒の瓶を一気飲みし、パティ先生の傷口に口を近づけると、舌を伸ばす。

 しかし、その舌が傷口に触れる前に、パティ先生本人がリリィ先生の腕をつかみ、それを止めた。


「・・何をしようとしてるんですか~、リリィ先生ー。私、そういう趣味はないんですけれど~。」


「いや、舌で舐めた方が細かい毒の調整が効くのよ・・。ウフフフフ・・。」


 リリィ先生の目は怪しい光を帯び、頬も心なしか上気している。どうやら、毒を口に含んだことでトリップしてしまったらしい。その後、リリィ先生はラモーネ先生に頭を思いっきりはたかれて正気に戻ったが、結局パティ先生自身が毒での治療を拒んだため、ベティが持っていた頭に包帯を巻いて止血することになった。


「この包帯はどこにあったんだべ・・?」


「こ、この包帯は昨日私の牢屋に置いてあったんだ・・。な、なんか腕に巻いて中二病ごっこ?をするようにって・・。」


 クララの疑問に答えつつも、顔だけはパティ先生の方を向いたまま、ベティは止血をしていく。パティ先生の頭からは相当な量の血が流れているようで、すぐに包帯は真っ赤に染まり、止血をするベティの手も真っ赤になっていた。


「もう大丈夫ですよベティ~。それ以上触ったら貴女の可愛い手が汚れちゃいますー。」


 そう言って笑みを浮かべるパティ先生の顔は青いが、ベティの頭をなでる手は力強かった。その様子を見た一同は、ひとまず安堵して肩を下ろした。パティ先生には牢屋の中で安静にするよう言い残し、その場を後にする。

 しかし、その時になって、急にクララがきょろきょろとあたりを見回し始めた。ナナは、「どうしたの?」と声をかける。


「いや、そういえばグラーフちゃんとファラちゃん見てねえなって思って・・。二人ともどこだべか?」


 クララのその指摘を聞いた瞬間、皆の顔色が一斉に変わる。真っ先にグラーフがいた牢屋へとかけだしたのはラモーネ先生だ。その後にリリィ先生、トット、ナナ、クララ、ベティの順に続く。

 グラーフの牢屋も他の人の牢屋と形状は変わらない。上半分が鉄格子になっていて、下半分は鉄板で出来ている。鉄板の部分には何故か鍵穴がつけられているところも変わらない。

 グラーフの牢屋は、鍵が閉められたままだった。しかし、鉄格子の隙間から、牢屋の中は見える。真っ先に牢屋に駆けつけたラモーネ先生は「嘘だろ・・。」と呟き、その後ろから牢屋の中を見たトットが「きゃー!!?」と悲鳴を上げた。

 牢屋の中にいたのは、天井から下げられたロープで首を吊っているグラーフの姿だった。エンキの言葉の意味がようやく理解できた。確かに、昨日“魔女”による被害者はいなかった。グラーフは・・自殺したのだ。

 しかし・・グラーフが首を吊っているあのロープ。あれは一体どこから持ってきたのだろうか。ナナが抱いたそんな些細な疑問に、愉しげなエンキの声が最悪の答えを返してきた。


『いやー、まさか自殺しちゃうなんて思わなかったよ!私は、ただ暇だろうから「ブランコ」をプレゼントしてあげただけなのにさ!!』


「何が自殺すると思わなかっただ・・!!あの精神状態のグラーフにロープを渡すなんて完全に確信犯じゃねえか!このクソッタレぇ!!!」


 ラモーネ先生の怒号に答える声は既にない。

 先程の安堵から一変、一気に絶望へとたたき落とされたナナたちはその後しばらく固まって沈黙していたが、ラモーネ先生がはっと正気に戻って切羽詰まった声をあげた。


「そうだ、ファラも心配だ・・!!もしファラがこれを私たちより先に見てるとしたら・・!!」


 ラモーネ先生の指摘を受けた全員の頭に、最悪な想像が浮かぶ。ナナたちはその最悪な想像を現実にしまいと、急いでファラの牢屋へと向かった。

 ファラの牢屋も、一見扉が閉まっているように見え、全員思わず息を飲む。しかし、ラモーネ先生が扉に触れるとゆっくりと内側に開き、そこには体操座りでうずくまるファラの姿があった。

 全員ひとまず最悪の結果は免れたことにほっと息をついたものの、ファラはどうやらあのグラーフの姿を見てしまったらしく、体操座りのままひたすら何事かをぶつぶつと呟いていた。このまま放っておけば、グラーフの二の舞になってしまうと、ラモーネ先生はファラを無理矢理担ぎ上げ牢屋から出すことにした。

 

「グラーフ姉・・マグナ・・皆、なんでファラを置いていくの・・?さみしいよ・・。一人にしないでよ・・。」


 ラモーネ先生の肩に担がれるファラから、そんな悲痛な呟きが聞こえてくる。

 三日前はあんなに元気で明るかった三つ子。その内既に二人は死に、残る一人もこのような状態になってしまうなど誰が想像しただろうか。


「ひどい・・ひどすぎるべ・・!!こんなの・・こんなのって・・。」


 そう言ってうつむくクララの顔は、昨日マグナの死体を見ていた時と同じ寒気を感じるものであった。


(ねえ、クララのその顔はいったい何・・?ボクの知ってるクララは、本当のクララなの?それとも・・。)


 その顔をまたしても見てしまったナナは、再び得体の知れない恐怖と不信感に襲われることになったのであった。



 ここは、地下空間内に設置された食堂。流石のラモーネ先生もあの光景にはこたえたのか、「今日はちょっと飯作るきぶんじゃねえや・・。ごめんな。」と謝った上で、厨房に置いてあった缶詰を皆に配ってくれた。ナナとしては、そんな気遣いをしてくれるだけとてもありがたい。

 今日も今日とて、沈黙の中食事は進む。そんな中、ラモーネ先生が昨日まではなかったはずの煙草を吸っているのを見て、ナナは気になって声をかけてみることにした。・・いや、それは建前で、本当はこの沈黙に耐えきれず、何か会話がしたかったのだ。


「ラモーネ先生、その煙草、昨日までは吸っていませんでしたよね?どこで手に入れたんですか?」


「あ、それ私も気になってたんだよ。ラモーネ、煙草吸いたいとか言いつつ持ってなかったじゃん。」


 すると、リリィ先生もナナに乗って同じ質問をしてくれた。まあ、あの先生のことだから本当に自分が気になったから聞いただけなのかもしれないが。

 そんな二人に対し、ラモーネ先生は若干言いにくそうに眉を下げつつも、正直にこう答えてくれた。


「あー、これか・・。これ、昨日私が牢屋に入ったら置かれてたんだよ。エンキから施し受けるみたいで嫌だったんだけれどさ。・・正直、いろいろきついから思わず持ってきちまった。」


 その答えに、またしても場がしんとなってしまう。すると、ラモーネ先生が悔しげに頭を掻きつつ、こう口にした。


「あー!!駄目だ駄目だ!!何で私が空気を悪くしてんだよ!!よし、もうくよくよするのはやめだ!!こっからは・・無理矢理にでも明るく行くぞ!!キャハ☆」


 皆がぽかんと口を開ける中、ラモーネ先生はウインクをばっちり飛ばしてポーズを決める。そんなラモーネ先生を見たリリィ先生が、呆れたような口調で声をかけた。


「おい、流石にもうそのキャラはきついだろ・・。お前、さっきまで煙草吸ってたじゃねえか。何がキャハ☆だよ。」


「え~、何のことかプリン分からないな~。これ、煙草じゃなくてペロペロキャンディだもーん!!」


 すっかりこの地下空間に来る前のキャラになりきっておどけてみせるラモーネ先生に、ナナは思わず吹き出してしまった。ナナの隣では、トットやクララ、ベティも笑い声を上げている。


「先生、それはいくら何でも無理があるよ・・。」


 そして、体操座りでそんなラモーネ先生の様子を見ていたファラも、そうぼそっと冷静なツッコミをいれた。その瞳からは涙がこぼれているが、口元は笑みを浮かべていた。そんなファラを見て、ラモーネ先生は一瞬ぐっと瞳に涙をためた後、再びキャハ☆とポーズを決めた。


「よーし☆やっぱり今からでも特製プリン作っちゃうぞー!!お前ら、楽しみにしとけよな☆」




 ラモーネ先生のおかげで、ぎりぎりだった皆の精神も何とか立ち直ることが出来たかもしれない。ほんと、あの先生はいろんな意味で凄いと思う。あの後、ナナは何でラモーネ先生が本来の性格とはまるで違うキャラを作っているのか尋ねてみた。すると、ラモーネ先生は最初は答えるのを渋っていたものの、リリィ先生や無理矢理巻き込んだクララと一緒にしつこく聞き続けたところ、根負けしたラモーネ先生はこんな秘話を語ってくれた。


「私がこのキャラを作り始めたのは、今から十年前のことだ。その時、私はお菓子職人になりたかったんだ。でも、ええっと、詳しくは言わねえけれど、まあ家の都合って奴でいろんな奴から反対されてな。それでも、その反対を振り切って私は無理矢理お菓子職人になる道を選んだ。ところが、その開いた菓子屋が全く売れなくてな。プリンの味には絶対誰にも負けねえ自信はあったし、どうしてだろうなとか思ってたら、その時八歳だった娘に、『思うに、母さんは愛想が足りないのだよ。』とか言われてな。でも、愛想なんてどうやって身につければいいんだって悩んでた時に・・不審者にあったんだよ。」


「は?・・不審者、ですか?」


 あまりに話の流れに沿わないその単語に、ナナは思わずそう聞き返していたが、ラモーネ先生は迷わずうなずき返したので、どうやら聞き間違いではなかったらしい。


「ああ、身体はコートで隠して、顔はマスクとサングラスで隠した見るからに不審者だって奴が店にやってきたんだよ。そして、そいつはこう言ったんだ。『お、おなかが空いて死にそうなので何かお菓子ください・・。』ってな。」


 ラモーネ先生がその後聞いた話によると、その不審者はどうやら孤児らしく、幼い頃から道ばたに落ちているゴミを漁ったり、物乞いをしたりしながら生きてきたらしい。しかし、そんな過酷な身の上な割には、その不審者(声や身体の大きさから女の子であることは分かったらしい)は、何故かとても明るかった。ラモーネ先生は、不思議に思い、何故そんなに明るく生きていられるのかと尋ねたそうだ。


「そしたらそいつ、こう言ったんだよ!『何故って・・そんなこと考えるまでもありません!!私は皆を輝かせるスーパースターですから!!』ってな。その言葉を聞いて、これだ!!って思ったんだ。こいつのように馬鹿みたいに明るく振る舞えば皆に愛されるお菓子屋になれるんじゃねえかって。その後、そいつの指導を受けて一ヶ月ばかし特訓して、この『プリン・ア・ラモーネ』ってキャラはできあがったってわけよ!!」


 ちなみに、当時八歳の娘さんは母親のあまりの豹変っぷりにどん引きだったという。実際、ナナもいきなり自分の母親がキャハ☆とかやり出したらどん引きする自信はある。


 そんなこんなで、ラモーネ先生の昔話などで盛り上がり、五日目はあんなことがあったにも関わらず、比較的平和に過ぎていった。

 そして今、ナナは牢屋の中にいる。まだ深夜零時までは早いが、皆早めに解散して牢屋に戻ることになったのだ。結局、パティ先生もあの後何もなく、必ず夜“魔女”に殺される訳ではない、防げる方法があると分かったおかげで、皆昨日に比べると比較的リラックスした様子で自分の牢屋に入っていった。

 しかし、こうして一人になってしまうと・・ナナはどうしても考えずにはいられなかった。

 それは、『誰が“魔女”なのか』ということについて。


 生き残っているメンバーはナナ含め八人。この中で、最も“魔女”の可能性が低いのはファラだろう。あの三つ子の仲の良さは演技とは思えないので、彼女がマグナを殺したとは考えにくい。

 次に可能性が低いのはラモーネ先生だろうか?彼女は、皆を勇気づけてくれてるし、とても魔女とは思えない。もしかしたら、あの振る舞いこそ自分が魔女と悟られないためという可能性はあるが、エンキ学園長が言っていた『ギフト』のこともあるし、やはり彼女は違うだろう。

 同じ理由で、トットとリリィ先生も可能性は低い。ここら辺は昨日から既に出ていた結論だ。

 そして、パティ先生だが・・流石に、自分であの出血量の怪我をつけるのは無理があるだろう。あれは、下手すれば死んでしまうレベルの怪我だったと思う。

 となると残る二人・・ベティとクララの二人が怪しいことになる。

 するとやはり、どうしても浮かんでしまうのはクララのあの顔だ。クララは、何であんな恐ろしい顔をしたのだろうか?あの顔は、仲間を殺されたことへの怒りなのか、それとも・・。

 ナナがその結論を出す前に、突然その時が訪れ、ナナはまたしても深い眠りにつく。


ーそして、ナナはこの時自分の中でちゃんと結論を出しておかなかったことを後悔することになるのであった。

 



グラーフ

身体能力 3

知性 3

社会性 4

運 2

能力の強さ 3


ギフトの能力・・『重さを操る』


さて、皆さん、“魔女”が誰かのの予想はついているでしょうか?次回、ついに“魔女”の正体が明らかになる・・!!かも。

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