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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
1st stage 戦場に咲く友情の花
4/110

二日目

《sideアン&ララ》


 アンは、背中に自分の産みの親であるララの重さを感じながら、現れる魔物たちと戦闘を繰り広げていた。

 アンとララは、あの白い空間から洞窟のような場所へと転移していた。暗いところが大の苦手なララは、一日目からずっとアンの背中で泣きっぱなしなため、アンはこれまで一人で現れるコウモリのような魔物たちを倒している。

 正面からまたしてもコウモリ型の魔物が三匹、アンたちに襲いかかってくる。アンは、そのコウモリたちを正面から見据えると、徐に右手をそちらへ向けた。

 すると、ウィーンという機械的な音と共に、アンの右手が怪しい光沢を放つ銃へと変化した。

 アンは、無言でその銃をぶっぱなし、コウモリを全て肉塊に変える。ひとまず危険が去ったところで、背中のララに話しかけた。


「博士、もうすぐ洞窟の出口デス。目を開けても大丈夫デスよ。」


 どこか機械質な声でそう呼び掛けると、ララは恐る恐る目を開いた。そして、視線の先に明かりがあるのを見つけ、その表情がぱあっと明るくなる。


「わぁ!本当だ!流石アン!ありがとね!」


 ララは嬉しさを隠そうとせず、アンの後頭部に頬をぐりぐり~っと擦り寄せた。


(やっべー!うちの博士マジ可愛すぎデス!)


 アンは、ララを思いっきり抱き締めて愛でたい感情にかられ、しかし以前それでララに怒られた経験があるので必死に理性でその衝動を抑え込んだ。目元からオイルの涙が流れる。

 

 戦闘用メイド型ロボットNo.13。それがアンの本当の名前だ。アンという名前は、No.13という数字から、ララがアンラッキーガールという呼び名を思い付き、それの略称である。

 そう、何を隠そう、アンはララが造り出したロボットなのである!しかも、アンの製作にララは神から与えられた『ギフト』を一切しようしていない。若干九歳でこれを成し遂げたララは、まさしく天才と言えよう。

 そして、アンはそんなララを誰よりも尊敬し、そして誰よりも溺愛していた。

 それゆえ、この殺し合いゲームに参加させられたことには、強い憤りを感じていた。ララは、確かに天才だがまだ九歳の少女だ。殺し合いをしろと言われて、内容は理解出来ているが心が追い付いていない。昨日ピティーが殺された映像を見た時は声をあげて泣いていた。

 アンは、ララが笑顔でいるのが一番好きだ。だから、ララの笑顔を曇らせるものはたとえ神であろうと許すつもりはないし、また、この殺し合いゲームで必ず生き抜いてみせると決心していた。


「よっしゃー!ようやく洞窟抜けたデスよ!あのファッキンコウモリ共ともこれでおさらばデス!」


「本当にありがとねー、アン。そうだ!ちょっとしゃがんで~。」


 アンの背中から飛び降りたララの言葉に従い、膝をついたアンの頭に、ララは長すぎる白衣の袖で隠れた手を伸ばし、優しく撫でた。


「よしよーし。えへへ~。ララ、一応アンのお母さんだからね。ご褒美になでなでしてあげるよー。」


(うちの博士マジファッキンキュート!)


 表面上は無表情だが、しばらくララの可愛さに内面が物凄いことになっていたアンだったが、ふいに頭部のセンサーに自分とララ以外の第三者の存在を感知し、ララに一声かけてから警戒体制に入った。


「そこに隠れているのは分かっているデスよ。姿を見せたらどうデスか。」


 アンがその第三者に呼び掛けると、木の陰から見覚えのあるエルフが姿を現した。


「気付かれてしまいましたか。森の中で隠れるのには自信があったのですが・・それが貴女の能力ですか?」


「これは神なんかより尊い方から貰った力デス。一緒にされちゃ困りますよ。」


 アンの言葉に、ララが照れて頭をかく。アンはその様子を見てまた思考回路がファッキンしかけたが、そんな状況でもないので目の前のエルフをじっと見据えた。


「こんなところでかくれんぼ・・なわけないデスよね。」


「まあ、そうですね。幼い少女を殺すのは心が痛みますが・・私も死にたくはありませんので、貴女たちにはここで死んでもらいます。」


 エルフの少女、パトリシアがそう言うと同時に、アンとララの足元の草が突然伸び、彼女たちの手足を拘束した。


「ひっ!?何これぇ!」


 突然の出来事に、ララは恐怖の叫び声をあげる。アンもまた、声には出さないが動揺していた。


 そして、手足が拘束され動けないララ達に、パトリシアは猛スピードで駆け寄ると、腰に提げていたナイフを構え、近くに居たアンの胸元目掛け降り下ろした。

 しかし、ナイフは、人間の肌に刺さったとは思えない、カーン!という金属的な音を立てて弾かれてしまう。


「・・は?」


 普通ではあり得ない事態に、パトリシアの口から思わず声が漏れる。そして、あり得ないことはまだ続く。パトリシアの目は、アンの口が開かれ、そこから覗く銃口を捉えた。

 半ば反射的に上体を反らしたパトリシアの髪を、銃弾がかすめていく。パトリシアは、上体を反らした勢いそのままに、一旦後方へと下がった。


 パトリシアが後ろに下がったことを確認したアンは、拘束されていた腕を刀に変形(・・・・)させ、絡み付く蔦を切り捨てた。そして、そのまま足に絡まる蔦も切り捨て、ララも拘束から解放させる。その様子を、パトリシアは警戒した様子でじっと眺めていた。


「・・貴女の能力は、身体が機械になる能力か何かですか?」


 パトリシアのその問いに、アンは若干むっとした様子で答えた。


「失礼デスね。機械なのは元からデス。私の正式名称は、『戦闘用メイド型ロボットNo.13』。博士が造り出した最高傑作デス!神から貰った能力は、変形能力だけデスね。」


「ロボットでも『ギフト』が貰えるのですか・・。」


 パトリシアはなにやら釈然としていない様子だが、アンにはそんなことは関係ない。兎に角、先程やられた仕返しをしなくては。


「博士!」


「オッケ~!任せてねー!」


 名前を呼んだだけで、ララはアンのしたいことを理解してくれた。ララは、徐にアンのスカートの中に頭を突っ込むと、そこからスケッチブックと色鉛筆を取り出した。

 そして、ララは目にも止まらぬスピードでスケッチブックに一枚の絵を描きあげていく。


「よーし!出来た!」


 ララが完成を告げると同時に、スケッチブックが光り出し、そこに描かれていたモノが実体化した。これが、ララの『ギフト』の能力、描いた絵の実体化である。

 そして、実体化したモノを見たパトリシアの表情が変わった。


「あれは・・!」


 ララが超スピードで描きあげ実体化させたものは、"火炎放射機"。その火炎放射機を、変形能力で腕に取り付けたアンは、変形していない方の手の中指を立ててパトリシアを挑発した。


「さっきのお返しデス!ファッキンエルフは、森に帰って豆でもつまんでいやがれデス!!」


 そう叫ぶと同時に、火炎放射機から炎を放つ。そして、洞窟の出口周辺の草木が灰に変わった時には、パトリシアの姿は消えていた。しかし、死んだわけではない。アンのセンサーには、遠ざかっていく反応が一つ感知されていた。


「ちっ。逃げやがったデスか。」


「まあ、戦わなくてすむならそれが一番だよ~。・・でも、結局あの人の能力って何だったのかな?植物の操作とかかな?うーん、あれだけじゃよくわからないな~・・。」


 小さな顎に手を当てて考え込み始めたララを見て、アンは心の中でファッキンキュートを唱えた。




《ソニア&キスカside》


 ヒーローは、常いかなる時でも強くなければならない。勝者こそがヒーロー。勝者こそが正義。それがソニアのモットーだ。

 小さい頃、ソニアは両親から酷い虐待を受けていた。その際負った怪我は今も顔に残っている。幼いながらに何度も自殺も考えた。

 そんな時、ソニアはヒーローに出会った。全身包帯だらけのそのヒーローは、ソニアを虐待していた悪い両親の首を斬り、ソニアを助けてくれた。実際はその人物は、指名手配中の殺人鬼だったのだが、そんなことをしらないソニアにとって、圧倒的なまでの力で悪を倒したその人物は、ソニアの心にヒーローかくあるべきという理想像を植え付けた。

 全身包帯というヒーローの姿を真似たかったが、それはあのヒーローを侮辱することとなると思い、格好は無難なモノにした。しかし、怪我をした顔を隠すヘルメットだけはソニアだけのオリジナル装備であり、誇りでもあった。


 そして、今。ソニアは、倒すべき悪と対峙していた。


「海賊、キャプテン・ルージュよ!ここであったが百年目!この『疾風のソニア』が、正義の名の元に貴様を断罪してくれる!」


 右腕を高々と突き上げる決めポーズと共にそう言ったソニアに、冷ややかな三人の視線が飛んできた。


「おい、スクリーム。こいついったいなんなんだ?なんで俺は出会って数秒でこんな寸劇に巻き込まれなきゃならねえんだ?」


「さあ・・うち、ああいうテンションの人間とは付き合わないようにしてたんで、分からないっす。」


「ソニアさん。ふざけていないで真面目にしてください。」


 ソニアは、あまりの反応に憤慨した。前二人はまだいい。しかし、ペアであるキスカにさえもバカにされるとはどういうことか!

 しかし、キスカに抗議をいれようとしたところで、飛んできた銃弾を慌てて回避し、抗議の矛先をその銃弾の飛んできた方に変えた。


「いきなり不意打ちとは卑怯だぞ!やはり貴様は悪だな!」


 しかし、銃を撃った張本人であるルージュは、全く気にする様子もなくこう言った。


「そっちが断罪してくれるとか言うから相手してやっただけだろうが。それとも、お前たちはペア以外と顔を合わせてお遊戯会でもするつもりだったのか?そっちがそのつもりでも、俺はお前らを殺す準備はとっくにできてるぜ?」


「なるほど!確かに一理ある!」


 ソニアは、戦闘力があまりないというキスカに隠れておくよう告げ、自分は戦闘体制を整えルージュに向かって音速で駆け出した。

 視認できない速度でルージュの首元へと放たれた蹴り。しかしそれは、ルージュの持つサーベルによって受け流され、ルージュにダメージを与えることは出来なかった。


「ヒーローがいきなり首狙いか。なかなかやるじゃねえかよ!」


 ルージュはソニアの頭目掛けて銃を撃つが、その時にはソニアはもう移動している。音速でルージュの背後へと回り込みまた蹴りを放つが、信じられないことにルージュはその攻撃さえ防いでみせた。自分の攻撃を二度も止められるというあり得ない事態に、ソニアは思わず声をあげる。


「な!?貴様、いったいどんなからくりだ!?」


「ただの()さ。本能でどんな攻撃がくるか読めちまうんだよ。言っとくが、これ俺の『ギフト』じゃねえからな?」


 その後も、ソニアの攻撃はルージュにことごとく受け止められ、ルージュの攻撃はソニアに当たらず、このまま一進一退の攻防が続くかと思われたが、そこに別の人物の声が割り込んできた。


「・・キャプテンばかりに気をとられて、うちの存在を忘れてもらっちゃ困るっすよ?」


 その声に反応してソニアがそちらを向くと、そこにはヘッドホンをつけたスクリームが立っていた。ソニアがスクリームの声に反応した隙に、ルージュがスクリームの後ろに下がり、耳を塞ぐ。スクリームが大きく息を吸い込み、それに合わせて胸が膨らむ。


 そして放たれるのは、音の爆弾。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』


 という物凄い叫び声は衝撃波を産み出し、ソニアはそれにより大きく後方へと吹き飛ばされ、意識を失った。




「・・ソニア、大丈夫ですか?私の声が聞こえますか?」


 心配そうな表情でこちらを見つめるキスカの膝の上でソニアは目を覚ました。見た目に反して結構柔らかい・・ではなく、ソニアには確認しておかねばならないことがあった。


「あ、あの二人は!?ここはどこだ!?」


「ここはあの場所から少し離れたところです。吹き飛ばされたソニアさんを私がここまで運んで来たんですよ。なんとか逃げることができてよかったです。」


 逃げた?つまり自分は負けたのか?いや、ヒーローが負けることは許されない。それに、まだ逃げたわけではない。ここで戦場に戻れば、逃げたことにはならない。大丈夫。最後に勝つのは正義。ヒーローだ。

 しかし、立ち上がり再び戦場へと戻ろうとするソニアを止める声があった。もちろんキスカだ。


「ちょっと待ってください。まさかあそこに戻るつもりですか?」


「ああ、そうだ。ヒーローが負けることは許されないからな。」


「・・やめてください。正直、勝算があるとは思えません。貴女の攻撃はあの海賊に完璧に防がれていましたし、あの叫び声・・おそらく『ギフト』の能力です。あれをまた撃たれては終わりです。」


「・・それなら、もっと速く動けばいいだけだ。それに、あの叫び声も使われる前に倒せば問題ない。大丈夫。私はヒーローだ。必ず勝つ。」


「もっと速くって、本当にそんなことできるんですか?それに、あの海賊はまだ能力を使っていませんでした。彼女が能力を使えば、貴女が勝つことは・・」


「黙れ!」


 ソニアは、思わず叫んでいた。


「黙れ黙れ黙れ!ヒーローは絶対勝つんだ!勝たないといけないんだ!勝てなきゃヒーローじゃない!勝てないヒーローに価値なんかない!私はヒーローだ!!必ず勝つ!!!」


 息を切らしてそう叫んだソニアを、キスカはひどく冷めた表情で見つめていた。そして、その口から今までとはまるで違う雰囲気の声が零れる。


「・・あーあ。折角使える駒かと思ったのに、予想以上にポンコツだったな。・・もういいです。これ以上役に立ちそうにない貴女には、もう用はない。」


 そう言うと同時に、キスカの手からナイフのようなものが投げられる。まったく警戒をしていなかったソニアは、避けることができずにそれを肩に食らってしまった。


「ぐはっ!?くそ!キスカ!貴様も悪だったのか!」


 ソニアは、ナイフを肩から抜き、キスカに攻撃しようとするが、足を振り上げようとしたところで、なぜかその動きが止まってしまった。まるで、身体がキスカへの攻撃を拒否しているかのように、全く動かすことができない。


「な!?い、いったいどうなっているんだ!?」


 困惑するソニアの目に、にやりと意地悪い笑みを浮かべるキスカの姿が映った。


「無理ですよ。ソニアさん。・・貴女、約束したじゃないですか。『私には、絶対に攻撃しない』と。」


「ま、まさか!それが貴様の本当の能力なのか!?」


「はい、そうです。他人のやる気をあげることができるというのは嘘・・。本当は、『約束を絶対に守らせる』という能力です。冥土の土産に教えてあげました。・・それでは、さようなら。」


 ソニアの首に、キスカのナイフが降り下ろされる。薄れゆく意識の中、ソニアは自分はヒーローではなかったのだということを悟った。


 

 胸に手を当てて、完全に心臓が止まっていることを確認したキスカは、その場を立ち去った。

 自分の能力は、戦闘向けのものではない。しかし、裏切りには非常に役に立つ。ソニアには、最初から裏切るつもりで近付いた。本当は、もう少し利用してから殺そうと思っていたのだが、予想以上に使えなさそうだったので早めに殺すことにした。

 次は、いったい誰を狙おうか。とりあえず、自分の能力は相手に"約束"をさせる必要があるので、殺すにしても一旦協力をとりつける必要がある。

 とりあえず、強さで言えばあの海賊が一番だろう。だが、簡単に騙せそうな相手ではない。いったいどう取り入ろうか・・。

 キスカの頭には、既に先程殺したソニアのことは忘れ去られていた。


▼▼▼▼▼


『えー、二日目の脱落者を発表しまーす。二日目の脱落者は、ソニアです!ヒーローになれなくて残念だったね~。それでは、明日も殺し合い、頑張ってね~♪』

ソニア

身体能力 4(5が最大)

知力 2

社会性 2

運 2

能力の強さ 3


ギフト・・超高速移動。音速を越えた移動が可。

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