三日目 『おわりとはじまり』
ソニア「『おわり』と『はじまり』?何やら意味深なタイトルだな。」
オクター「何が終わるんです?そして何が始まるんです?」
シャルン「大惨事大戦や!・・まあそれは冗談として、もしかしてこのコーナー終わるんちゃう?」
ソニア「な、何だってー!?」
オクター「そ、そしてメアリとスターの二人のコーナーが始まるんですか?」
ソニア「そ、そんなの許さんぞ!私は何がなんでもこの前書きに居座るからなー!!」
《ナナside》
ナナは、『運がいい』というギフトを持っている割には、普段はそんなに運がよくない。この前引いたくじだって残念賞だったし、今回だって、無理矢理攫われて知らない人たちと一緒に一週間も過ごすことになってしまった。
ただ・・今は、ここに連れてこられたことは運がよかったんじゃないかと思っている。その大きな原因の一つが、ナナの隣に座ってほっぺたが膨らむほどいっぱいにご飯を詰め込んだクララにある。
「あ~、本当にラモーネ先生の料理は美味しいべ~。幸せだべー。」そんなことを言うクララの表情は、本当に幸せそうで見ているこっちが癒やされる。
クララのこの素直さは、彼女が演技が上手くできない要因の一つではないかと思うが、この素直さがクララの魅力だともナナは思っているので、複雑な心境である。
今朝は、まだナナたちの他には誰も食堂に来ていない。唯一、朝食を作るラモーネ先生が朝からあの謎のハイテンションで、「お☆ナナちゃんにクララちゃん、おっはよー☆今日も一日、頑張ろうね!キャハ☆」と挨拶してくれた。・・あの先生は毎日あのテンションで疲れないのだろうか?
と、ナナがそんなことを考えているうちに誰かが食堂にやってきた。あのそっくりな見た目と赤と黄色の髪の毛は、三つ子の上二人、グラーフとファラだろう。
この二人も、ラモーネ先生に負けず劣らずのハイテンションで、「おっはー!二人とも元気してたー?」「きゃー!今朝のご飯もおいしそー!ラモーネ先生すてきー!抱いてー!」と二人して違うことを好き勝手に騒いでいる。
そんな二人の様子を、初日なら目をぱちくりさせて驚いていたであろうクララも、この二日間で慣れたのか、「二人ともおはようだべー。」とデザートのプリンをほおばりながら挨拶していた。・・って、もうデザートなのか!早いな!?
ナナがクララの食べるスピードに驚いている間に、食堂に新たなペアがやってきていた。
「あ、お姉たちだ。おっはー!」
「その声は・・マグナ!おっはー!・・ふぁ!?」
「何ですと!?」
三つ子の末っ子、マグナの声が食堂に聞こえるや否や、姉二人が即座に反応して振り向く。そして、グラーフとファラはその視線の先に映った光景にそろって驚きの声をあげた。
そこにいたのは、何故か顔を真っ赤にしたトットと、その肩を抱くようにしてひっついて歩くマグナの姿。
マグナは、驚く姉二人の顔を見ると、いたずらっぽく口角を上げ、さらにトットを自分の元に引き寄せこう言った。
「お姉たち!この子、あたしの嫁にします!!」
「「「・・・ええええええええええええええ!??」」」
一瞬の沈黙の後、グラーフとファラ、そして何故かトットの三人の悲鳴が重なる。
これはいったい何が起こっているんだ?何故トットまで悲鳴を上げている?ナナのそんな疑問は、しかしながらクララが三杯目のご飯のおかわりを申し出たことで、そちらに持って行かれてしまった。
「ちょ、クララまだ食べるの!?その細い身体のどこに入るのさ!?」
胸か!?やはり胸なのか!?
《マグナside》
目の前では、マグナの姉二人、そして、隣では可愛いトットが驚いた表情を浮かべている。
(そう、これこれ!この顔が見たかったんだ♪)
自分の期待していた反応が見られたことに満足しつつも、マグナはさらなる面白さを求めもう一押し入れてみることにした。
「ねえ、トットちゃん!ちょっとこっちに顔寄せてー。」
「へ!?は、はい。どうぞ?」
トットはまだ混乱しているのか、マグナの要求にも抵抗することなく素直に顔を近づける。一瞬、その唇に直接口づけしたい衝動に襲われたが、なんとか理性でそれを押さえ、頬への口づけにとどめた。
しかし、マグナにとってはかなり抑えたその行為であったが、どうやら周囲に与えた衝撃は想像以上のようであった。頬に口づけされたトットは、トマトと見間違うくらいに顔を真っ赤に染め、姉二人もマグナを指さし震えている。
「な、何してるのよマグナー!!女の子同士でキスなんて・・ハレンチよー!!」
「あ、あたし的にはなかなか美味しい光景だけど・・姉として、そんな淫らな関係を認めるわけにはいきませんぞー!!」
姉二人は何やら騒いでいるが、マグナもここで引き下がるつもりはない。何しろ、初めて出会った、自分の意思で好きになれたモノが、トットだからだ。
幼い頃から姉二人といついかなる時も一緒に過ごしてきたマグナにとって、姉が好きなモノは自分も好きで当たり前だし、姉が楽しいと思うことは、マグナも楽しいと思ってやってきた。そのことについて、マグナは特に不満を持つこともなく生きてきた。なぜなら、三つ子だから。マグナたち三人は、両親でも見分けがつかないくらい見た目がそっくりで、髪の色を変えて初めて見分けてもらえた。見た目も一緒なら、考えることも一緒で当たり前。マグナたちは、いつも三人で一人だった。
しかし、マグナたち三つ子は突然この学園に連れてこられ、そして、そこで初めてマグナは姉二人と離れ、トットと一緒の部屋で寝ることになった。
トットは、姉二人と違って考えていることも全く分からない。姉二人の前ではあんなことを言ったが、初日は正直不安でいっぱいだった。でも、蓋を開けてみれば、トットはモコモコのパジャマを着るような可愛い女の子で、マグナはそんなトットを見て、初めて姉二人と共有していない、自分だけの感情を持つことが出来た。なぜなら、トットがこんな可愛いパジャマを着ているのは、マグナしか知らないことだから。トットに抱くこの好意は、間違いなく自分だけのモノだ。マグナは、この感情を大事にしたい。
だから、マグナは姉二人と別れる道を選ぶことにした。
「お姉たち、お願いがあるの。あたし、この学園生活が終わった後も、トットと一緒にいたい。」
突然のお願いに、姉二人の表情が固まる。マグナの横で、トットも驚いて目を丸くさせていた。
「・・駄目かな?」
半ば強引に話を進めてしまったので、嫌われたんじゃないかと少し不安になってトットにそう尋ねると、トットは顔を真っ赤にしながらも、小さく頷いてくれた。
「わ、私は別に・・。おばあちゃんが、良いって言ってくれたら・・。」
トットの了承を得てほっとしたマグナであったが、そこに姉グラーフの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「ねえ、さっきからマグナは何を言ってるの!?あたし、今日のマグナの考えてること全然分からないよ!!だって・・だって、あたしたちはいつも三人一緒じゃん!!何でトットちゃんと一緒に暮らしたいなんて言うの!?ねえ、何で!?」
「ちょ、グラーフ姉落ち着いて!!」
興奮した様子で叫ぶグラーフ姉を、ファラ姉が慌てて鎮めようとする。そんな姉二人の姿を見て、マグナの心は痛んだが、この決意を揺らがせるつもりはなかった。
「あら~。何かあったのかしら~?もしかして、喧嘩でもしてるの~?」
その時、背後からパティ先生のおっとりとした声が聞こえてきて、マグナは後ろを振り返った。そして、パティ先生の背後に立つ少女の姿を見て、こんな状況にも関わらず思わず首をかしげてしまった。
・・あれ?あんな子昨日までいたっけ?
《ベティSide》
ベティは、小さい頃から根暗な少女だった。
他人と話すのが苦手で、真っ直ぐに相手の顔を見ることが出来ない。皆と一緒に外で遊ぶより、家で一人でしょうもないギャグを考えている方が楽しい。そんな性格だったので、当然友達などおらず、ベティはますます人と話すことがなくなった。
そのうち、最初から相手の顔を見なければいいのだと思い、前髪で顔を隠すようになった。この頃、元々明るい茶髪だった髪の毛もギフトを使って紫色に変えた。暗い自分にはそっちの髪の色の方が似合っていると思ったからだ。そうすると、周りの人はますますベティのことを不気味がり近寄らなくなった。そして、ついには家族までもがベティを避けるようになってしまった。
ベティは、それでも特に悲しむことはしなかった。自分が暗くて気味が悪い女の子であることは自分自身が一番よく知っている。こんな自分を好きになる奴なんていない・・。
しかし、この学園に来て出会ったパティ先生・・。彼女だけは、他の人とは違った。ベティの考えたしょうもないギャグを面白いと笑ってくれて、それどころか、髪で隠したその奥のベティの顔をしっかりと見て、『可愛い』と言ってくれたのだ。
パティ先生が、どこからともなく取り出した不思議な形のハサミでベティの前髪を切る。久しぶりに髪を通さずに見る景色は眩しくて、ベティは思わず目を細めてしまった。そんなベティの顔をまじまじと見つめ、パティ先生はこう言ったのだ。
「あ、やっぱりベティちゃん可愛いわね~。前の感じも良いけれど、今の感じの方が、先生好みかしらー。」
その言葉を聞いた瞬間、ベティは、世界の色が変わったのを感じた。これまで暗かった世界が、パティ先生の言葉たった一つだけで、鮮やかに色づいていく。パティ先生が自分を見て認めてくれたこと。ベティにとっては初めての経験であったそれは、ギフトも使わずにベティの世界を明るい色に染めてくれた。
自分を認めてくれたパティ先生に答えたい。だから、ベティは驚いた様子で自分を見つめるクラスメイトたちに、顔を真っ直ぐ上げて、今の自分に出来る精一杯の笑顔で元気よく挨拶した。
「み、皆!お、おはよう!!」
《ラモーネ先生side》
三つ子が言い争い始めた時はどうしたものかと厨房から頭を抱えていたが、驚きのイメージチェンジを果たしたベティの登場により、一気にそちらへと注目は集まったことで直前のあれこれはうやむやになり、なんとか場も収まったようでラモーネはほっと一息ついた。
そして今は朝食も終わり、ラモーネの担当する家庭科の授業が始まるところである。
「よーし☆じゃあ今日は皆、プリンちゃんの指示に従って甘くてスウィーティーなプリンを作っちゃおうね☆」
決めポーズは、腰に負担がかからないよう若干抑えめで。ラモーネのそんな合図と共に始められたプリン作りだが、やはり何となくぎくしゃくとした空気を感じるのは気のせいではないだろう。その原因は、やはり三つ子にある。昨日までなら一緒にわいわい騒がしくプリンを作っていたであろう三つ子だが、グラーフは終始マグナを睨み付けており、マグナはそんな姉の視線を完全に無視してトットと楽しそうにプリンを作り、ファラはそんな二人をおろおろと交互に眺めている。
ナナとクララの二人は、心配そうに三つ子の様子を伺うも変に声をかけることができずにいる。
ラモーネは、何とか場を盛り上げようと「おらおらー!元気ないぞ皆~☆楽しくプリン作ろうよ!イエーイ☆」などと、明るい声を出すが、誰も反応してくれず完璧に滑ってしまった。
ラモーネは、多大な精神ダメージを食らいながらも、授業中あえてピエロに成り下がり続けた。
一方、同僚の二人はというと、パティはべティに付きっきりでプリンを作り、リリィは机に突っ伏して寝ている。
・・ちょっと待った。パティはまだいい。しかしリリィ。てめぇは駄目だ。
ラモーネは、頬をひきつらせつつリリィの元へ近づき、その耳元で「おいてめぇ、ちょっと面貸せや。」と低い声で呟くと、問答無用でリリィを食堂から連れ出した。
「おいてめえこの毒野郎。てめえも少しは私のこと手伝ったらどうだあぁん?こちとらさっきから精神ガリガリ削って何とか場の空気を和ませようとしてんだよ。」
自分よりも背の高いリリィを見上げるようにしてラモーネはその顔を睨み付ける。しかし、対するリリィは眠たそうに目を擦るだけだ。
「えー・・だってそういうの面倒くさいじゃん。そもそも私そこまで子供好きでもないしさ?」
リリィは怠そうにそう言った後、にやりといやらしく顔を歪ませてラモーネにこう尋ねた。
「ってゆーかさ。ラモーネ、あんたなんだかんだ言いつつ面倒見良いよね。子供好きだったりするの?それとも・・既に子持ちだったり?」
明らかにこちらをからかってそう言ってきたリリィに対してはいらつきを覚えたが、ラモーネは怒りを抑え、逆にリリィの言葉を利用することにした。
「そうだよ。二児の子持ち、旦那は一番下の娘と出かけた時に事故に遭って死亡。探偵稼業を始めた上の方の娘も一年前から音信不通。現在三十四歳ばりばりのおばさんですが何か?」
何でもないような顔でそう言ったラモーネに対し、リリィは心底驚いたように目を丸くした後、罰が悪そうにラモーネから目をそらした。
「まじか・・。そうとは知らずにあんなこと言っちゃって、ごめんな。」
本当はこの事実は言うつもりはなかったのだが、リリィにはこの二日間部屋でさんざん自分の素を見せてきているのだ。今更隠すほどのことでもないし、これでリリィが少しでも罪悪感を感じてくれて手伝ってくれるようになれば楽になるのはラモーネだ。
本当は、まだ実はプリン・ア・ラモーネという名前は偽名であるとか、社交界から追放された元貴族であるとか話していない秘密はあるが、これ以上一気に伝えたら流石に混乱しそうなので勘弁してやることにした。
「それにしても・・ラモーネ、あんた思ってたよりおばさんだったんだな。もっと労るようにするわ。」
「わははー!てめえ、生徒の前で年齢のこと言ったらぶっ殺す☆」
非常に不本意な形だが、何とかリリィの手助けを得ることが出来そうだ。あまり長時間生徒たちをほったらかしにするのはよくないし、そろそろ食堂に戻ろうかと視線を向けた時、「きゃー!!」という悲鳴が聞こえてきた。
ラモーネは、即座に走り出し、食堂のドアを蹴破ると「大丈夫!?」と声を上げる。
「いたたた~。あー、うっかりしてこぼしちゃいましたー。」
食堂に駆け込んだラモーネが見たのは、プリンの上にかける生クリームが入ったボールをひっくり返し、地面に尻餅をつくパティの姿だった。昨日までに比べだいぶはきはきと話すようになったベティの証言とマグナの自白によると、トットに良いところを見せようと張り切ったマグナがギフトを使い磁力を操り持ち上げた泡立て器で生クリームの高速泡立てを始めたところ、思いの外磁力が強かったのか、隣のテーブルにいたパティが持っていたボールまで引っ張られ、バランスを崩したパティが転倒し今に至るという訳だ。
それにしても・・。ラモーネは地面に座るパティを見て思わず眉をひそめる。パティの全身には、至る所に白いクリームが飛び散っており、勿論あの大きな胸にもクリームが飛んでいる。その光景は・・何となくいやらしい。これは、生徒に見せてはならない絵面だ。このおっぱいエロ魔神は、存在自体が生徒たちの教育によろしくない。
「うっわ。ここまでエロい絵面になるもんかね。これは教育によろしくありませんな~。ラモーネ先生や。」
後ろから駆けつけたリリィがラモーネが先程まで考えていたがあえて口にはしていなかったことをためらわず口にする。ただ、それを言うならリリィも毒を飲んでハイになったあの状態は教育によろしくないと思う。
・・と、ここまで考えてラモーネは衝撃の事実に気がついた。あれ?三人の中で一番まともなのって、もしかして自分なんじゃね?と。
その事実に思い至ったラモーネの額からは思わず冷や汗が流れ、あと数日、自分の身体は果たして最後までもつのだろかという不安で胃をきりきり痛めながらも、何とか自分の担当する授業を終わらせたのだった。
《ナナ&クララの部屋》
ナナとクララの二人は、自分たちの部屋に帰るなりどちらからともなくため息をついた。
「うー・・なんだか今日は一日ずっと気まずかったべ・・。」
「ほんとだね・・。まさか、あの三つ子が喧嘩するとは思わなかったよ・・。」
その原因は、やはりというかあの三つ子の喧嘩だった。これまでムードメーカーとして皆を盛り上げてきた三つ子の空気がぎくしゃくしてしまったことで、何となく皆までぎくしゃくした感じになってしまったのだ。
そんな中でも、いつもと変わらず若干うざいくらいの明るいキャラで場の空気を盛り上げようとしていたラモーネ先生には、最早尊敬の念すら抱く。実際、ラモーネ先生の涙ぐましい努力により、授業の最後の方は多少空気もよくなっていた。
「ラモーネ先生は凄いべ。おらたちは何も出来なかったのに・・。」
「はあ・・。今日ばかりはボクも自分の無力さにネガティブな気分になるよ・・。結局グラーフとマグナは最後まで仲直り出来なかったみたいだし。」
ナナとクララの二人は再びそろってため息をつき、そのまましばらく黙ってうつむいていたが、不意に、クララが勢いよく立ち上がりこう宣言した。
「このままじゃ駄目だべ!!あの三人があのままなんて絶対に良くないべ!」
ナナは、あの弱気なクララが急に力強い口調でそんなことを言い出したことに驚いた。確かに、ナナもそう思う。あのままじゃ絶対良くない。でも・・。
「でも・・ボクたちに何が出来るんだろう?そもそも、ボクたちが関わってもいい問題なのかな・・?」
ナナの口からは、ついついそんな弱気な言葉が出てしまう。しかし、そんなナナの瞳を真っ直ぐに見つめ、クララはこう言った。
「おらたちだって関わる権利はあるはずだべ。だって・・おらたちは、同じ学園のクラスメートだべ。おらは、この学園が好きだべ。おらは、グラーフちゃん、ファラちゃん、マグナちゃん、トットちゃん、ベティちゃん、パティ先生、リリィ先生、ラモーネ先生、そしてナナ。おらが大好きな皆に笑顔でいてほしいんだべ。それがたとえお節介だとしても、嫌われたってかまわない。おらは、皆のためになることを・・したい!!」
ナナは、そう力強く語るクララにいつしか圧倒されていた。自分が、ネガティブで気の弱い女の子だとばかり思っていたクララ。そんなクララの内側には、こんなにも熱い仲間に対する思いがあったのだ。
「でも・・おら一人じゃ、正直少し不安だべ。だから・・ナナ、おらのことを手伝ってほしいべ。おらに勇気をくれたナナと一緒なら、おらは何だって出来る気がするべ。」
そう言って笑みを浮かべたクララに、ナナは力強く、「うん!勿論!!」と頷いたのだった。
ナナは、クララと抱いた決意を胸に、眠りにつくことにした。クララと一緒なら大丈夫だ。何も問題はない。明日には、三つ子も仲直りして、皆再び元気に学園生活を送れる。
・・そう思っていたんだ。この時までは。
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『さあ、おまえら。楽しい夢は見れたかな?そろそろ、目覚める時間だよー!!』
聞き覚えのある声が大音量で頭に響いてきて、ナナはたまらずに目を覚ました。そして、目の前の光景に思わず声を漏らしてしまう。
「何これ・・?いったいどういうこと!?」
そこは、クララと一緒に寝たはずの寝室ではなかった。ナナは、いつの間にか暗くて冷たい牢屋のような場所に、一人閉じ込められていた。耳を澄ましてみると、ナナ以外の他のクラスメートたちもどこかにいるのか、困惑したような声が聞こえてくる。
そんな中、ナナの目の前に突然、仮面をかぶった人物の映像が浮かび上がり、「ひいっ!?」と悲鳴を上げてしまったが、それがエンキ学園長だと気がつくと、ほっと胸をなで下ろした。
しかし、その安堵は、次のエンキ学園長の言葉でさらなる困惑へと変わる。
『さて、牢屋でぶるぶると惨めに震えているおまえら。最初に言ったように、二日後こうして再び私が姿を見せたわけだけど~。何を伝えたいか、分かる奴はいるかな?』
そう映像越しに語りかけるエンキ学園長の口調は、二日前とはまるで別人のようで、どこかナナたちを見下しているかのようであった。それに、この口ぶりからすると、この牢屋にナナたちを連れてきたのはどうやらこのエンキ学園長のようだ。いったい、何故エンキ学園長はこんなことをしたのか?
そんなナナの疑問を無視して、映像の中のエンキ学園長は、おもむろに白いボードを画面外から持ってきた。そのボードには、赤いペンで『神遊学園』とでかでかと書かれてある。
『この二日間、ずーっとおまえらのことを見てきたよ。いやー、きゃっきゃうふふと、実に楽しそうな学園生活を送ってたよね。でもさー・・』
と、そこでエンキ学園長は、『神遊学園』と書かれたボードを拳で叩き割った。
『ぜっんぜんおもしろくねー!!!!!!でも、ここからはようやくお楽しみの時間だ!!おまえらの学園生活はここで終わる!!!そして、これからは・・。』
エンキ学園長は、その仮面の奥の瞳を黄色く光らせて、狂ったようにこう叫んだ。
『これからは・・楽しい楽しい、「殺し合いゲーム」の始まりでーす♡』
ーこうして、唐突に楽しい学園生活は『おわり』を迎え、そして、恐怖と怒りが渦めく・・殺し合いゲームが、『はじまり』を迎えた。
《4th stage》 三日目 『おわりとはじまり』
・・はい。ということで、改めてフォースステージ始まりました。これに合わせ、章タイトルも『神遊学園の愉快な日常』から、『4th stage 』変更になります。
そして、次回詳しいことはエンキの口からも語られますが、やや複雑なので、先にフォースステージのゲームのルールを説明しておきます。
フォースステージは、簡単に言えば人狼ゲームみたいなものです。
十人の中には、一人だけエンキに命じられて動く『魔女』と呼ばれる存在がいます。
十人の首には、首輪がつけられ、夜になるとその首輪から睡眠薬が注入され、魔女以外は全員深い眠りについてしまいます。なお、昼の間は廊屋から出て動けますが、夜には廊屋に戻らなければ首輪から出た刃物が首をはね、死んでしまいます。
そして、魔女は夜に動き、必ず一人だけを殺します。このとき殺す人物は、魔女が選びます。この殺しを防ぐ方法は基本ありません。
このゲームは、昼に魔女を探して殺してしまえば、その時点で生き残った全員助かります。魔女が助かるには、自分以外の全員を殺さなければいけません。
なお、魔女は一日目から自分が魔女であることは知っています。知っていた上で、普通に学園生活を送っていました。
魔女を探すためのヒントは、次回エンキの口から語らせようと思います。
さあ、フォースステージ、これから盛り上がっていきますよ!!




