一日目 『はつじゅぎょう』
ソニア「あらすじ学園の生徒会長ソニア!」
シャルン「同じく副会長のシャルンや!」
オクター「書記のオクターだよ!」
ソニア「校則違反者は月に代わって折檻するぞ!」
シャルン「それ、月と火星の決め台詞混ざってへんか?」
皆が自己紹介を終えたタイミングを見計らうようにして、ふいに部屋の前方の扉が開かれ、そこから全身真っ白の少女が姿を現した。
ナナを含めた七人の視線が突き刺さる中、その少女は無言で一礼すると、緑色のボードに白い棒状のもので何やら文字を書き始めた。そして、文字を書き終えると再び無言で一礼して部屋を出て行く。
『一時間目 先生紹介』
ナナがボードに書かれたその文字を読んだ時、先程少女が出て行った扉からがらがらと音を立てて三人の女性が姿を現した。その三人の女性は、この教室の七人にも負けず劣らずの個性的な見た目をしていた。先生紹介と書かれたからには、この三人がエンキ学園長も言っていた先生なのだろう。そうナナが見当をつけた直後、三人の女性のうち、ピンク色のウェーブがかった髪を揺らした美女がまず口を開いた。
「皆さん初めまして~。私は、ピーチ・パティと言います。私たち三人も、貴女たち同様いきなりここに連れてこられたので正直まだ困惑してるんですが~、まあ、やれと言われたからにはしっかりやりたい所存です~。ギフトは、『身体の一部を固くする』能力で、担当教科は体育です。どうかよろしく~。」
そう言って頭を下げるパティ先生。数秒後頭を上げると、そのやたら大きな胸がたゆんと揺れる。目の下の泣きぼくろといい、おっとりとした垂れ目といい、この先生存在自体がエロティックだ。グラーフなんかは「先生のそれはピーチっていうよりメロンだよ!」となかなか秀逸なツッコミをいれている。パティ先生は、ニコニコと微笑んで「何のことでしょうか~?」などととぼけているが、これは天然なのかどうか判断しにくい。
次に紹介を始めたのは、白衣姿の女性だ。しかし、問題は、その女性が寝癖だらけの赤い髪を欠伸をしながら掻きむしっていることと、白衣の下がビキニだけだということである。その女性は、いかにも怠そうな感じで口を開いた。
「えー・・私の名前はリリィ。『体液が毒』ってギフト持ちなんでどうかよろしく。毒が好きだから教えるのは化学になんのかね?今はちょっと眠いからこんな感じだけど、授業になったらテンション上げるから。いや、マジで。」
先程のパティ先生とは違い、なんとなくだらしない印象のリリィ先生。胸もほとんど平らで、ナナとしては親近感を覚えるが、パティ先生とはあらゆる面でタイプが違う。
三人の先生の大トリを飾るのは、部屋に入ってきた時からとりわけ異様な存在感を示している女性だった。その女性は、胸の部分がカラメル色で、下半身が黄色というプリンをあしらったドレスをしゃらんと揺らし、ナナたち生徒に「きゃはっ☆」とウインクしてから自己紹介を始めた。
「プリンの国からやってきたお姫様!『おいしいプリンが作れる』ギフトを持った、その名もプリン・ア・ラモーネ!皆気楽にプリンちゃんって呼んでいいぞ☆」
ラモーネ先生はそう言って片足を上げて顔の前でピースを作り、「いえい☆」と笑顔をみせた。ナナたちは、それに対しどのような反応をするのが正解か分からず、しばらく気まずい沈黙が流れた。そんな沈黙を打ち払うべく立ち上がった勇者トットは伝家の宝刀、『MEGANE』をきらりと光らせた。
「・・ところで、ラモーネ先生の担当授業は何なのですか?」
「おーい!話聞いてた~?プリンちゃんって呼べって言っただろ☆まあいっか。次からはちゃんと呼んでね。プリンの担当は家庭科だよ!皆でおいしいプリン作っちゃおうね☆」
トットのおかげでラモーネ先生の紹介も終わり、どうにか先生紹介は終了したようだ。またあの白い少女が部屋に入ってきた。少女がボードにまた新しい文字を書いていく後ろ姿を、リリィ先生は目を細めてじっと見つめていたが、少女が文字を書き終わるや否やふっと口を開いた。
「・・ねえ、そこの白い子。君なんで何体もいるわけ?ロボットか何かなの?」
リリィ先生のその問いかけに、白い少女はゆっくりと振り向きリリィ先生の顔を見返すと、感情の全くこもっていない声で答えた。
「・・はい。そうです。私はロボット。名前はピティー。皆さんの学園生活のサポートのため、複数学園内に設置されております。」
リリィ先生は、自分から聞いたくせに「ふーん。」とだけ返して、今度はおもむろにピティーの全身をまさぐり始める。ピティーは無抵抗でされるがままにしていたが、リリィ先生が胸を鷲掴みした時に流石に止めた。
「・・何をしてるのですか?」
「いやー、ロボットにしちゃあ、柔らかいしよくできてるなーって思って。私の姉の娘にもロボット作りの天才がいたんだけど、その子のロボットくらい人間に近いわこりゃ。」
リリィ先生は、そう言ってようやく手を離した。ピティーは、「私のマスターは神・・いや、神級の天才なので。」と言うと、ナナたちに一礼してから部屋を出て行った。
ピティーがボードに書いた文字(後にこのボードは“黒板”という名前だとピティーに教えてもらった)を読むと、そこには『二時間目 化学』と書かれてあった。
「あら、それなら今日は私の出番はないみたいですね~。」
「プリンの出番はまた今度かー。ちぇっ☆」
パティ先生とラモーネ先生はそう言い残してから部屋を出て行く。最後に残ったリリィ先生は、ナナたち生徒の方を見ると、にやっと笑みを浮かべた。
「それじゃあ今日は私の授業の番みたいだね。・・フフフ、おまえら全員、私の毒の虜にしてやるよ。」
《二時間目 化学》
「化学って言っても、私が出来るのは毒に関することだけだ。そして、毒に関しては私が今行方不明中の姉の研究室から盗んで・・もとい、借りてきた奴も一緒にこの学園に連れてこられたみたいだから問題ない。」
そう言うと、リリィ先生は黒板の前に置かれた教師用らしき机に毒が入った瓶を並べていく。机の上が瓶でいっぱいになると、リリィ先生はうっとりとした様子でそれらを見つめ、突然あぁん・・!とやけに色っぽい吐息を漏らした。
「はぁ・・!たまらないわ、この毒特有のねっとりとした動き。そして不気味な色・・。何もかもが魅力的・・!」
頬を上気させながら全身をくねらせ熱い吐息をこぼすリリィ先生は、先程までの怠そうな印象はどこへやら、怪しい魅力を全身で醸し出していた。リリィ先生の突然の豹変に、生徒たちの間にざわめきが走る。
「うわぁ・・完璧ヤバい人だよこの人・・。」
「でも、めっちゃ色っぽいねー!せくすぃー!」
「おっぱいちっちゃいけどね。」
これはナナの後ろの三つ子たちの台詞。リリィ先生は、しかしそんな生徒たちの囁きも気にせずにしばらくトリップしていたが、ふっと突然こちらに視線を向けた。その目は相変わらず熱を帯びていて、ナナは瞬間嫌な予感がした。
「ねえ・・。誰か、私に飲ませてよ・・。この可愛い毒ちゃんたちを。」
いつの間にか白衣を脱ぎ捨てビキニだけになったリリィ先生が、毒の瓶を何本か抱えたまま生徒たちの机の上を四つん這いでゆっくりと進んでいき、そしてトットの机の上に来たところでその歩みを止めた。
「きーめた!貴女・・お願いね♡」
「何で私ぃ!?」
トットは敬語も忘れて悲壮感たっぷりにそんな叫び声を上げたが、ナナは自分がリリィ先生の標的にならなかったことにほっと胸をなで下ろした。
そして、かわいそうにリリィ先生の標的となってしまったトットは、その眼鏡の裏に涙をためつつ、リリィ先生の指示に従い数種類の毒をブレンドしていった。
「で、できました・・。」
トットがおずおずと差し出したオリジナルブレンド(毒)を、リリィ先生は全くためらうことなく一気飲みする。その直後、リリィ先生は全身を激しく震わせ、両手を高々と天目がけ広げると、
「エクスタシィィィィィ!!!!!!!!」
と歓喜の叫び声を上げ、その様子を呆気にとられた様子で見上げるトットに顔を近づけ、
「ありがとう!お礼に・・KISS、してあげるわね♡」
そう言って、その唇に熱い口づけをした。突然の事態に、顔を赤くするトット。しかし、数秒後にはその顔は真っ青に変わり、リリィ先生が唇を離すと同時に泡を吹いて地面に倒れた。
一瞬の沈黙。そして、激しく痙攣し始めたトットを見て、ようやく我に返ったリリィ先生がぼそっとこう呟いた。
「あ、やっべえ。思いっきり毒注入しちゃった。」
「何やってるんですか先生ぃぃぃぃ!!!!?」
流石に我慢できず、ナナは盛大な叫び声を上げる。ナナの隣では、クララが「た、大変だべ!?」と慌てた様子で。後ろでは三つ子がわーわー騒いでいる。唯一ベティだけは髪で顔が隠れて表情がよく分からなかった。
「あー、大丈夫大丈夫。私、毒に対する抗体も体内で作れるから。」
「え、それってつまり・・。」
ナナが思った通り、リリィ先生は再びトットに口づけをし、体内に直接毒に対する抗体を流し込んだ。しばらくして、なんとかトットは無事目を覚ましたが、ずうんと肩を沈めて、「わ、私の初キッスが・・。」とうなだれていた。そんなトットの背中を、三つ子たちが優しくなでてあげていた。
「あ、これで二時間目おわりだから。」
「先生がただ暴走しただけでしたよね!?」
《放課後》
リリィ先生の授業もなんとか無事(?)に終わり、ナナたち生徒七人はピティーの誘導に従い、食堂らしきところにたどり着いた。
「料理はこのプリンちゃんが愛情込めて作ってあげたよ~☆デザートはもちろんプリン!召し上がれ☆」
「え、不安・・。」
三つ子の末っ子、マグナが思わずそう声を漏らす。そして、その思いは全員も抱えていたものであったが、予想を裏切り、ラモーネ先生の料理は本当に美味しかった。特に、デザートのプリンは絶品だ。ナナはたまらず「んんーー!!」と声を漏らす。皆もそれぞれ個性豊かな反応で料理を褒め称えていた。
「ラモーネ先生は料理が本当に上手なんですね。・・あっ、このプリンおいしい・・!」
「ラモーネ先生このプリンマジ美味いよー!嫁に来てー!!」
「きゃー!ほっぺた落ちちゃうー!!」
「プリンうまうまー!」
「こんな美味しい料理初めて食べただ・・!幸せだべ~。」
「・・プリンがプリンプリンだ・・。フヒヒ。」
「あら。本当に美味しいですね~。」
「ちょっと刺激足りないから毒かけていい?」
そんな反応に、ラモーネ先生は頬を引きつらせながらこう答えた。
「いや、だからプリンちゃんって呼んでって。ねえ、なんでそんな頑なに呼んでくれないの?嫌がらせ?あと、リリィちゃんそれどういうこと?」
食事を終えたナナたちは、先生三人も含め、ピティーにより就寝するための部屋がある二階へと案内された。
「部屋は二人一部屋となっています。組み合わせはこちらで適当に決めました。変更は認めません。」
ちなみに、部屋割りはこんな感じだ。
一号室・・ナナ&クララ
二号室・・グラーフ&ファラ
三号室・・マグナ&トット
五号室・・ベティ&ピーチ・パティ
六号室・・リリィ&プリン・ア・ラモーネ
この部屋割りに文句をつけたのは、案の定三つ子だった。
「ちょっと!これじゃあマグナだけ別の部屋になっちゃうじゃーん!」
「ファラお姉ちゃんは断固抗議しますぞ!さあ、マグナちゃんも言ってやって!」
怒り心頭いつでも戦う準備はできてるぜ!という様子の姉二人に対し、マグナは若干冷静だった。
「確かにお姉たち二人と別の部屋になるのはさみしいけどさー。あたしは、別にトットちゃんと一緒でいいよ?」
「な、なんだってー!?」
「なんですとぉ!?」
よっぽど予想外の返答だったのか、グラーフとファラの二人は面白い顔で驚きを露わにする。そんな姉二人に対し、マグナは「うわあ、変な顔ー!」と言ってけらけらと笑い声を上げる。
「あたし、産まれてからずっとお姉たちと二人でいつも寝てたじゃーん?だから、こんな機会だし別の人と一緒の部屋で寝るのも悪くないかなーって。ほら、ポテチでうす塩味ばかり食べてたら、たまにはコンソメ味も食べたくなるみたいな?」
「ぐぬぬ・・我々二人はうす塩だったのか・・。」
「ぐぬぬ・・確かに、コンソメも美味しいもんね・・。」
謎の理論で姉二人をマグナが説き伏せたことによって、部屋割もようやく決まった。ナナは、クララに「じゃあ入ろう?」と声をかけて、一緒に部屋に入ることにした。
《ナナ&クララの部屋》
部屋に入っていきなり寝るのはいくら何でもつまらない。なので、ナナはとりあえずクララに話しかけてみることにした。
「ねえ、クララちゃん。」
「は、はいぃ!な、なんだべか!?」
ちょっと話しかけただけなのに、クララは予想以上に大きな反応をして飛び上がる。その様子がおかしくて、ナナは思わず笑い声を上げた。
「ははは!クララちゃん、話しかけただけなのに驚きすぎだよ。」
「うう・・。お、おらあまり話しかけられることとかなかったから・・。はあ、こんなんじゃやっぱり駄目だべな・・。」
何故かそう言って突然落ち込んでしまったクララ。「どうしたの?」と声をかけると、ためらいつつもその理由を語ってくれた。
「おら、ほんとはもっと気楽に友達とおしゃべりとかしてみたいんだべ。だけんど、この訛りのせいで馬鹿にされんじゃねえかって思うと尻込みしちまって・・。ギフトも上手く使えねえし、おらってほんと駄目駄目だべ・・。」
クララがこんなことを他人に話してしまったのは、今の特殊な環境が影響しているからかもしれない。それでも、ナナは悩みを話してくれた以上は真剣に答えようと、クララの目を真っ直ぐに見つめた。
「ボクは、クララちゃんの訛り、可愛くて素敵だと思うよ?」
「・・え?」
ナナの言葉が予想外だったからか、クララは目を大きく見開く。ナナは、畳みかけるようにして続けた。
「クララちゃんはもっと自信を持っていいんだよ。ギフトのことだってそうだよ。上手く使えないって言うけれど、ギフトを持ってる時点で、クララちゃんは他の人より十分凄いじゃん!」
ギフトがあまり役に立たないのは、ナナも同じだ。普段は全く役に立つことはないが、先程クララにも言ったように、ギフトがあるだけで凄いじゃん自分!と思えば自信が持てた。
「・・あんがとぅ、ナナちゃん。おかげで、少し・・自信が持てそうな気がするだ。」
先程よりいくらか明るくなった顔でそう言うクララに対し、ナナはにしし!っと微笑んでみせた。
《グラーフ&ファラの部屋》
「パジャマどうすんのかーい!セーラー服で寝るんかーい!とか思ってたらタンスにパジャマが用意されていたの巻ー!!」
「そしてこれ、普通にあたしたちが家で着てる奴じゃんの巻ー!!」
「そうと分かれば早速パジャマに変身だー!とーう!!」
「てーい!!」
「よーし!ファラ!寝る前にすることと言えば何でしょー!勿論分かってるよねー?」
「もちろんだよー!じゃあせーので言おう!せーの!」
「「枕投げー!!つーことで、早速開始じゃおらー!!!!」」
《マグナ&トットの部屋》
「あー、今頃お姉たち二人は枕投げしてるんだろーなー。」
「ううう・・・。」
「いやあ、それにしても驚いたよー。まさか、トットちゃんがそんな可愛いパジャマを普段着てるなんてね。」
「うう・・。見ないでぇ・・。は、恥ずかしい・・。」
「ふわっふわでもっこもこ!うさぎちゃんパジャマとかトットちゃん分かってるじゃん!もしかして、本当は可愛いモノとかめっちゃ好きなタイプでしょ?」
「そ、そうですよ!・・似合わないのは自分でも分かっています。笑いたければ笑ってください!」
「いや、普通に可愛いよートットちゃん。キュート!キューティー!キューティクル!」
「きゅ、キューティクルは関係ないのでは・・?」(か、可愛いって言われちゃった!うれしいな!!)
《ベティ&ピーチ・パティの部屋》
「・・じー。」
「ごめんねー。ベティちゃんだけ先生と同じ部屋になっちゃって。気まずくない?」
「ふ、フヒ・・!べ、別にそんなことはない・・。そ、それよりも・・。」
「何?どうかした?」ボイーン!!
「・・ピーチ先生のパジャマ、胸が大きすぎてピーチピチ・・フヒ!!」
「あはは!!ベティちゃん面白いこと言うのね~!」
(!!初めてギャグを笑ってくれた!?)
《リリィ&プリン・ア・ラモーネの部屋》
「えーっと・・そのパジャマにはツッコむべきなの?」
「ああん!?何か言ったかこの毒野郎!」
「いや、ジャージに腹巻きってまんまおっさんみたいだなって・・。あと、キャラ変わり過ぎじゃね?いや、私が言えたことじゃないけどさ。」
「いいんだよ!あのキャラ維持すんの結構疲れるんだからさ!それに、このパジャマ見られた時点で今更どう繕っても無駄だろーが!!」
「まあ、確かにそうだけどさ・・。昼もうっすら本性見えてたし」
「はあー。ほんと疲れたわー。酒飲んで煙草吸って寝てえわ。」
「うわー・・。こりゃ生徒に見せれねえわ。まあ、私的にはこっちの方が好きだけれどさ。」
いやー、平和だなー。やっぱり可愛い女の子たちがキャッキャウフフするのを書くのは楽しいね!
次回更新は多分ちょっと間開きます。




