閑話:フローラと殺人鬼
ちょっと短め。サードステージエピローグ直後の話ですー。
フローラは、目の前に座る殺人鬼・・シャーリーの姿を見て思わず息を呑んだ。
クリスタの本の情報により、彼女が能力の影響で外見上はかなり歳を取っていることは分かっていた。実際、フローラが驚いたのはそこではない。
フローラは、老婆の見た目になってもなおその瞳から放たれる眼光の強さと、滲み出る強者の覇気に圧倒され、息を呑まずにはいられなかったのだ。
そんなフローラの心情を知ってか知らずか、シャーリーはまるで親しい友人に話しかけるような軽い口調でフローラたちに声をかけてきた。
「おー!どっかで見たことある顔と思ったら、そこの車椅子の嬢ちゃんは一番最近のゲームの生き残りじゃねえか。お前の能力は便利そうだなーって思ってたからよく覚えてんだよ。・・で、おめえがいるってことは、オレらの情報は既に知られているものと考えてもいいのか?どこまで知ってる?」
口調は軽いが、その瞳は鋭いままだ。有無を言わせぬ迫力でクリスタに問いかける。視線を向けられたクリスタは、フローラ同様一瞬息を呑んだ後、シャーリーの問いかけに答えた。
「・・私たちが知っているのは、貴女たちが最古のゲーム参加者であり、その生き残りであること。そして、シャーリーさん、貴女が自分が参加した以降のゲームの内容を、夢の形で神から見せられていることです。」
クリスタのその答えに、シャーリーと同じくクリスタの顔をじっと見ていたサラが、シャーリーの方に顔を向けすばやく右手を振るう。その動きは速すぎて、フローラは目で追うのがやっとであった。
「ああ、分かってるよサラ。心を読むまでもなく、こいつは嘘をついちゃあいねえ。そういう性格でもないだろうしな。」
次にシャーリーはシャーロットの方へと顔を向ける。そして、シャーロットの顔を認識したらしいシャーリーが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「こいつぁ驚いた!おめえ、あの探偵野郎じゃねえか!いやー、おめえの時のゲームは斬新で面白かったぜ。特に、おめえのえげつなさときたら、オレも若干引くくらいだったからな!」
何故か満面の笑みのシャーリーに対して、シャーロットは対称的に不機嫌そうにこう答えた。
「・・シャーロット・ノックスも死ぬのは嫌だったのでね。ああでもしなければ、あの面子の中生き残るのは難しかった。それだけの話だ。あまり愉快な記憶ではない。掘り起こしてくれるな。」
そんなシャーロットに対し、シャーロットは全く感情のこもっていない様子で「すまんすまん!」と謝ると、最後にフローラに顔を向けて「んん?」と首をかしげた。
「・・すまねえ。てめえ誰だ?」
まさか、自分だけ認識して貰えていなかったとは思っておらず、フローラは予想外のショックを受ける。しかし、何とか膝から崩れ落ちるのだけは耐え、頬をひきつらせながら、「フローラです。あの地面から浮く能力の。」と自分から自己紹介した。すると、シャーロットはぽんと手を打ち、「あー、あいつか!」と納得した表情を浮かべた。
「いやー、髪型とか雰囲気とか全然ちげえから分からなかったわ。おめえ、随分変わったんだな。・・なんか、強そうになった。」
そう言って、シャーリーはおもむろに立ち上がる。その時、フローラは初めてシャーリーの右足が義足であることに気が付いた。それも、ただの義足ではなく、剣をぶっ刺しているだけのように見えるのでかなり痛々しい。
フローラの視線に気付いたのか、シャーリーは右足を撫でながら苦笑しつつ説明してくれた。
「ああ、この足か?これはなぁ、サラと一緒にあちこち逃げてる時にうっかりやられちまったんだ。お前らは大して反応しなかったが、サラを見たら逃げ出したり逆に襲いかかってくる生き残りの奴らが多くてよぉ。こいつは、ピティーとかいう奴とは全然違うって言ってるのによぉ!全く似てねえだろ!どこが似てんだ!まず可愛さが全然ちげえだろ!ん?サラどうした?照れるからやめてくれ?・・分かったよ。でだ。襲ってくる奴に限って、厄介な『ギフト』持ちだったりするんだ。そういう奴らの一人にまあ、ザクッとな。足を切られちまったってわけだ。」
シャーリーは、そんなことを説明しつつ、フローラの近くまでゆっくりと近づいてくる。その距離があと一歩となったところで、後退りしたフローラにさらにシャーリーが近づき、フローラはたまらずシャーリーに声をかけた。
「あの・・何で私に近づいてくるんですか?」
フローラのその問いかけに、シャーリーはニヤリと口角を上げ、身を屈めるとフローラを試すような目で下から見上げ、質問には答えずこう言った。
「なあ、お前ら、ここに来たってことはオレたちの力を借りに来たって考えていいんだよなぁ?」
「はい。そうです。・・駄目でしょうか?」
フローラは、緊張しながらも再びそう尋ねる。シャーリーは、一旦笑みを消し、真剣な表情でこう返した。
「駄目って言ったらどうする?」
シャーリーの眼光が鋭くフローラを貫く。しかし、フローラは今度は臆することなく、その瞳を正面から見つめこう答えた。
「・・その時は、貴女たちの許可を貰えるまで何度でも頼み込んでみせます。私たちには貴女たちの力が必要なので。たとえ力づくでも・・!」
フローラとシャーリーは、しばらく至近距離で睨み合っていたが、ふいにシャーリーがその顔に笑みを浮かべた。
「気に入った!おめえのそのオレたちの都合は無視して自分の欲望に忠実な態度、嫌いじゃあねえぜ・・!!いいぜ。オレとサラ、二人の力を貸してやらぁ。問題ねえよな、サラ?」
シャーリーの問いかけに、サラが頷く。フローラは、シャーリーたちの承認を得られたことにほっとして息を漏らしたが、そんなフローラの首もとに、一瞬で鎌の刃先が向けられた。
「ただし、やるからには全力がオレのモットーなんでな。とりあえず、こん中じゃ一番鍛えがいのありそうなてめえをオレと戦えるくらいにしてやるよ。大丈夫、心配すんな!相手は、身体年齢ほぼ六十代、しかも義足のババアだぜ?」
普通のババアは、こんな風に一瞬で鎌を人に向けたりしない。心の中でそんなツッコミを入れるも、そんなことが言えるはずもなく、フローラは助けを求めてシャーロットとクリスタの二人の方を見る。しかし、その瞬間二人には視線をそらされてしまう。
(こ、この裏切りものーー!!)
次に、フローラは心が読めるというサラに助けを求め視線を投げかけた。しかし、サラはにっこりと微笑むと、シャーリーの袖を掴み、何やら右手でシャーリーに話しかけた。
「え?何だって?シャーリーと二人きりの特訓とか許せないから私も参加する?・・おめえ、最近オレに対する執着強くねえか?まあいいけどよ。てなわけで、サラもお前の特訓に加わることになったからよろしく。」
ぜんぜんよろしくない。フローラは、確かにもっと強くならなければと思ってはいるが、最近チーム内での脳筋ポジになりかけている状況を脱却しようと文字の勉強も初めていたのだ。それなのにこんな身体能力が化け物級の二人の特訓に付き合わされたらそれこそ脳筋ポジまっしぐらてある。
まあ、なんとかなるぜ!これからよろしく!と笑いながらフローラの肩を抱き寄せるシャーリーと、フローラを黒い笑顔で見上げながら、中指を立てるサラ。
フローラは、これから待ち受ける地獄の訓練を予期して、一人冷や汗を流すのであった。
フォースステージなんですが、最近新年度の準備がドッタンバッタン大騒ぎで忙しいので、しばらく様子を見て落ち着いてから投稿しようと思います。ご了承ください。また、フォースステージは内容が複雑なものになりそうなので、毎日更新は難しいかもしれません。それも先にお知らせしておきます。それでは、できれば四月中には投稿できたらなーと思っております。




