プロローグ
今回は、まだゲーム参加者は登場しません。その代わり、初めてあの神の名前が出てきますよー?
「フェ、フェルネスティーネ様ー!!」
メイド長の名前を叫びながら屋敷の通路を走るのは、最近このライブラリ家に雇われた新人メイドのローゼマリーだ。
実はローゼマリーは、ライブラリ家に雇われれば本が大量に読めるという理由で、屋敷の前で一日中土下座して頼み倒し、その熱意に折れたメイド長により雇われたという経歴を持つ変人であるが、今は関係ないので省略する。
メイド長の部屋をノックもせずに開けたローゼマリーは、勢い余って入口の段差に躓き、「ぐはぁっ!」と声をあげて転んでしまう。そんなローゼマリーを、テーブルに肘をついて座るフェルネスティーネは可愛そうな子を見る目で見た後、はぁっとため息をついた。
「愚か者。部屋に入る時はノックをしなさい。」
フェルネスティーネはローゼマリーの突飛な行動には慣れているので、冷静にそう注意した。しかし、ローゼマリーの次の言葉で、フェルネスティーネの顔色は変わる。
「ノックなんてしてる場合じゃありませんよ!お嬢様が・・クリスタお嬢様がお帰りになったんですー!」
そのローゼマリーの報告を聞くや否や、フェルネスティーネは矢のような速さで部屋を飛び出していった。フェルネスティーネにすれ違い様ぶつかったローゼマリーは弾き飛ばされ、またしても「ぐはぁ。」と呻き声をあげて地面に倒れる。
屋敷の中を全力疾走して入口の門へと向かったフェルネスティーネは、そこに居た人物の顔を見て思わず「おおっ!」と歓喜の声をあげた。
そんなフェルネスティーネに対して、その人物・・クリスタは笑顔を浮かべ、自分を迎えに来てくれたメイド長を労った。
「ただいま、フェルネスティーネ。私の留守中、屋敷を守ってくれてどうもありがとう。」
クリスタの言葉を聞いたフェルネスティーネは、感極まったかのか涙を流しながらクリスタの手を握った。
「いえ、当然のことをしたまででございます。クリスタ様こそ、よくご無事で戻られました・・!」
クリスタの手を握り、地面に膝まずくフェルネスティーネ。その時、彼女は初めてクリスタの後ろに見慣れない人物が三人ほどいることに気付いた。
「ああ、後ろの三人は私の仲間です。これからしばらくこの屋敷で暮らすこととなります。」
フェルネスティーネの視線を感じたのか、クリスタがそう説明してくれた。そして、クリスタに紹介された三人がそれぞれフェルネスティーネに改めて自己紹介をする。
「シャーロット・ノックスだ。これからお世話になるよ。」
「ロロと申します。これから、この屋敷のメイドの一員として働かせてもらうつもりですので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
「フローラです。」
三人の紹介を受けたフェルネスティーネは正直困惑の色を隠せなかった。
まず、一人目からおかしい。なぜ、あのライブラリ家より変わり者で有名なノックス家の長女がここにいるのだ?彼女は社交界から追放されたのではなかったのか?
そして、二人目は何故既にメイド服なのだ?それと彼女もまたクリスタお嬢様の友人ではないのか?何故当たり前のような顔でメイドをしようとしている?
最後の三人目・・彼女に至っては、どう見ても平民だろう。髪型は貴族のような巻き髪だが、色が平民のそれだ。ライブラリ家は別に平民を差別することはないが、しかしこの面子の中に平民がいるのは違和感を隠しきれない。
クリスタお嬢様の友人として紹介されたこの三人に対し気になることは多々ある。しかし、それを詮索するのはクリスタお嬢様に仕える身としてはあり得ないことだ。どれだけ気になろうとも、この場でとるべき返答はただ一つ。
「私の名前はフェルネスティーネと申します。すぐにお三方の部屋は用意させますので、ゆっくりと寛いでくださいまし。」
フェルネスティーネはそう言うと、客人三人に対し優雅に一礼した。そんなフェルネスティーネに対し、シャーロットは満足そうに頷き、ロロは負けじと深々と礼を返し、そしてフローラは慣れない待遇に緊張して冷や汗を流していた。
フローラたちがクリスタの屋敷を訪れた理由は、シャーロットの持っていた新聞ではデータ量に限界があったからだ。シャーロットが持っていた新聞はせいぜいここ二、三年分。その点、ライブラリ家には世界中あらとあらゆる場所から書物が集められており、当然新聞もある。屋敷に入るなり早速書庫に突撃した一同は、フローラを除いた三人でララの研究所に居た時と同じ要領で過去のゲーム参加者を探し始めた。その間、暇になったフローラは偶然書庫に来ていたローゼマリーの話し相手になっている。
「あの、私文字を読むのがまだそこまで得意じゃないんで、絵本みたいなの置いてないですか?」
「絵本ですか!?もちろんありますよ!私が案内してあげます!あ、この書庫は最近私が考案した分類法を採用したのでどこに何があるのかは把握済みなんですよ!むふふ~。」
フローラはそのままローゼマリーに引っ張られ、書庫の奥へと連れていかれた。残った三人は、とりあえず書庫から新聞を片っ端から持ってきて、ロロにデータとして取り込ませる。
そのデータの中から失踪事件の被害者をピックアップし、その写真を見て本を作る作業を繰り返すこと一週間弱。その間にフローラはローゼマリーに文字を教えてもらい、ローゼマリーはフローラから格闘術を教えてもらおうとしたが持ち前の虚弱体質によりぶっ倒れ、焦ったフローラが慌てて医務室にローゼマリーを運び、そこに駆けつけたフェルネスティーネがローゼマリーを説教するなどのトラブルはあったものの、特に何もなく時間は過ぎていった。
そして、フローラとローゼマリーが同じ平民出身同士でかなり意気投合した頃、ようやく全てのデータを調べ終え、シャーロットたちは恐らく最古であろうゲーム参加者の一人を発見することに成功したのであった。
「"首狩り"のシャーリー。今からおよそ九年前に突然姿を消した殺人鬼。彼女がゲーム参加者であることは間違いないのかね?」
「ええ、彼女の手配書の写真を見た際に作った本には、彼女がゲーム参加者であることが書かれていました。」
「これより古い資料ではそもそも写真がほとんどない・・。シャーロット・ノックスたちが調べられる範囲では、彼女が最古のゲーム参加者の一人、というわけだ。」
シャーロットはそう言うと、机の上にシャーリーの手配書を置く。その隣には、クリスタが作ったシャーリーの本が既に置かれていた。
「彼女の本に他の参加者の名前は書かれているかね?」
「はい、書かれていました。こちらが参加者のリストです。」
クリスタはそう言うと、本の上に参加者の名前を書いた紙を置く。その紙には、ゲーム参加者の名前とその『ギフト』までもが記されていた。
○サラ・・『心が読める』
○シャーリー・・『時間を引き伸ばす』
○ドクター・ルル・・『神の手でどんな病気や怪我も治療できる』
○キャンディ・キャンディ・・『不思議なキャンディーを出せる』
○スター・・『全身光る』
○ディアナ・・『目で見た相手を石に変える』
○オクター・・『手と足に吸盤がある』
○ポポ・・『増える』
○カスミ・・『目視できる範囲が全て剣の間合いになる』
○ミセス・ピンク・・『体型を自在に変化させる』
そのリストを見たシャーロットは、「なかなか個性的な面子じゃあないか。」と愉快そうに言った後、クリスタにこう尋ねた。
「君は当然知っているのだろう?このメンバーの中で、今も生きているのは誰だ?その人物は、我々の会う必要のある者だ。」
「ええ、勿論承知しています。そして、この中に確かに今も生きている人物がいます。その人物の名は・・・・。」
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これは、今から凡そ九年前の話。神が住まう場所、神界では、今一人の神が下界を眺めため息をついていた。
その神に、後ろから近づく者が一人。彼女もまたここにいる以上当然神であるが、下界を眺める仮面をつけた神が中性的な出で立ちで露出が控えめなのに対し、彼女は露出が非常に多く、全身で女の妖艶な魅力を醸し出していた。
「おいエンキ!お前なにまた下界眺めてんだ?そんな面白いもんがあるなら、オレにも見せてくれよ!」
「君が面白いと思うものはなにもないよ、ロキ。それに、別に私も面白いと思って下界を見てるわけじゃあない。」
ロキにエンキと名を呼ばれた仮面をつけた神は、顔をあげて友人であるロキの方をその仮面の顔で見た。その不気味な仮面の顔にも一切臆することなく、ロキは軽い調子でエンキに話しかけてくる。
「はあ~!?じゃあなんで下界とか見てんだよ。お前が『ギフト』とかを与えたばかりの頃はまあ、ちょっとは面白かったけどさ、今じゃ『ギフト』を持ってても何もしねえ奴が増えてきて面白くねえじゃん。まあ、殺しが増えると後処理が面倒だから"奪う神"であるオレは楽できていいけどさ。」
エンキは、ロキの発言に、パチンと指を鳴らし、「その通り!」と叫んだ。
「君の言う通りなのさ、ロキ!折角この私が退屈しのぎに下界のモノどもに"与える神"として『ギフト』を与えてあげたというのに、最近の下界のモノどもといえばてんでそのギフトを活かそうとしない!これは、私に対する侮辱じゃあないか!?」
「いや、侮辱も何もお前が勝手に与えた『ギフト』をどう使おうがあいつらの勝手のような気もするけどよ。」
「そこでだ!私は、『ギフト』を使う気のない連中に正しい『ギフト』の使い方を教えてやろうと思うんだ。」
「おい、確かお前があいつらに『ギフト』を与えた理由ってオレにゲームで負けた腹いせだよな?人間は愚かな生き物だから強大な力を持てばそれで他者を打ち負かそうとするだろう。そうすれば人死には増えお前の仕事も増えるーとかなんとか言ってさ。なんか嫌な予感しかしねーんだけど。」
「私が考えたのは、『ギフト』を持ったモノ同士の醜い殺し合いゲームだ!」
「うん、知ってた。お前、それオレの仕事無駄に増えることになるからやめてくれよ!あと、あんまりやり過ぎたら創造神様に目ェつけられちまうぞ?折角この世界をオレとお前で好きなように作るようさせてくれたのにさぁ・・。」
「大丈夫だよロキ!一回やればそれで十分!二回目をすることはない!」
「まあ、飽きっぽくて我が儘で自己中なお前ならそうなるか。」
「そうと決まれば、早速会場を作ろう!そうだ、この前作った人形を参加させるのもいいかもしれないね!あれ、無駄に感情とかをつけたせいで扱いづらくなっちゃったから、ここで処分しておこう。」
「勝手に盛り上がるのはいいけど、ホントやり過ぎはやめてくれよ?オレ結構この世界気にいってんだ。創造神様に取り上げられるのだけは勘弁だからな。」
-こうして、神の気まぐれにより、『ギフト』を与えられた十人の人物が最初のゲームに参加させられることになった。彼女たちに待ち受けるのは、地獄か、それとも・・・
このローゼマリーとかいうメイド、どこかで見た覚えが・・。
本好き、そして虚弱体質・・。あっ(察し)
ぱ、パクリじゃないです!意識はしたけど、リスペクトだから!
(あと、何気にフェルネスティーネもリスペクトキャラ。気になる人は本好きの下剋上を読もう!)




