七日目&エピローグ
シャルン「さあいらっしゃーい!」
ミラ「あまーいお菓子もありますよ?」
ソニア「私たち五人が」
アスカ「あらすじ村の世界へ」
シャンプー「連れていってあげる。」
メアリ「カットカットー!そんなんじゃ皆、トップアイドルになれないよ!シャンプーちゃんそこはもっと手をわちゃわちゃして!」
クロ「何やってんだこいつら。」
ムイムイ「おねえちゃんたち、ちゃんとあらすじ、やろう?」シャキン!(鋏を構える音)
ソニアたち「「「「「「すいませんでした!」」」」」」土下座
クロ「あ、今日はセカンドステージラストですよー。」
クリスタは、幼い頃から自分のことをつまらない存在だと思って生きてきた。貴族としての最低限の嗜みができることは当たり前。『ギフト』という特別な能力を与えられたが、それでもって何をするわけでもない。せいぜい他人の情報を盗み見るくらいで、それはクリスタが夢中になって読んできた物語の主人公たちとは程遠い姿だった。
何よりもクリスタが自分が主人公としての魅了がないと判断する材料は、自分自身の感情の起伏の乏しさだ。
クリスタはこれまで、一度も泣いたこともなければ、声を張り上げて怒ることもなかった。もちろん、悲しいと思う時や怒る時もある。だが、それはあくまでも波一つ立たない湖のように穏やかなもので、激しい感情とやらを産み出すことがなかった。
仲間を殺されても静かな怒りしか感じない主人公に誰が共感するだろうか?少なくとも、クリスタはそんな主人公は魅力的ではないと思うし、それ故に自分は主人公たりえないと思ってきた。
そんな中、見つけた逸材がクロであった。彼女の過去は、クリスタと違い平凡なものではなかった。暗殺組織に育てられた彼女には、自分とは違う魅力がある。彼女の黒い瞳は、悲しみや怒りといった強い感情が混ざりあってできた色のようにクリスタには思えた。
この時クロを自分の従者にした選択は、クリスタの人生の中で最も素晴らしいものであると断言できる。実際、クロと同じ時間を過ごす程に、クロは主人公として申し分ない要素をもっているように思えた。
クリスタは増えていくクロの本のページと、そこに自分の名前もまた記されていることに静かな興奮を感じていた。自分は主人公にはなれない。でも、クロという主人公を引き立てる脇役としての才能はあったのだ。
しかし、クリスタが脇役として満足する日々を送っていたある日のこと、こうして神に呼ばれ、殺し合いの舞台に立つことになった。
実は、クリスタはこの殺し合いゲームに少しの期待を抱いていた。このような異常な状況下なら、もしかしたら自分も、激しい感情を感じることができるのではないかと。
だが、結果的には、やはりクリスタは脇役にしかなれないのだろう。なぜなら、クロが死んだ今でさえ、クリスタは涙することができないのだから・・。
「すいません。クリスタ・ライブラリ。やはりいくら探してもクロの遺体はどこにもありませんでした。」
そう言って申し訳そうな表情を浮かべるロロ。彼女の身体は、先日の戦闘によりボロボロで、顔もところどころ金属が剥き出しになってしまっているが、それでも美しく見えた。
初めて会った時に比べ、彼女はだいぶ表情が豊かになったように思える。ロボットである彼女にさえ、感情表現で負けているという事実にクリスタはさらに自分を卑下した。
「いえ、もう十分です。探してくださってありがとうございます・・。それにしても、参加者全員の死体を弔うとは思いませんでした。メアリさん以外は、貴女とほぼ関係のない方ばかりでしょう?」
そう、ロロは、メアリの死体だけでなく、死体が見つからなかったクロとムイムイ、そしてピティーの死体以外の全ての参加者の死体を地面に埋め、供養していた。人形にされていた三人の死体はまだ良かったが、二日目に殺されたシャルンの死体などは大分腐敗が進んでいることが予想されたし、どこで死んだかも定かでなかったが、ロロは昨夜一晩中飛び回って死体を見つけてくると、全員の墓石を作り弔うことに成功していた。
「・・確かに、メアリ以外とはほとんど会話すらしていませんし、私自身彼女らに特別な情を抱いている訳ではありません。しかし、メアリなら恐らく彼女たちをそのままにすることはしないでしょう。メアリにとっては、世界中の人間皆が彼女のファン候補、実際、メアリは最期まで誰かを傷つけることはありませんでした。それなら、彼女のファン一号である私は彼女の意志を継ぎ全ての人を愛するべきだと思ったのです。」
メアリの墓石を眺めながら、そう語るロロは、とても優しい表情をしていた。
そのまま、何事もなく七日目は終わりを迎えた。太陽が沈むと同時に、ロロとクリスタの身体が白い光に包まれる。次に目を開けた時には、二人は見覚えのある白い空間の上に立っていた。
『やっほー!七日間お疲れ様ー!脱落者がなかなか出ない時には、どうしようかと思ってたけど、結果的にそこそこ面白いものを見れて良かった良かった。・・さて、生き残ったお前らには、約束通りこの私がなんでも願いを叶えてあげるよ!』
そして、声だけは聞いていたが、姿は七日ぶりに見る神が二人に相変わらずの軽い口調で話しかける。
その姿を見たときは、若干の苛立ちを覚えたクリスタであったが、神の最後の言葉を聞き、心の中に一筋の希望が生まれた。
「その願いは・・死者を生き返らせる、というものでもよいですか?」
クリスタのその問いに、ロロがはっとした表情を浮かべる。そして、次の瞬間には期待で目を輝かせ始めた。クリスタも、自分が少し興奮しているのを感じていた。もし神がクロを生き返らせてくれるなら、またあの物語の続きが読める。そうなれば、今度こそしっかり物語をハッピーエンドにしてみせるのだ。
『もちろんできるよー?でも、一つの願いにつき一人までだからね?』
「それで構いません!私の願いは、クロを生き返らせることです!どうかクロを生き返らせてください!」
神から返ってきた期待通りの答えに、クリスタは即座に食い付き、その願いを口にした。ロロもまた、メアリが生き返るかもしれないという事実に興奮し、頬を上気させている。
そんな二人の期待を一身に受け止める中、神は徐に指を一振りすると、『はいっ。』と口にした。
『はい、これで願い叶えたよ。まあ恐らく、百年後くらいにはクロと全く同じ少女が産まれるんじゃないかなー。』
「・・は?」
神の口から出た思わぬ言葉に、クリスタは思わず絶句した。そんなクリスタを指差し、神はゲラゲラと笑い声をあげる。
『ハハハ!なにその間抜けな顔!だって、生き返らせる日時とか指定されてなかったし~?あ、もう願い変えるとかはできないからね?今更文句言っても受け付けませーん!ねえ今どんな気持ち?期待が絶望に変わる瞬間はさぁ~?ギャハハハハハ!!!』
クリスタはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて沸々と怒りの感情が込み上げてきた。かつて感じたことのないほどの激しい怒りに、クリスタはそれを神にぶつけるより先に驚いてしまった。
そのため、クリスタより先に、顔を真っ赤にしたロロが神に怒りの叫びをぶつけた。
「人を馬鹿にするのも大概にしてください!何がそんなにおかしいんですか!クリスタ・ライブラリも真剣に貴方に願ったのですよ!?」
すると、神は突然笑いを納め、仮面の奥からじっとロロを見つめた。
『・・何でお前が私に意見してるのかな、ロロ?私ね、ピティーを殺されたこと、まだ根にもってるからね?あれ、作るの結構大変だったんだから。ゲームの進行上スルーしてあげてたけれど、そのゲームは終わったんだし、もういいよね?』
「わ、私に何をするつもりですか!?」
ロロは、神の怒りを間近に受けながらも、クリスタを巻き込むまいと彼女の前に立ち、神の視線を正面から受け止める。
そんなロロに対し、神はパチンと指を鳴らすことで答えた。
「私は何もしないよ?ただ・・お前に復讐したいっていう妹たちがいるから、そうさせてあげようかな~ってね?」
神のその言葉と同時に、四方八方からザッザッというこちらに近付いてくる足音が聞こえてくる。遠くから見ると靄がかって見えたそれらの姿は、クリスタたちを取り囲むようにして立つと、その姿をはっきりと表した。
その姿を見たクリスタの背筋は凍り、ロロもまた震える叫び声を上げる。
「まさか・・彼女たち皆、ピティーだとでも言うのですか!?」
ピティーと全く同じ姿形をした少女たちは、その手に持ったライフルを一斉にクリスタとロロへと向けた。
『じゃあ、殺っちゃって☆』
神が腕を振り下ろすと同時に、ピティーたちは一斉にライフルを放つ。クリスタは、ロロによって咄嗟に地面に押し倒されるようにして身体の上に覆い被された。ロロの鉄の身体に、ライフルの銃弾がぶつかり激しい音を立てる。ロロの身体に隠れきれなかったクリスタの足に銃弾が当たり、クリスタはその痛みに呻き声を上げる。
「あああああああぁぁあっ!!!!??」
終わる気配のない弾幕は、クリスタの足の感覚がなくなるまで続いた。弾がなくなったのか、突然発砲音が止み、クリスタは全く感覚のなくなった両足に恐怖を感じつつも、自分を庇ってくれたロロに慌てて話しかけた。
「ロロさん!?大丈夫ですか!!生きてるなら返事をしてください!」
何十人ものピティーによる一斉射撃を受け続けたロロの身体は、見るも無惨な有り様になっていた。銃弾を受け続けた背中は回路まで剥き出しになり、ダメージを受けすぎてショートし、火花を上げている。後頭部は半壊状態で、両足は吹き飛んでいる。
しかし、そんな状態になっても、ロロは最後までクリスタを守り続けた。ロロの口がゆっくりと開き、途切れ途切れの言葉を紡ぐ。
「よ、よかっ、タ・・。こん、どは、しっかり、守・・レタ・・。」
そこで力尽きたのか、ロロの瞳からハイライトが消え、ガシャリと崩れ落ちる。クリスタはロロの死を受け入れ切れず、狂ったような叫び声を上げる。
『あれ、ロボットじゃない方は死ななかったんだ。まあいっか。一人くらいは生き残りを作っといた方がいいし、何よりその様子じゃ、正気を保つのは難しいだろうしね。』
神は、そう言って再び指を鳴らす。すると、またしても眩しい光が今度はクリスタだけを包み、次の瞬間にはクリスタの姿は消えていたのだった。
《フローラ&シャーロットside》
フローラとシャーロットの目の前では、今まさに新しいロボットが起動されようとしていた。それを見たフローラは、「くそっ!」と悪態をつくと、近くにあった椅子を蹴り倒す。
ここは、ララの研究室。つまり、ロロが産まれた場所だ。フローラとシャーロットの二人は、つい一ヶ月前にこの場所にたどりついていた。
シャーロットは、怒り心頭といった様子のフローラを見て、無理もないと眉間の皺を押さえため息をつく。
一ヶ月前、シャーロットたちをこの場所で出迎えたロロ。彼女はつい一週間前から姿を消していた。この研究室で産まれたロロが、自主的に外に出ることはないということは一ヶ月近く一緒に暮らして分かっていたこと。突然の失踪を自分達の経験と結びつけるのは当然のことであった。
そして、今新たなロボットが起動されたということは、ロロは死んでしまったということだ。彼女たちはそのようにプログラムされていると本人が語っていた。
フローラは、ロロのことを比較的可愛がっていた。この一週間はずっと、神への怨嗟を呟きながらロロの無事を祈っていた。何事もないまま七日間が経過し、ほっとしたところでロロの死が知らされたのだ。フローラの神への怒りはさらに大きくなったことだろう。
かくいうシャーロットも、穏やかな気持ちではないことは確かだ。だが、フローラが感情を爆発させていることが、シャーロットをかろうじて冷静にさせていた。
「初めまして。私の名前は、ロロと申します。お二人の名前は、何ですか?」
起動したばかりのロロがそう話しかけてきたところで、耐えきれなくなったのかフローラは無言で外に飛び出して行った。
一人残されたシャーロットは、ひとまず重要な事柄を確認しておくことにする。
「やあ、ロロ君。早速で悪いのだが、君にはきちんと先代のデータが残されているかね?」
この七日間、先代のロロがあのゲームに巻き込まれていたことは確実だ。それなら、その時の映像記録がこの新しいロロには転送されているはずである。
しかし、ロロはしばらくデータを探っている様子をみせた後、機械的な声でこう返答した。
「申し訳ありません。外からの激しい衝撃を受けたためか、ここ数日のデータは全て消えてしまっています。」
「その間会った人物の顔も分からないのかね?」
「はい。」
「むむむ・・それは困ったことになったな。」
これでは、生き残った人物を探すことも難しい。その後もいくつか質問を重ねたが、やはりゲームに参加していた間の記憶が全てなくなってしまっているようだ。ここまで綺麗になくなってしまっていると、神の干渉を疑いたくなる。
実際、新しいロロには『ギフト』が与えられなかったことからも、記憶の欠損は神の嫌がらせの可能性が高いかもしれない。
予想外の事態に、口の中で神に悪態を付きつつ、眉間に皺を寄せるシャーロットであったが、その時ふいにどこからともなく聞き慣れない歌が聞こえてきた。
その歌はどうやらロロが歌っているらしいことに気づき、シャーロットは尋ねる。
「ロロ君。君は歌を歌うような趣味を持っていたかね?先代は歌を歌うことなどなかったと思うのだが。」
すると、ロロは表情は機械的ながらも、どこか戸惑った声で答えた。
「分かりません・・。少なくとも、データにはこのような歌は記録されていません。それなのに何故か自然と口が動いてこの歌を歌っていました。」
そして、ロロは自分の胸をぎゅうっと強く掴んだ。その目からは、涙が流れている。
「何故でしょう。胸が痛い・・。この瞳から流れるものは一体何ですか?私は、故障してしまったのでしょうか。」
そのロロの問いかけに、シャーロットは静かにこう答えた。
「いや、君は壊れてなどいないよ。君の目から流れているそれは、涙といって、人間が悲しい時や嬉しい時に流すものだ。」
「そうですか、これが涙・・。初めて知りました。データに保存しておきます。」
「君にとって、その歌はどうやらとても大切なものらしい。・・確かに、どこか懐かしい気持ちになる、不思議な歌だ。また聞かせてくれるかね?」
《クリスタside》
あの白い空間から、クリスタは元居た屋敷へと戻されていた。失踪していたお嬢様の突然の帰還。そして彼女が半ば正気を失い、両足が血だらけになってしまっていることに皆騒然となった。
何とか治療により一命をとりとめたが、クリスタの両足は使えなくなり、車椅子生活を余儀なくされることとなった。また、戻ってきてからというもの、クリスタはあれだけ好きだった読書もせず、毎日人形のようにただぼうっと虚空を見つめる日々を送っていた。
そんな生活が一ヶ月間も続いたある日のこと、いつものようにぼうっと虚空を見つめていたクリスタは、ふと何かが落ちる音を聞き地面を見た。
そこには、一冊の本が落ちていた。タイトルは、『クロ』。クリスタの能力により作られたものだ。しかし、クリスタは本を取りだそうと思っていなかった。不思議に思い、クリスタは久しぶりに本を読むことにした。
クロの本は、何度も読んできたからもう内容はほとんど覚えている。さらさらっと最後のページまで行ったところで、見覚えのない文章を見つけ、手が止まった。
『この文章を読んでいるということは、私はもう死んでいるということでしょう。私から、最期に貴女に伝えたいことがあり、私は死の間際にこうして強く思っています。』
それまで本を読んでいても焦点を結んでこなかった瞳が、かっ!と勢いよく見開かれた。クリスタの能力により、クロはその時その時の思考までもが赤裸々に記される。つまり、最後のページに書かれたこれは、クリスタに向けて残されたクロの"想い"だ。
『お嬢様は、いつも私を物語の主人公だと言ってましたね。しかし、私にとって、お嬢様こそが私を明るい場所に連れてきてくれた物語の英雄なのですよ。お嬢様は、ハッピーエンドが好きともよく言ってましたよね。私も、ハッピーエンドが好きです。お嬢様には、私がいない後も、生きて、どうか幸せになってほしいです。』
ページを捲るクリスタの手は、いつからか震えていた。クリスタは、なぜか滲んできた文字を睨み付けるようにして、最後のメッセージを読んだ。
『私はいなくなってしまいます。しかし、私のことが記されたこの本は、永遠に貴女の元に残ります。この本が有る限り、私の魂は、お嬢様と共にあることを約束します。だから・・どうか、強く生きてください。そして、貴女だけの物語をつくってください。』
いつの間にか、クリスタの目からは涙が溢れ出てきていた。この時、クリスタは初めてクロの死を受け止め、それを悲しむことができたのだった。
その数日後、家臣の反対を押しきり、一人で館を飛び出すクリスタの姿があった。目的は、ロロが産まれた研究室へ行き、産まれているであろう新しい彼女に出会うこと。
車椅子での一人旅など無謀かもしれない。だが、クリスタはもう自分が主人公ではないと卑下する少女ではない。
これから、自分の新しい物語が始まるのだ。そう思うと、クリスタはどこかわくわくする気持ちすらあった。
2nd stage 『歌と書物は永遠に』完
ロロ
身体能力 4
知性 4
社会性 2
運 3
能力の強さ 3
ギフトの能力・・『掃除が得意』箒でどんなものでも掃ける。
クリスタ・ライブラリ
身体能力 2
知性 5
社会性 4
運 4
能力の強さ 4
ギフトの能力・・『いろいろな人の物語が読める』五秒間相手の顔を見ると、その相手の情報が書かれた本がつくれる。
明日、活動報告でセカンドステージのキャラ裏話とかサードステージキャラチラ出しとかする予定です。サードステージに入る前に、閑話も何話か書くかも。
本好き最高でした。




