三日目 part 2
シャルン「パート2は、ミラやシャンプー、アスカに問題児ムイムイのチームの出番やでー。」
ソニア「なお、パート1より若干短めになっているので、あしからず!」
《チームミラside》(ミラ・シャンプー・アスカ・ムイムイ)
ミラは、自分と同じ場所に飛ばされたチームのメンバーを確認する。
一人は、突然の事態に怯えているのか震えているシャンプー。彼女は頼りになりそうにない。
後の二人の内、ムイムイはまず年齢が幼すぎるからその時点で論外。残るアスカは、あの白い空間で見た時は自信に溢れ強そうに見えたが、何故か今は一言も話さず、まるで人形のような無表情でムイムイの後ろに立っている。以前の彼女ならまだしも、今の彼女は使えそうにない。
そうなると、このメンバーの中で指揮をとれるとすれば実質ミラしかいないだろう。そして、チームの指揮をとるなら、ミラは神に告げられた条件の一つ目か二つ目、どちらかを選択しなければならないのだが・・。
その答えは神のアナウンスを聞いた時から決まっていた。当然二つ目だ。もし自分が《生け贄》に選ばれたなら、何としてでも二つ目の条件は回避しようとしただろうが、自分は《生け贄》には選ばれなかった。ならば、リスクが少ない方を選ぶに決まっている。ミラは、知り合いでもない少女たちを殺すことに躊躇いはなかった。それに、生き残って神に叶えてほしい願いもある。
「ねえ、貴女たちに聞くけれど、自分が《生け贄》ですーって素直に言うつもりの奴はいる?」
ミラがチーフメンバーの三人に問いかけるも、返事はない。まあ、自分から生け贄であることを言い出す奴などいないから当然であろう。居たとしたらそいつはよっぽどのお人好しか、自殺願望のある奴に違いない。
返事が返ってこないことを最初から予想していたミラは、即座に次の行動に移った。
「あ、そ。じゃあ、あんたら皆殺すね。」
そう言って、神から貰ったロッドを構える。明らかに戦闘体勢に入ったミラを、シャンプーが慌てた様子で止めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!一つ目の条件を選べば、ボクたちが争う必要はないんだよ!?もっと冷静になろうよ!・・だピョン。」
「私はいたって冷静よ?私は《生け贄》じゃないことは分かっているし、明らかに危険って分かる怪獣を倒すよりは、あんたらを殺す方がよっぽどリスクが少ないわ。」
ミラの言葉は、決してはったりではない。ミラには、この三人を相手にしても勝つ自信があった。
それは、ミラが彼女の持つ能力に絶対の自信を持っていたからである。ミラの能力は、『相手の能力をコピーする』というもの。この能力があれば、『ギフト』所有者相手ならその能力を知った上で同じ能力を使うことが出来るし、たとえ『ギフト』を持っていなくとも、相手の身体能力や格闘技術もコピーすることができるため問題ない。
昔からなんでも一度したことなら器用にこなせてみせたミラにとって、コピーした能力を自分のモノのように扱うのは楽なことであった。なんなら、本人より上手に能力を使ってみせる自信さえある。
この能力の短所としては、一度にコピーできる能力は一つのみで、新しい能力をコピーする際は上書きされるという点があるが、それは大したデメリットにはならない。これからこの三人と戦うとしても、一度全員の能力をコピーしてしまい、その中で強そうな一つを選択すれば、全員の能力を知った上で優位に立てるからだ。
「で、でも・・自分が生き残るために誰かを殺すなんて間違ってる!・・だピョン!」
「うるさいわね!あんたに説教される覚えはないわよ!それと、その取って付けたような語尾はなんとかならないの!?」
シャンプーが何やらごちゃごちゃ言ってくるが、そんなのは所詮偽善に過ぎない。誰だって、一番可愛いのは自分で、ミラはそんな自分を守るためなら何だってする。
「もういいわ。じゃあ、あんたから死になさい。」
ミラは、そう言ってロッドを振り上げる。それを見上げるシャンプーは、避ける様子もなく震えているだけだった。
この様子だと、能力を使う必要もなさそうだ。そう思いロッドを振り下ろす。しかし、そのロッドは、シャンプーの頭に当たる前に、第三者の手によって止められた。
「ミラおねーちゃん、シャンプーおねえちゃんをころしちゃだめだよ?」
驚いたことに、ミラを止めたのはムイムイであった。しかも、幼女のくせに、ミラのロッドを止める力は強く、ピクリとも動かない。
ミラがロッドを振り下ろす際、恐怖で目を瞑ってしまっていたシャンプーは、恐る恐る目を開き、ムイムイが自分を助けてくれたことを知るとほっとした様子で口を開いた。
「あ、ありがとうムイムイちゃん。おかげで助かったよ・・だピョン。」
ムイムイは、そんなシャンプーに満面の笑みを返し、こう言った。
「どういたしまして!だって、ミラおねえちゃんがシャンプーおねえちゃんをころしちゃったら、シャンプーおねえちゃんがわたしのおともだちになれないもんね!」
「・・え?」
ムイムイの言葉の意味が理解できず、語尾をつけるのも忘れて声を漏らすシャンプー。
しかし次の瞬間には、ムイムイの鋏が一閃し、シャンプーの首をはねていた。
首をはねられたシャンプーから、大量の血が吹き出る。ミラは、未だにムイムイにロッドを掴まれているため、その反り血をもろに浴びることとなった。ミラの心中は、目の前の幼女に対する恐怖でいっぱいだ。
ムイムイは、シャンプーの反り血を浴びながらも、まだ笑顔を浮かべていた。その笑顔に狂気を感じ、逃げようとするも、相変わらず強い力でロッドを握りしめられているため逃げられない。
そう、ムイムイは左手でミラのロッドを握りしめた状態で、右手だけで身長ほどもある鋏をもってシャンプーの首を切り落としたのだ。幼女の力とは思えない、あり得ない怪力である。
ミラは、この得たいの知れない幼女に対する恐怖で、ムイムイの能力をコピーすることさえ忘れていた。ふいに、ムイムイがミラの方に顔を向ける。その顔を見たミラは、思わずひいっ!?と情けない悲鳴をあげてしまった。
「ミラおねえちゃん、だいじょうぶだよ。これで、ふたつめのじょうけんはくりあできたから。」
いきなりそんなことを言われても、頭が追い付かない。シャンプーが生け贄かどうかはまだ分からないはずだ。ムイムイか何故それを知れたのだろうか。
そのようなことを尋ねたい気持ちはあったが、その思いとは裏腹に、「・・えっ?」とか細い声で聞き返すことしかできなかった。
「あのね。わたしはいけにえじゃなかったし、アスカおねえちゃんもいけにえじゃないっていうのは、アスカおねえちゃんがわたしのともだちになってくれたからわかったの。それで、ミラおねえちゃんはいけにえじゃないっていってたでしょ?それで、シャンプーおねえちゃんがいけにえだってわかったの。」
ムイムイが話している説明は、もしミラが嘘をついていたとしたら成り立たないものだ。もしミラが嘘をついていたとすれば、シャンプーは無駄死にになる。ムイムイはそれが分かっているのだろうか?だが、こちらを見つめてくる瞳は恐ろしいほど真っ直ぐだ。自分がやったことを正しいことと信じて疑っていない。それに、シャンプーを殺したことに対する罪悪感もその瞳には見られなかった。
「でも、ミラおねえちゃんがシャンプーおねえちゃんをころしちゃったら、ムイムイのともだちにできないから、だからわたしがころしたの。」
「そ、その友達にするってどういう意味なの?貴女の後ろにいるアスカがさっきから何も喋らないのと関係あるの?」
ミラは、恐ろしい予感を感じながらも、ついつい気になりそう尋ねた。すると、ムイムイはすうっと目を細めてこちらを見てくる。思わずビクッと身体を震わせたミラに、ムイムイはにこっと笑みを向けた。
「だいじょうぶだよ。シャンプーおねえちゃんをともだちにしたら、つぎはミラおねえちゃんもともだちにしてあげるから。」
ムイムイはそう言うと、やっとミラのロッドを放してくれた。しかし、ミラの冷や汗は止まらない。早くここから逃げ出したくて堪らなかった。
(私も友達にする!?どういう意味なの?・・でも、少なくともいい意味ではないはず、とにかく早く逃げないと!)
そう決意するミラの目の前で、ムイムイは先程切り落としたシャンプーの首を針で縫い合わせ始める。ムイムイが首を縫い終わり玉止めをしたところで、ミラの目を疑う光景が現れた。
なんと、先程首を切り落とされ、死んだはずのシャンプーの身体が、まるで生きてるかのように再び動き出したからだ。
「ひいっ!?」
そのあり得ない光景に、ミラは再び悲鳴をあげる。死んだはずのシャンプーが動き出したということは、つまり、同じくムイムイに"おともだち"と呼ばれたアスカももう・・。
シャンプーをおともだちにしたムイムイが、ミラの方を振り替える。その顔は、邪気を知らないあどけない笑顔だ。
「じゃあ、つぎはミラおねえちゃんのばんだよ。だいじょうぶ、しぬのはいっしゅんだから。」
しかし、ムイムイがその手に持った鋏をミラに向ける前に、全員の身体がここに来た時と同様に白く輝き出した。どうやら、二つ目の条件をクリアしたことで元居た場所に戻されるタイミングがちょうど来たらしい。
思わぬ幸運に安堵するミラに、しかしながらその姿が消える寸前、ムイムイの声が聞こえてくる。
「つぎにあうときは、ムイムイのおともだちにしてあげる。たのしみにしててね?」
‐こうして、ミラチームも、三日目の特別イベントを終えた。死亡者は出なかったが、またしてもムイムイの"おともだち"が増えることとなったのであった。
三日目が経過してなお、後書きに書かれた人の数は二名。
これは、もしかして生存者はファーストステージより多いのでは!?




