二日目
筆が乗ってついつい長く・・すいません。
《クロ&クリスタside》
一日目は、あのロロとかいうメイドがピティーを殺したことで怒った神によって強制的にゲーム会場へと飛ばされてしまい、クリスタを探すうちに終わってしまった。ここに飛ばされた時から既に夜だったが、なんとか二日目になる前にクリスタと合流できたことはクロにとって一安心だった。
「それにしても、クロ、貴女は私の居場所を探すのが本当に得意ですね。」
「お嬢様の香水の匂いを辿ってどうにか見つけることが出来ました。」
クロがそう答えると、クリスタは感心したように、「クロ、貴女って時々犬みたいですね。」と言ってきたが、あまり褒められた気がしない。
クリスタと合流してから、ちょうど近くにあった洞窟の中で一晩を過ごし、現在時刻は二日目の朝。クロが適当にそこら辺からとってきた果実(毒見済み)を朝食にしながら、クリスタは地面に七冊の本を広げていた。
クロは、クリスタが八冊目の本を読み終わり、これまでの七冊と同様に地面に置いたところで話しかけた。
「お嬢様、どうですか?他のゲーム参加者の情報は十分に得られましたか?」
「はい。皆さんとても素晴らしい物語でした。時間があればもう少しゆっくりと読みたいくらいですね。」
クロの問いかけに、クリスタは満足そうな笑みを浮かべてそう答えた。
クリスタのギフトの能力は、『いろんな人の物語が読める』というものだ。この能力は、相手の顔を五秒間見つめることで、その相手がこれまで生きてきた半生、そして血液型から誕生日、さらにはギフトの能力まで、全て一冊の本としてデータ化できる能力である。この能力でデータ化された情報は、普段は全てクリスタの頭の中に入っている。しかし、それを確認するためには、本の形に具現化させなければならない。具現化された本は、任意で再びデータ化し保管することはでき、クリスタの脳内にはこれまで出会った人物のほとんどがデータ化され保管されている。誰が呼んだか、通称『歩く図書館』。彼女に五秒見つめられれば、それだけで全てが丸裸にされてしまう。また、この能力の凄いところは、一度“書籍化”さえすれば、随時その内容が更新されるところだ。
「お嬢様が読んだ中で、特に気を付けるべき参加者はいましたか?」
クリスタの能力のことを知っていたクロは、クリスタが昨日自己紹介を提案した理由が全員分の本を作成するためであることを知っていた。自己紹介をするならば、五秒間相手の顔を見つめるという行為も不審なものではなくなる。クリスタの能力を全面的に信頼しているクロは、当然クリスタがそれを確認していることを前提でそう問いかけ、クリスタもまた当然のようにそれに答えた。
「そうですね・・。特に気を付けるべきなのは、ロロとシャルンとムイムイの三人でしょうか。」
クリスタの口から出た三人の名前は、クロにとっては少々意外なものだった。てっきり、あのチャンピオンとやらが厄介かと思っていたからだ。
「意外な面子ですね・・。そもそも、ロロは神に殺されているのでは?」
特に、一日目でピティーを殺し神の怒りを買ったロロはとっくに殺されているものだと思っていたため、一番意外な存在であった。
「いえ。本を読む限り、未だ情報が更新されていることからも彼女はまだ死んではいないようです。それに、あの神の性格からして、彼女を殺すことはあり得ないでしょう。」
「お嬢様は、あの神の情報を読み取ることはできなかったんですよね?一体何を根拠にそう思うのですか?」
「確かに、あの神の情報は読めませんでしたが・・。あの言動からでも、神の性格はある程度読み取れます。あの神は、私達をゲームの駒としか思っていない。そして、あの神の目的が、本人が言っていたように只の暇つぶしである以上、自ら遊戯盤の上に降りて私達を殺すことはしないでしょう。それをしてしまうと、ゲームが成り立たなくなるからです。彼女を殺すなら、神はあくまでも自らの手は下さず、このゲームの中で殺そうとするはずです。」
クロは、この場所に飛ばされる前の神の言動を思い出し、なるほど、確かにあの手の類は、自ら手を下すことはしないだろうなと思った。それよりも、自分たちが醜く殺し合いをする様を楽しんで眺めるに違いない。
「ただ・・少し気になる点があるとすれば、何故神はピティーが殺されてあれほど激怒したか、ということです。その理由はピティーの本を読めば分かるかと思ったのですが・・彼女の本は、彼女同様に真っ白で何も書かれていませんでした。」
「何も書かれていない?そんなことがあり得るんですか?」
「普通はあり得ません。私にとっても初めてのケースで最初読んだ時は驚きました。これは私の憶測にすぎませんが、ピティーは神と何らかのつながりがあったのかもしれません。それなら本に何も書かれていないことにも納得できます。」
「なるほど。確かにそう考えると納得できますね。」
しかし、ピティーが神とつながりがあったと考えると、そのピティーを殺したロロのことが気になる。あの場で即座にピティーを殺したということは、ロロがピティーが神とつながりがあることを知っていた可能性が高い。クロがそのことを口にすると、クリスタも同じ考えだったらしく頷いた。
「私もそう思っています。何故なら、ロロもまた、ピティーほどではないですが、圧倒的に本に書かれている情報が少ないのです。まるで生まれたばかりの赤子のように。そして、その数少ない情報の中には、彼女がララという少女が作ったロボットであることが書かれていました。」
「は!?ロボットですか!?」
確かに声などがどこか機械的だなーとは思っていたが、彼女がロボットだとは予想していなかった。どこからどう見ても生きた人間そのものだったからである。
「私も最初読んだ時は自分の目を疑いましたが、どうやら事実のようです。それと、ロロにはどうやら、生前そのララという少女が見た映像記録と、彼女の先代である『戦闘用メイド型ロボットNo.13』の映像記録がデータとして残されているようです。また、生みの親であるララの死と同時に起動するようプログラミングされていたようですね。」
クリスタの口から出たその情報を聞き、クロは思わず顔を引きつらせた。
「・・それはつまり、彼女の生みの親であるその少女が、以前にこのゲームに参加していた可能性が高いということですか。」
「そうなりますね。そして、ロロがここにいるということは、その少女は既に死んでいるのでしょう。もしかしたら、ピティーに殺されたのかもしれません。」
クロは、それを聞いて何とも言えない悲しい気持ちになった。その少女のことは勿論、生みの親が殺され、一人残されたロロはどんな気持ちなのだろうか。それとも、ロボットにはそんな感情はないのだろうか。
「彼女を警戒するべき理由は、前回のゲームの知識を持っていること、それとその能力の強さ故ですね。彼女の能力は、『掃除が得意』というもので、箒でどんなものでも掃くことができる力を持っているようです。分かりやすく言い直せば、どんな物質でもその重量に関係なくゴミを掃くようにして吹き飛ばすことが出来る能力のようですね。」
「・・いまいちピンときませんね。」
「まあ、彼女の持つ箒に気を付けていればいいというわけです。それでは次、二人目、シャルンですが、彼女は参加者の中で恐らく最も凶悪な能力を持っています。最近の言葉で言えば“ちーと”というやつです。」
シャルン・・確か、あの独特な訛りで喋るカメラマンの少女か。一見そんな凶悪な能力を持っているようには見えなかったが・・。
「彼女の能力は、『凄い写真が撮れる』というもので、写真に写った人物やモノを攻撃することで、実際にその相手に攻撃することができる能力です。写真を燃やせば、突然山火事になったり人体発火現象が起きたりもしますし、写真に写った人物の心臓を針か何かで一突きすればそれだけでその相手は即死でしょうね。」
「何それ怖い。」
あまりの能力のチートっぷりに、思わず敬語が抜けてしまった。心底、あの自己紹介タイムの時に彼女がカメラを持っておらず、そしてカメラを渡された後神によってすぐ会場に飛ばされて良かったと思った。写真を撮られたら終わりなど、初見殺しもいいところである。
「彼女に写真を撮られなかったのは幸いでしたね・・。こうして彼女の能力を知った今なら、まだ対処もしやすいですが、いつどこで写真を撮られるか分からないので注意は必要です。頼みましたよ、クロ。」
「はい、お嬢様。怪しい気配を感じたら即お知らせするようにします。」
クロが跪いてクリスタを守ってみせる意志を示すと、クリスタは少し困ったような笑みを浮かべつつも、クロの頭を撫でてくれた。ひんやりと冷たい手が気持ちよくて、クロは幸せな気持ちになる。
「最後、三人目のムイムイですが・・彼女は、一言でいえばかなり異常です。参加者の中で、最も注意しなければならないでしょう。」
そう言って、クリスタの口から語られたムイムイの情報を聞いたクロは、そのあまりの異常さに背筋が凍りつくこととなった。
《ロロ&メアリside》
「ゾンビ百体の殲滅完了・・。戦闘モードを解除いたします。」
ロロは現在、神によってこの見知らぬ土地に飛ばされ、それと同時に大量のゾンビらしき生物に囲まれ、昨日から一睡もせず戦闘を行っていた。だが、長い戦闘もようやく終わり、辺り一面が焦土と化したところでロロはようやく一息つくことができた。
しかし、そんなロロの耳に、どこからか聞いたことのある声が飛び込んでくる。
「ギャー!そんなに追いかけてくるなんて、貴方達どれだけ熱烈なファンなのよー!少しは落ち着いて私の歌を聞きなさーい!」
声が聞える方に視線を向けると、そこには、数体のゾンビに追いかけられ必死の形相で逃げるチェックのチュールスカートが可憐なメアリの姿が。
「個体名、『メロディ・メアリ』を認識。後方にいるゾンビは私が吹き飛ばした生き残りと推定。掃除は塵一つ残さぬことが理想なため、即刻後ろのゴミを排除いたします。」
ロロは機械的な口調でそう言うと、背中からブースターを展開。そこから炎を吹き出しながら高速で飛翔すると、一気にメアリの後方のゾンビの元まで近づき、そしてゾンビの頭上から箒を振るった。
ブオン!という轟音と共に、ゾンビたちは箒から生じた斥力により、地面に押しつぶされ、黒い染みへと変わる。地面に降り立ったロロは、懐から雑巾を取り出すと、その染みを綺麗に拭き取った。
「これにて、お掃除終了です。程よい爽快感を感じました。掃除はこの感情を感じられる点が良いですね。」
掃除を完了したロロが、背中のブースターをしまい、雑巾を懐にしまって立ち上がると、ロロをキラキラとした瞳で見つめるメアリの姿があった。
「すっごーい!貴女、ロボットなのね!初めて見たわ!あ、さっきは助けてくれてありがとう!あの子たち、私を追いかけてくれるのは嬉しいんだけれど、ちょっとしつこすぎて困っていたのよ!」
「私はただ、掃除の後始末をしただけですので。それでは、私はこれで失礼しま・・」
「そうだ!お礼に私の歌を聞かせてあげる!」
「いや、結構で・・」
「聞いてください、メロディ・メアリで、『恋のレーザービーム』!」
「貴女、少しは私の話を聞いてはくれませんか?」
『恋のレーザービーム』 作詞・作曲 レッドリーフ 歌 メロディ・メアリ
恋のレーザービーム貴方の元へー 一直線に撃ち抜いて!(ズッキューン!)
貴方は私のレーザーをー 反射させずに受け止めて!(ヘーイ!)
※ウォーウウォーウウォウウォウウォー(フッフー!)
ウォーウウォーウウォウウォウウォー ※×二回
私の胸にあるー "スキ"という名の光源をー
一点にー、凝縮させてー 放つ言葉は"アイシテル"
だーけどーも貴方はねー 光集まる焦点でー
たくさんのー、"スキ"の中でー 私の思いは届かない
だから私は決意する! 彼の瞳の中心を!
まっすぐに見つめてー 屈折なんて許さない!
恋のレーザービームこの想いをー 真っ正面からぶっつけて!(ドッカーン!)
貴方は目をそらさないでー 至近距離から受け止めて!
恋のレーザービーム止まらないわー 狙い定めて撃ち抜いて!(バッキューン!)
貴方のハート貫いたらー 私をどうか受け止めて!
心も身体も受け止めて!(ヘーイ!)
※×二回
ウォーウウォーウオッオッオー!(イエーイ!)
メアリは、ロロの言葉は華麗にスルーし、マイクを握りしめ熱唱し出した。メアリの歌う歌には、その言葉の一つ一つに力があり、聞いているロロは次第に内から力が湧いてくるような不思議な感覚を味わっていた。そして、メアリが歌い終わった瞬間、ロロは自然とメアリに心からの拍手を贈っていた。
「素晴らしい歌でした。不思議と心が震えるような・・そんな力を感じました。」
ロロから拍手を贈られたメアリは、少し照れくさそうに頬を赤く染めつつも、キャハ☆っと可愛らしいポーズを決めた。
「応援ありがとー!私はね、『歌と踊りで皆を元気にする』能力を持っているんだ!この歌で、世界中の人たちをこのメアリちゃんのファンにするのが私の夢なの!」
「その夢、叶うと思います。ロボットの私でさえ心動かされたのですから。」
「うーん!ロロちゃん、嬉しいこといってくれるね!私、ロロちゃんのこと大好きになっちゃった!よーし、じゃあ張り切ってもっと歌うよー!」
その後も、メアリは何度も歌い、ロロも時折機械的なエールを送りながらもずっとその歌を聞き続け、二日目は一日中メアリのコンサートで終わったのであった。
《シャルン&アスカside》
「お、ようやく見つけたで!アスカさーん、写真撮ってもええか?」
つい先ほどまでゾンビたちと戦っていたアスカの所へ、カメラを構えながら走ってくる見覚えのあるオーバーオールの少女の姿があった。確か、名前はシャルンと言ったか?
この殺し合いゲーム、アスカはそこまでの興味を持っていなかった。自分は既に、地位も名誉も財産もある程度は既に手に入れている。流石に死ぬのは御免だから負けるつもりはないが、だからと言って積極的に参加者を殺そうとは思っていなかった。
「おう!写真なら大歓迎だ!勿論撮ってもいいぞ!ただし、アタイを殺そうってつもりなら、喜んで相手してやるぜ?」
だから、この時も大して考えはせず、生き残った時の記念になったらいいなくらいの気持ちで軽く返事を
したのだった。シャッターを押す時、シャルンの口元がニヤリと怪しく歪んだのにも気づかずに・・。
先ほど手に入れたばかりのアスカの写真を手に取り、シャルンは満足げな笑みを浮かべていた。
「まずはこれで一人目っと・・。いやあ、相手がアホで良かったわ。他の奴らなら、こう簡単には撮らせてくれんやろうしな。やっぱり、自己顕示欲が強い奴は扱いやすくてええな。」
シャルンがこのゲームで勝ち、生き残った際に神に頼もうとしていること、それは単純に大金であった。彼女にとっては、金こそが全て。そのためなら、人を殺しても何とも思わないし、実際、この能力を使って人殺しの依頼を受け金をもらったことだってある。
シャルンは、適当にその辺で拾った枝を手に取ると、一切の躊躇なく、写真の中のアスカの胸にその枝を突き刺した。
「さーて、次は誰を殺しましょうかねっと・・。」
シャルンが次のターゲットを決めようとカメラを構えたその時、胸に強烈な痛みが走り、シャルンは「うぐっ!?」とうめき声を上げ、カメラを地面に落とし、地面に膝をついた。震える両手で胸に手をやると、そこには何故か、べったりと血がついていた。
「な、なんで?一体、どうして・・。」
その言葉を最期に、シャルンの意識は途絶えることとなる。
一方その同時刻、アスカもまた、胸から血を流し地面に倒れていた。そのあまりの痛みに、アスカはたまらず悶絶する。
「ぐはぁ!?一体誰だ!?誰がアタイに攻撃した!?・・でも、誰だか知らねえが、お前もアタイと同じように苦しんでいるはずだろ?だって、アタイはそういうギフトの持ち主だからよう・・!」
そう、アスカの能力は、『自分が受けたダメージをそっくりそのまま相手に返す』というもの。これにより、シャルンは自分がアスカに与えたダメージを受けることとなったのだ。
しかし、同じダメージを受けて居ながらも、アスカは元々の身体の丈夫さもあり、すぐに死ぬことはなかった。だが、このまま血を流していてはいつ死んでもおかしくない。
自分の死が刻一刻と迫ってくるのを感じ焦るアスカの耳に、こちらへと近づいてくる足音が聞こえてきた。アスカは、とっさに、その足音に助けを求める。
「そこに誰かいるのか!?お願いだ、助けてくれ!アタイにできることなら何でもするから!」
アスカの必死の叫び声が届いたのか、その足音の人物は仰向けに倒れるアスカの元へとやってきた。
「おねえちゃん、いまいったこと、ほんと?ほんとになんでもしてくれるの?」
アスカの元へやってきたのは、猫の着ぐるみを纏った少女、ムイムイだった。アスカは、相手が幼女だったことにほっと息をついた。この歳の子が他人を殺すことは考えにくい。この子なら、自分を助けてくれるだろう。
「ああ、何でもするよ。だから、もしムイムイちゃんが出来るなら、アタイを助けてくれないか?」
「ムイムイ、おねえちゃんたすけられるよ。だから、おねえちゃん、ムイムイのおともだちになってくれる?」
「お友達?そんなことでいいならいくらでもなってあげるよ。」
そのアスカの答えを聞いたムイムイはにこっと満面の笑みを浮かべ、
「ありがとうおねえちゃん!じゃあ、いっかいしんでね?」
「え?」
アスカがムイムイの言葉を理解する前に、ムイムイはその背中に背負った大きなハサミでもって、アスカの首を一瞬ではねたのだった。
その数分後・・。先ほどまでアスカが倒れていた場所には、何やらチクチクと縫い合わせるような音だけが響いていた。
「さっきはびっくりしちゃった。おねえちゃんのくびをはねたら、ムイムイのくびもとんじゃうんだもの。でも、ぬいあわせればすぐになおったけれどね。・・よし、できた!」
ムイムイが歓声と共に立ち上がる。その傍らには、はねられた首を縫い合わされ、虚ろな表情で立ち尽くすアスカの姿があった。
「これからよろしくね、アスカおねえちゃん!」
ムイムイがそう言うと、アスカは無言で頷き、それに答えたのだった。
シャルン
身体能力 2
知力 4
社会性 4
運 2
能力の強さ 5
ギフト・・『凄い写真が撮れる』写真に写った人やモノに自在に攻撃できる。




