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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
2nd stage  歌と書物は永遠に
14/110

プロローグ

今回、プロローグではまだゲームは始まりません。次回からゲームスタート、そして各キャラの紹介です。

 目を覚ました時、クロは一面真っ白な空間の中で倒れていた。


「クロ、ようやく目を覚ましたようですね。暇すぎて本を三冊も読んでしまいましたよ。」


「それはいくらなんでも読みすぎでは・・?ところで、お嬢様、ここはいったいどこなんでしょうか。」


 聞き慣れた声に顔を上げると、そこにはクロの仕えるライブラリ家の長女、クリスタ・ライブラリがいつものように本を読んでいた。

 その日常的な光景と非日常的な白い空間とのギャップに、クロは戸惑いを隠せなかった。


「さあ?私にもここがどこなのか皆目見当がつきません。気が付いたらこの真っ白な空間にクロと一緒にいたので、とりあえず本を読んでいました。」


「なんでそんなに落ち着いているんですか!?とりあえず読書とかしている場合ではないと思うのですが!?」


「私だって驚いてますよ。でも、非常事態こそ落ち着きが大事ではないですか。だから私はこうして本を読み、心を落ち着かせているのです。どうです?クロも読みますか?」


 そうだ。自分の仕えるお嬢様であるクリスタは昔からこんな性格だった。クロは思わずため息をついた。




 クロがクリスタと初めて出会ったのは、クロが暗殺組織に所属していたころだ。

 クロは、親に捨てられたところを暗殺組織に拾われ育てられた。そのため、幼少期から暗殺術を学び、初めて人を殺したのは六歳の時だった。初めて人を殺した時は、思わず吐きそうになったが、吐いたら組織から追い出すと言われていたので、なんとかこらえたのを今でも覚えている。

 幼少期から暗殺者として生きてきたクロには、当時名前はなく、番号で呼ばれていた。クロという名前をつけたのは、他でもない自分の仕えるお嬢様、クリスタだ。

 あの日のことを、クロは鮮明に覚えている。その時、クロは十六歳。クロは、自分のギフトの能力で暗殺組織の中でも優れた成績を誇っていたが、それでもなかなか目立てずにいた。

 それは、自分と同じように捨て子だったのを拾われ育てられたキスカというライバルの方が暗殺者として優れていたからである。クロの能力、『影に潜ることができる』というものは、影の中なら息を止めている間は自由に行き来できるため影のできる昼間の暗殺には向いているが、影の出来ない夜や天気の悪い日には役に立たない。そのため、時間帯関係なく暗殺ができるキスカには結果として及ばずにいた。

 組織では、十八歳以上になると優れた暗殺者には幹部としての地位が与えられる。幼い頃からその世界を見ていたクロは、当然その地位に憧れていた。しかし、このままではキスカにその地位をとられてしまう。

 そう思い焦ったクロは、大物の暗殺をすることで評価を上げようとした。そうして選んだのが、ライブラリ家の一人娘、クリスタ・ライブラリだったのだ。

 ライブラリ家とは、世界中から多くの書物を集める変わり者の貴族で、その警備は非常に厳重なことで有名であったため、暗殺組織も依頼を受けていながらもなかなか手を出せずにいた。

 そして、起死回生を狙いライブラリ家に侵入したクロは、その警備に引っ掛かり、逃げ帰るのがほぼ不可能な状況に追い込まれた。

 隣国から輸入したという赤外線センサーとやらで居場所を特定されたクロは、鳴り響く警報音の中、死ぬならせめて標的を殺してから死のうと思い、なんとか標的のクリスタの部屋にたどり着くことができた。

 しかし、警報音でクロが侵入したことを知っているはずの部屋の主は、一切慌てる様子を見せずに、今のように本を読んでいたのだ。


『・・お前は何故、こんな状況で本を読んでいられるのだ?私は、お前を殺しに来たんだぞ?』


 クロにとっては、クリスタの行動は全くもって意味不明だった。だから、暗殺の標的にも関わらず、思わずそう尋ねてしまったのだ。

 そして、クロのその問いに、クリスタは平然とこう答えてみせたのだった。


『何故、と聞かれても困ります。私は、私が本を読みたいから読んでいるだけです。』


 その答えを聞いて、クロは呆然と立ち尽くした。目から鱗が落ちる思いだった。『自分がやりたいからやる』。クロは今まで、そのようなことを考えたことがなかった。ただ、組織にそう教えられたから人を殺し、そして組織の人間が憧れているから、自分も同じように幹部になることを憧れた。

 クロは、クリスタを殺すことが本当に自分がしたいことなのだろうかと思ってしまった。そうすると、もうクリスタを殺そうとは全く思えなくなった。

 クロが内心でそんな気持ちを抱いていた間、クリスタはずっとこちらを見つめていた。そして、途中からその視線をいつの間にか取り出していた先程までとは表紙の異なる本に落としたかと思うと、殺意が完全になくなったクロに、そのエメラルドグリーンの瞳を輝かせてこう声をかけてきた。


『素晴らしいです!貴女は、物語の主人公となる素質を持っています!それ故、ここで貴女の物語が終わってしまうのは非常に惜しい。私に、貴女の物語の続きを書かせてください。』


 クリスタの言っている言葉の意味が分からず、混乱したクリスタだったが、クリスタが、慌てて部屋にやってきた従者たちに、クロを自分の従者とすることを告げたことで、その意味がようやく分かり慌てて口を開いた。


『お前正気か!?私はお前を暗殺しに来たんだぞ!?そんな奴を従者にするなんていかれてるとしか思えない!』


 従者に捕まった時は死を覚悟していたため、クリスタに突然庇われた時は彼女の正気を疑った。しかし、対するクリスタはあくまでも平然とした様子で答える。


『それの何が問題ですか?貴女は確かに、先程まで私の命を狙っていました。しかし、今貴女には私を殺そうという意志がない。それなら、なんの問題もないはずです。』


 そして、クリスタは、クロに「貴女、名前は?」と尋ねてきた。クロが、名前はないと答えると、「それなら、全身真っ黒なのでクロとかはどうでしょう。」と言った。


『ていうか、名前なんてどうでもいいだろ!?お前何で私がもう殺意を抱いていないと分かったんだ?』


『それは後程話してあげますよ、クロ。それより、私の従者となる以上は口調はなんとか直さなくてはいせませんね・・。』


 クロがなんと言おうと、もはやクリスタの従者となることは決定事項らしかった。クロを押さえている従者たちも、クリスタに反論することはなく、「それでは、私が指導いたしましょう。」などと宣う始末。


『クロ、これからよろしくお願いしますね。』


 そう言って微笑みかけてきたクリスタを見て、クロは最早自分が逃れられないことを悟った。

 こうして、貴族のお嬢様を暗殺しに来た暗殺者は、逆にそのお嬢様の手によって、これまでの人生を殺され、『クロ』としての新しい命を与えられることとなったのだ。



 クロは、初めてクリスタと出会った時のことを思い出し、こんな緊急事態にも関わらずついつい笑みが漏れてしまった。

 クロは現在十八歳。クリスタはクロより二つ年下の十六歳。暗殺者時代に比べればまだまだ短い年月だが、この二年でクロの生活は大きく変化した。

 これまでの価値観がボロボロに壊されるのは、驚きもあったが、楽しさの方が大きかった。

 これまで、クロは組織のためだけに生きてきた。今は、クリスタのために生きている。一見同じように思えるが、後者は、クロが望んでそうしているというところに違いがあった。

 自分の仕えるお嬢様は、確かに、自分を殺しにきた暗殺者を雇うような変わり者には違いない。しかし、彼女には人を従えさせるカリスマ性というものかある。

 事実、クロはこの二年間このお嬢様と関わるうちに、クリスタのことを尊敬するようになっていた。それこそ、命を投げ捨てても構わないと思うほどに。

 しかし、クロがそのことをクリスタに伝えると、何故かクリスタは激怒し、「二度とそのようなことを言わないでください!」と言われてしまった。その後、いつものように「貴女は主人公なのですから。」と言っていたが、これだけはいくらどういう意味なんです?と問いかけても教えてもらえなかった。


「っ!お嬢様、私の後ろに隠れてください!」


 その時突然、白い空間の一面が輝き出し、クロはとっさに思考を中断し、クリスタを庇うようにして後ろから抱き抱えた。

 あまりの眩しさに、クロは目をつぶる。しかし、その間もその背でクリスタを守り続けた。

 やがて、瞼の裏側から光の感覚が消え、クロは恐る恐る目を開いた。体には特に異変はない。

 

 しかし、クロが目を開けた時、そこには先程まではいなかったはずの様々な年代の少女たちが、クロと同じように目を見開いて互いを見つめあっていたのだった。

次回投稿は明日予定!

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