表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
1st stage 戦場に咲く友情の花
12/110

閑話:フローラと探偵(後編)

 シャーロット・ノックスの正面の椅子に腰かけたフローラは、もはやデフォルトとなった無表情で、依頼用の金貨を机の上に置いた。


「私からの貴女への依頼は、ララという人物が居た研究所の場所を突き止めることと、『ギフト』所持者をなるべく多く探すことです。」


 フローラが依頼の内容を告げると、シャーロット・ノックスは興味深そうに眉を上げた。


「ほう。なかなか面白い依頼ではないか。その依頼を受けるのは別に問題ない。ただ、二つ目の依頼に関してなら、君はもうその一部は既に達成しているよ。」


「それは・・どういうことですか?」


 そう問いかけたフローラに対し、シャーロット・ノックスはにやりと口角を上げた。


「なぜなら、ここには君と私、二人の『ギフト』所持者がいるからだ。」


 シャーロット・ノックスのその言葉に、フローラは反射的に立ち上がり腰の剣に手を伸ばした。そして、警戒心を剥き出しにしてシャーロット・ノックスに静かに尋ねる。


「・・なぜ、私が『ギフト』所持者だと分かったのですか?」


 そんなフローラに対し、シャーロット・ノックスは全く動じる様子を見せず、むしろ先ほどよりも笑みを深めていた。そして、フローラの問いに対しこう答える。


「なに、簡単なことだよ。探偵の看板を掲げているのは伊達ではない。君が『ギフト』所持者であることを推理してみせただけさ。」


 そして、シャーロット・ノックスは未だ警戒心を解こうとしないフローラに、自分の推理を得意気に聞かせた。


「まず、可笑しいと思ったのは、階段を上る足音がしなかったことだ。この階段は年季のせいで、わずかな体重をかけただけでもひどく軋むのだよ。それが全く聞こえてこないということが可笑しい。その時点で、何か音を消すような能力を持っている人物がやって来たのではないかと推理した。そして、いざ会ってみれば、『ギフト』所持者をなるべく多く探せという依頼だ。そのような依頼をしてくる者などまずいない。『ギフト』を持たない者は、基本的に『ギフト』を持つ者を恐れ近付こうとしない傾向にあるからだ。それらの点を踏まえると、君が『ギフト』所持者であるということは十分推察できる。そして、君の『ギフト』だが・・最初は音を消す能力かと思ったが、入り口のドアを開ける音などは普通に聞こえてきた。階段を上る音を消すなら、その音も普通消そうとするはずだ。そのため、音を消す能力ではないと判断し、そしてそれならばどんな能力だろうと君を観察してみたところ・・君の足が床から少し浮いているのが見えた。恐らく、それが君の『ギフト』の能力ではないかね?」


「あ、当たりです・・。」


 フローラは、その見事な推理に、素直に感心して、思わず自分の能力のことを認めてしまっていた。

 そんなフローラの反応を見てシャーロット・ノックスは満足そうに頷くと、机に置いていたパイプを指先でくるりと回し、優雅にそれを吸うと、こう言った。


「シャーロット・ノックスの灰色の脳細胞にかかれば、この程度の推理が可能というわけだ。満足していただけたかね?」


 フローラは、まだ若干の警戒心を残しつつも、それ以上にこのシャーロット・ノックスという探偵について興味が湧いてきたので、シャーロット・ノックスの言葉に無言で頷き、再び椅子に座った。


「・・ところで、シャーロットさん。」


「シャーロット・ノックスだ。」


「・・シャーロット・ノックスさん。貴女も先ほど『ギフト』所持者だと言っていましたが、どんな能力を持っているのですか?その推理力がそうですか?」


 フローラがそう尋ねると、シャーロット・ノックスは心外そうに鼻を鳴らした。


「失礼な。この推理力はシャーロット・ノックス自身のものだ。『ギフト』の能力は、『探し物の場所が分かる』というものだよ。」


 シャーロット・ノックスはそう言うと、徐に椅子から飛び降り、新聞や地図やらが乱雑に詰め込まれた棚へと向かった。

 フローラは、その姿を見て少しだけ驚いた。今までずっと椅子に座っていたから分からなかったが、思ったよりも背が低い。身長だけなら子供と言われてもおかしくない体格をしていた。

 それなのに、胸はフローラより大きい。フローラはこの世の不条理を恨んだ。


 シャーロット・ノックスはしばらく棚を漁っていたが、やがて一枚の古びた新聞を取りだし、それをフローラに見せた。


「君が先ほど言っていたララとは、彼女のことで間違いないかね?」


 その新聞には、小さくはあるが確かにララの写真が載っていた。フローラは、肯定の意を示すため小さく頷く。


「この新聞によると、どうやら彼女の研究所があるのは隣国らしいな。あそこは、昔から機械業がさかんな国だ。彼女がこの新聞に載ったのも、心あるロボットを作成したかららしいね。」


 フローラは、ララと、彼女を背負うメイドの姿を思い出していた。あのメイドは、そのロボットだったのだろうか。

 フローラがそんなことを考えている間に、シャーロット・ノックスは今度は一枚の地図を取りだし、机の上に広げると、うんしょ、という可愛らしい掛け声と共に高い椅子に這い登り、再びフローラと正面から向き合った。


「シャーロット・ノックスさん。今度はいったい何をするつもりですか?」


「このシャーロット・ノックスの能力を見せようと思ってね。この地図を見たまえ。」


 シャーロット・ノックスに言われるままフローラが地図を覗くと、真ん中から少しだけ右にずれたくらいの位置に、光輝く点のようなモノが見えた。


「この点はいったい何ですか?」


「この点は、ララの研究所のある位置だよ。シャーロット・ノックスの能力は、地図の上に探したいモノの場所をこのように浮かび上がらせる。もちろん、探したいモノが複数ある場合は複数表示されるし、移動しているモノでもその動きが表示される。ただし、この能力を使うためには地図が必要不可欠だ。また、詳しい場所を知るためには、より鮮明な地図を用いる必要がある。地図がなくても能力は使えるが、その場合は探したいモノがある方角と距離がなんとなく分かる程度でしかないから、地図がある場合は地図を使う方がいい。」


 そこまで一気に語ってから、シャーロット・ノックスはドヤ顔でフローラを見つめた。

 実際、シャーロット・ノックスの能力はかなり便利がいい。フローラは予想以上にシャーロット・ノックスが有能だったことに心の中で静かに喜んだ。しかし、それを表に出すことはなく、再び問いかける。


「では、貴女の能力を使えば、『ギフト』所持者のいる場所も分かるということですね?」


「ああ、勿論だとも。君を『ギフト』所持者と推理した理由の一つにも、実はこの能力に反応したからというものがあるからな。たた、探すのはいいが、その前に一つ君に聞いてもいいかね?」


 シャーロット・ノックスはそう言うと、ふいに身を乗り出して、片眼鏡の奥から真剣な表情でフローラを見つめた。


「・・君は、なぜ『ギフト』所持者を探そうとしている?そして、これはあくまでも推測だが・・君も、あの『ゲーム』の"生存者"なのか?」


 今度ばかりは、フローラも無表情ではいられなかった。驚きに目を見開き、自然と口が開く。


君も(・・)、ということは、まさか貴女も・・!?」


「・・やはりそうだったか。それなら、一つ忠告しておく。もし、ゲームに参加して生き残った能力者を集めて神に復讐するつもりだと言うなら、諦めた方がいい。」


 まさにそうするつもりだったフローラは、反論しようと口を開こうとしたが、まあ少し話を聞けとシャーロット・ノックスに遮られた。


「・・まず、大前提として、この国にはもちろん多くの『ギフト』所持者がいる。しかし、その中であのゲームの生存者でまともな精神を持っているものは、このシャーロット・ノックスと君だけしかいない。調べたから分かることだが、あのゲームの生存者の多くが、精神に異常をきたし、自殺したり逆に人を殺して死刑になったり、精神病院に入れられたりなど悲惨な結末に終わっている。」


「・・貴女は、なぜそうならなかったのですか?」


 フローラのその問いに、シャーロット・ノックスはこう答えた。


「それは、シャーロット・ノックスが探偵だからだ。探偵は、決して挫けない強い心を持たなければ務まらないのだよ。」


 フローラは、シャーロット・ノックスのその答えを聞きながら、自分はなぜ気が狂うことがなかったのだろうかと考えた。そして、すぐ答えは出た。それは、フローラの心は既に神に対する怒りで埋め尽くされており、狂っている余裕などがないからだ。いや、もしかしたら既に狂っているのかもしれない。

 少なくとも、フローラはシャーロット・ノックスに反対されたからといって、神に対する復讐を諦めるつもりはなかった。

 それどころか、フローラは、彼女に是非協力してもらいたいと考えていた。


「シャーロット・ノックスさん。貴女は、神に対する怒りはないのですか?あのようなふざけたゲームに参加させられ、それでも神に復讐しようとは考えないのですか?」


「・・シャーロット・ノックスは賢明なのだよ。神は、あまりにも強大だ。シャーロット・ノックスは自ら死ににいくような馬鹿な真似はしない。」


 シャーロット・ノックスの態度は頑なだ。しかし、フローラは諦めるつもりはなかった。


「私は、神が憎い。私たち人間をゲームの駒としか思っておらず、私の大事な人を殺した神が憎い。たとえ馬鹿な行為だとしても、私は神に対する復讐を諦めるつもりはありません。・・そして、そのためには貴女の協力が必要だと思っています。」


「いい加減にしたまえ!君はいったい何様のつもりだ?復讐なら勝手にすればいい!シャーロット・ノックスを巻き込むな!」


 そこで初めて、シャーロット・ノックスが怒りを露にして机を叩いた。しかし、フローラは今度は驚くことも動じることもなく、静かにその口を開いた。


「・・貴女が復讐を望んでいないなら、無理に誘おうとはしません。でも、貴女も本当は復讐を望んでいるのではありませんか?現に貴女は、あのゲームの生存者を独自に調べていた。何もするつもりがないなら、そんなことはしないはずです。」


 フローラのその言葉に、シャーロット・ノックスはフローラの目を見つめた。その瞳には既に先ほどの怒りはなく、そこから読み取れるのは不安と、そして少しの希望・・。


「確かに、私たち一人では到底神に勝ち目はありません。しかし、人間は集団でこそ力を発揮する生き物です。一人では無理でも、同じ志を持つ者たちで集まれば、必ず勝ち目はあります。その第一歩として、私の手を取ってはくれないでしょうか。」


 フローラはそう言って、シャーロット・ノックスに手を伸ばした。

 シャーロット・ノックスは、天井を見上げ、ふう・・とパイプの煙を吐き出した後、こう言った。


「ところで、君の名前は何というのかな?」


 フローラは、その唐突な問いかけにも戸惑うことなく、力強くこう答えた。


「私の名前は、フローラ。神に復讐することを願う人間です。」


「よし、ではフローラ。これからよろしく頼む。」


 シャーロット・ノックスはそう言うと、フローラの手を力強く握り返したのだった。

ちなみに、シャーロット・ノックスは、シャーロック・ホームズとノックスの十戒で有名なノックスの名前を混ぜて生まれたキャラクターです。

結構気に入ってるので、地の文でもシャーロットではなくシャーロット・ノックスとフルネームで書きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ