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神様の遊戯盤の上で  作者: 赤葉忍
Final stage 『To be continued?』
106/110

シャーロット・ノックスは愛を囁く

光は闇に打ち勝ち、そしてひねくれ者は愛を囁く

「⋯⋯ちゃん! フローラちゃん!! 眠っている場合じゃないよ、シャーロットちゃんが大変なの!!」


 エンキの『闇』に囚われたフローラは、その意識が完全に闇の中に沈む寸前、呼びかけてきたその声によって、眩しい光の方へと引きずり出された。突然視界に飛び込んできた強い光に目を細めるフローラは、目の前で見たこともない美少女が自分の肩を掴んで揺さぶっている姿をとらえた。


「あ、貴女、一体誰なんですか⋯⋯? それに、この光はいったいどこから⋯⋯?」


「ちょ!? それマジで言ってんのフローラちゃん!! 私だよ私!! 超絶可愛いスーパーウーマン、スターちゃんだよ!!」


 スターの素顔を初めて見たフローラは、彼女が予想以上の美少女だったことに驚くと同時に、何故スターがエンキの放つ闇の影響を受けていないのかということに疑問を抱く。そして、エンキもまたそのことに疑問を抱いている様子だった。


『おい、お前⋯⋯何故普通に動けている? まあいい。それなら、もう一度お前に直接「闇」を与えるだけだ』


 エンキの手から放たれた黒いモヤが、スターに向かって伸びていく。フローラは咄嗟に「危ない!」と叫んだが、その時にはもう黒いモヤはスターのすぐ傍まで迫ってきていた。


「うわ、なにこの黒いモヤモヤ~! 超絶うっとうしいんですけれどぉー!!」


 しかし、スターは若干嫌そうに眉間に皺を寄せただけで、「どっせい!」というかけ声と共に、なんと黒いモヤを腕を振って取り払ってしまう。


『「⋯⋯は?」』


 思わず、フローラとエンキの声がシンクロする。スターだけは、そんな二人の反応もお構いなしに、フローラを再び揺さぶり立ち上がらせようとする。


「す、スター? い、今のはいったい何をやったんですか?」


「もー! そんなこと今どうでもいいじゃん! それよりもシャーロットちゃんが大変なんだってば!! このままじゃ、シャーロットちゃん死んじゃうよ!?」


「シャーロットが⋯⋯死ぬ?」


 スターの口から告げられた予想外の事態に、フローラはまるで氷水をぶっかけられたように一気に頭が冷えていくのを感じた。そんなフローラの肩をさらに強く掴み、スターはいつになく真剣な表情でこう続けた。


「シャーロットちゃんは私にフローラちゃんを呼んでくれって、そう言ったの。だから急いで! シャーロットちゃんを救えるのは、きっとフローラちゃんだけだから」


 スターの真剣な瞳に応えるように、フローラはこくりと頷き、先刻シャーロット達が入っていったドアの中へと走って行く。


『行かせるか!!』


 エンキはフローラに向かい黒いモヤを放つが、間に入ったスターが全身を光らせ、そのモヤを打ち払う。得意げににっと笑みを浮かべるスターに対し、エンキは不愉快そうに顔をしかめた。


『⋯⋯お前、いったい何者だ? 何故私の「闇」を振り払える?』


「ぷぷぷっ! あなた、神様なのにそんな簡単なことも分からないの? いつだって、『闇』を晴らすことができるのは『光』なんだよ!!」


 スターは、顔の前でピースサインを作り、「キラッ☆」とポーズを決める。そんなスターの様子に、エンキはさらに苛立ちを募らせる。


『巫山戯た奴だ⋯⋯! お前、本当にこの私に勝てるとでも思っているのか?』

 

「まっさかぁ! だって私めちゃくちゃ弱いもん!! だから⋯⋯私が今からするのは、一世一代の時間稼ぎ!! 最期の一瞬まで、煌めいて!! この命は、大好きな仲間のために輝くの!!」


 コートを脱ぎ捨て全裸となったスターは、その体中から眩い光を放ち、今度は両手でピースサインを作り、「キャハッ☆」とエンキにウインクを飛ばしてみせたのだった。



▼▼▼▼▼


 一方、シャーロットの元へと走るフローラは、扉の中に入った瞬間目の前に広がる大量のエンキの像に一瞬意識が飛びかけるが、すぐそんなことをしている場合ではないと気を取り直し、シャーロットの姿を探す。すると、フローラは大量のエンキの像の群れの中の一部を破壊し、一本の道が作られているのを見つける。急いでその道を辿り、奥へと進んでいくフローラ。果たして、その道の終点にシャーロットは居た。しかし、そこに居たのは先程分かれた時に見たシャーロットではなく、半身が破壊されたエンキの像と、その像と全く同じ箇所が無残に失われたシャーロットの姿であった。


「やあ、フローラ。流石エンキ、性格の悪さではピカイチだ。そうは思わないかね? どうやらこの私は、まんまとあの神の罠にはまってしまったらしい。その結果がこの有様だよ」


 ショックで言葉も出ない様子のフローラに、シャーロットはあくまでもいつもの調子でそう話しかけた。しかし、そうしている間にも、どんどんシャーロットの身体は崩れていっている。今もまさに、ちょうどエンキの像の右腕が崩れ落ちたのと同じタイミングで、シャーロットの右腕が崩れ落ちた。シャーロットは、床に落ちた自分の右腕を一瞬だけちらりと見てから、再びフローラに話しかけた。


「⋯⋯見ての通り、私は多分、もう少しで死ぬだろう。その前に⋯⋯いくつか、君に頼んでおきたいことがある」


「何を馬鹿なことを言っているんですかシャーロット!! 貴女を死なせたりするものですか!!」


 ようやく我に返ったフローラが、必死で崩れ落ちるシャーロットの身体を支えようとするが、崩壊が止まる気配は全くない。それでも、フローラは諦めずシャーロットに声をかけ続ける。

 そんなフローラを、残った右手で制し、シャーロットはふっと優しくほほえみかける。フローラは、シャーロットの初めて見せるその表情に、思わずドキッとして手を止めた。その手にそっと自分の手を重ね、シャーロットは震える声で囁く。

 

「⋯⋯ありがとう、フローラ。やはり君は優しいな。だが、もういいんだよ。私は、君に会えて⋯⋯たくさんのモノを貰った。困難に立ち向かう勇気をもらった。信頼できる仲間をもらった。そして⋯⋯愛をもらった。愛している。愛している。愛しているよ、フローラ。シャーロット・ノックスは、フローラを心から愛している」


 突然のシャーロットの告白に、目を丸くするフローラ。しかし、シャーロットはフローラの返事を待たず、さらに言葉を重ねる。


「人間、いつかは死ぬ運命にある。定められた短い命の間に、君に出会うことの出来た私は、間違いなく世界一幸せだった⋯⋯!」


「シャーロット⋯⋯!」


 シャーロットから向けられる、痛いほど真っ直ぐな愛。婉曲な言い回しをすることの多いシャーロットだからこそ、その思いが嘘偽りのないものであることが伝わってきた。


「ここまでの罠が仕掛けられているのだ。おそらくこの像は本物だろう。そこで、私からの願いだ⋯⋯。どうか、君の手で、この像を破壊して欲しい。最初にこの像を破壊した者にしかこの呪いがかからないのは、スターに頼んで既に実験済みだ⋯⋯。安心して欲しい。あと⋯⋯そうだな、母さんに、私が謝っていたと伝えてくれないか? 親不孝な娘ですまないとな。私の願いは、これで全てだ⋯⋯。君の手で死ねるのならば、私は本望だよ」


 そして、シャーロットは『最期の願い』を、フローラに伝える。シャーロットが浮かべる笑みは心底幸せそうで、フローラにとってはそのことがかえって辛かった。


「シャーロット⋯⋯私も、貴女のことが好きです。でも⋯⋯貴女は、残酷ですね」


「そうだとも。私は歪んでいるのさ。優しい君は、私を殺したその苦しみを一生抱えて生きるだろう。そうすれば、私は君の心の中にいつまでも生き続けることが出来る⋯⋯! 私は、そのことが嬉しくて堪らないんだ」


 そういってにやりと意地の悪い笑みを浮かべたシャーロットに、フローラも泣きたいのを必死でこらえ、無理矢理笑顔を作って剣を構えた。


「さようなら、ひねくれ者のシャーロット・ノックス」


「ああ、さらばだ。最愛の友、フローラ」


 その直後、振り下ろされた剣がエンキの像を完全に破壊し、シャーロットの身体もまた、塵となってこの世から完全に消え去ったのであった。


 






 

次回、エンキ戦はいよいよ佳境!

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