共鳴せよ、魂の鼓動
2ndstageの時を書いている時も思ったのですが、クロのギフトって戦闘においてめちゃくちゃ便利なんですよね。
それに書いていて楽しい(ここ重要)
《クロ&クリスタ&メアリ&ロロside》
皆の視線を一身に受け、メアリはキラキラの笑顔を振りまいて歌い、踊る。その明るくポップな歌声を聞いているうちに、クロは、先程までムイムイの奇行に動揺していた心が落ち着きを取り戻していくのを感じた。
そして、ムイムイもどうやら若干落ち着きを取り戻したのか、胸を掻きえぐる動きを止め、メアリのソロコンサートに見とれているようであった。
「クロ、今です! ムイムイがメアリの歌に気を取られている隙に、ムイムイの心臓を正しい場所に収めましょう!」
クリスタの言葉にはっと我にかえったクロは、ムイムイに勘づかれる前に影の中に潜り、ムイムイの影の下まで移動してから手だけを地上に出し、ムイムイが持つ心臓を手ごとぐいっと心臓を胸の中に押し込んだ。直後、ムイムイがクロの手を踏みつけようとしてきたが、影の中に腕を引っ込めることでことなきをえた。
クリスタの影から再び地上に出たクロは、再びムイムイと向かい合う。今この時も、流れ続けるメアリの歌声がいいBGMとなってクロのコンディションは最高潮だ。今の状態ならムイムイにも良い勝負が出来るかもしれない。しかし、クロはムイムイと戦いたいわけではない。クロの目的は、あくまでもムイムイを正気に戻すことだ。⋯⋯いや、普段のムイムイを正気と言っていいかは正直微妙なところであるが、とにかく元通りのムイムイに戻す必要がある。
「そういうわけで、ムイムイ!! 貴女には一旦気絶してもらいます!!」
「はあっ!」という気合いの声と共にムイムイ目掛け猛スピードで駆けるクロ。対するムイムイは、心臓が飛び出さないよう素早く胸を縫い合わせると、巨大ハサミの刃の連結部分を強引に破壊し、即席で二振りの巨大な太刀を創り出す。今までのムイムイならば絶対にしないであろう武器の使い方に驚くクロ。だが、そんなムイムイを見て何故か喜んでいる自分がいることにも気付く。
(⋯⋯そうか。私は、ムイムイと本気で戦えることが嬉しいんだ。ムイムイから向けられる殺意、その殺意に応える私。お互いに気持ちを武器に込めて、魂ごとぶつかり合う⋯⋯!! そのことのなんと楽しいことか!!)
気付けば、自然と口元に笑みを浮かべていた。そして、正面のムイムイも、心なしか笑みを浮かべているように思える。ムイムイが腕の長さを利用して太刀を振るう。その斬撃を短剣の腹を使って器用に逸らし、続く二撃目は影に潜って回避。ムイムイの背後から地上に出たクロ。そして、ムイムイの首に腕を回し、バックドロップの形で自分ごと影の中へダイブする。影の世界の暗闇の中、ムイムイの首を未だ締め上げつつ思い出すのは、過去にムイムイと戦った時の記憶。あの時は、自分の命と引き替えにムイムイを道連れにしようとしたが、今回は違う。クリスタを置いて死ぬつもりはないし、ムイムイを死なせるつもりもさらさらない。
だから、クロは息が続く限界で影から地上に出ると、息継ぎをしてから再び影の中にムイムイごとダイブする。その行為を、ムイムイが気絶するまで行い続けた。流石ムイムイと言うべきか、四、五回程度は余裕でこのクロの無限シャドウダイブにも耐えていたが、十回を超えたころようやく頭をふらふらと揺らしはじめた。そしてそれと同時にエンキの与えた殺意も薄らいできたのか、気絶する直前、ムイムイは楽しそうににぱっと無邪気な笑みを浮かべていた。
「お疲れ様です、クロ。⋯⋯どうやら気絶したことでエンキの洗脳まがいの行為は解除されたみたいですね。後半は姉と一緒に川に飛び込むのを楽しむ妹、といった感じで見ていて大変微笑ましかったです」
「ほ、ホント疲れましたよ⋯⋯。まあ、私的にも後半楽しんでいたのは否定しませんが⋯⋯」
車椅子を自分で動かし近づいてねぎらいの言葉をかけるクリスタに、クロは肩で息をしながらも律儀に答える。
「う゛ぉづがれ~。うう、歌いすぎて声がガラガラだよ⋯⋯」
「メロディ・メアリ、貴女の歌声が一時でも失われるのは世界の損失です!! すぐにこの私特製『めちゃくちゃ喉にいいドリンク』を飲んでください!!」
クロがムイムイと戦っている間ずっと歌い続け、コンディションの維持に貢献していたメアリ。喉を押さえながらクロ達の元へと駆け寄ってくる彼女に、ロロが慌てた様子でドリンクを差し出した。手渡された毒々しい色のドリンクを「ありがどっ!」と言って受け取り、一切躊躇せず飲み干し、「不味い!! もう一杯!!」と笑顔でおかわりを要求したメアリに、クロはこの人には勝てそうにないなと感じたのであった。
「さて、ムイムイが戦力に加えられないのは正直痛いですが、我々もフローラ達に合流することにしましょう」
「そうですね。神と戦うからには戦力は一人でも多い方がいいでしょうし、急ぎましょう!」
そう、クロ達にはまだやらねばならぬことがある。クロはひとまず深呼吸をしてから先程乱れた息を整え、ここまでのルートを記録していたロロの先導に従い、フローラ達と合流するために走り出した。
しばらく走ったところで急に目の前の空間がぐにゃりと歪み、先程までとは異なる景色が目の前に広がる。ムイムイから逃げる時は必死過ぎて気が付かなかったが、どうやらフローラ達の姿が途中で全く見えなくなったのはこの空間の歪みが原因のようであった。
そして、確かに今目の前にはフローラ達が居る。しかし、その姿は、何故か黒いモヤがかかったようになっていてよく見えない。ただ、全員が力なく地面に横たわっているということだけは分かった。
「四人とも、逃げてください!! この空間にいては、『闇』に呑まれてしまいます!!」
どこか苦しげな声で、フローラがそう叫んだのが聞こえてきた。しかし、その警告に反応するよりも先に、クロ達の身体も黒いモヤのようなモノに包まれ、そしてそのまま意識を闇の中へと落としてしまったのであった。
次回、少し時間を遡り、ナナがエンキを刺した後どうなったのかの話となります。




