決戦準備その2
ジミナ書くのめっちゃ楽しい!! やっぱこの子好きや⋯⋯。
『いやいや、なんか皆声揃えていかにも驚いてますって雰囲気出しているけれど、そもそもさっきまで私の存在忘れてたでしょ? いやー、馬車で一人置いて行かれた時はさすがに泣きそうになったなー。私結構頑張ってたのにな~』
実際先程までジミナの存在を完全に忘れていた一同は、復活した際ジミナの顔を見ているメンバーと基本表情を変えないシャーロット、そもそもジミナのことを知らないクロとムイムイを除き、一斉に気まずそうな顔をして映像から目を逸らす。ただ、ジミナ本人はああは言ったものの皆を責める気持ちはなかったようで、すっと話題を切り替えた。
『まあ、それは別にいいんだけれどね。今に始まった話じゃないしさ。それよりも、今私がアンタたちにこうやって通信送っているのは、エンキと戦う前に言っといた方がいいかな~って思う情報があったからなのよ。ああ、心配そうな顔しなくてもいい情報だから安心しといて』
ジミナはさらに、一同に対し、先程からこの部屋での会話はロキの能力で『音を奪って』聞いていたこと、そして、エンキのいる間に入ってしまうと邪魔が入るせいでそちらの情報が一切入らなくなり、こちらからも通信が出来なくなることを伝えた。
「⋯⋯なるほど。ジミナの事情は大体わかりました。ところで、ジミナは今どこにいるのですか? そして、いい情報というのは一体⋯⋯?」
『まあまあ、そう急かさなくてもまだ時間はあるから。ちなみに、今私が居るのはロキの神殿ね。私以外だと、もちろんロキもいるし、ムーンもいるよ。あと、そこにいる奴らから聞いているかもしれないけれど、ホウライっていう地下塔に引き籠ってた⋯⋯じゃなくて、閉じ込められてた婆さんもいるから』
フローラの質問にゆるーい感じで答えるジミナ。ただ、そのゆるーい雰囲気に騙されず、返答の中に紛れ込んだ重要な単語に気づいた人物が一人いた。
「⋯⋯待ちたまえ、ジミナ。今、君は地下塔と言わなかったかね? もしかして、君がくれるいい情報とは、地下塔のエンキの像を壊したという情報なのか?」
シャーロットの言葉に皆が一斉にはっと目を見開く中、映像上でジミナがぱちんと指を鳴らした。
『さっすが名探偵、大正解! いや、まさか意味もなく壊したエンキの像にそんな意味があったなんて聞いていたこっちもびっくりよ。でもね、実はまだあるんだわ、いいニュース。それがさ⋯⋯エンキの像なんだけれど、もうエンキの間にあるやつ以外、全部ぶっ壊れてるよ。地上のメンバーがいつの間にかやってくれてた。ついでにピティーも死んでる。やったね!!』
ジミナはいえーいとガッツポーズをして喜びを表現するが、今突然その事実を聞かされた他のメンバーは、ぽかんと口を大きく開け、何を言われたのか理解できていない様子だ。リリィに至っては「え、ちょ⋯⋯は!?」と困惑の声を上げている。しかし、それも当然だろう。なんせ、先程までエンキの結界を壊す方法が完全になくなってしまったと思い絶望感に包まれていたというのに、ジミナの口から「実はもう像壊してまーす☆テヘペロ☆」くらいの軽い感じであっさりその問題が解決してしまったのだから。
「ま、まあこれであとはエンキの部屋に行って像壊せば問題解決ーってわけでしょ!? 楽になってよかったね!! お祝いに歌っちゃうよ私!!」
「正直途中から全く話を聞いていなかった私!! でも輝いているから問題ナッシング☆ メロディちゃんと一緒に踊っちゃうよ~!!」
何となく変な感じになった場の空気を盛り上げようとメアリが歌いだし、楽しければなんでもオーケー精神のスターがその歌に合わせてダンスを踊る。その頃になってようやく、フローラたちもこの知らせを素直に喜ぼうと思えるようになった。
「ジミナ、ありがとうございます。私たちが戦っている間にサポートしてくれていたとは知らず、その上先程まで私は貴女の存在すら忘れていて⋯⋯なんとお詫びをすればいいか⋯⋯」
『いやいや、そういうのいいってば。サポートって言えば聞こえはいいけどさ、結局のところ私は戦うのが嫌で逃げた勝手な奴なんだから。それにさっきも言ったけれど、私の存在感が薄いのは私自身のせいだからフローラたちが気にする必要はなし!! むしろ、忘れてくれた方がいいくらいだし⋯⋯あ、いや、今のやっぱなしで。出来れば忘れないようにしてもらえると嬉しいかな!! じゃあこれくらいで通信切るね!! みんな頑張ってー』
ジミナからの通信は、始まる時も突然なら、終わる時もまた突然だった。しばらく待ってみたものの、それっきり再びフローラたちの前にジミナからの通信が来ることはなく、しかたなく気持ちを切り替え、フローラは突入前に皆に一声呼びかけることにした。
「皆、ジミナや地上のメンバーのおかげで、私たちの勝機は一気に高まりました。仲間がくれたこのチャンス、無駄にするわけにはいきません。⋯⋯私は、たとえ自分のこの身が滅びようとも、奴だけは道連れにする。その覚悟で、エンキと戦います」
フローラの決意に応えるように、メンバーもまた覚悟を決め、一様に表情を引き締める。そんなメンバーの顔を見て、フローラは険しい顔で「ただ⋯⋯」と続けた。
「ただ、私は⋯⋯貴女たちが死ぬ姿を見たくはありません。もちろん私も全力で守り抜くつもりですが、私一人で皆さんを守ることは難しい⋯⋯ですから皆さん、死なない程度に、死ぬ気でお願いします!!」
「⋯⋯それはまた、難しいオーダーだねぇ。でもまあ、リーダーの命令なら、守らなきゃそれこそリーダーに殺されそうだ」
ラモーネの言葉に同意するようにうなずく一同。ただ、納得できない様子の人物が二人、フローラの元へと歩み寄ってくる。
「いつから貴女一人だと思っていまして? フローラ。わたくしの髪の毛ならば、十分皆を守り抜くことが出来ますわ」
「フローラ、肝心の君を守る者がいなくてどうするのだね? リーダーが居なくなった集団は一気に烏合の衆と化す。君の背中は、このシャーロット・ノックスが守ろうではないか」
「ペトラ⋯⋯! シャーロット⋯⋯!! そうですね⋯⋯それでは、ぜひご助力お願いします!」
フローラがこぶしを掲げたのを合図に、ペトラとシャーロットとフローラの三人は、互いのこぶしをこつんとぶつけ合う。そして、そのまま三人で横並びに立つと、目の前の大きな扉に向かい合った。
「⋯⋯待っていろ、エンキ!! 今、私たちがそちらに行きます⋯⋯!!」
そして、三人は一斉に扉に手を置く。その瞬間、ゆっくりと扉は内側に開いていき、あふれだす光の渦に全員が飲み込まれていった。
▼▼▼▼▼
「⋯⋯よかったのか、ジミナよ。奴らにこれのことを伝えておかなくて」
「いいんだよ、ホウライ。無駄に皆に心配かけたくないし。それに、誰かが傍にいればそれは爆発しないんでしょ? それならだいじょーぶだいじょーぶ。全部終わってから何とか解除すればいい話だからさ」
そう言いながら宙に浮かぶムーンを手であしらうジミナ。彼女の視線の先では、ホウライの手足の鎖、その鎖に繋がった鈍色に光る巨大な爆弾が不気味に鎮座していた。
次回、いよいよエンキと対面。
死闘、開始です。




