「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
そう言ってから、目を閉じていれば知らない内に深い眠りに落ちる。
時に夢を見る。
そして、再び目を開けたとき、現実世界に戻ってくるのだ。
「おやすみなさい。」
僕はこの言葉が嫌いだ。
眠らなくても良いのなら、僕は眠りたくなんてない。
でも、人は眠らないと生きていけない。
抗おうとしたって、まぶたが重くて重くてどうしようもない時がある。
眠るという運命からは逃れられないんだ。
「おやすみなさい。」
この言葉が嫌いになったのは、一体いつからだろうか?
きっと、ちょうど1年前の話だろう。
「おやすみなさい。」
僕はこの言葉が嫌いだ。
知らない内に、暗闇へと落ちていくあの感じが怖くて堪らない。
そう思うのは僕だけだろうか?
「おやすみなさい。」
それと同時に、この言葉を大切にするようになったのは、一体いつからだろうか?
きっと、ちょうど1年前の話だろう。
「おやすみなさい。」
僕はこの言葉が嫌いだ。
眠りたくなんてない。
できれば、この目で君の寝顔をずっと見ていたい。
君の幸せそうな寝顔は、僕の心を穏やかにしてくれる。
「おやすみなさい。」
そう言葉を交わすのが僕たちの日課だ。
そして、どのカップルよりも、夫婦よりも、この言葉を大切にしている自信がある。
僕たちにとってこの言葉は、本当に大切だから。
「おやすみなさい。」
僕はこの言葉が嫌いだ。
そう言って眠りについて、目が覚める保証なんてどこにある?
どこにもないじゃないか。
だから、僕は眠りたくなんてない。
それに…………眠ってほしくもない。
「おやすみなさい。」
君は、いつもにこやかに僕に告げる。
それはそれは幸せそうに、そして穏やかに。
──僕に別れを告げるように。
「おやすみなさい。」
この言葉を大切にするようになったのは、ちょうど1年前のこと。
君に余命宣告がなされた時の事。
余命半年と言われていた君は、1年生きてきた。
奇跡的な話だ。
「おやすみなさい。」
君は言う。
『こう言って目を開けなければ、素敵な夢でも見てるんじゃないか?って思うでしょう。
だから眠る時には、必ずあなたにこう伝えるわ。』
そう言われたあの日から、この言葉は本当に大切で……
本当に大嫌いだ──。
「おやすみなさい。」
僕たちの合言葉のようなもの。
君はこれからも、僕にそう挨拶をしてから眠りに落ちるのだろう。
その度に不安になるのは、君も同じだろうか?
もし、このまま一生目を覚まさなかったらどうしよう?
少なくとも僕は、毎回そう思うよ。
「おやすみなさい。」
君は、そう僕に告げたか?
いや、聞いていない。
眠りにつく前には必ず僕にそう告げていたじゃないか。
この言葉を大切にしようって……決めた筈だろ?
「おやすみなさい。」
僕はポツリと呟く。
その返事は、もう返ってはこない。
そう分かっているのに、何度も何度も君に呟く。
君がいつものように、穏やかな笑顔でそう返事をしてくれるんじゃないかと思って。
君が、戻ってくるんじゃないかと思って。
「おやすみなさい。」
という君の声は、どこに行ったのだろうか。
もう2度と聞くことは出来ない。
目の前で、穏やかに眠る君の顔はひどく美しい。
本当に素敵な夢でも見ているんじゃないか、だから目を冷ましたくないんじゃないか。
そう思ってしまう。
「おやすみなさい。」
最期の最期に聞けなかった言葉。
最期の最期に聞きたかった言葉。
安らかに眠る君の顔を見て、僕は優しく微笑む。
ポタッと涙が一粒溢れ落ちる。
どうしてっ……?
想いが溢れて、涙が溢れて止まらない。
「おやすみなさい。」
僕はこの言葉が嫌いだ──。
「死んでしまったらどうなるんだろう?」と考えた時、私は眠ることが怖くなりました。
目を瞑れば、知らない内に暗闇へと落ちていって、訳の分からない夢を見て、そして目が覚める。そんな一連の動作の内に、目が覚めなかったらどうなるのだろう。と子どもの時に、幼いながら考えていました。
そんな子どもの頃の葛藤と、切なさを交えた物語にしました。
しかし、ジャンルが全く思い付かなくてですね……。
一応、『詩』にしておりますが、こっちの方が良いんじゃない?というのがありましたら教えてください。
読んでくださり、ありがとうございました。