表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生映画人~青春の監督達~  作者: Boukun0214
石井スクリーンプレイ
9/11

仲直りのシナリオ

家のリビングで、少々僕は真面目にパソコンの画面に向かう。


そう。シナリオを執筆しているのだ。これがダメだとフィルム・クラブを抜けないといけないからかなりヤバイ。


こんな状況だから、一人でカタカタと集中できればいいのだが、どうもそうはいかないらしい。



「はぁ、で、なにしに来たの?」

「ふぁい?」


僕の中学校のときの後輩こと、フィルムクラブでは先輩の内田が、麦茶片手にお菓子を頬張る。


いやね、いいんだけどさ、なんで家に当たり前のようにいるの?家教えた記憶がないんだけど。。。

いや、いいんだけどさ!



内田は、お菓子をごっくんと飲み込んで、話を始めた。


「いえですね、いっしー先輩。さっき、伊丹さんの家に行ってきたんですよ。」

「へぇ。それで?」

「むぅ、そっけないですねぇ。」


そっけない態度を取ったものの、気になるものは気になる。

少しだけ、耳を傾けてみた。


「それがですね・・・」



とりあえず、ここからの話はちょっと長かったからまとめよう。


伊丹さんの家に偵察というか、遊びに行ったら、伊丹さんはパソコンの画面は開いているもの、シナリオはまったくの手付かずだったらしい。

そして居座ろうとしたら追い出されたとか。


「ふぅん。伊丹さんなりに、考えがあるんじゃないのかな?」

「そうですけど。。。」

「さあ、こっちもまずいんだから、帰った帰った。」


内田のことをぐいぐいと外へ押し出す。


「そんなー!いっしー先輩まで伊丹さんと同じ追い出し方するんですかー!!」


内田の抗議の声を無視する。


さて、邪魔な後輩も帰ったし、続きだ続き!





この間は、『社会派でシリアス』という、伊丹さんの土俵で戦ってしまった。それだと伊丹さんの方がやはり有利なんだろう。


なら、僕は路線を変えよう。

この間の、あの女の子との出会いは、確かに僕のなかで変化をもたらしていた。




一度書き終えたシナリオを、もう一度読み返す。


ーーダメだ。これじゃあ、まだ下を見て甘んじてしまっている。


修正点を見つけては、内容を書き換える。

そして、また確認。


ーーここの台詞は、少し伝わりにくいかもしれない。別の言い回しはどうだろう?


何度も何度も見直しと修正を重ねて、シナリオを紡ぐ。


『映画は受けとる側が決める』


伊丹さんにいつか言われた言葉は、きっとこういう意味なんだろう。


客観的な視点を考えて、また粗を削る。


何度も、何時間も、そのことを繰り返していく。




「うーん・・・」


あるところで、執筆の手が止まってしまう。

どうもこの先は進まない。。。


よし。行くか。


"あの場所"へ。


僕は、カメラバッグを引っ掴んで外へと飛び出した。





「あ、やっぱり。」


目的の場所には、僕の幼馴染みがいた。手には家庭用のビデオカメラを持っていて、練習をしているみたいだ。


「おーい!河瀬!」


少し遠くから声をかけると、河瀬はこちらを振り向いた。


「あ、石井くん。」


この場所は、昔、よく二人で遊んだ場所だ。河瀬は何かあるとよくここに来る。


「カメラ、上手くなった?」


河瀬の横に座る。

河瀬が、少しそっぽを向いてしまう。どうしたんだろう?


「うん。宮川さんのおかげで、少しは、ね。」



会話が途切れてしまう。

なんだか、二人とも黙っている空気に少し耐えられなくて、ちょっと慌てて話題を出した。


「そういえば、今日は部活じゃないんだね。休み?」

「あ。部活ね、辞めたんだ。」

「へ?」


河瀬は部活をとても一生懸命やっていた記憶があるので、びっくりしてしまった。


「あっ、これね。うちから持ってきたカメラなんだ。」


河瀬が、手元のカメラに視線を向ける。

性能は悪くはなさそうだけれども、やはり一般的なカメラだ。


「それじゃあ、練習するのには不便じゃない?」

「ううん。大丈夫。」


河瀬は、首を横に振ったが、すぐに訂正する。


「・・・いや、うん。少し、ね。」



今日、このカメラを持ち出したのは、いつものように見慣れた風景を撮影するためじゃない。


僕は、肩からかけたカメラバッグを、少し持ち上げる。


「河瀬、このカメラ、使ってよ。」

「えっ?」


このカメラは、僕が持つよりも、きっと河瀬に使ってもらった方がいい。


「僕は、監督をやる。だから、このカメラは使わない。それに、河瀬がこのカメラを使った方が、喜ぶと思うんだ。」


河瀬は、少し固まって、僕へカメラを押し戻した。


「でも・・・こんな大事なもの・・・それに。」


ちょっと、言葉に詰まってから河瀬は続けた。


「この間、私、石井くんに、当たっちゃったから。私には、そんな資格は・・・」

「ああ、えっと、あのときのこと?僕は気にしてないよ。それよりも。」


遠慮する河瀬に、僕は語りかける。

ちょっと、こんなことを言うのは照れくさいけど。




「僕の作品は、河瀬に、このカメラで撮って欲しいんだ。」

「・・・」

「うん。だからさ。これは、僕のわがままなんだ。」


押し黙る河瀬に、僕の宝物を差し出す。ちょっとクサいかもしれないけど。

この言葉は、僕の本心だ。


河瀬は、少しの間、僕のことを見て。

そして笑顔でこう答えた。


「・・・ありがとう。」


河瀬はカメラを受け取って、大切そうに抱える。


「でも、まだ私、監督を諦めた訳じゃないから。」


そういって胸を張る河瀬が、僕の親友が、なんだかちょっと可笑しくて、笑ってしまった。


「アハハハハっ。」


少しだけポカンと僕の顔を見たあと、河瀬も一緒に笑い出す。


「ふふっふふふっ。あはははっ」



二つのシルエットが、夕日に包まれ、笑っていた。















「よし。出来た!」


力作とは、こういうときにこそ使う言葉かもしれない。

あのあと、家に帰り、そのまま執筆を再開した。


流石に夜ご飯はしっかり食べましたよ。ええ。だってお腹すくもの。



このシナリオで、僕は勝負に出る!



そして寝る前に、窓の外を眺めた。


空の黒は、もう、少しだけ青く輝きを取り戻しつつあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ