表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生映画人~青春の監督達~  作者: Boukun0214
石井スクリーンプレイ
5/11

第一回 企画会議




あれから一週間が過ぎた。



このフィルム・クラブの、次回作を撮るにあたっての企画会議の日だ。


この企画会議で、誰の作品を次回作として採用するかどうかを決めるらしい。

つまり、この企画会議で採用された人が脚本・監督として次の映画を撮影することになる。


今回候補に出たのは、僕と河瀬、そして、伊丹さんの3人だ。



僕としては、自分の作品を撮る初めてのチャンスなので、これを逃すような手はなかった。



そして今、フィルム・クラブのメンバーは全員が会議用のテーブルについている。

皆の手元には僕、河瀬、伊丹さんの企画案が渡っていた。



「じゃあ、企画会議を始めるぞ。」



溝口さんが相も変わらず眈々とした口調で指示をする。



「まずは伊丹から。説明を頼む。」



伊丹さんが席から立ち上がり、手元の資料を使って説明を始める。



「俺の企画は、『噂』を題材としていて、主人公である多井倉はある日友人からこのような噂を聞きました・・・」



伊丹さんのプレゼンは、この間の口の悪さからは想像がつかないような丁寧な口調で行われた。


正直、とても面白そうな内容だ。



「・・・なあ内田、伊丹さんって、やっぱりその、だいぶ出来るのか?」



少し自信がなくなり、内田にこっそりと質問をする。



「えーっと、そうですね。ここ最近だと、伊丹さんの脚本が通ることが多いみたいですよ?ああ、でも、溝口さんや本多さんも、撮ったときは必ず賞を取ってるみたいです。」



・・・聞かなきゃよかった。

さらに自信がなくなってきた。


思ってた以上に、このフィルム・クラブはレベルの高い集団らしい。



「そ、そんなにすごいのか?」

「はいっ。」



自慢気に内田が頷く。


マジかよ・・・。


僕が内田と話して勝手に精神的ダメージを受けている間に、伊丹さんのプレゼンは終了していた。



「・・・というわけで、俺の案のテーマは、根も葉もない噂に翻弄される人々の狡猾さ、世の中の不条理を描くことにあります。」



ヤバイ全然聞いてねえ!


・・・あとでしっかり資料を読んでおこう。



「うん。伊丹らしい題材だな。じゃあ、次は河瀬。」



河瀬は、ぼーっとしていたらしく、慌てて立ち上がった。



「は、はいっ!」



なんか、授業で居眠りしていたのを先生に急に指名されたときみたいだ。

河瀬は僕と違って居眠りなんかはしないけど。



「え、えっと、私の考えたのは、一つの場所でのみ繰り広げられる物語です。」



河瀬はところどころつっかえながら手元の企画書を読んでいく。



「一人の女子高生が傷心から誰も近づかない場所に行ってしまって、そこで、そこにいる人達と交流をするっていう物語です。」



簡潔に説明を終えて、河瀬は席についた。


よっぽど緊張をしていたのか、溜め息をついている。



「よし。最後は石井だな。」



心なしか、溝口さんのテンションが高いような気がする。



よし。僕の番だ。

落ち着け。

落ち着けよ。僕。



「・・・僕のはですね、家出をしていった少年が出掛けた先で"香具矢"という少女と出会って、その香具矢と日本の暗部を見てしまい、自分が今、いかに恵まれているかを自覚する物語です。」



僕はいっぺんに話して、プレゼンを終えた。


どさっと席につく。



河瀬の方を見ると、下を向いていて、顔が見えなかった。



「うん。じゃあ、みんな一通りは終わったな。」



溝口さんがまとめの言葉を話す。



「個人的には、伊丹のが面白いと思う。・・・ほかに、意見は?」



すると、すかさず本多さんが口を挟む。



「そうだね、やっぱり、もっと特撮成分が必要だよ!」



溝口さんが大きく溜め息をついた。


本多さんは構わず続ける。



「僕の案ではね、今回はコロンバンガラ沖海戦をテーマにしてそこで活躍した、第二水雷戦隊のことを中心とした・・・」

「そんなこと言ったら、もっとゾンビ出しましょうよ!ゾンビ!!」



内田が勢いよく立ち上がる。



・・・ゾンビ好きだな。コイツ。


そういえば、この間ゾンビジュースがどうのこうの言ってたような・・・


まあ、いっか。



ちなみにこの仲の良い会議(参加者二人)は溝口さんの怒号で打ち切られた。



「・・・それだったら、パラレルワールドってことで神通がゾンビに占拠されたことにして!」

「じゃあ、いっそ未来編とかにしてみましょうよ!」


「ああああぁぁぁぁ!!!特撮はなし!ゾンビもなし!お前らは馬鹿か!?」



内田と本多さんがしょぼんと席に座る。


うん。やっぱり似てるわ。

この二人。



「うん。えっと・・・今のは冗談としてだね?石井くんのがちょっと、面白そうかなって。」



おお。本多さんに褒められた。

やった!



「そうだな。伊丹のはやはり良くできてるが、石井のも悪いわけじゃあない。」

「川瀬さんのものも、悪くないと思いますよ。」



溝口さんに続けて宮川さんがフォローを入れる。



「そうだ。三人とも悪くない。・・・というか、今回決めるのはムリだな。。。」



溝口さんは少し考えたあと、こう続けた。



「次、第二回の企画会議を一週間後にやるから、そのときに各々の企画をプロットにしてもってこい。」



次はプロットか。

よし!頑張ろう!



「じゃあ、今日は解散!」



溝口さんの掛け声で、メンバーは席を立って帰りの準備をしていく。


伊丹さんは無言で立ち上がってさっさと帰ってしまった。



「せんぱーい!さようならでーす!」



内田は元気が良いなぁ。



「じゃあな~。」



他のメンバーも帰ってしまい、僕と河瀬が部屋に残った。


と言っても、特にやることもない。



「河瀬、そろそろ帰るか。」



僕がカバンを持って立ち上がるが、河瀬は何かをぼそっと呟く。



「私って・・・かな?」

「ん?なんか言ったか?」



聞き取れなかったので、僕がそう言うと、



「ううん。何でもない。私、もうちょっとここにいるから、先に帰っててよ。」



と、言われてしまった。



「じゃあ、先帰ってるよ。あんまり遅くなるなよー。」

「うん。・・・うん。」



そのまま、フィルムクラブの部屋を出る。

廊下はすっかり暗くなっていた。



ん?


忘れ物をしたのだろうか?

伊丹さんとすれ違った。


そのまま伊丹さんはフィルムクラブの部屋に入っていった。



河瀬と出くわしたな。あれは。


まあ、いっか。

特に何があるって訳でもないし。



さあ!

家に帰ったらさっそくプロットを書かないと!



忙しくなるぞ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ