ひねくれた正直者
「面白い映画を撮れるのか?」
それが、伊丹さんからの初めての言葉だった。
突然の言葉に、僕は混乱する。
ようやく口から出たのは、弱々しい、こんな声だった。
「えっと、たぶん・・・」
しかしすぐに切り返される。
「"たぶん"などという曖昧な表現は好きじゃないな。」
やばい。なんだこれなんだこれ。
何か、良い言葉はないのか。
僕が困って言葉につまっているところで、溝口さんが助け船を出してくれた。
いや、逃げ道かな?
「おっと伊丹、彼をおちょくるのはこれまでだ。」
そして、相変わらずの眈々とした口調で続ける。
「それで、本題なんだがな。伊丹、石井、河瀬の三人に、次に撮る映画の企画を作ってきてもらう。」
その意味をメンバー全員が理解したときの反応は、様々だ。
宮川さんはおおっと言うように僕らの方を見てきたし、本多さんと内田はえーっと言いたげな顔をした。
河瀬はびっくりしたようにその場で止まってしまった。
伊丹さんの前髪に隠れた目が、少しだけ期待に染まっているような気もした。
そのときの僕は、多分、にやけてたと思う。
「企画、ですか・・・?」
河瀬が、おそるおそるという表現がぴったりな声でそう訊く。
「そうだ。たててもらった三本の企画の中で一番良いものを、今年作る映画にする。」
溝口さんがそう言うと、内田が、納得いかないと声をあげた。
「えーっ!私のじゃダメなんですか!?」
内田には、溝口さんがやれやれと反論する。
「お前は発想は面白いがまだ未熟だ。本多だと怪獣映画になるし、なにより費用がかさむ。宮川はそもそも専門外だからな。」
内田、本多さん、宮川さんの順にちらりちらりと目で追っていく。
宮川さんは専門外ってことは、企画じゃなくて技術の方なのかな?
「お前が推薦したんだから、文句言うな。」
「・・・はーい。」
内田は溝口さんの言葉にぶーぶーと文句を言いながら頷く。
どうやら、そうとう納得がいかないようだ。
溝口さんは僕らの方に向き直ると、
「まあ、というわけだ。来週、企画会議をやるから企画書をもってこい。体裁はお前らの好きなようにしろ。・・・できるな?」
と、決定事項を述べた。
「・・・はい。」
河瀬が自信なさげに頷く。
一方で僕は、自信満々にこう答える。
「もちろんです!必ず良い企画を持ってきます!」
しかし、僕の言葉に突っかかってきたのはまた伊丹さんだった。
「・・・君はちょこちょこ表現法方が変わるな。軸がぶれっぶれじゃないか。」
その言い方に、さすがの僕もムッとする。
「そんなことないですよ。」
伊丹さんは、なら、というように僕に念をおした。
「じゃあ、一週間後にはその『良い企画』とやらを"一週間後"に見せてくれたまえ。」
わざわざ"一週間後"というワードを強調してきた。
僕が言い返せないでいると、
「楽しみにしてるよ。」
と言い残して、伊丹さんは荷物を肩にひっかけて部屋の外へと出た。
少し間を開けて、河瀬が溝口さんに質問をする。
「伊丹さんって、いつも、あんな感じなんですか?」
溝口さんは溜め息をついて答える。
「そうだな。誰に対してもあんな感じだし、別に気にするなよ。」
「伊丹くんは、照れ屋ですからね。素直じゃないんですよ。」
宮川さんも笑って答えた。
非常に納得がいかないけど、僕は、うなずいた。
「・・・はい。」