僕の映画は、ここから始まる。
今日は、待ちに待った撮影の日。
撮影場所につくと、もう既に僕以外の人は全員揃っていた。
つーか、僕が最後か。。。
カメラの調整をしている河瀬と目があった。
「あ、おはよう。頑張ってねー。」
軽く手を振る。
河瀬には、僕のカメラをあげた。
すごく、頑張っていたし、きっと、いい作品を撮ってくれると思う。
期待してる。だって、幼馴染みだし。
「そっちこそ。頑張って。」
あー、それはそうと、河瀬の近くでヘッドフォンを着け、周囲の音を確認している人には何かしら言われそうだ。
なんせ、僕は監督の癖に最後に来たのだもの。
案の定、カメラにマイクとヘッドフォンを繋いでいた伊丹さんが、僕に気がつくと一言突っかかってきた。
「おい、おせーぞ。遅刻だ。・・・監督。」
実はなんだかんだでキャストまで揃えてくれた。
このフィルムクラブには技術班の人しかいないから、おそらくだけど、キャストはいつも彼が集めてくれてるのかもしれない。
色々と喧嘩をしたり、争ったりして、結構仲良くなれたかも。
なれたよね?
「す、すみません。。。今日は、よろしくお願いします。」
用意されていた監督用の椅子に近づくと、背の低いシルエットが近づいてきた。
言わずとも、彼女は中学時代の後輩でフィルムクラブでは先輩の内田だ。
「おはようございますっ!今日はいっしー先輩の活躍、間違いなしですね!」
ビシッと敬礼を決めてドヤ顔をする内田は、今日は製作進行だ。手には軍手にカチンコを持っていて、なかなか様になっている。
製作進行の手際が映画製作の速さだから、彼女には頑張ってもらいたい。
「サポートよろしくね!」
内田にガッツポーズをして見せると、次に、いつものように礼儀正しくお辞儀をしてくる影が視界に入ってきた。
「今日は、よろしくお願いします。」
河瀬の師匠こと1カメの宮川さんだ。
彼のカメラの腕前はこのフィルムクラブで最高の腕前らしく、どうしてこんな団体にいるのか不思議なくらいだそうだ。
余談だけど伊丹さんとは同い年と言うこともあり、実はわりと仲が良いのかもしれない。
何はともあれ、この人に撮って貰えるなら、河瀬も含め映像面に問題はないと思う。
それを考えると、感動に近いものと同時に責任感がドッと押し寄せてくる。
「はい。こちらこそ。」
そして、僕が席に座るといつものようにふわりとした能天気な声が聞こえてくる。
「今日は記念すべき日だねぇ~。」
このフィルムクラブ最年長メンバーの一人、といっても、二人しかいないけど。。。本多さんだ。
彼は特撮映画が専門らしく、助監督として脱線しないか心配だったけど、シナリオ会議をしている限りは結構真面目に取り組んでくれていたので多分平気だろうと思う。
彼の柔軟な発想には多分、助けられることも多いと思う。
「僕にとってはこれから毎日記念日になりそうです。」
そして、その横に視線をやると演出を担当してくれる、フィルムクラブのボス、溝口さんが立っていた。
「映画は、ここからだからな。」
この人はこのフィルムクラブには数少ない、舵取り役で、僕を含め皆が暴走したときには止めてくれる。
だからといって、溝口さんが暴走するときも少なくはないけど。。。
とりあえず、とても頼りになる人。
「はい!」
元気よく笑顔で返事をする。
すると、内田が気を利かせてメガホンを持ってきてくれた。
「ありがとう。」
「いえいえ。」
内田が持ち場に戻る。
「よしじゃあ、監督!こっちはいつでも撮影はできるぞ!」
溝口さんに言われて、僕はスタッフやキャストの皆に合図を送る。
「準備はいいですか!」
皆が同じように答えてくれる。
「OKです!」
よし。と、回りを見て、
「カメラ回してください!」
河瀬と宮川さんに指示を出す。
「カメラ回りました!」
「こっちも、回りましたよ。」
伊丹さんにも、確認をとる。
「音、大丈夫ですか!」
「ああ。平気だ!」
よかった。
これで準備は済んだ。
ふと、空を見上げる。
なんだか、感慨深いものがある。
天気は快晴。
風向きは上々。
スタッフは一流。
僕は、回りにいる皆を順番に見渡す。
そして、眼を閉じて、大きく息を吸う。
たったの一ヶ月間だけど、色々なことがあった。
喧嘩もしたし、沢山悩んだし。
でも、まだまだこれからだ。
撮影は始まったばかり。
「よーい!」
僕は、監督として、メガホンを振り下ろすのだった。
「スタート!!」
カチンコの乾いた音が、現場に鳴り響いた。