第九話
これは作者が軽く神話をかじった程度の知識であるにもかかわらず友達に「こんなこと知ってるんだぜー」と自慢げに話した時に「で、それがどうしたの?」と返されて何も言えなくなった時に書いた物語である。
英雄達は波乱を望まない第9話
柏野歌火視点
ケルト神話のクー・フーリンにはこんな話がある。
彼は青年時代、エメルという女性に異性として認めてもらうために影の国に訪れ女王スカアハの元で修行を行った。スカアハにはクー・フーリンの他にもたくさんの弟子がいたが、彼だけがゲイボルグを授かることが出来たという。そのゲイボルグの性能は…
・投げれば無数の矢じりが飛び出し敵を滅多刺しにする。
・突けば穂先が弾けて内臓に多大な傷を与える。
といった鬼畜性能であったり、技として
・足の親指と人差し指で挟み込み、大振りに蹴る動作で槍を放つ
といったように少々普通ではない投げ方になるなど、同じ名称でも違う内容になったりもしている。
☆☆☆
今僕が目にしている光景は前者の2つ目の力に該当するもののようだ。
「あいつは他にも二つほどタネを持ってはいるが、時間が押してきているから一番ド派手なのを選んだ。どうだ?すごいだろう!」
「こ、言葉にも…ならないですね。」
あと二つってことは結局全部できるっていうことなんじゃあ。僕は少し恐くなって考えるのをやめた。
「じゃあ本部へと行こうか。そこで大体の詳しい説明をするから良く聞いとけよ」
スカアハ先輩がそう言って演習場を出て行く。僕たちもあとをついていくようにその場から退室していった。この部屋もだけど、あの技なんに使うんだろう?
その後しばらく長い廊下を歩いていると、まるで校長室もかくやというような豪華な二つ扉の部屋に行き着き、その上に『影の国本部』と金色の文字で書かれた恐らく象牙で作られたであろう看板がそこにはあった。
影の国?ダンスカー?僕はお悩み相談部に入ったんだよね?なんでこんなに秘密基地的な空間なの?そう思っている間にスカアハ先輩が両手を使って思いっきり扉を開けた。
バンッ!!
「う、うわぁ…」
「どうだ驚いただろう。ここが『お悩み相談部』改め、生徒会裏組織影の国だ!」
スカアハ先輩はドヤ顔でそう言った。部屋の中は中央に足の短い幅広の机があり、左右にソファが付いてあり、そこだけ見れば相談室と同じような光景なのだが、右側にはシャッターで閉められているが、大きさだけでも約10メートルある天井と同じくらい高く広くなっている。まるで巨大ロボットを通すような造りになっている。左側には普通の扉があるが、その上の看板には『関係者以外立ち入り禁止』とでかでかと書かれた看板がぶら下がっており、部屋の奥にはよくある社長室の社長が座るような椅子とテーブルがあり、周りを見渡すと右後ろの扉には『お手洗い』と、左後ろには『キッチンルーム』と書かれた扉がある。
そのびっくり内装に驚いていると、スカアハ先輩は奥にある豪華な椅子にドカッと座り、その横に秘書のようにオイフェ先輩がついた。僕たちはスカアハ先輩にソファに座るよう勧められ、恐る恐る腰を下ろした。
ソファの質が良すぎるのか体にフィットし、座っているだけで安心してしまい、眠たくなってくる。こ、これがいわゆる人をダメにするソファというやつでは……。
「さて転校生くん。聞きたいことがあるだろうがまずは説明させてくれ。
あたしたちは表向き『お悩み相談部』として生徒たちの日頃の悩みや要望を聞き、できる範囲で手助けするといった内容を活動目標にしている。
だがしかし、本来は生徒会が抱えきれなくなった問題をこっそりと随時解決していく目的で作られた裏の生徒会としての役割が本当の顔だ。
凛から聞かされていると思うが、この学校には秘密軍事施設があって、裏の生徒会はそこを活動拠点にしていたんだ。
なぜ軍事秘密施設を造ったかっていうとその時、この国の頭が愚鈍で独裁政治がまだ続いていた時に、そいつが全世界に戦争勃発してしまったのさ。もちろん記録とかはほとんど抹消してあって禁書庫にしか残されてないんだけど……その時に生徒たちのほとんどが危機を感じていて、その時の生徒会長が『今のままじゃ多少魔術が使えるってだけで戦争に連れてかれる。なんとか自衛の手段を持たなくちゃ』と言って全生徒に協力を申し出てこの地下施設を造って有事に備えたらしい。
もちろん独裁制はその数年後に完全に撤廃されて一部の政治をよく知る貴族の人たちによる国民投票の大統領制になったらしい。
そうなった時にはこの施設はとっくに完成して生徒たちもよく利用していたから、軍事的にはもう必要ないってなった時に『ここを捨てるのはとんでもない』ってことで誰かが管理しなくちゃいけなくなったから裏の生徒会がこの施設を維持することになったらしい。この情報は学園の中にある禁書庫にあったものだから喋ってはいけないぞ。なにか質問はあるか?」
なんかサラッととんでもない発言をしてさらにそのことに対する質問を受け付ける必要はないと思うけど……あっ、一つあった。
「その時って裏の生徒会って名前で特に呼称はなかったんですよね?」
「そうだ。まぁ、何人かの生徒は裏生徒会と呼んでいたそうだがな。」
「なんでダンスカーって名前なんですか?」
「あー。まぁ、あたしのただの趣味だ。あたしがここの会長になった時にあのパツキンの裏にいるって感じの名前がなんか気に食わなかったから変えたんだ。」
「パツキン?」
「龍皇浅兎だよ。あいつ昔は髪の色は金だったのに銀にしてやがるからさ。あえてパツキンって呼んでるんだ。
「へ、ヘェ〜。」
多分生徒会長とスカアハ先輩は仲がとても悪いのだろう。でも、影の国か。
神話の話に戻るけど女王スカアハのいる国も影の国って名前だったんだよな。
「今はほとんど悪事なんて働く奴が減ったからここは秘密の休憩室として扱われるくらいかな。」
確かに…ここの施設にあるものはいずれも使わずに置いておくのがもったいないようなものがごろごろと転がっているから、そう思うのも仕方がないのだろうか。
「ここから先の話は、ダンスカーの活動の話になる。絶対に他言はするなよ。」
スカアハ先輩が鬼気迫る表情でそう言ってきたので僕は何度も頷いた。
「まぁ。活動と言っても基本は生徒の悩みを聞いて解決可能であれば出来る限り協力するっていうものなんだが、生徒会長から『特務』として血なまぐさいことにもかかわらなければいけない。」
「血なまぐさいことっていうのは……」
「有力な権力者はいろいろな人から狙われやすいから、な。」
「……具体的に詳しくお願いします。」
よく思われない人たちから殺される可能性があるってことだ。でもそういう政治的なものは、今は演説とかで票を集めるような平和的だって聞いたけど。やはりそういうこともあるのだろうか。
「パツキンはあれで高スペックだからな。なかなか票を集められない奴らからよく思われなくて当然だろう。他の領地の人たちがわざわざ、夏休みにあるパツキンの演説に足を運ぶくらいのものだ。自分たちの領民が他の奴らにとられてると思われてもなんら不思議ではない。あいつ一人でもそいつらの対処は可能なんだが、それでは武力による圧政もあり得ると突かれる可能性があるからな。面倒臭いのは極力避けなければいけない。そこで、あたしたちの出番だ。あいつが政治的な活動をするときに、厄介ごとを退けやすくするために特務としてパツキンに同行して、攻撃してきたやつを捉えて吐かせて逆に優位にして一歩を縮めるということだ。理解したか転校生?」
「えーっと。なんとか。」
僕がそう苦々しくいうとスカアハ先輩は満足げに頷いた。
「それとこれも他言無用なんだが、あたしたちの活動の資金源とも呼ばれる活動を紹介しよう。オイフェ!準備」
「了解した。あの映像だな?」
そう言ってオイフェ先輩はプロジェクターを準備しだした。そして準備が終わった後スクリーンにデカデカと映ったのは無人島のような小さな島だった。
「SS級災害指定怪物にして無限の可能性。『未確認生物生成洞窟』。通称鬼ヶ島。あたしたちはダンジョン島って呼んでいるがな。
「鬼ヶ島?ダンジョン島?」
スカアハ先輩は手元の資料を見ながらそう説明した。鬼ヶ島は桃太郎で知ってはいるが、ダンジョン島?そんなものおとぎ話にはなかったぞ。ダンジョンは言葉として城の地下牢や、地下迷宮という言葉として知ってはいるが、それが実在するとでもいうのだろうか。
ここから僕のソロモンの記憶でもわからないことがたくさん出てきた。