第六話
この物語は作者が有名な、伝説のドラゴンを探すスマートフォンのゲームで初めて王冠をとった時に書いたものである。
英雄達は波乱を望まない第6話
柏野歌火視点
あの後早乙女さんと放課後の部活動を一通り見て回ったが、自分に合いそうなものはあまりなかった。吹奏楽部も考えたが、昔あった事件で、あまり入ろうとは思わない。結局僕は早乙女さんと同じ部活動をすることになって、詳しい話は明日話すそうで、今帰路についている。
「ただいまー。」
「おかえりにーさん。学校はどうだった」
玄関を開けると妹がエプロン姿で出迎えてくれた。
両親は共働きで同じ会社に勤めているので、帰りも一緒で遅くなったり朝帰りとなったりする。朝帰りは毎回母さんがツヤツヤして父さんはげっそりしていて、昔だったら疑問にも思わなかったけど、そういった知識を持ってると少し引いてしまう。
そんなわけで、妹と二人きりになるのは頻繁にあることだった。
「聞いてくれよ歌流〜。僕今日は……」
妹に今日の出来事を一通り話し終えた。今朝あったソロモン関係は話していない。それに対し妹が返した言葉は
「当然ですね。この学校では転校生なんて稀ですし、にーさんは容姿にその拍車をかけているようなものです。私も質問攻めにあいましたが、あしらい方は知っていたのでほとんどそれに時間を取られることなく、親しい仲となり得る友達が10人程できました。にーさんはどうですか?」
「うっ、二人程……でも頑張ったんだよ!」
「頑張ってそれですか。はぁ。」
妹にため息をつかれた。僕も何とかしなければと思っていても、やはりというか何というか、少し距離を取ってしまうのだ。
「あの事件のおかげでにーさんはあまり人と関わらなくなってしまったんですよね。少しはなんとかならないんですか?」
「うぅ、ごもっともです。でもやっぱり……」
「そうですよね。難しい問題ですよね。」
あの事件というのは、僕が中学2年の時に起こった出来事だ。
その時僕は軽音部に所属しており、部内の唯一のボーカルだった。僕の歌はみんなを虜にして魅了していたらしい。他の人にボーカルをやらせようにも、いまいちぱっとせず僕の歌が一番だとみんなが言ってくれていた。
そして先輩の最後のライブでみんな頑張ろうと夜遅くまで練習することになった。ライブにはたくさんの高校の先生や企業が来ることになっていて、進学や就職のチャンスとなっていた。そのため学校に恥を晒さないようにみんなしっかり練習していた。
その練習が4時間くらい続いて少し声が枯れてきたのを感じ
「少し疲れが出てきたのでお先失礼しますね。」
と言って帰ろうとした時に先輩と同級生の女子たちが引き止めてきた。
「あんたいないと練習にならないから残ってやって」
「え、でも。少し声が……」
「そんなもんなんとかなるから今は私たちの練習に付き合ってよ。あんたが声を枯らすまで歌うわけないから。」
結局流されるようにして三時間歌わせられて、それで次の日、完全に声を出すことができずそのことを軽音部のみんなに話したら
「はぁ!?」
「本番当日に何やってんの!?」
「ライブになんないじゃん!!」
「うちらのライブどうすんの!」
「いいから歌火そのままやってよ!少しくらいは歌えるでしょ!」
結果は散々なものだった。ライブが終わった後の控室の空気は最悪だった。
「はぁ、これ一本で人生やろうとしたのに」
「誰かさんのせいで歌に合わせられなかったし」
「もうほんとサイアク。」
後輩の優秀な女子は僕が限界ギリギリまでやってたのを知っていたが、下手なことを言うと自分にまで火が飛んでくるのを怖がり、何も言わなかった。
その帰り道で、人目につかないところに先輩に連れられて僕は先輩と同級生に腹いせのようにボコボコにされた。家に帰りボロボロになった僕を見て歌流と母さんが取り乱し、父さんが「何があった?」と聞いてきた。僕はありのままのことを話すと
「そんな理由でにーさんをこんな目にしたんですか!許せません!」
「その同級生と先輩たちも自分勝手だわね。練習なんて一人でやればいいじゃない。」
「いや、一致団結して練習するのにこだわってたんじゃないかな。だが歌火にこんなことをしていいとは許されないが。」
その後、母さんが主軸となって息子に何があったかを学校に説明し、謝罪を求めるようにしてくれた。
次の日教師から「詳しく事情を説明してくれ」と言われ、起こったことを説明した。
そこからの流れは早かった。その当事者の女子生徒は
「あたしは悪くない!合わせられなかったあいつが悪い!」
と言っていたが、後日謝罪会見が開かれ一応面と向かって謝られた。反省しているかどうかは別として。
その後僕は部活をやめて無所属になった。謝ってきた女子生徒達に
「あんたいないとライブできないから戻ってきて!」
と言われたが、僕は戻る気になれなかった。ずっと黙っていた後輩は
「本当に、あの時は何も言えずごめんなさいです。あの時何か言おうとすれば私に矛先が向くのが怖くて…その結果、歌火先輩がこんな辛い思いをして。わ、私にできることがあればなんでもおっしゃって下さい!それくらいしか先輩のお役に立てませんから。」
その時僕は重度の人間不信になっていて、その子に「特に何もしなくていいよ。」と冷たく言って僕は足早に去っていった。
その子は泣きそうな目をしていたと今は思う。
あれだけ親しかった(と思っていた)人たちが、人が変わったように冷たくされたのにショックを受けた僕は、半年の間不登校に陥っていた。そこから僕を救ってくれたのは妹の歌流だった。
「いつまでウジウジと引きニートのごとく家でゴロゴロしているんですかにーさん?」
「だ、だって僕、学校に行こうにも、同じ部活だった人にまた…」
「そんなことでにーさんは引きこもってるんですか?」
「そんなことって、僕は!!」
「そんなことです。にーさんは学校内のクラスの一部の生徒に嫌がらせを受けただけで、他のみんなはにーさんのことを好意的に思っています。」
「どうしてそう言い切れるんだよ!!」
「私が一番にーさんのことが大好きだからです!!」
歌流はそう言う僕を優しく包み込むかのように、抱きしめてくれた。
「いいんですよにーさん。みんなの前で無理しなくても。にーさんは私の前で、正直になってください。私だけは、にーさんのこと、いつまでも好きでいられますから。」
「う、うぅ、うわ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁ」
そこから僕は今までのものを吐き出すようにして泣きわめいた。もうそれは、まるで赤ん坊の如く大声で泣いた。幸いにして周り近所に家がなかったので、そのことを知っているのは家族だけだった。
そのから僕は学校に通って今まで通り、いや少しだけ変わってしまった環境ではあったけど、何事もなかったかのようにして通い続けた。
進路も問題なく決まり、通って一ヶ月で理想学園に転校だったけど、僕の人生はあまり変わらずだった。唯一変わったのは、僕の方から人に少し距離を置くようになったことくらいだ。
まぁ、そんなことがあったから、友達はあんまりできず、吹奏楽もトラウマが蘇りそうになるから、早乙女さんと同じ活動をすることになったんだけど。
「そういえば歌流の方はどうなの?友達が”僕より”できたって言ってたけど。」
「そこを根に持つんですか。そうですね、クラスの中にテインネットワークスの次期社長にして天才と噂されているコンス・タン・テインって人がいるんですけど、その方とお友達になりました。他にも卯皇栖さんや獅子皇レオンくんと友達になりました。」
歌流から聞かされた人物に耳を疑いたくなる。その人物って大物じゃ……
「えっと、歌流?その人達ってびっくりするほど大物じゃない?」
「えっ、そうですか?それ程でもないと思うんですけど……」
「そ、そうだよね。うん。大物っぽいけど似た名前の人達…」
「ただ少し問題を起こすと社会が揺れ動き、私たちを消そうと思えばいつでも跡形もなく消せる存在ですけど。」
「やっぱり大物じゃないか!」
妹が友達になった人物は想像通りの大物だった。
この国の政治を司っているのは昔から政治に携わる24の貴族たちだ。その人たちは『赤道と黄道の担い手』と呼ばれており毎年の選挙の国民投票で票を多く勝ち取った24の貴族の内の当主が大統領になるというものだ。その人達の名字には干支や12星座が入っており、その後に皇をつけて特別なものにしていると中学校の歴史の授業で習った。
妹の友達が、まさかの国の未来を左右するかもしれない人物だなんて。
僕が昼休みに会った龍皇浅兎さんもその貴族の内の一族である。
そしてコンス・タン・テインさんの名前は、テインネットワークスを知るものであれば知らないはずもなく、彼女は齢15にして様々な特許を取得している。それを使った携帯機器はまさに天才としか言えないものばかりで、そんな人物と歌流が友達になれたのは…なんでだろう。
「歌流って、実は大物かも。」
「バカなこと言わないで下さい。私はただ、一人でいる人や、話しかけたそうにしてたけど話しかけてこない人、淋しそうにしてた人と積極的に関わった結果たまたま大物の人物がいただけです。そういうにーさんは?」
「あ、うん。僕は…早乙女流火さんとブランシュ・フルールさんかな?後、昼休みに龍皇浅兎って人と会った。」
「龍皇さんは高等部生徒会長として、そして次期大統領候補として有名ですよね?残り二人は推測ですが女生徒ですね?」
「え、うん。そうだよ?」
「ではどちらかの女性、ないしはどちらも…いずれにせよにーさんの心に留めておくような人です。これは伴侶としてにーさんに見合うかどうか見極めないと……」
「えーっと、聞いてる?」
歌流が何やらな意味深なことをつぶやいている。僕はそういったことではなく純粋に友達として……
しかも、早乙女さんは知らないけど、ブランさんはきっと彼氏とかいるはずだ。アーサー王物語ではブランシュフルールにはパーシヴァルという旦那さんがいたとかかれていたので、こっちの世界でもそうなる可能性は高いはずだ。パーシヴァルって人がいるかどうかわからないが。
この知識もソロモンで手に入れたものだ。役に立つかわからないけど。
「そういえばにーさん。放課後の活動は決まりましたか?」
「一通り見てみたんだけど、特にパッとしなかったから友達と同じところに入った。」
「ふーん。で、なんて部活ですか?」
なんでそんな姑みたいな表情をするのか僕にはよくわからない。
「えっと、確か『お悩み相談部』だったっけか。明日は部登録と説明をしてもらうから少し帰りが遅くなるかも。」
「……完全にその部活、帰宅部的な立ち位置か、もしくは怪しい活動内容だと思うんですけど。」
「僕もそう思うよ。でも早乙女さんは『些細なことで生徒が不快な思いをしないようにってことで作られたらしいぜ。非力なお前でもできるんじゃないか?』って言ってくれたから、一応やってみようかなって……」
「人間不信に陥っていたにーさんが、人の悩みを聞けるような存在に。明日は槍が降ってきますね。」
「やめてよもう。あれは黒歴史みたいなものなんだからさ〜。」
「ふふっ、私しか知らないにーさんの側面。とても背徳的ですね。」
「ひぃっ!!」
たまに歌流は身を震わせるようなことを言ってくる。これ悪寒じゃないよね……
そんな感じで、僕たち兄妹は一つ屋根の下でのんびりと暮らしていく。
☆☆☆☆☆
「だから!風呂に入ってこないでって言ってるじゃん!」
「今更兄妹で何を恥ずかしがるのか私には全くわかりません。ささっ、私がお背中をお流しします。ついでにアソコも……」
「早乙女さん達におかしいって言われたんだよ!流石にもうやめようよ!」
この出来事の後、僕たち兄妹は
『いっしょに風呂に入らない』
『いっしょの布団で寝ない』
とかその他もろもろ規則を設けた。歌流は不服そうだったけど。
ちなみに血縁関係が近い程性欲が湧きにくくなり、たとえデキたとしても、同じ血を受け継ぐから子供の遺伝子情報が丸かぶりし、劣性遺伝を多く受け継ぎ奇形児が産まれる確率が高まってしまうため、日本では血縁関係が近すぎる人とは結婚できず、いとこから結婚がオーケーされる。
優秀な子供を作りたかったら外国人とする方がいいということになる。
さぁ。みんなもレッツ国際結婚!!
まぁ、作者は童貞で、【彼女いない歴=年齢】を更新中のためそういった話には関係がないと断言しますが。