第四話
この物語は作者が日本にとても良く似た世界で日本とはかけ離れた、でもどこか日本チックで日本じゃない世界の学び舎で生徒の英雄達が騒動を起こし、それに巻き込まれる主人公を描く物語であるが、あろう事か前回は主人公が騒動を巻き起こす事態となった事に作者が少し罪悪感を感じながら書いた物語である。
英雄達は波乱を望まない第4話
柏野歌火視点
ううう、もう僕みんなに汚されちゃった。あの後教室に帰ってきた後にクラスメイトのほぼ全員が僕に対して殺到してきた。その中には男女ともにセクハラ紛いの事まであったから、そこは先生が止めてくれたけど……でも、みんなから結局もみくちゃにされた。今はある程度の人たちが話しかけてきているくらいだけど、今もギラギラとした視線を向けてくる人たちがいる。……こわい。
「うう、僕もうお嫁にいけない。」
「「「「じゃあおれ(あたし)達がもらいます!!」」」」
「ひいっ!」
こんな調子で心が休まる気がしない。僕はただ、気軽に話す事ができる友達が欲しいのであって、こんな変態達は友達になれてもそれ以上は無理であるときっぱりいえる。
僕は今気軽に話せる友達が一人しかいなく、その一人に視線を向けると
「流火ちゃんは彼の事何か知ってるんですの?さっき彼を連れてどこかに逃げてましたけど……」
「べ、べつに…あいつが困ってたから助けただけだ。どうもしねえよ。」
「でも彼なぜか今ワタクシ達を見つめていますけど…はっ、これはもしやワタクシか流火ちゃんに気があるのでは!?」
「ばっ、ばか。あいつとはただの友達でそれ以上は……」
僕は慌てて顔をそらした。やば、今僕超顔赤くなってる!?クラスメイトに見られたりしたら…
「ん、大丈夫か?顔赤くなってんぞ?」
「熱があるのよ。きっと新しい環境で疲れているのよ。ささっ、ワタシと保健室へ行きますのよ、そしてそのまま逢瀬へと……」
やばい。何がやばいって?貞操がやばい。
「だ、大丈夫だよ。少し緊張してただけだし。」
「そうですの。でも無理はして欲しくないんですのよ?」
「あ、うん。ありがとう。」
僕のことを気遣って行ってくれた事に少しだけ嬉しくなり、感謝の言葉を口にする。すると
「はひぃっ、あ、あ、あの。ワタシ少しだけ……席を外しますのよー!」
「えっ、ちょ…あの!」
「そんな笑顔で感謝の言葉を言われると……すごい惚れちゃいそうになりますのよー!!」
顔面真っ赤にしながら教室から出て行った。
もうやだこのクラス。
☆☆☆☆☆☆☆☆
そんなこんなで昼休みとなり、人が殺到する前に、早乙女さんに静かな所に案内してもらって、そこで昼食を食べる事になったんだけど……
「えっと、その。ここの部屋って使っていいんでしょうか?」
「普通はダメだが、オレたちは少し特別でな。無許可で使う事ができる。」
「そうですのよ?何しろワタクシ達の活動拠点の一部なのですから。」
早乙女さんの隣にいる人は、同じクラスのブランシュ・フルールさん。
彼女は腰まで伸びたプラチナブロンドの髪をゆるふわな感じにしていて、白くキメが細かそうな肌とマリンブルーの瞳に所々制服を改造し、スカートにフリルをつけて、まるでお嬢様のような出で立ちをしている。
早乙女さんと彼女はとても仲が良く、いつもこうして一緒にいるらしい。
今日もお昼を一緒に食べる予定の所を、早乙女さんが、僕があの教室の空気にやられているのを知って、同行させてもらった形になっている。
「いえ、僕は静かな所でお昼を済ませればいいなと思ってたんですけど、早乙女さん。なんでまた生徒会室に?」
「そりゃあ、この部屋はとても静かだし、関係者以外は原則立ち入り禁止だし、一部にガスコンロ付きのキッチンまであるから、なにかと便利なんだよ。」
「いやでも僕関係者じゃないんですけど……」
「関係者の友達だろ?それにもうお前は1時間目に入ってるんだし」
「そうですのよ?もし何か言われそうな時は迷わず『早乙女さんと同じ部活をするので関係者です』とでも言えば問題ないんですのよ?」
「いや僕まだ部活決めたわけじゃあ……」
「いいからとっとと行くぞ。」
早乙女さんを先頭に僕たちは生徒会室に入っていった。
生徒会室の中はそれなりに片付いていて、目の前には円卓を模したテーブルが置いてあり、その奥が二手に分かれていて、その片方の部屋は和室となっている。今日はそこで昼食を食べる事になっている。
「ここで靴を脱いでくれ。あと__」
「あぁ、大丈夫です。家にも和室ありますから。」
「そうか、そいつは失礼したな。」
「しかし今時珍しいですのね。自宅に和室があるなんて。」
「母がそういった趣味をしてるから。新しく引っ越した家も和室があること前提で探したらしいし。」
「まぁ、お母さまはいい趣味をしていらっしゃいますのね。ワタクシと気があいそうですわ。」
「こいつの趣味はともかく、まあ落ち着ける場所だよな。」
そんな雑談をしながら弁当を開ける。今日は……妹の手作りか。母さんのは冷凍食品多めだから『栄養面でにーさんが倒れますっ!!』って言って中1の頃に作り出したんだよな。その頃からも美味しかったけど、今じゃほんと僕の好みをわかってるような味付けになってきたんだよな〜。
「へー、柏野の母親は随分器用なんだなー。」
「そうですのね。しかも栄養バランスも良く1日のカロリー計算を完璧にしたワタクシの弁当とほぼ内容が似通ってますのね。」
弁当を開けて妹のことを思い出していると二人から声をかけられた。
「いや、これは母さんが作ったんじゃなくて妹が作ってくれたんだよ?」
「「え?」」
「母さんの作った弁当は半分以上を冷凍食品でまとめてるから、それを見かねた妹が中1の頃からちょくちょく作ってくれるようになったんだ。」
二人にそう説明するとどちらも目を丸くしてこちらを見ていた。
「こ、これが、オレたちより歳の低い子が作ったってのか?」
「なかなか多芸ですのね。ちなみに柏野君。その妹とはどれくらい歳が離れていますの?」
「今中学3年だから1つ違いかな?ってどうしたのほんとに。」
「これを中学生が?どんだけ愛されてんだよその妹に……」
「これは流火ちゃんも、うかうかしてられないですわね。ちなみに聞きますが柏野君は妹さんとはお風呂一緒に入ったことがおありですの?それと一緒に寝たりとかは?」
「えっ?今も一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たりしてるよ?最近はしょっちゅうかな?僕も恥ずかしいからやめろって言っても聞いてくれないし……」
僕がそう言うと二人は口をあんぐりと開けて固まっていた。え?何?
「僕なんか変なこと言った?」
「「今さっき言ったわ(言いましたの)。」」
「え?ほんと何?」
「だから、一つ違いの妹と今でも一緒に風呂や寝所を共にしてることだよ!」
「これは妹さんのブラコンが酷いのか、はたまた柏野君のシスコンが酷いのか。」
二人が何やらぶつぶつと何かをつぶやいてる。もしかして
「もしかして妹と一緒に寝たり風呂に入ったりとかしちゃいけなかったりする?」
「いや、しちゃいけないってわけじゃあないんだが……」
「それも思春期に入ると性を意識し始める時までですので、今でも一緒は正直異常かと……」
そうだったんだ、知らなかった。うーんでもそうなると
「妹に恥ずかしいからやめろって言った時は『なんで兄妹で恥ずかしがる必要があるの?私はにーさんの全てを知ってるしにーさんだって私の隅々まで知り尽くしてるじゃん。だったらもう今更だよ?それに他の兄妹や姉弟もやってることなんだよ?』って返されたんだよなぁー。」
「「その妹色々とやばいからな(ですの)」」
少し衝撃的だった昼食を済ませて、教室に戻ろうとした時に、生徒会室の和室じゃない方の部屋から一人の男性生徒が出てくる。
見た目はイケメンで、銀色の髪はその見た目と合うように整えられておりまるで一流ホストのような雰囲気がある。体格は筋肉はつきすぎず、必要最低限なのにとても鍛えられてるような印象がある。身長は高く、僕より少し高い早乙女さんでも少し上を向くくらいだ。
「やあ。君が噂の転校生だね。」
その銀髪イケメンは僕を見てそういった。あれ?なんでこの人僕のこと知ってるの?
「はい。転校生の柏野歌火といいます。」
「あぁ、そうか。俺の名前は龍皇浅兎。一応この学園の生徒会長なんだ。」
その男子生徒は僕を見つめながらにっこりと、まるで値踏みするかのような視線を向けてそういった。まるで彼は何かを知っているような……
「そういや会長はこれからどこへ行くんだ?」
「あー、ちょうど君のことを探そうと思ってたんだよ。」
早乙女さんと生徒会長が話している時、僕は会長の背中と腰……にある刀剣に目が離すことができなかった。
生徒会長は背中には禍々しい日本刀のような刀と、腰には神々しい直剣を佩刀していた。
「そうか、やはり親和工業か……っと、どうした転校生?」
「いえ、その。その腰と背中のものは……」
「あー、これか。まぁ、一応家の決まりのようなものでね。ちゃんと鞘に暴発防止のセキュリティロックもかかっているだろう?」
そういって腰に差してあった直剣を僕に見せてくれる。鞘と剣の鍔が接触するところに、鞘の横から鍔に沿って剣が抜けないようにされてある。
「いえ、少し普通の剣と違うような気がして……」
「家にあったものだからね。そこらへんは家訓だから怖くても持たなくちゃならないんだ。」
生徒会長は怖くてもと言ってはいるが、まるで怖がっていないようにも見えた。
ヴー、ヴー、ヴー。
「っと済まない、少し席を離れるよ。」
「あっ、はい。」
会長は懐の携帯を取り出すと後ろを向いて電話しだした。
「あぁ、俺だ。例の件は……」
会長の使っている携帯を見て僕は度肝を抜いた。あれは今話題のテインネットワークスという携帯会社が、最近発売しだしたスマートフォンと呼ばれる、液晶の片手サイズのタブレットの携帯機種の、更に現在開発段階中だと言われている次世代の機種であったからだ。
基本的にあの会社は先の先を行くテクノロジーを独自の方法で編み出し、更に秘密を盗まれないために会社内での開発チームは身内のみで構成されていると聞く。会社の社長の娘が特に才能溢れていて、一般教養を学ぶために理想学園に在学していると聞いている。
会長がそんなものを持っているとすれば、会長自身が身内か、その身内の人が会長に渡したのか……
「っ、悪いな。これ以上は現場で、わかった。その件は確実に。と、いうわけで俺は少し出かけるから何かあったら連絡入れろよ。」
僕の中で推理もどきが発生している中で、会長は電話を終わらせてどこかに行こうとする。
「えっと、どこに行かれるのでしょう。」
「俺は単位はもうとっくに一年の頃に三年分取ってるようなもんだからな。これから野暮用で学校外に行くんだ。」
「えっと、頑張ってきてください。」
「あぁ、今度の一件は流石にこっちも黙ってらんねえからな。」
会長はそういって出口のドアに手を掛け、こちらに振り向き、僕の方に目を向けてきた。
「そうそう、転校生さんよ。俺の傘下に加わるのなら安全は保障するがその状態を維持するとそのうち……狙われるぞ。」
「……っ!!」
そういって生徒会室を出て行く生徒会長。
僕は思わず息を飲んでしまった。
彼は、なにを、どこまで、知っているんだ?
後に残されたのは首をかしげる女子二人と、戦慄する一人の男子生徒だけだった。
一人称が似てる人が出てきましたが、別の人物なので混同しないように。
……作者も少し混同するけど。
後、この世界線は、まだガラケーが主流でスマートフォンは一部の機械マニアか優良貴族が使っている感じです。生徒会長の使っているスマホはiPh○ne5sをイメージしてください。