第三話
この物語は作者が日本にとても良く似た世界で日本とはかけ離れた、でもどこか日本チックで日本じゃない世界の学び舎で生徒の英雄達が騒動を起こし、それに巻き込まれる主人公を描くはずが、このままのペースで登場人物を出し続けると作者の頭がパンクしてしまうのではないかと危惧しながら書いた物語である。
英雄達は波乱を望まない第3話
柏野 歌火視点
なんとか職員室に間に合った。今は担任となる先生から教室の案内と転校生の紹介の段取りを教えてもらうところだ。
「ところで…柏野歌火くんだったか?」
「はい?なんでしょう」
「君はどういった経緯でこの学園に来たのかね?」
担任となる若い男の先生に移動中そんなことを聞かれた。なんでもこの学校で転校生というのは珍しいどころの話じゃなく、まるでツチノコのようなものだと言われた。それに対して僕は自分の父のことを言える範囲で答えたら、微妙な顔をされた。なんでだろう。
「さてと、おまえのクラスはここだ。」
プレートには一年F組と書かれていた。
「まず、段取りとしては、私が教室に先に入りうるさい生徒どもをなだめた後、合図をしたら教室に入ってこい。後は簡単な、それでいて面白い自己紹介をした後に私が席を案内するという流れにする。いいな。」
「はい。普通の、一般的な、なんの変哲もない自己紹介をしたいと思います。」
「なんだかなぁ〜」
ツチノコよりも珍しいこと存在かー。休み時間に大量の質問攻めにあうんだろうなぁ。大丈夫かな、ちゃんとやれるかな。そんなことを考えている間に先生は教室に入る。
「オラオラおまえらちゃんと席に着け〜。」
「うえぇー」「めんどー」「まだ鐘なってそんなになってないだろ〜」
こんな感じのクラスであればすぐに打ち解けられそうだな。
「えー、今日から転校生が、うちの学年にくるわけだが、なんとその噂の転校生はうちのクラスに配属されることになった。」
「「「「「ウオォォォォォォォォォォ」」」」」
………やっぱ無理、ちょっと暑苦しいのは苦手だわ。
「ねぇねぇ、どんな感じの子だと思う?」
「俺的には超絶の美少女がいいなぁ〜。」
「あたしは背が高くてイケメンな優しい人がいいなー。」
「わたしは庇護欲をかき立てるようなちっちゃい男の子がいいなぁ〜。」
「おいもそんな感じの男の娘がいいでヤンス。」
………完全に修羅場なんだけど、これどうすんの?このままじゃ入れないよ僕。
「あーおまえらうるせえから静かにしとけー!。んじゃあ今からそいつ呼ぶから絶対うるさくすんなよー。……入ってきていいぞー。」
その声で周りがシンと静まり返ったので僕は意を決して教室のドアを開けた。
ガラララララッ
コツッ
コツッ
コツッ
コツッ
と僕の音だけが場を支配していた。そして黒板の前に立ち、自己紹介を始める。
「今日から皆さんと一緒に学ばさせていただくことになります、柏野歌火と言います。………仲良くしてくれると嬉しいです」
一礼した後の営業スマイルも忘れずにやる。
するとあたり一面が静かになり……
「「「「「「オォォォォォォォォォォ!!」」」」」」
という鬨の声の様な雄叫びがこだました、瞬間僕の目の前に人だかりができていた。
「ねぇねぇねぇねぇ、君って男子?それとも女子?女装男子?男装女子?どれ?」
「それより今から俺とお茶しようよ、授業なんかほっといてさ。」
「あ”ーやばい!超可愛いー!持って帰って一日中甘やかしたい〜!」
「ねー君連絡先交換しよーよ」
「それよりLAINやってる?」
阿鼻叫喚の魑魅魍魎、百鬼夜行も目じゃないくらいの光景がそこには広がっていた。みんなからもみくちゃにされて意識が遠くなりかけたところに、僕の腕を引っ張る見たことある手が伸びていた。僕は咄嗟にそれを掴むと、するりと集団から脱出することができた。
そして僕の腕を引いてくれている人を見ると、やはりというかなんというか、今朝、僕が助けた?少女だった。
「あー。抜け駆けはずるいんだぞー流火ちゃん!」
「みんな!やつを終え、まだ一つも質問に答えてないんだから」
「集団で散開しつつ追い詰める様に__」
「おまえらいい加減にしろー!!」
教室に担任の声が響き渡った。僕と彼女はそのまま逃げる様に1階から上へ上へと登っていき、3階の生徒会室の中に隠れた。
「ゼェ、ゼェ、し、死ぬかと思った。た、助けてくれて、ありがとう。」
「べ、別に、これくらいは、当然の、事だから」
彼女も息を切らして返事をしていた。でもあれは一体。
「あのクラスメイトたちはなんなんですか、その…えっと……」
「流火だ。早乙女流火。」
名前を聞くのを忘れて言えなかったのを彼女が…早乙女さんが助けてくれた。
「…ごめんなさい、朝の時にでも名前を聞いとけばよかったですね。早乙女さん。僕の名前は歌火です。柏野歌火。これからよろしくお願いします。」
「堅苦しいな、まぁいいか。んで、あのクラスメイトの反応だがよ」
「はい。」
「まあ、悪気があってやったんじゃないんだ、ただ転校生なんて存在、初等部の頃からなかったもんでな、そんでおまえは周りから目を引く容姿ときてみんな理性より興味の方が勝っちまったんだろ。あれで悪い奴じゃないから許してやってくれ。」
「は、はあ。あの」
「うん?」
「僕たちこれからどうしましょう。」
「………どうしようか。このまま1時間無駄に過ごすか?」
「そ、そうですね。」
す、すごい気まずい。女の子と二人っきりなんて人生初めて。妹は女の子に含まれません。
……何を話そう
「そういえばさ」
「はっ、ヒャイ!」
やばい。早乙女さんから話しかけられるとは思わなかったからびっくりして噛んでしまった。
「ん?でさ、今日の朝の件だけど。」
「あー、はい。あの力の事ですね。」
「そう。あの後すぐ力が元に、いや…少し倦怠感が感じるから魔力が減ったのか?ともかくだ。あれは一体なんなんだ?」
「えーっと。それはですね__」
彼女にわかりやすい様に簡単に噛み砕いて説明した。ソロモンの小さな鍵の中にある歌と歌詞の魔導書について、味方の魔力に作用して一時的に身体能力、魔力、適性などを上げる効果などがあり、その場の魔力の濃度が高ければ敵に対して制限をかけたりといった具体的な力の事や、それを一度歌と歌詞の魔導書に書き、詠唱しなければ効果を発揮しない事。同じ対象に同じ効果を持つものをもう一度使うのであれば、詠唱のみで充分な事などを話した。
「つまりおまえ自身には戦闘能力はないって事か…」
「悲しい事ですけどそうですね。」
ソロモンの力を使えばその限りではないのだが、どちらにしろソロモンの小さな鍵頼りなので、同じ事であるといえよう。
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
それから早乙女さんと学園の事や年間の目玉行事が何であるかとか色々と話し込んでいたらいつの間にか1時間が経っていたらしい。
「あっ、もう時間か…」
「そう見たいですね。」
「んじゃあ、外堀はいい加減に冷めただろうし、オレたちも行くか。」
「今度は同じ目に合わないですよね?」
「さあな、そこらへんはおまえ次第じゃね?」
「そ、そんな〜」
僕たちはこの1時間のおかげで、とても仲良くなれたと思う。僕の、この学校での初めての友達は、早乙女流火さんだといえる。
その後教室でさらなる質問攻めにされたのは言うまでもない。
代わり映えのしない教室に変化が訪れると途端にみんなが元気になる。