第二話
この物語は作者が日本にとても良く似た世界で日本とはかけ離れた、でもどこか日本チックで日本じゃない世界の学び舎で生徒の英雄達騒動を起こし、それに巻き込まれる主人公を描く物語である
英雄達は波乱を望まない第2話
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柏野 歌火視点
あの後、女神様から一通り説明を受けて、僕は現実世界に帰ってきていた。
曰く、この世界は遠くない未来に破滅がもたらされること
そしてそれを止めることが出来るのは僕だけであること
僕は学園で何者かに殺されて命を落とすということ
それにより世界は破滅の一途をたどること
それを防ぐために僕の中にあったソロモンの記憶とソロモンの小さな鍵を解放したこと
その力は未来を不確かなものにすること
それを使って学園で何事もなく過ごす、あるいは犯人を見つける
力の解放の影響でソロモンの時に出会っていた人物名や自分の名を忘れていること
書物や実体験で見た記憶は存在していること
将来女神と子供を作ること
最後の以外は、僕にとってありがたい情報だった。
最後のは……ね?見目麗しい女神様が僕に好意を寄せてくれるのはありがたいんだけど、それは僕ではなく僕の中にあるはずのソロモンという人物に向けてるから素直に喜べないないんだよね。
それは置いといて、僕が奈落に落ちた跡は綺麗サッパリ残されておらず、また時間も経過してないため学校に遅れることなくつくことが出来る。
はぁ。僕在学中に死んでしまう運命だったのか。英雄になるのも驚いたけど、そっちの方が驚いたな。
「……やめろ!放せよ!いい加減しつけぇんだよ!!」
どこからか女の子の声が聞こえてきた。後5分くらいで学校に着く距離だし30分後までに到着すれば間に合うから、行ってみるか。
僕は先ほどの声がした方向に向かって走って行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
早乙女 流火視点
オレの名前は早乙女流火。理想学園一年F組の女子高生だ。最近は転校生が来るとかでみんなそいつのことが気になって浮ついた雰囲気だけど、オレは興味ないからいつもどおり友達のブランシュ・フルールと過ごしていた。そのブランも転校生が気になるのかしきりに「どなたが転校してこられるのかしらね?」とか「流火ちゃんは興味ないんですの?」「裏のヘルメス通信によれば明日こられるらしいですのよ」とか聞いてきたりした。オレは「しらねぇ」「興味ねぇ」と短く済ませた。
オレとブランは生徒会の裏の組織__影の国に所属している。
ダンスカーは生徒会の補佐として働いていると言われているが、実際は生徒会に寄せられた要望や相談事などを解決する役割を担っている。
荒事や機密事項を扱っているから所属させる人員は口の固い人物でなければならないとかで、他の部活に比べると人が少ないと感じる。
所属している人は
3年
会長 スカアハ・スカラフ
副会長 オイフェ・スカラフ
空歩 凛
スカアハ先輩とオイフェ先輩は双子の姉妹で、影の国を設立した人物である。凛先輩は3年唯一の男性であり、スカアハ先輩が彼のことを好意的に見ているのは2、1年生の常識である。だけど凛先輩自身は……いや、これは言わない方がいいだろう。
2年
副会長 ゼウルス・ギリシア
ヘーラ・ギリシア
メテイス・エウロス
ディメテル・テスポル
この人たちは、ゼウス先輩以外女性で、ヘーラ先輩はゼウルス先輩と一つ歳が離れている姉弟だ。なんで同じ学年なのかは、よくわからないが一説によればヘーラ先輩がゼウルス先輩と同じ学年になりたいからとわざと一年留年したらしい。詳しくは……知りたくない。いつも2年の先輩方はゼウルス先輩を中心に甘々のドロドロのイチャイチャをしている。見ていて口から砂糖が止まらないほど。
1年
ブランシュ・フルール
モードレッド・ペンドラゴン
早乙女流火
一年はこの人数しかいないし、モードは気分屋でくるかこないかわからず、従っていつもブランと一緒にいたから気まずくならないように会話していたらいつの間にか仲良くなっていた。
ダンスカーは生徒会と密接につながっており、ヘルメス通信部の情報が生徒会を通して伝わってくるので詳しい情報も知ることが出来る。
オレとブランは同じ寮で生活していて、今は寝る前のおしゃべりタイムとでも言おうか。
「ねーえー。本当に興味ないんですの?転校生ですのよ?」
「他の学校じゃ稀によくあるだろ」
「でもそれは他の学校でのことで、理想学園がわざわざ呼び込んだ生徒ですのよ?これは特別な存在に違いありませんわ」
「それでもオレらと関わらなければ関係ないことだろ?」
「そうですけど……ダンスカーに所属するかもしれない人材ですのよ、知った方がいいのではなくて?」
「確かに人材不足は認めるけどさ、余計なひとを巻き込むのはオレとしては気が引けるな」
「うっ、流火ちゃん……それはそうですが。」
「これ以上話しても進まないだろ?もう就寝時間だからオレは寝るぞ、おやすみ。」
「うぅ。おやすみなさいですの。」
……転校生か、どんな奴が来るのかな。
次の日の朝、ブランはやりたいことがあるからとさきに学校へ向かった。オレは少しゆっくりめで学校に向かっていた。すると路地裏の辺りで声をかけられた。
「おい!おまえ、もしかしなくても理想学園の生徒か?」
声のした方へ向けば、3人ほどの学生がこっちに向かってきていた。あれは、親和工業の生徒か。
「…だったらどうしたってんだ。」
日本親和工業高等学校。理想学園から少しだけ離れている偏差値の低い人でも入ることが出来る高校だ。その分普通の高校で習うことの大半を工業的な技術に費やしているのだが、テストの結果関係なしにいろんな人たちが入ってきており、その中に頭の悪い馬鹿がその工業の勉強についていけずこうやってヤンキーの真似事をする人が出てくるのだ。もちろんそういった生徒は住民から苦情が来るため、親和工業の担任か風紀委員、生徒会などからしょっ引かれて最悪退学になるのだが……うちの高校に何かあるのか?
「そうそう、おい!ターゲットは理想学園であってるよな」
「あぁ。そいつをボスに連れていけば、任務は達成だ。」
「確かターゲットの特徴は〜、女みてえな顔をしたひ弱な男子生徒だが……こいつはちげえな。まるっきり逆だわ。」
「だがボスの勘違いかもしれねえし。一応連れて行くか。」
なんか勝手に話しが進んでるし、不穏な流れになってきたし、どうしようか。
「おいおまえ!大人しく俺らについてこいよ。抵抗しなけりゃ痛い目には合わねえからよ。」
「まー、抵抗しなくとも最初は痛い思いをするだろうが、だんだん気持ちよくしてやるからよ。」
「ぐっへ。俺、女を抱くとか初めてだわ。」
「うわ。キッモ!」
オレはおもわず声を出してしまった。場数を踏んでるとはいえ、やっぱこういう連中はキモいわ。生理的に受け付けられないわ。
「おら。さっさとこっちに来い!」
3人の中の一人がオレの右手首をつかんできた。いつもだったらブランがいるから魔術で追い払うんだが、力加減できるかどうかを考えている間に掴まれてしまった。
「つかむんじゃねーよ!」
「つべこべ言ってっと乱暴にすっぞオラァ!!」
「それとも何かな?乱暴にしてもらいたいのかな?」
「エスだと思ったらエムだったんだね」
あー!こいつらマジウゼェ、なまじ力があるだけに手首から剥がすことができねぇ。ブランがいねーから力加減できるかわかんねーけど。いっちょここでやってしまうか?
「やめろ!放せよ!いい加減しつけぇんだよ!!」
オレが魔術で引き剝がそうとした時にそいつはやってきた。
「その子を放すんだ!!」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
柏野歌火視点
声が聞こえた方向へ急いで見ると理想学園の女子生徒が3人の男子高校生に襲われているのがわかった。あの制服は、少なくともうちの学校じゃない。
「その子を放すんだ!!」
僕が声を上げると4人は僕の方へ振り返った。
「あ”!なんだぁてめぇ……っておい、こいつは__」
「あぁ、ちげえねえな。ボスはこいつを探してたんだ。」
「じゃあおれがこの子を押さえとくからあと二人でよろしく」
「勝手にお楽しみしてんじゃねーぞ。あとでおれも参加すっからな」
3人の男子高校生はゲスも少し引くことを平然と言っていた。レメゲトンの使い方はソロモンの記憶にあったから大丈夫だが、なにぶんこの体で初めて試すので威力調節ができるか少し心配だ。もし失敗して女の子を傷つけるだけでなく3人組にも被害が出てしまったらと思うと少し気後れが………女の子はともかくあの3人組には気後れはしないなぁ。
「おい!いいからさっさと逃げろ!こいつらなんてオレの魔術で十分だから、早く!」
女の子が僕に逃げるよう言ってきた。でも、ここで逃げたら男が廃る!というよりかはレメゲトンを試したいというのが本音だ。
「マジかよこいつ魔術使いだったのかよ。なんとかして手足と口塞いどけよ。」
「わかってるって。」
女の子は身体強化の魔術を使用しようとしていた。だが取り押さえていた男に妨害される。だったら!!
その会話の間に僕はレメゲトンを取り出していた。そして支援魔法の詠唱を開始する。
「我は歌を請う。その歌を聴きし姫君は万人を超える力を授かり姫自らが戦いの場にて咎人に罰を下す。その姫の名は……『ヴァルキュリア』!!」
僕の魔導書が薄く紅い色になる。
レメゲトンの一節…歌と歌詞の魔導書。それは言葉を歌にし、言霊として飛ばすことにより周囲に超常現象を起こさせる……まとめると味方に対しては体内の魔力の値分のバフをし、敵に対してはこちらの味方の魔力分デバフする仕組みになっている。この歌の仕組みは、体内の魔力ではなく空気中に漂う魔力を用いるため、僕自身に魔力がなくても使うことが出来るのだ。空気中にあるものは使い続けても無くなる心配がしなくていい。……しばらく使うと流石に魔力は薄くなるけど。
僕の中にあるソロモンの記憶では著名な詩人に頼んでこれを書いてもらっていたけど……多分僕は、柏野歌火は……いや、そんなことは後にしよう。今は目の前の魔法に集中!!
ちなみに歌の効果は戦闘終了まで続いてくれるように少し変えた。
「はっ?何それ厨二くさ、アホみてえなことしてんだなお前。」
「そんな陳腐な言葉を並べたって俺たちに勝てるわけないだろうに。おまえもそう思う…だ……ろ。」
男子高校生のうちの一人の言葉が尻すぼみになっていった。それもそのはず
ボガッ、ドゴッ、バキィッ!ドスッ
「あ?めちゃくちゃ体に力が湧いてやがる。今ならなんだってできそうだ!」
「うっ、……うぅ。いっ、たぁ。う…ごけ……ない。」
女の子が男子高校生をボコボコにしていたからだ。
「ひっ!おおおぉ、おまえは…な、なんなんだ!さっきまでの言動は演技だったってのか!」
「よ、弱いふりをしていたのか!この卑怯者!!」
いや、女の子一人に男子3人も卑怯だと思うけど。そのまま二人はボロボロになった一人を引きずるようにして去っていった。
「これ、この力……おまえか?」
「はっ、はい。」
僕は正直に答えた。
女の子は背が高く、僕の身長を少し上回っていた。腰まで伸びた少し赤みがかった茶色の髪に青い瞳。手足はすらっとしていて、スレンダーな印象を受けた。胸はない方だが、それでも他の部位が彼女の良さを際立たせている。助けてよかったと本当に思えた。
「別によ、助けてほしかったわけじゃねぇし、あの場ならおれ一人でもなんとかなったけどさ。その…ありがとな」
「いえ、僕はこれしかできませんから。」
「そ、そうか。」
彼女はそう言うと少し顔を横にしてうつむいた。心なしか少し頬があかいような……あっ!
「そういえば僕、学校で手続きしなきゃいけないんだった。じゃあまたあとで。」
「あっ、おい!」
やばいやばい、急がないと転校初日に遅刻してきた人としてみんなの印象が決まっちゃう。そう思った僕は走って学校にいった。
早乙女流火視点
はぁ、いっちまいやがった。でもあれでよかったかもな。あのまま一緒にいたら心臓が張り裂けそうになってた。オレの心臓は今もドクンドクンと速い鼓動を打っている。もっ、もしかしてこ、これが……恋って奴なのかぁ〜。
いくら助けてもらったって言っても結局は自分の力だしあいつもあれしかできないって言ってたから申し訳ないって気持ちは伝わってきたけど。それでも助けたことに変わりはなくて、少し体つきと顔が女の子っぽかったけど、行動自体は男前だった。もしかしてそのギャップに惚れたのかもしれない。
「それにしても…」
噂の転校生か……なんでオレがこんな気持ちに……はぁ。
恋の描写ってタイヘン!!