ゆらゆらしてるね#2
「・・・しょうがないなぁ、私もサボってあげるよ」
そう言ってつくちゃんが仕方なさそうに笑う。
「サボりたいんでしょ?」
「バレた?」
つくちゃんが儀式についてどう思っているのかは知らないけど、こうして私の我儘に付き合ってくれる限り儀式をよくは思っていないのだろうか。
「人気ないとこ行こ、ここだとバレちゃうかも」
つくちゃんの手を取って私は歩き出す。
出欠確認がある訳ではないが、儀式に参加していない人は注意を受ける。
自分がいつか食べられる時に、どうしたらいいか分からない人をなくす為か、祝福する為か。
「どこ行くの?」
「端のとこ、あそこなら人来ないでしょ?」
海藻の住む大陸棚には、群落である藻場があり、そこに私たちは住んでいる。
「端って危なくない?」
端、というのは大陸棚の端。
崖みたいになっていて、そこから先は日差しの届かない、海藻の住めない深海になっている。
日差しを浴びないまんまでいると、どうなるのかは知らない。
色素が薄くなって、枯れて、なんかすごいことになってしまうっておばあちゃんからは聞いたことがある。
そんな怖いことを試すような人はいない為、本当のところどうなのかはわからない。
「大丈夫じゃない?落ちなければいいんだし、ここにいても見つかるだけでしょ」
私がそう言うと、まぁそれもそうかとつくちゃんも頷いた。
「今年七十歳迎えた人って何人くらいいるの?」
何人の海藻が人間に食べられていくのだろう、なんて思いながらつくちゃんに聞く。
「多分五十人くらいかな?」
五十人も、食べられる。
ちょっと吐き気がした。
「そんなに多いんだね。なんか怖い」
集団自殺にも思えてきて、やっぱり人間に食べられたいなんて思うもんじゃないなって。
「最後、どんな気持ちで食べられるのかはわからないけど、最後の目標があるから今をちゃんと生きようって思えるのかな」
「最後の目標、ねぇ・・・」
目標が死ぬことなら今死んでもあまり変わらなくない?って思ったけれどぐっと抑えた。
「私もでも、こんぶに賛同するかな。食べられるよりは自分で死んだ方がまし」
つくちゃんの意見を聞いたのは初めてな気がする。
「てっきりつくちゃんも食べられたいのかと思ったけど」
ちょっと嫌味も含めて私が言うと、つくちゃんが声をあげて笑い出した。
「そんな訳ないじゃん、バカ」
「ふぅーん、まぁでもよかった」
このまま七十歳になって、あの儀式を迎える年が来ても多分つくちゃんと反論できそうだ。
『食べられたくない』ってね。
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