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87 〈現夢〉でつくるぼくのまち

「それでスマラ、二人が来たことと、開拓がどう繋がるんだ?」

「だって、二人は『神』なのよ? こと自身の権能に関係することなら、建物や作物、生命の創造に至るまで、実現できる力があるのよ。開拓を手伝って貰えば良いじゃない」

 二柱の女神を加え、大所帯となった俺達は、その場で車座に座って話すことにした。

 誰が俺の隣に座るのかでひと悶着あったが、妥協案として俺を中心にして座るということで何とか落ち着く。

「ヴァイナスに乞われれば、否とは言えませんわね。その代わり…」「我は見返りなど要りません。ですが、此処に留まることを許して欲しい」

 シェアトの言葉をマフデトが遮る。留まるって、此処に住むってことか?

「別に構わないけど、神様がこんな所に住んでて大丈夫なのか?」

 俺の問いに、二人は微笑み、

「貴方が在るところであれば、何処でも構いませんわ」

「共に在る、そう決めて此処に来たのですよ」

 と応える。その視線に嬉しくて赤面するが、俺達のいい雰囲気を遮るように、ロゼが確認してくる。

「それで、私たちはどうすれば良いんですか?」

「そうだなぁ、テフヌト、どうすれば良い?」

「貴方の〈遙楽園〉なんですから、自分で考えてくださいよ…」

 ロゼの問いの答えをテフヌトに振ると、テフヌトは呆れたように息を吐き、仕方がないという風に話し始めた。

「御二方には、どのような権能がおありでしょうか?」

 テフヌトが二柱の女神に問う。二人は顔を見合わせ、

「そうですわね…。私は『風神』ですし、マフは『地神』ですわ。それに見合った力は持っていますけど」

と言いつつ、俺を見つめる。

「この『世界』はヴァイナスのものであるために、私との親和性が高いですわ。彼の力を借りれば、大抵のことはできそうですわね。とはいえ、限度がありますが」

「そうですね。まずは希望を聞いて、それが可能かどうかを判断したほうが、可否の判断もし易いでしょう」

 二人の答えにテフヌトは頷き、

「それでは、その辺りのことを詰めていきましょう」

 と言い、そこからは質問大会となった。

 次々と質問が飛び交い、様々な意見が出されたが、大まかにまとめると、


 ・建築物に関しては、好みもあるため意見を聞きながら精霊達にお願いし、建築する。

 ・シェアトは主に植物を、マフデトは主に動物を生成する。

 ・二人を奉じる神殿を作り、その周囲は自由に開拓してもらう。

 ・もと〈妖精郷〉の浮遊島は、全ての敷地を俺の私有地として再開拓する。ガデュス達や精霊達は、

  新たに街を作り、移住する。

 ・ロゼ達にも、希望者がいれば土地を選んでもらい、希望するなら家なども創っていく。

 ・鉱山やダンジョンといった施設は、街の開拓に合わせて機能を使って用意する。


 といった感じだ。何しろ土地は有り余っている。仮に此処にいる者全てが、一つずつ街を創ったとしても、余裕がある。

 クライスやファリニシュ、狼達は引き続き俺の浮遊島に住むことになった。ロゼ達も同様に俺と一緒に住む。

 因みにテフヌトは、丁度良いからこの機会にと、〈慈悲の剣〉の役を辞し、完全にこちらで暮らすことになった。お付きの二人と共に、今は俺と共に住んでいるが、ガデュス達の街に館を構え、そちらに移るつもりらしい。

「街を創るのでしたら、私の神殿はそちらに」

「我の神殿も街に創りましょう」

 女神二人はそう言って微笑んだ。まぁ施設はまとまっていた方が都合が良いし、問題あるまい。

 オフィーリアとレイアーティスも、家創りに意欲的だ。

 というのも、二人はこの度、晴れて肉体を得、新たな『生』を歩むことになったからだ。

 この地に舞い降りた女神の力によって、新たな肉体を得た二人は、もう一度人生をやり直そうと、喜びに溢れていた。

 まぁ彼らの場合、家を創る場所は、裏手の森の中と決めているのだが。樹木や自然を利用した、環境に優しいものだそうで。

 ゼファーも家創りに興味があるようだったが、街が完成し、家創りに適した場所を見つけてから、と保留している。キルシュはゼファーについていく気満々で、場所探しも共に行うようだ。

「先に場所だけは決めてくれよ。街は城塞都市にする予定だし、区画が決まってからじゃ建てるのが大変そうだから」

「別に土地は有り余ってるんだから、増設すれば良いんじゃないか?」

 俺の言葉にゼファーは首を傾げるが、

「後から増築すると、街の形が歪になるからなぁ…。あまりやりたくない」

「了解だ。それなら街創りに協力しがてら、場所を探すとするか」

 俺の答えに、ゼファーは頷くと、キルシュも横で頷いていた。

 いきなり全部を同時にやろうとしても、まともにできる筈がないので、まずは〈妖精郷〉周りと、ガデュス達の住む街を開拓していくことで決まり、各自それに向けて行動を開始した。



〈妖精郷〉が〈遙楽園〉となって二週間が過ぎた。俺は大半の時間を〈遙楽園〉で過ごし、着々と開拓を進めていた。

 〈遙楽園〉の時間は、外に対して10倍に圧縮してある。このため、俺の体感では四ヶ月程経っている。

 再召喚した精霊達は、その力を大きく高めており、呼び出す眷属の数も種類も遥かに増えた。そのため、開拓は急ピッチで進んでいる。

 既に街の大まかな部分は完成し、住人となるガデュス達を含め、完成した区画では生活が始まっていた。

 ガデュス達は外で傭兵活動をしたそうだったのだが、街が落ち着くまでは〈妖精郷〉に留まり、街の建設と、俺の島からの移住を完了することを優先させた。

 その代わり、訓練には協力することを約束する。ガデュスはそれならば、と意欲的に街創りに協力し、あっという間に自分たちの区画を完成させると、移住を済ませてしまった。

 シェアトたちが生み出した作物や家畜を精霊達が世話し、街の周囲に農場や牧場を創ることで、膨大な数となった精霊達を満足させる、食料の供給も軌道に乗っている。

 手の空いた精霊達は、シェアトとマフデトの指示の元、神殿の建設を手伝っていた。

 俺は街創りに協力する一方、シェアトとマフデトから魔法を教えて貰っていた。レベルが大幅に上昇したので、習得できる魔法を全て教わることにしたのだ。

 テフヌトは14レベルまでの魔法しか習得していないので、15レベルから20レベルまでの魔法を教えて貰う。

 本来なら、かなりの金額を払わなければ習得できない上位の魔法だったが、俺が金を払おうとすると、代わりに『二人きりの時間』を増やして欲しいと言われた。

 これには「協定違反だ!」と他の女性陣から猛抗議があったが、俺は二人の希望を叶えることにした。

神にとって金銭は然程意味のあるものではないし、開拓に多大な協力をしてくれていることに対する、感謝の気持ちもあった。

 ロゼ達を説得( 当然の如く彼女達からも『二人きりの時間』の要求があり、それならば〈遙楽園〉で過ごせば、外の時間に比べて長い時間を過ごせる、ということになり、外での用事の大半を皆が請け負い、俺は〈遙楽園〉に留まることになってしまった )し、喜ぶ二人から魔法を教わることができた。

 因みに21レベル以上の魔法は、教授によって習得することはできない。

これは教授できるような存在が、皆無であることも理由のひとつだが、20レベル以上の〈魔導士〉のみが持つ能力、〈魔法創造〉によってのみ、生み出されるものだからだ。

 〈魔導士〉が生み出す魔法は、個人個人のオリジナル魔法であり、一つとして同じものはまず存在しない。しかも20を超えるレベル1につき、創造できる魔法は1つなので、〈魔導士〉は熟考に熟考を重ねて魔法を想像する。

 こうして生み出された魔法は、その〈魔導士〉の切り札となるため、創造者専用の魔法として秘匿されるのが常だ。

 例外として、師匠から譲り渡されることもあるが、そんな高レベルの師弟であれば、自ら生み出すか、創造者自身が不老不死の存在へと、その身を変じている場合もあるので、余程のことがない限り継承されることもない。

 二人は神ではあるが、継承できる魔法も持たないし、新たな魔法を生み出す力もないらしい。

「知っていれば、お教えできますのに…。申し訳ありません」

 そう言って肩を落とすシェアトを、俺は微笑んで慰めた。20レベルまでの魔法を、教えて貰えるだけでもありがたいのだ。これ以上は贅沢だった、

「ですが、〈魔法創造〉に関わる〈魔導式具(アーティファクト)〉の存在は聞いたことがありますわ。それがあれば、〈魔導士〉でなくとも魔法を創造できると」

 どこにあるかは、知らないのですが。シェアトの情報に、俺は笑顔で頷いた。そんなマジックアイテムがあるのなら、いつか手に入れてみたいものだ。

 お礼のキスをすると、そのまま押し倒される。その後は、シェアトの求めに応じて、濃密な時を過ごすことになった…。



 とまぁ、魔法の教授以外にも、やることはやっていたのだが、こうして習得した魔法の中に、【変換(コンバーション)】というものがある。この魔法は、対象の〈能力〉を合計値が一緒になるように、自由に増減する( 最小値は1 )ことができる、というものだ。

 極端な例を挙げれば、全ての能力が100のキャラクターが、一つの能力を「595」、その他の能力を「1」とすることができる、という感じだ。効果は永続で、一度変換した能力を、再度変換するには、もう一度同じ魔法を使えば良い。

 これは必要な能力が欲しい時に調整したり、対象の行動を制限する( 知性を1にして魔法を使えなくする、体力を1にして縛り上げ、身動きできなくする )といった使い方をするのだが、俺が思いついたのは、能力を成長させる際、【変換】の魔法で能力を『1』にしておけば、成長に掛かるQPを節約できる、という方法だ。

 今の俺の能力をQPで成長させる場合、莫大なQPが必要だ。しかし、この魔法を使って低くした能力を成長させ、再度【変換】の魔法で再調整すれば、少ないQPで大幅に能力を成長させることができる、というわけだ。

 注意点としては、19レベルの魔法を使うのに必要な〈器用〉、〈知性〉の値以下にはできないことと、消費するSPに必要な〈体力〉を残しておくこと。そうしないと【変換】の魔法が使えなくなり、再調整できなくなるからだ。

 俺は安全策として、【変換】の魔法には関係のない〈魅力〉〈幸運〉〈耐久〉を1にして成長を行う予定だ。これも一時的とはいえ、かなりリスクを伴うので、成長は〈遙楽園〉で、緊急の予定がない時に行う。

 まぁSPに関しては、自殺すれば『不死なる者』の力で全快するのだが。態々痛い思いはしたくない。

 【変換】を教わった際、この事を教えてくれたマフデトに伝えたら、マフデトは目を見開いて、

「そのように魔法を使うとは思いませんでした。尤も、その方法を活用できる存在は多くありませんが」

 と感心していた。皆、結構考えつくものだと思っていたのだが。かなりのSPを消費するため、今の俺でも日に数回しか使うことができないが、機会を作って、皆の成長でも活用していこうと思う。



 二柱の神殿も完成し、街の主要な建物も完成したので、次は何をしようかと相談を始めたころ、不意にゲートが激しい光を放ち、新たな訪問者が現れた。

「ヴァイナスよ、中々良い所ではないか」

 そう言ってゲートへと現れたのは、古竜を連れた隻眼の巨人と、

「ふむ、ここは新たな我の在所として申し分ない」

 と頷く、緋色の焔に包まれた魔神だった。

「…来るような気はしていたけど、こうもお約束通りとは…」

「ヴァイナスよ、何か言ったか?」

 巨人の問いに、俺は慌てて首を振る。シェアトたちが来た時点で予想はしていたのだが、まさか本当に来るとは思わなかった。

「何でもありません。歓迎しますよ、師匠。よく来てくれたね、モリーアン」

 新たな客人は、俺の鍛冶の師匠であるグリームニルと古竜のフレキゲル、そして〈焔魔神〉モリーアンだった。

「ふむ、見ればこれから『世界』の構築といったところのようだ。水臭いではないか、我にも手伝わせろ」

「一応聞いておきますが、〈稀人の試練〉は…?」

「無論、辞退してきたぞ」

 俺の問いに、グリームニルはあっさりと頷いた。やっぱりか。まぁ良いけどな。

 一方のモリーアンは、

「折角自由の身になったのだ。朋友であるヴァイナスに手を貸すことは吝かではない。それに、ガデュス達にも会いたかったからな」

 と笑顔を浮かべている。俺の背後では、ガデュス達が五体投地して、歓迎を露わにしているのを気配で感じる。

「それでやはり、師匠たちも」

「うむ、これからは此処に世話になるぞ」

「ヴァイナス、居心地の良い火山はどこだ? 我の居城を築くには、申し分のない灼熱の焔山だぞ」

 俺の確認に、二人は当然と答えを返す。

 はぁ…、ここまで来たら、好きにしてもらおう。

 俺がその旨を伝えると、グリームニルは神殿と称した鍛冶場を街に創ると言って、精霊達を引き連れて出発した。

 モリーアンは俺の浮遊島にある、『逆さ火山』( 浮遊する島の底部に火口があり、どういう原理か分からないが、眼下の湖面に向かって噴煙を上げる、天地が逆の火山 )が気に入ったらしく、火口近くに逆さ城を創ると言って、精霊達とガデュス達を連れて行ってしまった。

 その行動の早さに呆れながら、何だかんだ言いつつも、思いのほか早く開拓が進みそうな状況に、そして新たな『友人』との再会に、俺は思わず笑みを浮かべるのだった。



「折角街を創ったんだし、外界との行き来も考えた方が良くないか?」

 今日の作業を終え、街に出来た酒場( 因みに、建設の優先順位では上位だった。何しろ神殿の次には建設が始まっていた )で、男同士の慰労を兼ねた飲みの最中、ゼファーの言葉に、そう言えばあまり考えていなかったと気づく。

 元々、ガデュス達の住居や増えた精霊達が暮らす場所として、街を創ったのだが、思いのほか広く、どうやって利用しようかと考えていたのだ。

 確かに、外界と交流ができれば、もっと街らしくなるし、物流が活発になれば、手に入れ難い物も入手し易くなる。


 折角だし、本当の『街』としてみるか。


 考えを纏める俺の周囲には、俺達を同じように一仕事終えた酒好きの精霊が集まり、それぞれのテーブルで思い思いに酒を楽しんでいる。

 神様連中は総じて酒好きらしく、ワインやビール、エールに果実酒と、最初からかなりの種類の酒が揃えられていた。流石に神酒の類は止めたが。

 郊外では醸造も始まっており、酒好きの俺としても、これからが楽しみだった。

 今のところ、〈遙楽園〉の物のやり取りは物々交換で賄っており、貨幣は流通させていないのだが、外界との交流を考えるなら、貨幣の流通も検討したほうが良いかもしれない。

「そうだなぁ。皆も不便だろうし、何か良い方法はないかな」

 現在は元〈妖精郷〉に設置したゲートのみが外界と繋がっており、街から移動するには不便である。

 しかも、今は設置したままにしているが、いざ移動するとなると、出口の位置が変わるため、定期的なやり取りを行ったり、外から住人を募集するといった、継続した利用がし辛いということもある。

 まぁ世の中には船で暮らす人々や、ジプシーの様に生涯を旅で過ごす人もいるので、そういった街ということにすれば、仮に外から住人を募っても納得してくれそうだが。

「それならば、ゲートを固定して、通行証のようなものを用意すれば良いのではないか?」

 そう言って、傍らの杯に並々と注がれた酒を飲み干すのは、自身の神殿の建築が一段落したグリームニルだ。この酒場は巨人達も利用できるように、サイズを大きく建設している。

 俺とゼファーは台座を使って高さを合わせ、卓を囲んでいた。

「ゲートを固定すると、それはそれで行き来が面倒になりませんか? 俺が移動すると帰って来れなくなる」

 俺の疑問に、グリームニルは盃に酒を注ぎつつ答える。

「そこはそれ、ゲートを複数設ければ良い。〈妖精郷〉とは違い、ゲートは複数設置できるのだから。それに、設定を工夫すれば性質の異なるゲートも設置できるだろう」

 グリームニルは、そう言って語り始めた。

グリームニルの考えはこうだ。

 まず、外界と繋ぐ固定型のゲートを創る。ここから行き来できる者は、通行証を所持する者のみとする。

 通行証には個人識別の機能をつけ、本人以外は使用できなくする。

 通行証を発行できるのは、俺か俺が認めた者のみ。

 そして、通行証を複数種類用意し、立場によって出入りできるエリアを限定する。一般に発行する通行証で行動できる範囲を、街とその周辺のエリアに限定すれば万が一の時のトラブルにも対応し易い。

「エリアを明確に分けるのは難しくないですか?」

「それは〈稀人の試練〉で用いた方法が流用できるだろう。街の区画を一つの『世界』とし、他の『世界』とはゲートのみで行き来を可能にすれば良いのだ。通行証によって、ゲートの使用に制限を掛ければ良い」

 その方法ならば、いざという時に街を『隔離』することも容易になるし、やり方を熟知した者が三柱もいるのだ。問題あるまい。

 そう言って再度盃を干すグリームニル。そうやって複数の異なる機能を持ったゲートを使い、エリアを繋ぐことでセキュリティとするということらしい。

 その辺りのシステムは、〈稀人の試練〉で実施されているし、抜け穴のようなシステムの欠陥に関しては、俺の経験も役に立つだろう。

 幾つかの点に留意すれば、確かに有効そうだ。街として機能すれば、交流によって活気づくし、俺達が手を加えなくても、街を更に発展させていくこともできるだろう。

「その辺りのことは、機能によって設定する方が良いぞ」

「確かに、その方が確実そうですね。それに、皆のおかげで手ずからの開拓が進んだので、殆ど機能を使っていませんしね」

 折角だから、この機会に管理機能を確認することにしよう。

機能の構築には、物凄く手間が掛かりそうだが、システムを理解するにはもってこいだし、ややこしいことは俺が一括して管理したほうが、問題にも対処し易いし。

「何ていうか、ゲームみたいに便利な機能だな。本当に異世界なのか?」

 俺達の話を聞いていたゼファーが、そんな感想を漏らした。

「言っただろ? 『オーラムハロムの世界法則』を、ゲームとして認識させていたって。俺達の知る『ゲーム』の定義、システム、ルールは、この世界に違和感を覚えないように、『神』が浸透させた『常識』なんじゃないかとね」

「成程なぁ。異世界の『法則』に違和を感じさせない『ゲーム』としての『常識』か。確かに、割とスンナリ受け入れられてるものな」

 現在の状況をな、まぁ、分かり易くて、便利なら良いか。ゼファーはそう言ってグリームニルに付き合い、杯を干した。



 慰労の酒の席で、急遽決まった外界との交流。そこで挙げられた意見を元に、後日俺達は話し合い、詳細を詰めていく。

 発行する通行証は指輪型にした。ゲートを通るような大抵の種族には指があるし、今のところ大型の生物がゲートを通る機会はないので、家畜等の搬入には別のゲートを設置することで対応する。

 動物に関しては牧場区画を創り、そこ以外への移動はできなくする。これは動物に変身して内部に侵入しようとする者への警戒のためだ。区画から移動させる際には、個体の強さが一定以上の存在が通ることのできないゲートを用意し、そこから搬入する。

 こうすれば、仮に姿を変えている存在がいたとしても、動物程度の実力を持つ者しか通れないので、大きな脅威とはなりにくい。

 街は区画ごとに、更にその周辺のエリアを、それぞれ独立した領域として設定する。これにはシェアトたちの手助けもあり、スンナリと終わった。

 ついでに、他の領域も区画分けすることにした。見た目には連続したエリアなのだが、見えない壁のようなもので領域ごとに隔てられている。オープンワールド系のマップの端みたいな感じだ。

 これらの領域を繋ぐのがゲートだ。基本は隣接した領域同士を繋いでいるが、特別製のゲートはプライベートな領域を除く、全てのゲートに自由にアクセスできる。

 特別製のゲートを利用できるのは、俺とゼファー、ロゼ、キルシュの〈異邦人〉勢と、リィア、ヴィオーラ、ジュネ、ブリス、ガデュス、クライス、レイアーティス、オフィーリアの〈現地人〉勢、それとシェアトら四柱の神である。

 テフヌトは俺との契約があるし、スマラも同様に契約がある。エメロードとマグダレナは合一装備の関係で、俺と同様の扱いになっているし、再召喚した精霊達は、俺の使役魔扱いらしくフリーパスだ。

 特別製のゲートを利用できる通行証も指輪なのだが、これには一工夫加えてある。【劇化(フルポテンシャル)】の魔法を永続付与してあるのだ。

【劇化】は強化系の魔法で、師匠であるグリームニルのオリジナル魔法だ。5レベルの魔法で、身体能力( 体力 器用 耐久 )もしくは精神能力( 知性、魅力、幸運 )のどちらかのカテゴリーを選択し、同時に2倍へと上昇させるものだ。

【倍化】と違い、効果が異なる場合でも重ね掛けはできないが、その分同時に三つの能力を強化できるので便利な魔法だ。

 そう、確かに便利な魔法なのだが、消費するSPが【倍化】の5倍と非常に重く、平均的な5レベルの魔術師のSPでは、到底使えない欠陥魔法なのだ。

 グリームニルのような神であれば、潤沢なSPで使用できるが、プレイヤーには使い辛い、ある種NPC用の魔法といえる。

 だが、永続付与してしまえば問題ない。勿論、付与には更なるSPが必要になるが、俺には神にも匹敵する潤沢なSPがある。時間を掛ければ、何とか製作できるので、少し凝ってみたのだ。

 それに、装備中は常時発動するので、皆の強化にもなる。

 付与する効果の希望を聞いて、制作を終え皆に渡したのだが、キルシュが受け取った指輪をゼファーに渡し、「ねぇねぇ、つけてお願い!」と言いながら左手の薬指を差し出した瞬間、ロゼ達の表情が変わり、皆が一斉に俺へと左手の薬指を差し出してきた。

「ヴァイナス、私もつけて欲しいです」「当然、私もね」「あら、それなら私も」『私も』「皆、考えることは一緒でしょ?」「私達にはそういった習慣はありませんが、折角ですし」「そうですね姉様」「成程、只人の風習か。それならば我も」

 俺を包囲するように差し出された薬指に、俺は指輪を填めていく。リィア、お前もか…。ブリス、態々【拡大】を使うことないだろうに。

 いやモリーアンは良いけど、ガデュス、流石にお前は遠慮してくれ。そんな悲しそうな顔をしてもダメだ。俺の心のダメージが大きい。まぁ、可愛そうなので理由を話し、右手の中指に填めてやる。

 反応は様々だったが、指輪を填めた皆は喜んでくれたので、良しとしよう。



 そして、固定したゲートを設置するために、ズォン=カの皇城に向かい、皇帝に相談した。俺の話を聞いた皇帝とシシーシャは目を丸くして驚いたが、帝都に新たな「区画」が増えることを喜び、即座に許可をくれた。

 その上、大通りに面した一角を、設置場所として提供してくれる。現在は帝国が設置した役所のような場所で、人々が入り易いように開放的な造りの小さな神殿風の建物だ。

 首尾よく進んだことを喜んでいると、代償として、皇帝とシシーシャにも特別製のゲートを使用する指輪を所望される。まぁ、この二人なら良いか。予め用意していた、予備の指輪を二人用に調整して渡す。

「それにしても、〈遙楽園〉ですか…。最早王か貴族のようなものですね。それだけの領土を持っているのですから」

「領土とはいっても、どこの国にも所属していませんけどね」

「そんなことは珍しくありませんよ。辺境に目を向ければ、実力ある者が『王』を名乗って支配をしている場所など、幾らでもあります」

 まぁ、貴方は皇族なのですから、貴方が支配する土地は帝国のもの、とも言えますけど。そう言って微笑む皇帝に、俺は苦笑を返す。まったく、強かな女帝様だ。

「ヴァイナス様、わたくしも館を創っても良いですか?」

「構いませんが、城で暮らさなくても良いのですか?」

「別荘として、気楽に使える場所が欲しいのです。駄目でしょうか?」

 急に告げられたシシーシャの嘆願に、どうしたものかと考える。皇帝に目で確認すると、それならばと、

「ヴァイナス、シシーシャに街の領主を任せてみる気はありませんか?」

「お母さま!?」

 斜め上の皇帝の言葉に、シシーシャは驚きの声を上げる。俺も驚いて目を見開いてしまった。

「この娘にもそろそろ役目を与えねば、とも思っていましたし、〈異邦人〉であるが故に、貴方達とも誼を結びやすいでしょう。どうでしょうか?」

 皇帝の言葉に俺は考える。確かに管理する者は必要だし、それがシシーシャであるならば、何かとやり易いかもしれない。それに、何か失敗しても、フォローし易いし。

「即答は出来かねますね。皆とも相談しないと。でも、俺としてはお願いしたいと思っています」

「ヴァイナス様!?」

「分かりました。良いお返事をお待ちしています」

 俺の答えに、皇帝は頷く。シシーシャは戸惑っていたが、皇帝が本気と分かると、諦めたように頷いていた。

「街ができたら「視察(遊び)」に行きます」

「引っ越しの準備をするので教えてくださいね」

 二人の言葉に頷きつつ、俺は皇城を後にし、用意された建物に、ゲートを設置するために向かった。

 街が出来上がったら、街への移住者や、取引を希望する商人の募集もしないとな。俺はこれからどうするかを考えつつ、ゲートの設置作業を進めた。



 街で使用する金貨に関しては、俺が用意した。億単位の金貨があるので、取り敢えず一千万ゴルト程を準備する。これだけあれば、当座の取引は問題あるまい。商売が軌道に乗れば、回収できるだろうし。

 尤も、こちらには商人などの人員はいないので、まずは帝都で懇意にしている商人や、探索者の宿、傭兵ギルドや魔術師ギルドの知り合いに片っ端から声を掛ける。その中で移住を希望する者達の中から選定して、必要な者には、初期投資の形で融資する。

 帝都には、商機を掴もうと交易商人も多く訪れるし、職人や成功を夢見て故郷を出て来た者も多い。そういった人達に声を掛ければ、移住してもらえるかもしれない。

 さて、そうすると様々な問題も出てくる。税収はどうするのか?法律は? 治安維持は? 等々。

 一から決めるのは面倒だし、いきなり大量に法律などを決めても、住人が混乱する。

 そこで皇帝に話を通し、街を帝国における俺の「領地」とすることで、役人や兵士を送ってもらえることになった。法律に関しても帝国のものを流用する。

 ゼファー達と移住に関しての条件を話し合い、決めたのだが、あまりに好条件だったらしく、希望が殺到してしまった。これには俺も戸惑い、急遽面接を行うことにする。因みに面接官は神たちに頼んだ。

 何しろ神である。ヒトを見抜く力は当然として持ち合わせているし、シェアトとマフデトの二人は、俺の街を運営する人員ということもあって、自分の選んだ人物が、より成果を上げることを期待したらしく、その面接は、熾烈を極めるものとなったらしい。

 品性卑しからぬ者で、敢えて後ろ盾の弱く地位の低い、けれどやる気のある若手を中心に選んでもらう。

 そして、本来であれば就くことのできぬ要職を用意し、励んでもらうことにした。こうすることで、家柄などに囚われず、実力があれば然るべき地位に就けることを示し、住人のヤル気を後押しすることで、街の発展に力を尽くしてもらうのだ。

 帝国の領地となると、帝国に税金を納めなくてはならなくなるが、元々外界との交流の為に創る街なので、差し当たって儲けは考えておらず、収支はトントンであれば文句はない。そこから先は住人の皆様に頑張ってもらうということで。


 何だか、思ったより大事になってきたなぁ。


人員の選定と移住の手続きを進めつつ、街創りを進めていく中で、その他の区画も進めていく。俺は予想外の忙しさに目を回しながら、必死に準備を進めていった。



 街を創り、新たな住人を迎え入れ、街としての体裁が整った頃には、外界では一ヶ月と少し、『遙楽園』では、一年の歳月が経過していた。

 その間に、俺達はかつて類を見ない、衝撃的な出来事を経験することになる。それは、この世界(オーラムハロム)がゲームではない、異世界なのだと改めて認識することになる程、大きな出来事だった。



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