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83 〈幻夢(VR)〉で朋友を助く

 二人の女神に請われ、ついつい長居してしまった俺だが、スマラの「飽きたから出発しよう」の一声に、この地を発つことになった。まあ確かに、俺以外の面子にとっては、この宮殿は狭すぎたのだろう。

「お別れですか…。名残惜しいですが、仕方ありませんわね」

「姉様。二度あることは三度ある、とも言いますし、また会うこともできますよ」

 寂しげな表情の二人だったが、以前ほどは感極まっていないようだ。ここでの暮らしも楽しかったし、二人が満足するまで徹底的につきあったのも理由のひとつかもしれない。〈不死なる者〉万歳。

「そうですわね。私も思うところがありますし、次の再会を楽しみにしていますわ」

「あら、姉様も考えているのですか?」

 シェアトとマフデトはそう言ってお互いを見つめ、ニコリと笑う。なんのことかは分からないが、姉妹仲が良いのは良いことだ。

 シェアトが呼び出した門を、笑顔の二人に見送られながら、俺達は次の『世界』へと飛ぶ。



 その後、俺は幾つかの『世界』を訪れた。

 ある世界では、年老いた老賢者と共に思索に耽り、時に瞑想し、時に問答することで、『世界』の真理を求めた。

 結局真理には届かなかったが、思考し、様々な角度から物事を見ることは、他では得難い経験として、俺の中に生きている。

 別の世界では、只管に過酷な環境で、生存することだけに全てを費やされた。そこでは全てのマジックアイテムが機能せず、魔法も使うことができなかった。

 合一したスマラ達も封じられ、俺は自らの知恵と身に着けた技術のみで、目まぐるしく変わる自然の中、必死に生き残る術を探してもがき続けた。

 当然のように戦闘系の世界もあった。単純なハック&スラッシュな世界もあったし、ダンジョンアタックな世界もあった。

 落ち着いたら語る時もあるかもしれない、そんな世界を巡りつつ、俺達は進み続けた。



 黄金境にも、再度訪れることができた。前回同様の口上の最中、ワラールが俺を見て驚き、リベンジせんと息巻いて襲い掛かるのを一蹴し、宮殿へと向かうと、そこには伏したまま微動だにしないマナの姿があった。

「誠に勝手な願いながら、此度で打ち止めとさせて頂けませんか?」

 そう言いながら、額を床に擦りつけるマナに、俺は苦笑するしかなかった。どうやら、根こそぎ金貨を持って行くのは、流石の焔神にとっても辛いことらしい。

 それにしても、最近はよく土下座されるなぁ。そんなことを思っている間にも、マナの言葉が続く。

「稀人に対し、試練の報酬を渋るなどということ、神として恥ずべきことであり、著しく誇りを汚す行い」

 マナはそう言うと、顔を上げた。その瞳には涙が溢れている。

「ですが、運命の神の悪戯とはいえ、これ程時を置かずに再訪されては、神の力を以てしても、易々と処せることではありません。ワラール様に叱られようとも、敢えてお願い申し上げます」

 もし、もう一度この地を訪れることがあろうとも、金貨を得ることなく、立ち去って頂けないでしょうか?

 マナはそう言ってもう一度顔を伏せた。

 うーむ、正直言って、別に金貨には執着していなかった。貰えるものは全て貰うことに吝かではないが、無い袖を引き千切ってまで得ようとは思わない。

「別に金貨を得なくても、次の世界への門は開いて貰えるんですよね?」

「はい、それは間違いなく」

 それなら、別に構わないな。俺は頷き、

「それなら、また訪れた時は、金貨を貰えなくても良いですよ。他言もしません」

 俺の言葉に、マナは顔を上げて喜びの笑顔を浮かべる。ふと興味が湧いて、俺は尋ねてみた。

「因みに、断った場合はどうなるんです?」

「その時は諦めて、お渡しします。ですが、ワラール様とはいえ、神力の全てを使うことになるので、この『世界』を閉じることになるでしょう」

 マナの言葉に、思わず前言を撤回してみるのも面白そうだ、と心の中で悪魔が囁いたが、マナを虐めるようなことをしたくはないので、自重する。

「それじゃあ、今回は貰っていきますね」

「はい…」

 マナは一瞬悲しそうな顔をするが、すぐに表情を笑顔に変えると頷いた。俺は以前と同じように天秤の上で〈長者の蔵〉を取り出し、流れ落ちる金貨を受け止めていく。

 スマラ達も慣れたもので、残り少なくなった金貨を集め、〈長者の蔵〉へと流し込んでいく。

 今回も全ての金貨を回収し、〈長者の蔵〉を仕舞うと、呆れたような笑みを浮かべるマナの元へと向かった。

「本当に幾らでも入るのですね…」

「俺も驚いています」

 マナの言葉に、俺は肩を竦めると笑って答えた。マナも釣られて笑みを浮かべるが、門を開く前に、と言って何かを差し出してきた。

「これは?」

「願いを聞き届けてくれたお礼です。本当はもう一度訪れた時に渡そうと思っていたのですが…」

 先払いのようなものです。そう言って渡されたのは、綺麗な装飾の施されたコインホルダーだ。金貨が20枚収められるもので、ちょっとした買い物の際には重宝しそうだ。

「これは〈黄金の(ドロウニプル)〉と呼ばれるもので、毎朝金貨が満額になるまで補充されるというものです。ワラール様の力が籠められた品です」

 つまり、一日に20ゴルトずつ、無限に補充されると。単純計算で年間7200枚。これって凄いアイテムなんじゃ…。

「あくまで満額になるように補充されるだけですので、別の財布に移しておくなどの手段を講じないと、補充はされません」

 成程、便利だけど少し手間の掛かるアイテムなんだな。

「ありがとう。大事に使います」

「貴方の行く末に幸あらんことを」

 俺はマナに礼を言い、マナは笑顔で門を開いてくれた。俺達はマナに手を振り、門を潜る。



 次に訪れた『世界』は、荒涼とした砂漠の中に佇む、堅牢な城塞だった。一瞬、闘争の日々を送った世界を再度訪れたのか、と思ったが、向こうは荒野であって砂漠ではなかった。

『暑いから、合一は解かないわよ』

 スマラの言葉に苦笑を返すが、照り付ける太陽の光は避けたい。俺は足早に城塞へと向かった。

 城塞の門は開いており、警戒していた襲撃もなく、俺は中へと足を踏み入れる。

 城塞は長い間、砂漠の風と砂塵に晒されていたのだろう、年月を感じさせる佇まいをしているが、造り自体は外観通り堅牢なようで、崩れているような箇所は見受けられなかった。

 中へ入ると、石造りのおかげか陽光の直射がないためか、随分と涼しく感じる。まあ外の気温も、一人で生き抜いた『世界』に比べると、随分と穏やかなのだが。

 奥へと進む通路を歩きながら、周囲を警戒する。だが、予想とは裏腹に、城塞であれば遭遇しそうな兵士や傭兵、軍人といった者は現れない。拍子抜けしつつも歩き続けると、大仰な雰囲気の、大きな両開きの扉に辿り着いた。

 途中にあった扉を覗いてみても、目ぼしいものはなかったので、どうやら本命はこの奥らしい。

 俺は慎重に扉を開く。扉は俺の警戒を嘲笑うかのように、盛大な音を立てながら、独りでに奥へと開いていく。

「ようこそ〈稀人〉よ! 我が『試練』を受けるに値する勇者であることを祈るぞ!」

 扉が開くなり、そう言って語りかけてくるのは、巨大な玉座に坐したままこちらを見る、異形の魔神だった。だが、その姿、その声に俺は記憶を探る。どこかで見たような…。

「ほほう、只人の稀人か! 佇まいからして、かなりの腕と見える。これは期待できそうだ」

 魔神はそう言ってゆるりと立ち上がる。その手には炎に包まれた大剣と、同じく炎を纏った鞭剣が握られている。

「相手をする前に名乗らせてもらおう。我が名はモリーアン、〈焔業魔〉のモリーアンである!」

 その名を聞いて、俺は思わずアッと声を上げる。そうだ、モリーアンだ!

 〈慈悲の剣〉で出会ったヴァララウコで、多数のゴブリンを従えていた地下の王。それが何故こんなところに?

 俺の様子を訝しんだモリーアンは、首を傾げつつ、

「どうした、早く剣を抜け。それとも、そのような鎧を着ているが魔術師なのか? それであれば杖を構えよ」

 と問いかけてくるので、俺は首を振り、

「そうじゃない。久し振りだな、モリーアン」

「久し振り…? はて、会ったことがあると?」

 笑顔で声を掛ける俺に、モリーアンは再び首を傾げた。

「分からないか? 俺だよ、ヴァイナスだ」

「ヴァイナス…? お、おお、ヴァイナスか! 見違えたので分からなかったぞ!」

 俺が名乗ると、モリーアンは思い出したのか、凶悪な笑みを浮かべた。確かに、以前会った時とは装備も姿も変わっている。気付かなくても不思議じゃないか。

「お久しぶりね」

 合一を解いたスマラが、姿を現して声を掛ける。モリーアンも、

「おお、スマラではないか。其方も元気そうで何よりだ。それにしてもこのような場所で出会うとは、運命とはかくも数奇なものだな」

「それはこちらの台詞だよ」

 そう言って笑い合う俺達。エメロードとマグダレナも合一を解き、モリーアンへと挨拶をする。闘いをするはずの俺達が打ち解けているのを不思議に感じていたようだが、事情を話すと納得したのか、笑顔で話しに加わっている。

「ガデュス達も壮健か。何よりだな」

「それでモリーアン、何故こんなところに?」

 俺の問いかけに、モリーアンは頷き、

「〈英者の路〉、お前には〈慈悲の剣〉の方が通りが良いか。あの地での働きが我が神に認められてな。任を解かれ、新たにこの地での勤めを果たせば、〈焔魔神(ヴァラルロード)〉への道が開かれるのだ」


〈焔魔神〉


 元々強力な力を持つ〈焔業魔〉を統べる上位存在だ。その力は亜神に匹敵すると謂れ、竜ですら単騎で屠ると聞く。成程、モリーアンもクラスアップの試練中というわけだ。

「それで、どうやったら勤めを果たせるんだ?」

「うむ、我と闘い、勝利する者が現れる度、我はより強大な力を得ることができる。勿論、態と死するようなことでは力を得ることはできぬ。死力を尽くし、極限の闘いの果てに力は宿るのだ」

 モリーアンの話を聞き、瀕死になる度に強くなる、旧世紀から続く人気タイトルの中に登場する、某戦闘民族を思い出す。モリーアンは死んで復活するらしいけど。

 俺も〈不死なる者〉として、死んだら強くなったりするのだろうか? 体感的には強くなった気がしないので、そういう効果はないと思うが。

 まぁ進んで試す気にもならないので、モリーアンの『修行』に付き合うとするか。

「それで、ここから出る条件は?」

「我に一度でも勝てれば、門が開くぞ」

 その言葉に頷き、俺は立ち上がると準備を始める。

「それなら、やれるところまで付き合うよ」

「おお、其方もあれから精進を続けたようだな。身のこなしが明らかに変わっておる。この出会いも、我が神のお導きか。神よ感謝致しますぞ!」

 まずは、強化なしでどこまでやれるのか試してみよう。俺はスマラ達に下がっているように指示を出し、一人モリーアンと対峙する。

「最初から本気でいくぞ」

「心得た。我も全力で相手をしよう」

 お互いに視線を交わし、頷いた途端、俺は瞬時に距離を詰め、一撃を見舞う。

 モリーアンの現在の実力が分からない以上、俺も全力でぶつかっていく。一瞬で相対距離をゼロにした俺は、構えた〈肆耀成す焔〉を振り抜いた。

 一条の光が走り、モリーアンの首が城塞の床へと落ちる。モリーアンの首が「見事!」と告げると、首と分かたれた身体が光を発し、次の瞬間には、何事もなかったように姿を現した。

「随分と腕を上げたな! 反応すらできなかったぞ!」

「でも、今のでかなり力を得たみたいじゃないか?」

 モリーアンから感じる威圧感が、先ほどまでに比べて、遥かに強くなっていることに気付く。モリーアンも頷き、

「うむ、成程、これが復活と力の増加か…! どこまで強くなれるのかは分からぬが、ヴァイナスよ、付きおうてくれるか?」

「俺の力が及ぶ限り、で良ければな」

 と問うてきたので、俺は笑顔で頷いた。スマラ達も、

「私たちも手伝うわよ」「わーい頑張る~」「久し振りの闘いね」

 とヤル気充分だ。

 モリーアンは俺達の様子に大気を震わせながら笑い、

「では、早速参ろうか!」

 と言って武器を構えた。俺達も頷き、構えを取る。モリーアンの試練を助けるという、本来とは真逆のイベントの火蓋は、こうして切って落とされた。



「これでどうだ…!」

 極限まで高めた一撃が、モリーアンの眉間へと吸い込まれた。〈肆耀成す焔〉が、その鍔元まで刃を沈める。モリーアンの目から光が失われた瞬間、再び姿を現す。

 あれから何度もモリーアンと死闘を繰り返した。序盤は強化をすることなく倒していたが、徐々に拮抗し始めると、魔法の補助を開始した。

 そして、それでも倒すことが困難になり、まずはエメロードが、そしてマグダレナが加わった総力戦となる。

 遂にはSPが切れかかり、回復等の手段が追い付かなくなってくると、スマラ達は合一を行い、装備として俺を補助する役に回る。

 そして、現在可能な強化を全て行い、トーヤから貰った剣まで使う総力戦で、辛くも勝利したというわけだ。

「ここらが限界…だな…」

 俺は〈肆耀成す焔〉を床に突き立て、乱れた息を整える。今回は厳しかった。実際、数度の『死』を経験していた。その度に復活し、HPもSPも全快していたからこそ倒すことができたが、ここからは一撃即、死に繋がることが想像に難くない。

 そうなると幾ら復活しても闘うことができずに、無限に死の連鎖を繰り返すことになり、闘いとはいえない状況になる。

「兎に角、俺達の全力は出したんだ。後は後塵に託すとし…」

 一度気持ちが定まったせいか、疲れが限界になり、俺はその場にドカリと座り込む。〈肆耀成す焔〉が俺を叱咤激励するように明滅するが、もう無理だ。

「勘弁してくれ。やれることはやったよ」

 俺の答えに、不満そうな明滅を繰り返す〈肆耀成す焔〉へ苦笑を向けつつ、再生が終了するモリーアンの方へと視線を送る。


 すると、そこには今までとは違う変化が生じていた。


 前回までは、即座に姿を取っていたのに対し、今回は未だ光に包まれたままだ。しかも、その大きさは小さく、俺と大して変わらない位だ。

 だが、生じる光は今までとは比べ物にならない位、強く激しい。目を開けておくことが厳しくなった俺は、目を細め、手を翳して光を遮りながら、モリーアンの変化を見守った。

 見守る間にも、光の強さはどんどん強くなり、とうとう閉じた瞼越しにも感じるほどになった。周囲が光で染められる中、俺はその場に留まり、変化が終わるのを待つ。

 一瞬、より強大な光が発せられると共に、光の奔流は消え去った。瞼越しに感じる、深紅の光が消えたことを感じた俺は、ゆっくりと瞼を開く。そこに現れた光景に、俺は目を見開いた。


 目の前に立つのは、深紅の肌を持つ美しい女性だった。


 頭一つ分程、俺より高い身長で、燃え盛るような紅金髪の合間から、優美な曲線を描く一対の角が伸びている。肉付きの良い、めりはりの効き過ぎた肢体は、陽炎のような揺らめきによって絶妙に隠され、直視することが叶わない。

 有角の美女は閉じていた瞳を開き、天を仰ぐと、口元に笑みを浮かべて嬉しそうに両手を広げる。

「おお、力が溢れている! 分かる、分かるぞ! 今この時、我は殻を打ち破ったのだ! 遂に成ったぞ、〈焔魔神〉に!」

 呵々大笑しながら叫ぶ有角の美女の動きに合わせ、豊かな双丘が震える様に、俺は思わず視線を逸らす。すると、俺に気付いたのか、有角の美女はこちらへと近づき、俺を抱き締めてきた。

 鎧越しに感じる柔らかさと、それ以上に伝わる熱さに、俺は驚きの声を上げる。有角の美女はそれに構わず、

「ヴァイナスよ、恩に着るぞ! 我は遂にやり遂げた! 試練を乗り越えたのだ!」

「モリーアン…なのか?」

 伝わる熱さに戸惑いつつ、頬を摺り寄せる有角の美女に問いかけると、不思議そうに首を傾げ、

「そうだが? なぜそんなことを聞く?」

「いやだって、見違えたし…」

 俺の言葉に、ハタと気づいたのか、

「そういえばヴァイナスよ、大きくなったのか?」

 いや、お前が縮んだんだよ! 俺がツッコミを入れる前に、モリーアンは俺から離れると、改めて自身の身体を確かめつつ、

「ふむ、随分と容姿も変わっておる。そうか、我が変化したのか」

 と言って、豊かな胸を両手で支え具合を確かめている。掌に収まりきれない部分がぐにぐにと形を変える様が艶っぽく、俺は再度視線を逸らした。

「? どうした、我の姿は醜いのか?」

 モリーアンはそう言って眉根を寄せた。俺は慌てて、

「いや、そうじゃなくて、その姿は目のやり場に困るというか…」

 熱さだけではなく、頬を染める俺に、モリーアンはキョトンとした表情を浮かべると、意地の悪い笑みを浮かべ、

「ふふふ。我も捨てたものではないな。ヴァイナスのそのような表情、初めて見たぞ」

 と言いながら、俺の顔を胸元に抱え込む。今までに感じたことのない、圧倒的な質量と熱さに、俺は取り乱してしまう。

 だが、〈焔魔神〉へと変化したモリーアンは、俺の膂力を超えた力でしっかりと掻き抱き、離そうとしない。

「おい、苦しいよ、離してくれ!」

「おお、それは済まなんだ」

 胸の谷間からくぐもった声で、俺が何とか言葉を発すると、モリーアンは漸く戒めを解いてくれた。

「どうだ、至福であったか?」

「窒息死するかと思ったよ…。これで死んでも『復活』できるのか…?」

 それにしても、驚いた。モリーアンが女だったとは。以前の姿からは全く想像できなかったし、口調もあの通りだから、てっきり男だと( というか性別を考えていなかった )思っていたのだが。

「それにしても、この身体は素晴らしいな! 奥底から隆隆と力が沸き上がってくる! 何をするのも可能に思えるぞ!」

 嬉しそうにはしゃぐモリーアンを見ながら、俺も嬉しくなって微笑んだ。折角『友人』の力になれる機会ができたのだ。できれば俺の力で試練を乗り越えさせたかったのだ。それが叶ったことが純粋に嬉しかった。

 無事に試練を乗り越え、満足そうに笑みを浮かべるモリーアンに、

「おめでとう。俺も嬉しいよ」

 と言うと、モリーアンも破顔し、

「そうか、我が朋友の助力で成し遂げられたこと、我も嬉しく思うぞ!」

 と言って再度抱き着いて来た。再び訪れる窒息の危機。だが、喜ぶモリーアンの邪魔をするのも無粋であろう。そう理由をつけつつ、俺は息の続く限り、役得に身を委ねたのだった。



「そうか、世話になったな」

 モリーアンは頷くと、次の『世界』へ続く門を呼び出した。スマラ達はすでに別れを済ませ、合一装備へと姿を変えている。

 門を呼び出すモリーアンに俺は質問する。

「モリーアンはまだここで暮らすのかい?」

「いや、恐らく其方を送り出すのが、我のここでの最後の役目となるだろう。折角〈焔魔神〉となったのだ。このような狭い『世界』に拘る気はない」

 俺の問いに、モリーアンはそう答えた。だとすると、これが今生の別れになるかもしれないな。

「そっか。またどこかで逢えると良いな」

「うむ。必ず会い見えると約束しよう」

 決着を期するようなモリーアンの物言いに、思わず苦笑しつつ、俺はモリーアンと握手を交わす。

 と、モリーアンにその手を引かれ、前へとよろめいた所に、モリーアンの熱い唇が、俺の唇に重ねられた。

 唇から伝わる熱さに目を丸くしていると、モリーアンは満足そうに唇を離し、長い舌で俺の唇を舐め撫でた。

「確か、只人はこうやって親愛の情を伝えるのだったな」

「いや確かに間違っていないけど、誰とでもすることじゃないぞ」

「成程、特別な相手とするわけだな。であれば問題ない」

 微笑むモリーアンに、俺は頬を染めつつもう一度挨拶をした。

「それじゃ、元気で」

「うむ。皆も息災でな」

 モリーアンの瞳に一抹の寂しさを感じるが、俺も行かなくちゃならない。踵を返し、その後は振り返ることなく、門を抜けた。


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